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【特務機関:怪人運用支援局TRPG】その2 [転載禁止]©2ch.net

1 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/26(木) 23:50:11.23 0
ジャンル:バトル、現代ファンタジー
コンセプト:超能力なし、最大の武器は己の肉体
期間(目安):特になし

GM:あり
決定リール:相談の上で計画的に
○日ルール:5日。相談の上で延長可
版権・越境:なし
敵役参加:なし
避難所の有無:今後次第



テンプレ
名前:
性別:
年齢:
性格:
外見:(容姿や服装など)
戦闘方法:(どんな戦い方をしますか)
志望理由:(なんで支援局に就職したの?)
備考:(その他のアピールポイントはこちら)

2 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/26(木) 23:51:06.86 0
主な設定

怪人について:
怪人は、見た目はただの人間です。
しかしその遺伝子配列は同一の個体であっても検査の度に変化しているなど、明らかに人間とは異なります。
何故彼らが誕生したのかは不明です。ウィルスや放射能による突然変異だと推測されていますが、確証はありません。
彼らは身体の組成を意のままに操る能力を持っています。

怪人運用支援局について:
怪人運用支援局は怪人の適切な運用方法を示し、社会にとって(常人と同程度に)安全かつ有益である事を証明する為の特務機関です。
表向きは怪人の能力を様々な分野に転用する研究をしていたり、犯罪への対処や災害救助に使用している、という事になっています。
ですが裏では、常人と怪人の対立を極端に深めかねない危険人物や組織を事前に排除するなどの暗躍もしています。
れっきとした行政機関の一部なので、望みもしない人を実働部隊に配属したりはしません。
ただし出世や待遇に関して露骨に言及されたりはするかもしれません。

怪人の能力について:
怪人は『肉体強化』『肉体変化』『性質変化』の三つの能力を持っています。誰もが持っています。
   
肉体強化を極めた場合、あなたは100mを走り抜けるのに三秒とかかりません。
筋肉の部位や感覚など、更に特化した強化も可能です。
が、肉体の強度の変更は肉体変化の範疇だという事を忘れるとひどい事になるでしょう。

肉体変化を極めた場合、あなたの身体はまさしく変幻自在となります。
タングステン鋼のドリルをマッサージ器代わりに使えるくらい固くなる事も可能です。
ですが、変化するのはあくまで構造や硬度であって、あなたは生身のままです。つまり燃えたり、感電したり、薬物の影響を受けたりします。

性質変化を極めた場合、あなたの身体は現代科学を超越します。
青酸カリをドリンク代わりに飲用し、プルトニウムを主食にして、胃の中で核分裂を起こす事だって出来るでしょう。
ただし、その際に生じるエネルギーに身体が耐えられる事は期待しない方がいいでしょう。

三つ全てを極める事は出来ません。
一つの能力を極める為に必要なリソースが10だとすれば、一人の怪人が持っているリソースも同じく10です。
特化型かバランス型か二極型か、それらは本人の気質と訓練によって変わってきます。

例えば炎を放つ能力が欲しければ、肉体に燃料のような性質を持たせ、更に液化させたり、噴射、着火する為の機構を作る必要があります。
そこまでした場合、もう肉体強化には多くのリソースを割く事は出来なくなるでしょう。
それに燃料を噴射するという事は、つまり肉体の一部を自ら切り離しているという事です。
当然、ただ肉体を強化して攻撃するよりも燃費は悪くなるでしょう。

またスポーツ選手がどんなスポーツでも一流の腕前でこなせる訳ではないように、怪人の能力も万能ではありません。
身体を燃料に変えて、十分な威力を発揮する為にはそれなりの訓練が必要です。その他どんな変化でもそれは同じです。
つまり、あまり多様な変化を全て実用化する事は怪人には困難という事です。
硬くなる変化を好む怪人は、軟化したり有機的な物に化ける事を苦手とするでしょう。逆も然りです。

怪人は常人よりも多くのエネルギーを体内に蓄える事が出来ます。
また彼らの回復力は常人とは比べ物にならないほど強力です。
しかし決して、どちらも無限大ではありません。

3 :名無しになりきれ:2015/03/26(木) 23:57:07.20 0
乙です。前スレは容量オーバーみたいですね

4 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/03/27(金) 15:42:29.79 0
「生簀のある店ってあんま好きじゃないんだよね。新鮮さ以外なんの取り柄もないからさぁ」
パイプを辿った先には読み通り監禁部屋があったんだけども、監禁されている連中はみんなやせ細って衰弱していた。生簀の魚も言ってしまえばこんな感じだから嫌いなんだよ
これじゃ脱獄させてもクソの役にも立たなさそうだわ。
「どうする?出しても死ぬのは目に見えているけど」
大鳳の判断はスルー、流石にここまで弱りきってちゃどうしようもないか
さて、監禁部屋も検めたし制圧と行きたいけど…まだ奥があるみたいだね。
それに活きのいい悲鳴も聞こえるし、調べる価値はあるかな

しかし、ここ警備ってかーなーりザルだね。
見張り鉢合わすこともなければ、監視カメラの類もない
それもそうか、監禁している連中は弱ってしまって脱走する危険性は無い
私らみたいに来たてで元気があるのならそこだけに見張りをつければいいだけだもんね
加えて、この坑道全体に響き渡るような悲鳴が不快さを刺激する。
毎日ここで見回りなんかしたらノイローゼになるのも時間の問題だわ
「…耳に残りそう」
悲鳴の類は着慣れているんだけどね。このエコーが曲者だ
と奥へ進んでいると悲鳴に混じって声が聞こえた。
端々しか聞けないけど、どうやら尋問の真っ最中らしい
坑道の最奥部、扉の無い部屋が悲鳴の発生源であり、この坑道の終点みたい
覗いてみると見慣れた道具がずらっと並んでいる。
その奥に吊り上げられた少女とそれを尋問している男が居た。
まだ序盤なのかパッと見少女の外傷は少ないように見える。
「ヌルいやり方してんなぁ」
思わず声が出た。だってまだ心をへし折ってないんだもん
人によってやり方は様々だろうけど、やっぱ効率を優先するべきだと思う…
「…訂正するわ、足をスライスするとか中々ハードなことするじゃん」
男の陰で見えなかったけど、あぁ確かに足が無くなってるわ
そんな中、男は私達に気が付く
すぐ騒ぎたてられると思ったが、そうでもないみたい
>「あら、こっちに来ちゃったのね。〜まったく、効果抜群だわん」
「あっは、もうプレゼン済みってわけね」
あの小瓶、毎月開発部に血を提供するときに使っている奴と同じ奴で間違いない
試供品で貰ったって言ってるところを見ると、大方確認の為に「羽持」もしくは取引担当者がコイツに渡したって考えていいのかな

5 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/03/27(金) 15:43:29.21 0
つーことは、とりあえず、しばらくの間はあの少女に人質の価値は無いってことになるね
何しろ死なないからね。考慮するに値しないってこと。
とにかく、人質の安全は確保されたようなもんだし、気兼ねなく戦えるのはありがたいことだ
>「でもん……助かっちゃうわぁ。アナタが脱走してここに来ちゃったって事はぁ。
> 〜〜ここが血の海みたいになるまで、念入りに……ねん」
「喜んでくれるのはありがたいけどさぁ…ネコババは頂けないなぁ」
そりゃ人を呼ぶ訳にもいけないよね
さてと、おしゃべりの時間は終わりだ。オカマは独特の構えをとり
それに呼応するように2本目のナイフを抜いて構える。
>「――『開閉』だ!気をつけろ!ソイツの、たいし……」
「ッ‼」
少女の声を皮切りにオカマが動く、薙ぎ払われる刃化した腕がこちらに向かってくる
速さはあるが、反応が出来ないって訳じゃない
私は近くにあった台に飛び乗り攻撃を凌ぐ、私でこれぐらいなら大鳳は
>大鳳は姿勢を可能なまで低くし鍵山へと怒りをぶつけようとその拳をぶつけていった。
案の定間合いを詰めて攻撃を仕掛けている。
間合いさえ詰めてしまえば、こっちのもんだと一瞬安堵した瞬間、頭に閃きが走る
足のスライス、『開閉』、刃
脳裏を過ったのは骨付きカルビをキッチンバサミで切る映像だった
よし次のオフは焼肉に行こうってそうじゃねぇよ!
「大鳳にげろ!!!」
足元にあったノコギリをオカマに投げつけつつ、叫ぶ
あのオカマは例えるなら巨大なハサミだ
つまり、真に警戒しなければならないのは、開く時じゃなく閉まる時
加えて日本人の筋肉は押すことよりも引くことに優れている
怪人化してもその名残は多少残っていると考えれば、『閉』の速度と力は『開』以上だと見積もって足りなくはないはずだ

【物を投げて牽制しつつ、大鳳に逃げるよう促す】

6 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/27(金) 23:26:47.60 0
>「5分ですわ」「5分以内に貴女を助けます。だから、少しだけ待っていて下さいまし!」

「あらん、五分も必要ないわよん?」

鍵山は肉体変化重視型の怪人だ。
自身の体質『開閉』を活かすべく、硬化とある程度の変形を軸に、肉体強化によって視覚聴覚を高めている。
視聴覚はどちらも一級品ではないが、少なくとも大抵の事態には反応が出来る。
そして反応さえ出来れば――後は開閉によって対応が可能だ。

まさに猪突猛進といった勢いで迫る大鳳の動きが、鍵山には見えていた。
見えているだけだ。体――筋肉はその反応に対して置いてけぼりになっている。
だが彼の回避に筋肉の動きなど必要ない。

大鳳の拳が放たれた瞬間、その予測着弾点が後方にスライドした。
必殺の拳は暴風の如き風切り音を奏で、しかしそれだけだ。

「はぁい、おしまい。アナタ、分かりやすいわねん」

鍵山の口角が不敵に吊り上がった。
彼の体質は開閉――読んで字の如く、開いて、閉じる。
そこまでが彼の怪人特性だ。

伏見の考察は正しかった。
更に加えるなら、開く時と違い、閉じる際には両方の刃を動かす事が出来る。
即ちこれから行われる鍵山の二撃目は、初撃の倍近く速い。
いかに肉体強化型と言えど、打撃を空振った直後の体勢で躱せるものではない。

>「大鳳にげろ!!!」

咄嗟に伏見が投げつけた鋸によって、鍵山の意識が一瞬そちらへと逸れなければ、だったが。

頭部に向かって迫る鋸を、鍵山は半ば反射的に首を横滑りさせて回避。
そして直後に右腕を閉じた――が、大鳳の足を切断する事は叶わなかっただろう。

「……可愛らしい格好してると思ったら、案外クールなのねん、アナタ」

鍵山は意外そうな表情で伏見を見た。
開いた体部位が音もなく元に戻っていく。

「でもん……今ので分かっちゃったわ。アナタ達……私の敵じゃなさそうねん。
 すぐに頭に血が昇っちゃう超人様とぉ、死なないだけのきゃわいい殺人鬼ちゃん。
 どっちもアタシの体質なら怖くないもの」

鍵山が不敵な笑みを浮かべ、足幅を広げて重心を落とす。
左手を前に伸ばし、右腕は刃化し、曲げた状態で胸の高さに控えている。
拳法風の構えだ。

7 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/27(金) 23:27:18.56 0
「実は私、一つ気になってる事があるの。……アナタってホントに死なない体質みたいだけど。
 でもん、足が無くなったら当然だけど立てないじゃない?
 じゃあ、血は?血が全部流れ出ちゃったら、どうなるのかしら?」

直後、彼の手のひらから刃が引き出しのように飛び出した。
軌道は先ほどのような弧を描くものとは違い直線的。
加えて飛び出した部位を更にもう一度前方へ『開いて』いる為、先端の速度は恐ろしく速い。
肉体強化に長けた怪人でなければ完全に見切る事は困難だろう。

「やっぱり酸欠になっちゃうのかしらん?その後は?……脳死?
 でもアナタ死なないのよねん。この場合、どうなるのかしら。ゾンビみたいに動き回っちゃうの?
 それとも生き返るまで死に続けるとか?」

左手から放たれる引き出し状の刃は速射砲のように二人に襲いかかる。
その制空圏を突破するのは容易な事ではない。

「ま、試してみれば分かる事よねん」

左手の刃は連射力は勿論だが、任意のタイミングで攻撃を斬撃に切り替えられる。
更にその制空圏を突破出来たとしても、鍵山には右腕が残っている。
その上で予測着弾点を開閉する事による緊急回避がある。

三段構えの防御網を潜り抜けなければ、彼に攻撃は届かないのだ。



【針(でもないけど)串刺しの刑】

8 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/29(日) 15:09:38.82 0
市香が排水管経由で収集した情報のなかで、重要そうなワードがいくつかあった。
だが言葉の意味をいちいち精査しながら聴き続けるのは処理能的に限界がある。
市香は制服の胸ポケットから手帳を取り出して、脳を経由せずに聞いたことを速記でメモを開始。
並列して所感を書き加えていくのは、後から読み返して精度を上げるためだ。

『共生派』『←外部の怪人組織?』『あるいは鳥籠内の仲間割れ』『戦力的脅威は低度?』
『愛玩用は未確認』『←優先順位が低い?数が少ない?』
『靖夫は暗くてウザい』『←安否を軽視する理由があった?』
『岩倉はまともで強い』
『奴らの知らない明日のこと』『←愛玩用エリアで何かが起きる?』
『どこかの窓が開いている』

そこまで書き終えて、市香は筆をとめた。
あまりここで時間をかけるのは下策だ。いまこの波乱の状況を有効活用するには動き続けるしかない。

耳たぶから伸びた水糸の半ばを指で弾くと、そこでぷつりと切れて排水口に吸い込まれていった。
体組織を極限まで薄めてあるから、このまま下水に流れてくれれば証拠の隠滅は完了だ。
そうしてメモった内容を、三人頭つっつき合わせて吟味する。

>「共生派?」

新免が反芻するようにして呟いたのが、おそらく最重要キーワードだろう。
共生派。なんともヒューマニズムに溢れた御旗である。
彼らは『鳥籠』の面々と敵対関係にあり、見張りを殺した暫定犯人もおそらくその所属であろう。

「わたし達とは別に、このファームに入り込んで工作している組織がいるってことですかね。
 それともファーム内で意見が対立しての内ゲバ?いずれにせよ、接触する必要はありそうですね……」

共生派とやらの目的が掴まった人間たちの解放であるならどうぞご勝手にやってくれて良い。
だが『鳥籠』の殲滅や解体を目論んでいるなら話は変わる。
市香達の目的である潜入捜査――ひいては『鳥籠』とつながりのある怪人組織を芋づる式に検挙する為には、
必要な情報が集まりきらない段階で鳥籠に壊滅してもらっちゃ困るのだ。

「共生派とやらが何を目的としていて、わたし達と敵対するのか協力するのか。
 早いとこその辺のコンセンサスをとっとかないと、しちめんどうなことになりそうです」

>「向路先輩、俺にいい考えがある。

なにやら思案していた新免が顔を上げた。
彼の提示したプランは、虜囚を装って新免がまず投獄され、捕まった他の者達に接触するというもの。

9 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/29(日) 15:10:14.12 0
対する向路の採択は、他の虜囚に接触するという大筋では同意だった。
方法は――

>「愛玩用っつってたか、そこの人間達から話を聞くのと、見回りの敵性怪人を捕らえて尋問ってところか。

監視の制圧。
市香に異論はなかった。あとはどこまでことが露呈せずに進められるかだ。
走り書きしたメモを手帳から破り取ると、市香はそれを新免に手渡した。

「これ、持っててください。わたしは戦闘になったらものを持ち歩けないので。
 見つかりそうになったら燃やすか飲みこむかして処分おねがいします」

流石に全裸にメモ一枚持って歩くのはニッチすぎる光景だ。
そしてこれは保険でもある。
新免は初任務で気が逸りがちというか、先刻のやり取りを見るに、わりと自分の命を軽視している節がある。
重要情報を書いたメモを持たせることで、おいそれと死ねない立場に新免はなった。
その意識が、彼の捨て身の行動にブレーキをかけてくれれば……という市香なりの考えだ。

「死なせない、って言ってくれたこと、信じていますから」

メモを握らせた新免の手に白い指を重ね、市香は目を合わせて言った。
それから向路の方に視線を向け、その耳から水糸を回収する。
耳に入った異物が更に出て行く感触に彼が身震いするのを見て、とりあえず耳打ちの溜飲は下った。

「行きましょう、班長。連中が人間の在庫を食用から順にチェックしてるうちに、
 わたしたちは愛玩用のハコに先回りしなくちゃいけません。そこでわたしに一案があります」

市香は屋上のフェンスに穿たれた穴に目をやった。

「人間たちが収容されてるのはおそらく教室を改造したものだと思います。
 ってことは、警備のうろつく廊下よりも簡単にそこへアクセスする方法がありますよ」

いくら緊急事態とはいえ、最低限の見張りは通路に残しておくだろう。
だが、『人間の通れるはずのない場所』はどうだろうか。
例えば――南向きの大窓とか。

「新免さん、頑丈なワイヤーみたいなものってつくれますか?排水口経由で愛玩用人間の収容場所の見当はついてます。
 ……ここ(屋上)から直接、乗り込みましょう」


【市香の提案:警備の目をごまかすため、愛玩用の監房へ屋上から直接ロープアクションで突入】

10 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/31(火) 01:08:19.81 0
愛玩用商品の監房には校舎三階の東側の教室が使用されていた。
降下はラペリングロープがあれば楽に行えるが、仮に無くても降りる事は可能だろう。

向路班が屋上から三階のベランダに降りると、骨板によって封鎖のされていない窓があった。
教室の中には年齢は様々の、しかし一様に容姿の整った十人の男が軟禁されていた。

愛玩用の人間達はその性質上、「飼ってもらえる」事が確定している。
つまり基本的には殺される事がないという事だ。
実際には容姿に優れた人間を甚振る事を娯楽にする怪人もいるが、彼らはそんな事は知らない。

即ち、彼らには危険を冒してまで脱走を図る理由がなかった。
無理にベランダから地上へ降りようとして、商品価値のないゴミになったりする事もない。
むしろ容姿の質を保つ為にも適度な日光は必要で、窓の封鎖は不要なのだ。

「っ、アンタ達は……待ってくれ。騒いだりするつもりはない。乱暴な真似はやめてくれ」

向路達の姿を見つけた愛玩用の人間達は怯えた様子でそう言った。
彼らは「聞きたい事がある」と言われれば、素直にそれに応じる素振りを見せるだろう。
しかし――その声色はどこか薄っぺらで、情感が篭っていなかった。

「――おい、人間。点呼を取る。理由は……」

そして警備の怪人が現れ、向路達の意識がそちらへ逸れた瞬間――人間達は君達の手足に組み付いた。

「助けてくれ!俺達はコイツらとは関係ないんだ!」

人間達は警備に向かってそう叫んだ。
彼らは危険を冒してまで脱走を図る理由も、君達に協力する理由もないのだ。

警備員二人の対応は早かった。
愛玩人間が叫ぶとほぼ同時、一人は跳躍一つで君達との距離を詰める。
そして向路目掛けて右のストレート。

もう一人は背中から鋭い触手を生やし、床に固定。
それを軸に跳躍し、薙ぎ払うような回し蹴りを岩男と流川へ繰り出した。
その暴威は支援局の実動部隊員と比べても見劣りしない。

触手を使用している事から相手は肉体変化も修めている。
まともに喰らえば甚大な被害を受けるだろう。



【人間による拘束&
 →向路:普通の肉体強化パンチ/→岩男、流川:ものすごい回し蹴り】

11 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/03/31(火) 19:35:18.50 0
「当てるつもりじゃなかったけどさぁそう躱されるとヘコむなぁ」
まぁ陽動にはなった訳だし、まぁいいかな
>「でもん……今ので分かっちゃったわ。アナタ達……私の敵じゃなさそうねん。
 すぐに頭に血が昇っちゃう超人様とぉ、死なないだけのきゃわいい殺人鬼ちゃん。
 どっちもアタシの体質なら怖くないもの」
訂正、この流れはよくないな、今のやりとりで完全に調子づかせちゃったわ
「だぁ…あんたが迂闊すぎるからナメられてんじゃぁん」
否定しきれないのが悔しさを増大させる。
というか大鳳と言い争いなんかしている場合じゃないな、あのオカマ…また何か仕掛けようとしている
>「実は私、一つ気になってる事があるの。……アナタってホントに死なない体質みたいだけど。
 でもん、足が無くなったら当然だけど立てないじゃない?
 じゃあ、血は?血が全部流れ出ちゃったら、どうなるのかしら?」
>直後、彼の手のひらから刃が引き出しのように飛び出した。
速ッ!これはよけきれない‼
「イッつー!…んなことやったことないからわかんないっての」
なんとか体を倒すことは出来たけど、刃は私の肩を貫いた。
そのまま倒れ込むように台の後ろに隠れた。
>「やっぱり酸欠になっちゃうのかしらん?その後は?……脳死?
 でもアナタ死なないのよねん。この場合、どうなるのかしら。ゾンビみたいに動き回っちゃうの?
 それとも生き返るまで死に続けるとか?」
「そんなに試したいなら自分で試してみれば、それなら指一本ぐらい分けてあげてもいいよ」
さっきから喰いつきが半端ないな、ただ単なる好奇心…ってんなわけないか
おそらくは確認したいんだろうね。私の生死をわける限界点って奴をね
因みにさっきの質問の答えとしては、酸欠による脳死は無いから変わりはない
って感じかな、絞首刑の時も一時間ぐらいほっとかれても体は動いてたわけだしね
>「ま、試してみれば分かる事よねん」
そうしている間にオカマは追撃をかけてくる。
物陰に隠れてなんとか凌ごうとしても、刃は遠慮なく貫通してくる。
あっ…駄目だわ、このままじゃ普通にジリ貧だわ
「しっかたないなぁ…そんなに試したいなら試させてあげるよ」
物陰から姿を現した瞬間、2、3か所貫かれた。
別に自棄を起こしたわけじゃないし、大鳳を庇ったわけでもない
ナメられっぱなしなのが嫌なだけだ。
「あんたさぁ…死なないだけって言って私のことをなめているけどさぁ
 甘いよ、大分甘いグラニュー糖よりも甘い発想だよ」
私は大きく両手を広げゆっくりとオカマに歩み寄る。
その間も刃が私をズダズダに貫いてくるけど、関係ない
何故なら私は死なないから             …ってだけじゃない
刃が小さく鋭いからストッピングパワーが極端に少なく、傷口も小さい
平均的な肉体変化タイプの奴なら致命傷さえやられなければ治癒することは容易だ
それ故に前進することが出来る
「あれれぇどうしたのかなぁ?血抜きは手早くやるものだよ。じゃないと」
一気に間合いを潰し、ナイフを振り上げる
「私があんたを解体しちゃうよ!!!」
狙うのは手でも腕でも首でもない体、それも上半身を狙う
そこならさっきのように開いて回避することは難しいはずだ
【保身なき前進からの上半身狙いの切り上げ】

12 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/03/31(火) 20:53:09.74 0
作戦内容を否定された岩男が「じゃあ一体どうするんですか!?」と突っかかる等の迂余曲折はあったものの、
囚われている人間達に接触するということでおおむねの意見は一致し、
流川の提案で愛玩用の人間が囚われている教室へ窓から直接侵入することになった。
岩男はそのために、人間の体重を支えられるだけのワイヤーを準備する必要がある。
「大丈夫だ!すぐに用意する」
岩男はへその下からズルズルと、等間隔につかみやすいコブのついたワイヤーを引きずりだした。
終端に鉤爪のついたそれを屋上の縁にひっかけ、不用意に外れたりしないか2,3回引っ張ってみる。
「向路先輩、さっきは生意気言ってすみませんでした」
準備を終えた岩男が振り返りながら向路に話しかけた。
「俺が思うに、ここにいる人間達はずっと怪人連中に虐げられてきた。
 だから、例え俺達怪人が彼らを助けようと手を差し伸べても、
 彼らの方が俺達を拒むかもしれない。いや、きっと拒むだろう」
岩男はなんだか昔の自分の事を話しているような気がして複雑な顔をした。
「何が言いたいかというと、なるべく今は俺達も人間らしく振る舞った方がいいかもしれないってことですよ。
 鳥籠にとっても、囚われた人間達にとっても、俺達は予想外の客ですからね。
 俺に先に行かせてください!安全を確認できたら合図します!」
岩男は向路の返答を聞くよりも先にワイヤーを掴んで飛び降りていった。
この時の岩男の心配が、後に最悪の形で現実になるなど岩男本人も予想だにしていなかった。

不法侵入は不得手らしく、まごつくような場面もあったが、岩男はなんとか目標の場所まで辿り着いた。
岩男が鍛造能力に使う鉄分は基本的に全て自前となるため、肥満体ではないが体重が98kgもある。
よって、他の二人が降りる時にワイヤーが切れる心配は無いだろう。
ベランダから中の様子をうかがうと、教室の中には年齢は様々の、しかし一様に容姿の整った十人の男の姿が見えた。
見たところ、他に鳥籠のメンバーらしき人物は見えなかった。
岩男は上にいる二人にハンドサインを出し、二人が降りてくるのを待った。

「あっ・・・!?」
岩男は二人が降りてくる様子を下から見上げていたのだが、
この場合、流川が降りてくるところを見ていると、彼女のスカートの中身が見えてしまうことに気がついた。
岩男は自分で自分を逮捕することがないようにと、先ほど彼女から渡されたメモをポケットの中から取り出してそちらに視線を落とす。
このメモは流川が聞き耳を立てた情報を走り書きしたものだ。
岩男はこのメモを流川から渡された時の事を回想した。

> 「これ、持っててください。わたしは戦闘になったらものを持ち歩けないので。
>  見つかりそうになったら燃やすか飲みこむかして処分おねがいします」
「ああ、わかった」
岩男は流川から特に何も思わずにメモを受け取った。
岩男は流川の能力を完全には把握していないので彼女がメモを持ち歩けない理由はわからなかったが、
別にメモを受け取る事を拒む理由もなかったのだ。
ましてや、流川の岩男に対する気づかいなどまるで理解がおよばない。
> 「死なせない、って言ってくれたこと、信じていますから」
> メモを握らせた新免の手に白い指を重ね、市香は目を合わせて言った。
「お、お、お、おう!」
予想外の出来事にさすがの岩男も赤くなって狼狽した。
この時、向路が身震いする様子を見なかったのが幸か不幸か岩男の知る由もない。

そして現在に至る。
先ほどの回想のせいで、自分でもわかるほど顔が紅潮しているのに気づいた岩男は、
間もなく降りてきた流川に必死に訴えた。
「お、俺は見ていないぞ!何も見ていないぞー!」

13 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/03/31(火) 20:54:49.90 0
> 「っ、アンタ達は……待ってくれ。騒いだりするつもりはない。乱暴な真似はやめてくれ」
岩男が騒いだせいで軟禁されていた人間達が向路班三人の存在に気づいた。
「心配しなくていい!俺達は君たちを助けに来たんだ!」
岩男はそれだけ言うと再びベランダに戻ってワイヤーの回収を始めた。
自分達を屋上まで案内した男がいつ戻ってくるかわからないので、行き先をさとらせないためだ。
その間に向路と流川の二人が人間達に聴きこみ調査を行っていたのだが、
人間達の、どこか他人事のような、ただ傍観しているかのような様子についに我慢ができなくなった。
「お前ら、一体どういうつもりなんだ!?
 ここの怪人たちに好きなように弄ばれて、悔しくはないのか!?
 お前達が帰ってくるのを心配している家族はどうなるんだ!?
 お前らが助かりたいと本気で思っていないのに、どうして俺達がお前らを助けることができるんだ!?」
岩男は人間達に説教を始めてしまった。
「お前たちはまだそれでもいいかもしれない・・・
 だが、他に囚われている人間達はどうなる!?
 この先捕まえられてくる人間達はどうなるんだ!?
 今ここで戦わないと、地獄を繰り返すことになるんだぞ!!」
岩男がどれだけ叫んでも、その言葉は人間達の心には届かなかった。
その事実を、岩男達は嫌でもつきつけられることになる。

> 「助けてくれ!俺達はコイツらとは関係ないんだ!」
警備の怪人が現れた途端、人間達は向路班三人の手足に組付き、そう叫んだのだ。
「貴様らぁッッ!!」
当然のように激昂する岩男。
警備員二人の対応は早く、すぐに一人目が向路に襲いかかっているのが見える。
二人目がこちらに襲いかかってくるのは時間の問題だろう。
なんとかしてそれよりも前に、組みついている人間達をなんとかしなければならない。
幸いにも、人間達の組付きようというのは、岩男の中途半端な柔道の技術でも振り払えるくらい稚拙なものだった。
だが、別の問題があった。
もしも単純に戦闘を有利に進めることだけを考えるなら、
この組みついている人間を盾にしたり、相手に向かって投げつけても良かったかもしれない。
しかし、岩男にはそれができなかった。いや、そういう選択肢すら彼の正義が許さなかったのだ。
「お前ら、俺から離れろッッ!!」
岩男は人間達を警備の怪人から離れる方向に向けて投げ飛ばした。
それはつまり、警備の怪人に対して背中を向ける事を意味している。
自分の背面から攻撃の気配を察した岩男は、振り向いて防御したのではとても間に合わないと思った。
だから一か八かで、相手に背中を向けたまま防御を試みた。
「喝ッッ!!」
岩男は自分の背面に鋼のプレートを鍛造した。
基本的に岩男の能力は素肌から出るので、服を着ている今の状態では外見上の変化は乏しい。
だが攻撃が背中に直撃し、甲高い金属音が骨にまで響いた瞬間、敵の怪人もその変化を悟るだろう。
これで足の骨が折れたと考えるのは楽観的すぎるだろうが、
それでも98kgの鉄の塊を本気で蹴って隙が生じないということは考えにくい。
「オワッ!?」
しかし岩男の方も予想外の衝撃を体に加えられたことで大きく体勢を崩した。
体勢を立て直すには時間がかかるだろう。

【ワイヤーで降下。人間達に説教を始める。組みついた人間を安全な方向へ投げ飛ばし、敵怪人の攻撃を背中で受け止める】

14 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/04/05(日) 04:55:14.28 0
鍵山に向かい放たれた拳は虚しく空を切ることとなった。
彼の体は後方にスライドし、大鳳の拳を躱したのだ。

>「はぁい、おしまい。アナタ、分かりやすいわねん」
その言葉の通り。鍵山は体勢を崩した大鳳の脚を切断すべくその右腕を閉じようとした。
>「大鳳にげろ!!!」
だが、伏見の叫びとともに投げつけられた鋸に意識が向いたおかげで、閉じるまでに猶予ができた。
その隙に大鳳は体勢を持ち直し、すかさず腕の射程圏外へと逃れることができた。

「――っふう!助かりましたわ!!」

>「でもん……今ので分かっちゃったわ。アナタ達……私の敵じゃなさそうねん。
 すぐに頭に血が昇っちゃう超人様とぉ(略

(確かにこの能力、想像以上に厄介ですわね……)
ただでさえ挟まれれば切断必至の刃が、閉じるときには更に早くなるというのだ。
近接格闘でまともに相手をするのは至難の業だ。
距離を取って一度頭を冷やす大鳳と既に冷静に相手を見ている伏見に対して
鍵山はまるで拳法のような構えをし相対する。

>「だぁ…あんたが迂闊すぎるからナメられてんじゃぁん」
「……うっさいですわね!それは謝りますわ。」
もう一言くらい言い返そうと思った大鳳だが、
そんなことしてる場合ではないを理解している彼女はそれ以上口を開かない。
それは伏見も同じことで、彼女もこれ以上言及するつもりはないようだ。

15 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/04/05(日) 04:55:41.85 0
「それにしても、アレはよっぽど凶華に興味津々なようで」
先程から凶華の能力について長々と疑問点を挙げつつ彼女を攻撃している。
こちらにも攻撃はしてくるものの、それは凶華に対するソレと比べれば微々たるものであり
回避に専念すればかいくぐることは容易いものだ。
(舐められていますわね……)
大鳳が攻撃を仕掛けてもすぐに対処でき、尚且つ確実に反撃できるという自身の現れだろう。
事実その通りであるからこそ、歯がゆさと悔しさが一層こみ上げる。
開くときであればなんとか避けられるだろうが、閉じるときであれば話は別だ。
向路ほどの早さがあればそれも可能なのだろうが、大鳳には避けきる自信はない。
(あれを……いや、あれはさすがにダメですわ。この先のことを考えても今使うのは得策じゃないですもの!)
確かにあれ――グラッチ戦で使用した急ごしらえの完全強化を使えば、
鍵山の攻撃を掻い潜り、緊急回避すら意味を成さずに叩き伏せることが可能だろう。
だが今は状況が違う、あの時は喝堂が敵の大多数を無力化させ船上という増援が起こりづらい場面だった。
だが、ここは違う。この場所にどれだけの能力者が存在するかの情報も無い上に、
まだまだここを出る前に一悶着ある可能性すら考えられる。
いくら黒野や喝堂、それに部下がいるといってもこの広い集落で彼らの救援が間に合うと考えるのはあまりに都合が良すぎる。
そんな都合に縋るようでは、到底生き残れず、伏見も逃げることが叶わなくなるだろう。
(どうすれば……!!)

>「しっかたないなぁ…そんなに試したいなら試させてあげるよ」
そんな状況に光明をもたらしたのは伏見だ。
彼女は自分が貫かれることも承知で、鍵山相手に前進しその胴体を切りつけようとしている。
不死身の彼女らしい大胆な作戦だ。
だが、それだけでは恐らく鍵山に効果的な一撃を加えることは叶わないだろう。
なら、手助けをしてやればいい。
大鳳はクラウチングスタートのような体勢を取り、鍵山の真横へとまた走り出す。
それは、最初の一撃とまるで変わらぬような馬鹿正直な一撃に見えるかも知れない。
だが、握った拳の中には一センチ程度の小石が握られていた。
先ほどの助走体勢は、それのカモフラージュだったのだ。
拳にて狙うは頭、恐らく拳による打撃は回避されるだろう。
だが、その回避地点に更に握りこんだ小石を打ち込む。
それは先の戦いでグラッチが最後に見せた技だ。
頭なんていうものは急所の宝庫だ。即頭部にはこめかみに耳、背面は後頭部、正面なんて言うまでもない。
回避される事を前提に全力で拳を打ち込み、そこから更に指への集中強化をする二段構えの攻撃である。
だが、仮にこれを回避されたとしても、確実に不意を突き意識が逸れるのは間違いない。
そうなれば閉じる刃でもなんとか避けきることが可能だろう。
もちろん、そこまで大鳳が正確に狙えるのかといえば、何とも言えない。

(見よう見まねでハイリスクですが、やってみせますわよ!!)
【拳と小石飛ばしの二段構え。】

16 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/04/05(日) 05:54:59.15 0
流川の提案に乗り、窓側から愛玩用の人間部屋へエントリーすることにする。

全くヘコたれない様子の新免のメンタルは羨ましいが、見習いたくはない。
ちょっとスゴむ為に口調もそれっぽくし
てみていたが、特に効果はなかったようなのでもう止めよ……っ。
……流川め、素知らぬ顔で目線も合わせないが報復のつもりか。耳に残った違和感を掻いて誤魔化しながら半目で流川を睨んでやる。
小回りの利くタイプの怪人はこれだから嫌だ。羨ましい。

>「向路先輩、さっきは生意気言ってすみませんでした」
>「俺が思うに、ここにいる人間達はずっと怪人連中に虐げられてきた。(略)いや、きっと拒むだろう」
「何が言いたいかというと、…(略
は)安全を確認できたら合図します!」

「……もう好きにしろよ。
 ……なんか、悪いな流川。部下も制御できないダメな先輩で」

言いたいことだけ言ってさっさと降下を始めた新免を見て、溜め息混じりで弱音を零す。
再びグローブを填めながら案内人の男が戻ってこないことを確認し、殿として屋上を離れ目的の教室へと到達する。
何故だかここは板による封鎖がなされておらず、侵入前から室内の様子を伺うことが出来た。

>「っ、アンタ達は……待ってくれ。騒いだりするつもりはない。乱暴な真似はやめてくれ」

「……君らがなにもしなければ、こちらもなにもしないよ。話を聞かせてくれればいい」

以外に落ち着いた対応をされる。これは以前にもこういうことをする輩がいたということだろうか。
しかし、騒ぐというのは分かるが、乱暴な真似とはどういう事か。
こちらが外部の人間だというのはわざわざ窓から入ってきたことで分かっているだろう。救出に来たとは思わないのだろうか。
愛玩用と聞いて、てっきり加虐性のある怪人に売られるものだとばかり思っていたが彼らには一見怪我などはない。
購入者が虐待時の反応を新鮮に楽しむためにそういった事情を知らされていないのかなんなのか知らないが、酷い扱いを受けていないのかもしれない。
先程水糸電話で愛玩用も逃げていそうだと聞こえた気がしたが、この様子だと聞き間違いだったか?

「取り敢えず……助けに来たって言うのはアイツが言ってるだけだ。希望を持たせたならすまない。
 ……で、質問したいんだけど。ここにいた中で」

思案の間にまたもヒートアップして暴走していた新免に頭痛すら感じ始めるが、彼に構ってる時間は無い。
さっさと聞くことを聞きたかったのだが、

>「――おい、人間。点呼を取る。理由は……」

……肝心なことを聞く前に、もう一方の情報源が到着してしまった。
人間達を背にして一歩踏み出し、先に敵性怪人へと対処しようとしたそのときに向路の体は停止する。

>「助けてくれ!俺達はコイツらとは関係ないんだ!」

……よくやるものだ、この人間達は。こちらが怪人だと思っていないのか、あちらの怪人の方が優秀だと思っているのか。
とりあえずこの行動で彼らの態度の訳も察せられた。ここを悪からず思っているようだ。
そもそも身綺麗なことや窓が封鎖されたいないことから察するに、ある程度甘やかされているらしい。
なんにせよ、この行為の効果は覿面、見事向路の動きは封じられた。逸早い敵性怪人の行動もあって、その拳は確実に向路を捕らえるだろう。

17 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/04/05(日) 05:57:15.40 0
────手足に組み付いた人間を省みるならば、だが。
向路は体を捻り、自身の右腕に組み付いた人間で敵性怪人の拳を迎えにいく。
その行動によって、両者に動揺が走る。敵性怪人は狙いを修正しようとし、人間は掴む腕を緩め身を引いた。
しかし、それ以前の行動の迅速さが裏目に出る。拳は止められず、逃げることは出来そうにない。
互いの精一杯の回避行動によってクリティカルヒットにはならなかったが、 敵性怪人の拳は向路から人間を引き剥がすこととなった。
向路は倒れ込んだ人間を気にも留めず、後ろに流れた腕を鞭のようにしならせ、動作後の隙を晒した敵性怪人の横っ面に張り手を叩き込む。
更に返す動きで側頭部に裏拳を入れて意識を刈り取る。
いつの間にやら自由になった脚で鳩尾に蹴りを叩き込めば、敵性怪人は膝から崩れ落ちた。取り敢えずの無力化は成功だ。
向路は殴られた仲間を囲みながら唖然とした顔でこちらを見る人間を一瞥すると、溜め息一つを挟んで言葉を吐く。

「……困るな、こういうことされるのは。
 アイツのせいで勘違いさせたようだけど、別に僕らは君達がどうなったっていいんだ。話さえ聞ければね。
 だから、まだ僕らの障害になろうっていうなら、こっちも考えなきゃあいけない」

見せしめるように、意識を取り戻したのかフラフラと立ち上がりかけた敵性怪人の肩胛骨に拳を叩き込みへし折る。
そうした次には膝を踏み砕いた。叫び声を上げそうになれば、またも鳩尾を蹴りつけてそれを阻む。
言葉を失ったように見える人間達だが、これで大人しくしていてくれるだろうか。
こういう方法しかとれない自分への苛立ちを敵性怪人への逆恨みへと転化して、暫くは動けない程度まで痛めつける。
……これで取りあえず『鳥籠』側の情報源は確保した。もう一人の監視は流川、新免が相手をしているようだが、二人は無事だろうか。
つい気を逸らしてしまったことを反省しながら、二人の方へと視線を向ける。

18 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/04/05(日) 16:44:44.44 0
>「大丈夫だ!すぐに用意する」

市香の提案を快諾した新免は、おもむろに自分のスボンに手を突っ込んだ。
いきなりの光景に市香が「!?」を浮かべる前に、するすると引っ張りだされたのは――丈夫そうなワイヤー。
鍛造能力で即席したのだろうそれには、等間隔で出っ張りがついている。
そういう形をした大人の玩具を雑誌で見たことのある市香は、新免が股間からそれを抜き出すイメージを必死に払拭した。

> 俺に先に行かせてください!安全を確認できたら合図します!」

新免はそれを手すりに引っ掛け、凄く良い顔で先行した。
……班長向路の指示を待たずにだ。

>「……もう好きにしろよ。……なんか、悪いな流川。部下も制御できないダメな先輩で」

「……いや、向路さんはすごく頑張ってると思います。うちの隊長だったら多分屋上に死体がも一つ増えてますよ」

ブリーフィングの遅刻だけでギルティーかも知れないけど。
多分あの女が潜入任務から外されたのは、見た目もさることながら堪え性のなさも十分起因しているだろうから。
ワイヤーを軋ませながら降りていった新免を追うように、市香もラベリングを開始する。
この程度のミッションなら特性を使うまでもない。昔はよく4階ぐらいの教室からロープを使って授業をフケたものだ。
そんな市香が今度は教室に入る為に懸垂下降しているのだから因果なものである。

「下、大丈夫ですか新免さん。ちゃんと見張っててくださいね」

>「お、俺は見ていないぞ!何も見ていないぞー!」

「なんで!?」

とまれかくまれ、愛玩教室の窓辺までは発見されることなく到達できた。
窓は施錠されていたが、市香はピッキングの達人、ものの数には入らない。
そうして三人揃ってエントリーした先の室内には、十人ばかりの男たちがいた。

「うわぉ、イケメン見本市」

年齢はまちまちだが、そこに囚われた男たちはみなが眉目秀麗、この場でアイドルユニットを結成できそうだ。
市香は常人の男には興味が無いのでイケメン揃い以上の感慨は浮かばなかったが。

「さっきの闘人用とはずいぶん扱いが違いますね。流石に愛玩用ってことですか」

>「っ、アンタ達は……待ってくれ。騒いだりするつもりはない。乱暴な真似はやめてくれ」
>「心配しなくていい!俺達は君たちを助けに来たんだ!」
>「……君らがなにもしなければ、こちらもなにもしないよ。話を聞かせてくれればいい」

19 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/04/05(日) 16:45:43.47 0
まあ、本当に何もしないんですけどね。市香は口に出さずに心でそう呟いた。
市香達は別に捕まった人間を助ける為にここに来たわけではないのだ。
下手に解放してこれ以上の騒ぎになってもやりづらいし、彼らの態度がどうあれ助命するつもりはない。
むしろ必要な情報を黙っていれば尋問だってするし、なんなら邪魔者は人間だろうと排除するまである。

>「お前ら、一体どういうつもりなんだ!?ここの怪人たちに好きなように弄ばれて、悔しくはないのか!?(中略)
  今ここで戦わないと、地獄を繰り返すことになるんだぞ!!」

「ああもう、またへんなこと言って……」

愛玩人間達がことなかれを標榜するならほっときゃいいのに、と思う。
彼らは彼らで、ここで強かに生きていく術を見つけている。
生まれ持ち、維持してきた優れた容姿をカードとして、ある程度の好待遇にこぎ着けたのは紛れも無く彼らの実力なのだ。

だから――

>「――おい、人間。点呼を取る。理由は……」
>「助けてくれ!俺達はコイツらとは関係ないんだ!」

――現れた監視の怪人に対し愛玩人間達が利敵行為に走った時も、市香の中には妙な納得があった。
ようは、彼らは『鳥籠』に与することで生きながらえる道を選んだのだ。
その選択と判断は、おそらく正しい。誤算があるとすればそれは――両組織の力量を鑑みているかどうかだ。

「ッ――来ます!!」

まとわりつく人間たちに足をとられながら、市香はせめてもの警告を同僚二人に飛ばした。
敵は二人、一人は距離の近かった向路の方へ跳びかかり、もう一人は肉食動物の如く身を深く屈めた。
背中から生やした触手を床に突き立て、触手で強く床を『蹴り立てた』。
バネのごとく伸縮した触手の運動エネルギーは全て敵怪人の身体を前進させるのに注がれ、砲弾のように跳躍!

(体当たり――違う――!)

単なるチャージであれば脚部を強化して飛びかかるだけでも十分なはずだ。
わざわざ肉体変化にリソースを割いてまで触手を生やした理由、それは。
――脚を別のことに使うからだ!

果たせるかな、触手怪人は跳躍の中触手で姿勢を制御し、脚を伸ばしてきた。
弧を描くような軌道は、なぎ払いの回し蹴り!
人間たちと一緒に団子になっている市香達をまとめて叩き潰すための一撃だ。

20 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/04/05(日) 16:46:32.03 0
>「お前ら、俺から離れろッッ!!」

新免が少しでも人間を逃がそうと振り払う。それが致命的な隙を生む。
彼は市香よりも半歩前へ出て――触手怪人の蹴りを背中に受けた。

「新免さん!!」

人体の構造上、背中は防御力の高い部位だ。
急所の殆どは肋骨と背骨に守られているし、その上には分厚い背筋で覆われている。
だがそれは打撃に対する防御であって、例えば刃物を持った敵に対し背を向けることは一転して致命傷を作り得る。
そして、肉体変化を持つ怪人の蹴りが、『ただの打撃』で済むはずがない。
あの触手のように鋭い棘を脚に生やしたり、あるいは脚そのものを鋭い刃のような形状に変えることさえ可能なのだ。
そんな怪人相手に無防備に背中を晒した新免がどうなるか、想像に難くない!!

>「喝ッッ!!」

だが、市香の想像は現実とはならなかった。
ぎぃん!と鈍い金属音と共に、新免の背は完全に敵の蹴撃を受けきった。
そうだ。肉体変化を出来るのは何も敵に限った話ではない。
新免の特性『鍛造』は、肉体表面から鋼を生成することができる。
背中に板金か何かを生み出して、防御を完遂したのだ!!

>「オワッ!?」

蹴りの慣性を殺しきれなかった新免がこちらに倒れこんでくる。
市香にとってはその態勢が好都合だった。

「肩、借りますね」

制服を人間たちに掴まれて身動きが取れなかった市香は、速やかに己の特性を解放。
霧状の液体に姿を変え、制服からするんと抜けるようにして拘束を脱出。
倒れる新免の肩の上に、全裸で鉄パイプを振りかぶった姿で再構成された。

「かっっ!!」

新免と同様よろめいた敵怪人の脳天めがけて、蒸気加速したパイプの一撃を唐竹割りに叩き込んだ。


【相転移で拘束を脱出、よろめく新免の肩の上から大上段の加速パイプ】

21 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/08(水) 05:01:54.51 0
「ねーえーん、退屈なんだけどぉん。まさかもう打つ手なし?そんな訳ないわよねぇ」

鍵山は速射砲の開閉を絶やさずに伏見へ語りかけた。
その攻め手に油断による緩みはない。
伏見狂華という殺人鬼と、不死身という怪人特性は、全く別次元に存在するものだ。
己の『開閉』は不死身に負ける代物ではないが――それでも伏見狂華を侮るべきではないと鍵山は知っていた。

>「それにしても、アレはよっぽど凶華に興味津々なようで」

「あらん、ヤキモチかしら?心配しないで。アナタも後でたっぷりと遊んであげるわ」

聴覚に強化能力を割いている鍵山はこの状況下でも大鳳への注意を途切れさせていない。
速射砲による牽制を挟みつつも、接近された際の為に右手はいつでも変化させられる状態を保っている。

「あなたにはねぇん、私の仕事のお手伝いをさせてあげる。一緒にあの可哀想な子猫ちゃんを甚振るの」

鍵山の口元が歪に吊り上がる。

「やってみると、これが意外と面白いのん?だって皆、泣きながらやらせてくれって頼んでくるんですもの」

彼は人の醜さを暴き出す事が生き甲斐だった。
その為ならどんな拷問も厭わない。
他人が泣き喚き、許しを乞い、何もかもを投げ打って自らに屈服する瞬間。
その瞬間、彼は男でありながら女の振る舞いをせずにはいられない自分の醜さを忘れられるからだ。

そしてそれ故に彼は観察眼に長けていた。
人の雰囲気を、気質を読み取る能力に。

(アナタみたいな猪突猛進なタイプじゃ、私の体に指一本触れる事すら出来やしない……。
 アナタもそれは分かってる筈。でも、きっとまたすぐに突っ込んでくるのよねん。
 痺れを切らすか、舐められてる事に憤って……アナタはそういう人間だわん。……怪人だけど)

鍵山はそう予測して――しかしそれは外れる事になる。

>「しっかたないなぁ…そんなに試したいなら試させてあげるよ」

「あら……意外ねん。アナタが先に動くだなんて……ふぅん」

言葉と同時、鍵山の刃が伏見の胸を貫き――しかし彼女は動じない。
刺傷を顧みずにそのまま鍵山へと駆け寄ってくる。

「っ、クールな上に肝も据わってるなんて……素敵じゃないのん」

彼にはまだ右手の刃が残っているが――それは伏見には使えない。
強力な打撃を持つ大鳳に対する牽制手段がなくなってしまうからだ。

「これはちょっと……ヤバいかも……!」

伏見の狙いは上半身への斬撃。

上半身を、腰を起点に後方へスライドさせる事は出来る。
だが大きく動かせばそれだけ重心が後ろへ傾く。
即ち体勢が維持出来ず転倒してしまう。それは最悪だ。
加えて振り抜かれた刃は上半身に当たらずともそのまま下半身を狙える。

「きゃあっ……!」

鍵山が悲鳴を上げ――しかし彼の口元には薄ら笑いが浮かんでいた。

22 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/08(水) 05:03:39.52 0
「なぁんて……距離が近ければ私、こんな事だって出来ちゃうのよねん」

鍵山の胴体から、刃が飛び出していた。
形状は帯状ではなく、十字槍のように先端が開いている。
その刃が伏見の腕を、体を食い止めていた。

「そんでもって……アナタってホント芸がないのねん」

鍵山は迫る伏見に対応しながらも、大鳳の初動を見逃していなかった。
頭部狙いの一撃――首から上を後方に滑らせるだけで回避出来る。
そして右腕の刃は自由に使える状態だ。

まずは腹部を貫き、死なない程度に機動力を削ぐ。
その為に鍵山は右腕を開こうとして――直後、頭部に強い衝撃が走った。

「あ……ら……?」

足がふらつき――咄嗟に足裏から刃を展開。
その反作用で後方へ大きく跳んで大鳳達から距離を取った。
そこでようやく鍵山は何をされたのか理解した。

「やぁねえ……読み違えちゃったかしらん……アナタ、そういう事するタイプじゃないと思ったんだけど……」

鍵山は大鳳が石を握り込む瞬間を見落としていた。
彼女を見くびっていた事に加えて、伏見に気を取られていたからだ。

状況は――非常に悪い。
鍵山は今、壁を背負わされている。
つまり体を後方へ『開く』事が出来ないのだ。
その上、頭部へのダメージは少なからず怪人特性の発揮にも支障を来たす。

「……ねえん、今更虫のいい話だとは思うんだけど……ここらでやめにしないかしら?」

故に鍵山は口を動かした。

「アナタ達……ホントは商品としてここに来た訳じゃないんじゃない?ねえ?」

伏見と大鳳の間にある関係性――ただの商品同士では生じ得ないそれの存在を、鍵山は感じ取っていた。
そこから二人が興味を示さざるを得ない話を予測した。

「何か目的があるんじゃない……?私で良ければ、協力するから……ね?悪い話じゃない筈でしょん?」

無論――そんな話が通る訳がないと鍵山は分かっている。
お互いに、相手が裏切らない保証のない取引だ。成立はあり得ない。
ただ、ほんの一瞬、もしも二人が損得勘定を始めてくれれば――それだけで良かった。

瞬間、鍵山が動いた。
踵と背面を高速で展開し、地面と壁を押して自分を砲弾の如く跳ね飛ばす。
同時に右腕を盾のように開き、そこから更に開閉を繰り返し網目状に変形させた。

「殺しちゃうのは惜しいけど……私だって死にたくないものねん……!」

そしてその右腕を鋏のように前方に開けば――超高速、広域の斬撃が完成する。



【食らったらサイコロステーキになる感じのアレ。決着まで決定リールおkです】

23 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/08(水) 05:04:15.05 0
敵性怪人の脚と岩男の背中が激突した瞬間、激しい金属音が響いた。
鍛造された鋼板に対して、放たれた蹴りが同等の硬化を帯びていた証である。

ただし――岩男と違って敵性怪人は空中にいる。より強い反動を受けたのは彼だった。
着地をしくじり、体勢が崩れる。
それでもなんとか敵から視線を外すまいと首を捻り――

>「肩、借りますね」

その先には全裸の流川が、岩男の肩の上で鉄パイプを振り上げていた。

「かっっ!!」

そして蒸気加速による一撃が振り下ろされ――敵性怪人はそれを右手で掴み止めた。
触手で体を支える事でいち早く姿勢を立て直したのだ。

だが流川の鉄パイプは、受け止められて終わりではない。
防御を確認してから追加の加速をかける事で、強引に守りを打ち破る事が出来る。

しかし――敵性怪人の右手は微動だにしない。
蒸気加速による強烈な推力に対して拮抗し――それどころか、押し返してさえいた。

「ぐぬぬぬぬ……っ、だぁ!」

そして打ち捨てるように荒々しい動作で鉄パイプを受け流し、強襲課員達から距離を取った。

「……ふー、あっぶねーの。いやぁ、しかし……改めて見るとなかなか悪くない眺めだねー」

小太りで目の細い敵性怪人――高峰円治は鷹揚な声色でそう言った。

「しっかしやられたなー。お前、常態異常型かー。やだなー、やりにきーなー、めんどくせーなー」

円治は岩男を細い目で捉えながら溜息を吐いた。

「つーかー、酒向よー。お前そっちは一人なんだからちゃんとしてくれよー。せめて一発くらいさー」

しかしその佇まいに隙はない。
優れた戦闘員特有の、いつ攻められようとも対応出来る、という雰囲気が円治にはあった。

24 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/08(水) 05:05:10.07 0
「……んー?ていうかお前ら、共生派じゃねーの?ウチの商品、ボコってくれちゃってるけどー」

とは言え――状況は三対一。
増援を呼ぼうにも殆どは脱走者の追跡に向かっている。
事務室にいる面子を呼ぼうにも、そんな大声を出す為に深く息を吸うのは隙が大きすぎる。

「……出し惜しみしてる場合じゃねーかなー」

瞬間、円治に異変が起きた。
彼の頬が描く豊やかな曲線が、一瞬の内に目に見えて萎んだのだ。

それは円治の体質――『高燃費』による現象だった。
彼は通常の怪人よりも、短時間に多くのエネルギーを消費出来た。
つまり燃費の悪化と引き換えに、協力な怪人特性を発揮出来るという事だ。

強襲課員と比べても遜色ない蹴りに、それを更に加速させる触手に、鋼鉄に全力で打ち付けても傷を負わない硬化。
高燃費の体質が、それら全ての並立を可能にしていた。

円治の怪人特性は、大鳳のそれに類似していた。
強化の配分なのか、それとも燃費の加減なのか、変動可能な要素にこそ違いはあるが。

「とりあえずー」

円治の触手が動いた。
狙いは向路だ。下から掬い上げるような軌道での打撃。
目的は仕留める事ではない。最低でも彼の接近を阻む事だ。
無論、命中すればそれが最上だ。加減などはない。
牽制とは言え、触手には有象無象の肉体強化型では到底避けられない程の速度と威力があった。

「こっちから始末すっかな」

しかし本命は岩男と流川だ。弱い相手をまず潰すのは戦闘の定石だ。
超高速の接近から両手でそれぞれへ掌底を放つ。
殴打が目的ではない。殴ると同時に指先で眼窩を抉る為だ。
眼を潰し、更にその奥まで。

再生力に優れた怪人と言えど、脳の損壊を修復出来る者はそういない。
鋼鉄のような――と言うよりもまさに鋼鉄なのだが――硬化も眼への攻撃には硬化が薄い。
眼を硬化した所で、そのまま奥まで押し込めば脳の破壊は問題なく成されるからだ。



【→向路:触手による結構速い牽制打撃
 →流川、岩男:脳の破壊を目的とした超速い掌底×2】

25 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/04/09(木) 22:32:11.55 0
敵怪人に背中を蹴られた岩男はちょうど流川の方へ倒れこんで行った。
視線の先にいる彼女は、まだ愛玩人間達に体を拘束されている。
岩男は自分が人間達に言った言葉を今さらながら後悔した。
彼らの目は、彼らの心の中に並々ならぬ鳥籠への、そして怪人への恐怖があることを物語っている。
それを理解しようとせず、運命と戦えなど、軽々しく彼らに言える資格がはたして自分にあったのだろうか?
いや、きっと無かったに違いない。それがこの結果なのだ、と。
>「肩、借りますね」
「えっ!?」
突然、流川の姿が視線の先から消えた。
いや、正確には流川の制服だけがその場に残り、彼女の生身の体が煙のように消えたのだ。
「脱皮したぁ!?」
肩に大きな荷重を覚えつつも岩男はそのまま制服へ向けて突っ込み、
流川を拘束していた愛玩人間達と一緒に、制服を掴んだまま目をパチクリさせた。

> 「かっっ!!」
流川のかけ声を聞いた岩男が、愛玩人間達から制服をひったくってすぐさま振り向くと、
ほとんど犯罪のような流川が鉄パイプによる唐竹割りを敵怪人へお見舞いしているところだった。
「やったか!?」
> 「ぐぬぬぬぬ……っ、だぁ!」
しかし、流川の一撃は敵怪人に、決して簡単ではなさそうだったが、打ち払われてしまった。
「なにぃ!?流川君!!」
岩男はバランスを崩した流川の肩を掴んだ。
それは柔らかいが、先ほどと違って実体のあるものであった。
彼はようやくここにいたって流川の怪人特性を理解した。
彼女は自分の体を液体や気体に変えることができるのだ、と。
(たしかにこれではメモは持ち歩けないな)

敵怪人は侮れないと思ったのかこちらと距離を離したので追撃は無かった。
> 「……ふー、あっぶねーの。いやぁ、しかし……改めて見るとなかなか悪くない眺めだねー」
「貴様ぁ!見てるんじゃない!!」
岩男は軽口を叩く敵怪人へ向けて顔を真赤にしながら叱りつけるように叫ぶと、
流川の頭に自分がかぶっていたソフト帽を乗せて、二人の間に割って入るように彼女の前に立った。
岩男は何も着ないよりマシだと思ったかもしれないが、流川の方はきっとそうは思わなかったに違いない。

> 「つーかー、酒向よー。お前そっちは一人なんだからちゃんとしてくれよー。せめて一発くらいさー」
敵怪人が誰かにそう話しかけた。きっと酒向というのは向路に襲いかかった男なのだろう。
向路がその男に殺られる心配はなかったのだが、
しかし岩男はその男と向路の方へ視線を移すことができなかった。
もしもこの男から視線を外したら、殺られる・・・!
岩男は敵怪人から、そういう凄みを今さらになってヒシヒシと感じたからだ。
今不意打ちを狙ったところで、とうていうまくいくとは思えなかった。
これが怪人同士の戦いを繰り返し、生き残ってきた猛者の風格なのであろうか。
岩男は目の前の男が、先ほど対決した向路とダブって見えた。
この男とどう戦う?さっきはうまく背中の鉄板で防御したつもりだが、その衝撃で鉄板の方が折れてしまった。
もしも鉄板の方が先に折れなければ自分の背骨が折れていたかもしれないと思うとゾッとする。
この男は地力において自分のはるか上にあるのだ。向路先輩と同じように・・・!
同じように戦っていては、先ほどの敗北を繰り返すだけだ。

そうして目の前の男に集中するほど、不思議と背後にいるであろう愛玩人間達の、
不安に満ちたささやき声がよく聞こえる気がした。
自分達はきっと鳥籠を倒し、彼らに自由をもたらすだろう。
しかし、その後彼らはどうなるのだろうか?
彼らはきっと一生、怪人に対する暗い気持ちを抱え続けるに違いない。
怒り…恐れ…嫉妬…猜疑…
体を拘束するものがなっても、心が囚われたままであるならば、それは本当に自由と言えるのか?
心の問題を解決するのは強襲課員の仕事ではないと言われるかもしれない。
しかし、岩男は今ここで妥協してはいけないと考えた。
彼らに勇気を与える象徴(イコン)が、何か、ないだろうか?

26 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/04/09(木) 22:33:47.35 0
> 「……んー?ていうかお前ら、共生派じゃねーの?ウチの商品、ボコってくれちゃってるけどー」
それは向路の所業のことを言っているのだろうが、岩男は向路を見ていなかったし、
事情はどうあれ自分も愛玩人間を投げているので彼を咎めることはなかった。
「俺は人間が好きだ!俺は怪人だが、自分の事を人間の仲間だと思っている!
 人間の自由を脅かす貴様のような奴は、この俺が絶対に許さん!!」
岩男は共生派にとられかねないような、しかし本心からの言葉を叫んだ。
次に岩男は、背中を向けたまま愛玩人間達に話しかける。
「君たちの気持ちも考えないで、勝手なことばかり言って、すまなかった・・・
 だが、これだけは信じてほしい!
 人間は弱い・・・だが、怪人には無い強さもある!
 自分達には何もできることが無いなんて思わないでくれ!」
最後に岩男は、敵怪人でも、向路班のメンバーでも、愛玩人間でもない、
そして自分自身ともまた異なる、もっと大きな存在に向けて叫んだ。
「俺は、俺にしかなれない!だが、これが俺なんだ!
 この俺に、今俺ができることをやらせてくれ!!
 ・・・・・・変身!!」
敵怪人の体が変化するのと同時に、岩男もまた自分の体を変化させた。
手足には、屋上で向路と戦った時につけていた籠手と具足を纏い、
へその下から鋼の太い帯がせり出し、そこを起点にして胴体がプロテクターに包まれる。
服の下に隠れたその肌もまた鋼鉄のそれとなり、首から上も鉄面で覆われた。
岩男はさながら、服を着たロボットのような外見に“変身”した。

> 「とりあえずー」
お互いに戦闘準備が整ったところで、円治の触手が向路に放たれた。
その時、岩男は何かを放り投げる体勢をとっていたが、まだ成されていなかった。
肉体強化型の怪人と、そうでない怪人とではそれくらい動作の完了までの時間に差があるのだ。
この差を縮める何かが無い限り、岩男に勝ち目は無い。
> 「こっちから始末すっかな」
円治が超高速の接近を開始し始めた時に、やっと岩男の第一手が放たれた。
岩男の手が放り投げたのは、無数の小さな鋼球である。
円治の眼ならば間違いなくそれを判別できるだろうし、岩男の意図もわかったはずだ。
例えどれだけ肉体強化した怪人であっても、その体を前に押し出すのは地面と足との間に生じる摩擦力だ。
無数の小さな鋼球をばら撒くことでその摩擦力を奪ってやれば良い勝負ができると岩男は考えたのだろう。
しかし、それで円治がすってんころりん転ぶと考えるのはあまりに楽観的すぎる。
もしも床に鋼球を敷き詰めても、例えば流川なら足だけ液体化すれば関係ないだろうし、
現に岩男自身も具足の裏にスパイクを生やすことで自分が転ばないように対策している。
触手を操れる円治ならば、それを使って無効化することもできるし、そもそも踏まないという選択肢もあるのだ。

確かに岩男の考えは甘かった。しかし、それが岩男と円治の時間を近づける。
体を鉄のように硬化させるだけかと思われた岩男が体から鋼を分離させてきたこと。
さらに、動作とその意味がよく見えるがゆえの逡巡。
それらが一瞬だけ円治を遅らせたのだ。
そしてその一瞬が岩男の生死を分けた。
「咄ッッ!!」
円治の掌打が岩男の顔面を捉え、その目を貫かんとするまさにその瞬間、
岩男が相打ち覚悟で既に放っていた正拳突きが円治の顔面に激突する。
岩男と円治はお互いにカウンターをぶつけられた格好となり、大きくのけぞった。

もしも敵怪人、高峰円治が岩男だけを狙っていたのならば、また結果は変わっただろう。
二兎追うものは一兎をも得ず、である。

【体に鋼をまとって変身する。敵の足元をすくうべく鋼球をまいてから攻撃をするが、相打ちになる】

27 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/04/14(火) 19:03:11.84 0
「まぁ・・・そうなるだろうね」
何かしらしてきたとしても無理やり突破してやろうかと思ってたんだけど…
流石にここで抑えられたらどうにもならないや…まぁでも
>「そんでもって……アナタってホント芸がないのねん」
こっちは二人ががりだ。
例え単調だろうと無策だろうと続ければ…
>「あ……ら……?」
急にオカマは体勢を崩し後方へ下がった。
よく見れば頭に傷を負っているのが見えた
「へぇー指弾とかできたんだぁ」
>「やぁねえ……読み違えちゃったかしらん……アナタ、そういう事するタイプじゃないと思ったんだけど……」
まったく同意見だわ
真っ向から突っ込むことしか出来ない奴だとばかり思ってたけど、案外そういう技もつかえるのね
なんにせよ、形勢はこっちに傾き始めてきた。
今のうちに畳みかけるのもいいけど、さっきのこともあるしここは慎重にいかないと
>「……ねえん、今更虫のいい話だとは思うんだけど……ここらでやめにしないかしら?」
「命乞いならもっと必死にやったら?」
っても本心からの言葉じゃないね。
狙いは何かな?
>「アナタ達……ホントは商品としてここに来た訳じゃないんじゃない?ねえ?」
まぁそろそろ気づくころだとは思ってたけど、どうしようか
もう開き直ってもいいけど、まぁ沈黙で返答しとこうかね。
>「何か目的があるんじゃない……?私で良ければ、協力するから……ね?悪い話じゃない筈でしょん?」
冗談は恰好だけにしろよと即座に言えなかった。
『もしかしたら、身内を人質に取られているかもしれない』なんて理由じゃない
単にこのオカマかあの女から得られるかもしれない情報の質と量を鑑みただけ…
加えていうなら、大鳳の意見も大なり小なり気になる
ここまで来て意見の対立は避けたい、どうしたい?どういう考えであろうと今だけは折れてあげるよ
なんてことを考えながら私は大鳳に視線を向けた。
その瞬間だった。
オカマが跳ね上がり、網状の盾を形成する。
今の問答はただ単なる時間稼ぎってわけね。
「アレ、下手に触んないほうがいいかもね。ところてんになりたいなら構わないけど」
正直、あの映画のあのシーンはサイコロステーキよりところてんのほうが正しいと思うんだよね
サイコロ状にするには上下に高速で動く刃を足さないといけないわけだし
「つーわけで牽制は私がやるからアンタはアドリブで決めちゃってよ」
大鳳にそう伝え、私は前に出る。
多分これでいいと思う。確証はないけど勝算はある。
「駄目だよ!そんな力任せな方法じゃあさぁ、肉質が悪くなるじゃんかよぉ」
ブッチャーナイフを指で挟むように持ち変える。
多少刃先が削れるけども、この網目なら真っ直ぐ入れれば突き抜けられるはずだ。
「あああああああああああああッ!!!」
拳を突き出す。
指が、拳が、腕が盛大に血を吹きだしながら切断されていく
大丈夫、脳内麻薬で痛いどころか感覚さえないから!
さぁどうするよ?さっきのように止めちゃう?それとも頭をずらす?
「でも、ざぁんねぇん!それに期待なんてしてないんだよぉ!!!」
即座に私は腕をひねり、網と絡ませる。
余計に切れるんじゃないかと思われるけど、どんな切れる包丁だって
血と脂に汚れれば全く切れなくなるのと同じで、この網の切れ味も鈍っているんだよね。
まぁ…気休めなんだけどね。
なんにせよ。ここのまま絡まっているうちにまずは私毎こいつを引き倒す!
そしてぇ
「本命はこっちだぁ!」
さっきと同じようにもう片方の腕も突き出す。
だが、狙いは胸元に変える、今の状況ならさっきのように刺して止めようとしても体のほうが突き刺さりに向かってしまう
故に回避か…もしくは最後の…最後の奥の手を使わざる負えなくなるでしょ?
その瞬間、大鳳がお前を仕留めに来るはずだ!多分…きっと…おそらくわ‼

28 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/14(火) 21:12:07.50 0
>>27
【行動判定】

鍵山のリソース配分は、肉体変化の偏重している。
肉体強化は視覚と聴覚の強化のみに限定している。
つまり――伏見の力技に抗うのは、案外彼には困難な事だった。

>「本命はこっちだぁ!」

倒れ込みながらの刺突。
先ほどのように十字槍を展開し止める訳にはいかない。
倒れる勢いが強すぎる。そのせいで槍はかえって伏見の体を貫通してしまう。

「ん、もう!最悪!」

悪態を吐きながらも、鍵山は速やかに覚悟を決めた。
心臓を貫かれる覚悟ではない。命懸けの、苦肉の策を敢行する覚悟だ。

鍵山の胴体が、左右に大きく開いた。
胸部が完全に空洞化する程に。
脳を除く殆どの内臓器官が――心臓さえもが機能を一時停止した。
十秒だ。十秒以上この状態が続けば、彼は脳への血液供給不足によって意識を失う。
そうなれば体を元に戻せず、そのまま死ぬ事になる。

だがこの戦いの決着に、時間は十秒も必要ない。

左右に開いたその胴体に、無数の刃を展開。
そして――今度はトラバサミのように前方へ向けて閉じる。
その攻撃には伏見も大鳳も、まとめて押し潰せるだけの威力があった。

【前方向に長くて刃の密度が濃いトラバサミ的な】

29 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/04/15(水) 22:21:04.27 0
高い金属音が響いた。
顔を上げれば、しゃがみ込む敵性怪人、よろめく新免と全裸で跳躍する流川。どんな画ヅラだ。
先程の音は恐らく新免が攻撃を受け、特性を用いて防御したのだろうが……それだけではあんな音は立たない。
見れば敵性怪人の背には触手。肉体変化を用いているのは明白、先程の音も体を硬化させていたのだろう。
柔軟な触手の生成に硬度を高める肉体変化、更に触手は床を貫いている。肉体変化に加えて肉体強化もか?
流川の追撃を片手で押し返して凌いだことからもそのパワーが伺える。……しかし、それだけにリソースも大きい筈だ。
触手、硬質化、パワー。あらかた手札を見せてもらったと思っていいだろう。

>「……んー?ていうかお前ら、共生派じゃねーの?ウチの商品、ボコってくれちゃってるけどー」

「当てたのはコイツだ。人聞きの悪いことを言うなよ」

足下で意識を失っている敵性怪人をつま先で小突きながら言い返す。
硬質化も触手も、戦闘職の肉体変化としてはポピュラーだ。故にこちらには経験値がある。戦う上で対策もある。
しかし、ありふれているのはそれが単純に優秀だからだ。怪人戦闘に於いてAに対しては必ずA′で良いなどという思い込みは即、死に繋がる。
……考えを組み立てていたら新免がまたヒートアップしていたが、テンションの上下が激し過ぎていつか血管切れるんじゃないだろうか。

>「……出し惜しみしてる場合じゃねーかなー」

敵性怪人の姿が変化、肉々しかった身体が一気に萎む。肉体変化で格闘がダメそうな姿に偽装していた、というわけでは無い筈だ。
その程度の小細工にリソースを割くタイプなら、初っ端から触手のような露骨な肉体変化は用いてこないだろう。
一体どういうものかは分からないが、しかし口振りからしてこれが奴の戦闘形態なのだ。
油断は――――。

>「とりあえずー」

……していられない。触手が床を舐めるようにして向かってくる。
触手という奴は鞭や鎖分銅と違い、全ての部位が攻撃の起点となり得る。一撃を避けてもリーチの内側にいる限りは追撃から逃れるのは難しい。
敵を捕縛したり盾にしたりと単純な打撃以外の使い方も豊富なマルチウェポンだ。羨ましい。

「ッ、ぐ……!」

そんな優れた武器がこちらに届く前に逃げてやろうと思ったが、想定以上に早い。一歩出遅れ、無傷は諦める羽目になった。
右手でどうにかしのぎながら背後へ跳び、上縁へ左手をかけて黒板に着地する。
右手は折れてこそいないと思うが、感覚をかき消すような痺れが残る。暫くは禄に使い物にならないだろう。

「弛んでんな……」

人数の利や、一人目を確保したことで気が緩んだか。敵が動くのを待って対処しようなど、驕りにも程がある。
自分のような怪人は、何時だって先を取り攻め続けなければならないのだ。

30 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/04/15(水) 22:21:34.78 0
触手の追撃が来るよりも早く、向路は更に跳ぶ。黒板を蹴り、天井へ向かう。

「ッぉおォオオ!」

黒板から天井への疑似三角跳びの終着点は敵怪人の頭上だ。如何に硬化能力を使用していても、内臓まで硬化することは少ない。
つまり、内部まで衝撃を通せばダメージは通る。新免に使った寸勁はこういう相手に相対したときのための技だが、今回は姿勢も姿勢なので使えない。
代わりに跳躍の勢いと重力を併せた変形ローリングソバットのようなものを浴びせる……ことが出来たら想定以上になる。
ここまでの派手なムーヴはあくまで敵を此方に注目させるためだ。触手で迎撃するにも一度視界から外れれば目で追わざるを得ない。
こちらに対応する手を尽くさせれば、それだけ流川と新免が動きやすい筈だ。
二人に勝手に期待を寄せて、向路は敵性怪人目指して天井を蹴った。

【変形三角跳びからの変形ローリングソバットに持ち込む動き。
 変則攻撃で敵を釣って囮になりたい。
 タイミング的には新免とエンジが痛み分けになった後?】

31 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/04/19(日) 05:51:46.63 0
>「あ……ら……?」
大鳳の指弾を顔面に受けた鍵山が、咄嗟に後ろに下がるのと同時に
自身も体勢を立て直す為に後ろに下がる。

>「へぇー指弾とかできたんだぁ」
>「やぁねえ……読み違えちゃったかしらん……アナタ、そういう事するタイプじゃないと思ったんだけど……」
想定外の事態に流石の鍵山も動揺を隠せなかったらしいが、同時に伏見も同じように驚いていた。
「趣味は実益に繋がる、常識ですわ。って凶華さんまでなぜそんな驚いてますの!!」
(ここまで効果覿面だとは、思いませんでしたが……やってみるものでしたわね
面白半分にトレーニングしていた甲斐がありましたわ)

大鳳自身は無自覚ではあるが彼女には怪人特性とは別に元々模倣の才能があった。
それはもっぱら趣味である創作物の技術再現にて発揮されることに留まっていたが
趣味によって研ぎ澄まされたその才能は一度見た技ですら6割程度の完成度で身に付けることができるよう昇華されていったのだ。
これは大鳳の能力が全身を強化できることにも起因しており
事実上肉体強化を主軸に置いたタイプの怪人の技術を盗用できることを意味している。
とはいえ、それは体の極一部にリソースを注いだことを前提とした技術群であり
大鳳がどんなに訓練したところで完成度は8割に届くかどうかの代物だ。
だがそれでも不意を突く為だというのであれば充分だった。

「ですが、これで形勢逆転ですわ!」
無論、まだまだ予断を許さない状況であることは明白だ。
だが声を出すことが重要なのだ。相手を怯ませ味方を鼓舞する効果というのは案外馬鹿にできるものでない。

>「何か目的があるんじゃない……?私で良ければ、協力するから……ね?悪い話じゃない筈でしょん?」
「お断りしますわ!!」
伏見が大鳳に視線を向けたのとほぼ同時に彼女は即答した。鍵山が繋がれた少女にした所業を考えれば、当然の結果だ。
そして、それに呼応してかそうでないのか、鍵山は作り出し攻防一体の、触れるもの全てを刻むかのような刃の網を二人に差し向ける。
>「アレ、下手に触んないほうがいいかもね。ところてんになりたいなら構わないけど」
「生憎とそういう趣味はございませんわよ!!」
伏見にツッコミを入れている間にも、必殺の一撃は迫り来る。
それをどうするか考えている余裕はゼロに等しかった。だがその時――――

>「つーわけで牽制は私がやるからアンタはアドリブで決めちゃってよ」
その言葉を聞き終える前に、伏見は無数の刃へと突貫し、その刃へと身体を絡め鍵山へと刃を突き立てようとしていた。
「な、なんつー力技……!!っと」
ぼやいている暇はない。彼女が不死身とはいえその身を挺して作り出したチャンスをみすみす逃すことなど天が許しても大鳳は許せない。
>「ん、もう!最悪!」
伏見の捨て身の一撃に対し、鍵山は胴体を左右に開き、その胴体に無数の刃を作り出し前方へと向ける。
あれだけ身体を大胆に開いてしまえば、それこそ生死に関わるだろう。大鳳は鍵山のそれが決死の手段だと瞬時に悟った。
(そういう選択をされると、燃えてきますわ!!)

32 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/04/19(日) 05:56:53.97 0
「やってやるしかないですわね!!」
凶華が押さえている刃の網の横を抜け、大鳳は鍵山を狙い接近を仕掛ける。
それに対応するかのように鍵山の胴体は広がっていく。
彼の射程圏内に大鳳の身体が入った途端に成人女性のひき肉が完成することは明確だ。
大鳳は姿勢を地を這うように極限まで低くして開かれた胴体の丁度真下辺りへと移動、
その過程で自らのドレスのスカートを破っていた。
(足まで開かれたアウトですが、そんな余裕が無いことを信じますわ!!)
そして破かれ一枚の布となったそれを手首のスナップを効かせ彼の開かれた胴体の下から顔目掛け投げ入れた。
それは顔に到達する前にぶわりと広がり、さながら目隠しのような役割を果たすだろう。
なにより大鳳のドレスは鮮烈と呼べるほどに紅く、人の目を引きつけるのには充分すぎる役割を果たす。
そんな物が突然目の前に広がれば、人は咄嗟に防御的な行動をしてしまう。
今の鍵山にとっての防御とは何か、首を後方へと下げることか。
だがあの形態が半ば命をかなぐり捨てるような状態であるというのなら
今の彼にとって一番とるべき防御行動とは何か、それは胴体を閉じることである。
生命を維持しようと元に戻ろうとする本能も相まり先ほどよりも早く閉じる可能性は高い。
―――だから、閉じさせてやれば良い。
生命の危機から脱する瞬間というのは本人の意志とは無自覚に気が緩んでしまうものだ。
あわや自殺寸前のこの状況からすぐにでも胴体を閉じたいと思っているのであればそれはなおさらだ。
たとえ目の前に敵が残っていようと、一瞬の隙は生まれるだろう。

>「私だって死にたくないものねん……!」
先ほど彼はこう言った。そう、鍵山は死にたくないのだ。相手も道連れに自分も死ぬような覚悟であれば、胴体をそのままにギリギリまで機会を伺うだろう。
だが、彼は生きたい。
だからこそ無駄に時間を取られればそれだけで死が決定づけられている今なら、鍵山は確実に胴体を閉じる。

そうして胴体を閉じた後に生じるコンマ一秒の安堵の瞬間に大鳳は全力の蹴りを叩き込む。
(相手が命を懸けているならこちらも懸けるというもの!!ミスって死ぬのくらい、上等ですわ!!!)
【胴体が閉じた瞬間に合わせるように鍵山の頭部側面〜背面あたりに回し蹴り】

33 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/04/20(月) 00:46:50.83 0
攻撃を受け止められ、態勢を大きく崩したところに不意の加速で一撃。
市香の繰り出した鉄パイプでの打撃は、これ以上ないくらいに好条件で相手の頭上に叩きこまれた。
誤算があるとすればそれは!

>「やったか!?」

「ちょっ!やめてくださいよそういうこと言うの!!」

余計なフラグを立てる同僚の存在である。
そしてそれを回収するかのように、パイプは敵の腕によって受け止められていた。

「……ほらぁ」

恨めしそうに市香は新免を一瞥したが、彼女とて本気で生存フラグを信じているわけじゃない。
渾身の一撃を防ぎ切られたのは、紛れも無く敵怪人の戦闘センスの賜物だ。

>「ぐぬぬぬぬ……っ、だぁ!」

こちらも負けじと蒸気加速を追加発注するが、それでも敵の膂力の方が上回った。
福島の港町で鎧の怪人を20mふっ飛ばし壁にめり込ませた市香の鉄パイプを、信じがたいことに真正面から受け切ったのだ。
敵はバックステップで距離をとる。市香も応じるように重心を退きながら着地――したところで新免に受け止められた。

>「……ふー、あっぶねーの。いやぁ、しかし……改めて見るとなかなか悪くない眺めだねー」

「なんならもっと見ますか?お代は高くつきますけど」

>「貴様ぁ!見てるんじゃない!!」

小太り怪人と市香の軽口の叩き合いに、新免だけが顔真っ赤で非難の声を挙げる。
彼はずいと市香と敵の間を割るように進み出ると、市香の頭に自分のソフト帽を乗せた。

「……って、なんの配慮ですかこれ!?」

全裸ソフト帽とか昭和のグラビアでもやらない過ぎる……。
頭隠して尻隠さずって言葉にエロ本業界以外で用途があったなんて知らなかった。
そうして新免というブラインドに隠されながら、市香は冷静に思考を回す機会を得た。
いま、敵怪人は向路と彼にノされた仲間を気にかけるような口ぶりで話しているが、その警戒は油断なくこちらに向いている。

(触手にリソースの多くを回した肉体変化型かと思えば、肉体強化もいけるご様子……)

肉体を高速で射出できるレベルの強力な触手と、蒸気加速を真っ向から叩き伏せられる身体能力。
これらを両立させている敵の特性は、在野の怪人に収まるポテンシャルを超えている。
よほど――隊長格並に鍛え上げているのか、それを可能とするだけの強力な体質を備えているのか。

>「……出し惜しみしてる場合じゃねーかなー」

この期に及んでまだ切ってないカードがあるらしい。
市香はげんなりしながら呟いた。

「……もうお腹いっぱいなんですけお」

おそらく自分の中にある何らかのスイッチを切り替えたのだろう。雰囲気に、そして外貌さえもに変化があった。
小太りだった体型が、その丸顔が、みるみるうちにスリムになったのだ。
そして引き換えるように、触手怪人の纏う雰囲気というか、存在感のようなものが膨れ上がった。
それはオーラとかそういうオカルト的なものではなく、単純な熱量の増加だったのだが、市香には知るよしもなく。
ただ間違いなくこの状況、あの相手がヤバイということだけはビシビシに伝わった。

「怖い……お腹痛くなってきた……帰りたい……」

34 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/04/20(月) 00:47:17.51 0
何度も言うが奇襲の初撃が失敗した時点で市香的には大敗北なのだ。
初見殺しに特化した加速パイプは一度見切られれば二発目は入らない。
鈍足で、貧弱で、センスもなく、おまけに全裸な市香には逃げまわることしかできない。
否、逃げて態勢を立てなおしてこそつかめるチャンスもあるはずだ。具体的には再奇襲とか。

だから逃げ出すという選択肢に市香はどちらかと言えば大賛成だ。
判断は速い方が良く、退路は有限で、撤退を決めるのに早計という言葉はない。

>「俺は、俺にしかなれない!だが、これが俺なんだ!この俺に、今俺ができることをやらせてくれ!!
 ・・・・・・変身!!」

――そしてそれと同じくらい、徹底抗戦にも賛成だった。
誰だって逃げ出すより戦って勝った方が良いには決まってる。
勝算があるなら、の話だが。

(そのあたりの計算できてますか?新免さん――)

自分という人間はともすれば損得勘定に走りがちで、頭の中に考えを抱え込んでしまって身動きが取れなくなってしまう。
思慮深いことは美徳だと思っているが、行動に移せなきゃどんな考えにも意味は無いとも感じている。
細かいことは良いから、まず走りだしてそれから舵をきったって良いだろう。
その最初の一歩を踏み出す役目を、新免は果たしてくれた。だから市香も言葉には出さず一歩踏み出す。

並び立つ市香の隣で、新免は自身の特性を解き放っていた。
鍛造能力によって形成されたのは、向路との内ゲバでまとった鋼の具足。
しかも今度は全身だ。四肢も、胴も、首から上すらも鈍色が覆い込む。
全身甲冑。しかし前時代的な意匠ではなく、特撮のレトロなヒーローのようなデザインだ。

あえてそうしているのだろう。
怯え、諦めた人間達に、立ち向かう力の証として纏った『偶像』。
新免は彼らのヒーローになるつもりなのだ。

>「とりあえずー」

対する触手怪人は再び行動を開始していた。
しかしその刃の向け先はこちらではなく、酒向とやらを制圧したばかりの向路。

>「ッ、ぐ……!」

掬い上げるような触手の一撃を回避しきれなかった向路は、勢いそのままに黒板の方へふっとばされた。

「向路さん!」

思わず悲鳴のように叫ぶが、他人の心配ばかりしている場合じゃない。

>「こっちから始末すっかな」

手早く向路を排除した触手男は、既にこちらに向けて舵を切っていた。
肉体強化型もかくやの速度で距離をつめてきている。

「ひぃぃぃこっち来た!来てますよ新免さん!!」

慌てふためく市香を尻目に新免は掌に何かを生成して触手男の進行方向へ向けてばら撒いた。
それは無数の鋼の球。市香の携行するベアリングよりも更に小さな真球である。
床に散った鋼球は、撒き菱のように敵の進行を阻害する。
不用意に踏んづければ滑って転ぶし、そうなればできた隙を逃す実働隊員じゃないからだ。

同時にもう片方の拳を新免が放つ。
両者が交錯した瞬間、市香の方にも触手男の掌底が伸びてきていた。

「っ!!」

35 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/04/20(月) 00:47:55.60 0
想像以上に伸びた掌が市香のこめかみを擦過して抜けていく。
あと数センチずれていれば片目を押し込まれ、眼底を砕かれていた。
そしてそれは新免にとっても、更には触手男にとってもそうだったらしい。
彼らもまたお互いに拳と掌底を交わし、虚空を穿ちぬいていた。
時間が停まったかのような静けさの中、最初に動いたのは市香だった。

「しつれい!」

裸足でのバックステップを敢行。
同時に新免の襟首を掴み、強引に下がらせた。

>「ッぉおォオオ!」

――天井を蹴って向路が飛び蹴りを触手男にぶちかましたからだ。

「散りますよ!」

固まっていれば先ほどのように一網打尽にされてしまう。
向路が帰ってきた以上、アタッカーを無闇に増やす必要はない。
市香は新免に別行動の意図を伝えて、彼のもとから疾走を開始した。

敵は向路と互角に渡り合う肉弾系怪人だ。
武具を生成できる新免がようやく入り込めるレベルの戦闘には、市香はついていけない。
だが、市香にもできることはあるはずだ。
向路や新免にはできない、市香だからこそやれることがあるはずなのだ。

(敵がどうして高レベルの強化と触手を両立できるのか、カラクリはわからないけど……。
 それがあの触手男ならではのものであるなら、同様にならではのデメリットがあるはず!)

それは生物が活動する上で切っては離せない代償。
強い力を何回も行使すれば、必ず大量に消費されるものがある。
カロリーと――酸素だ。

市香は触手男の背後へ回り込もうと動く中で、自分の肉体を静かに気化させていた。
色も臭気もない。湯気や蒸気が白く見えるのは、あれが本質的には気体ではなく冷やされ結露した『液体』だからだ。
地球上に存在する殆どの『気体』は、一部の例外を覗いて無色透明である。

流川市香を構成する肉体を怪人特性で気化させた場合も、同様の性質をとる。
そして肉体変化の応用で自由に空間に蓄積させられる市香の気体は、ほとんどの生物にとって猛毒となり得る。
酸素が含まれていないからだ。
生物が気化した市香を吸い込んだ場合、その量にもよるが酸欠を引き起こし、酷ければ失神する。

市香は部屋の空気中における『流川市香』の濃度を引き上げていった。押し出されるように酸素濃度が下がっていく。
何もせずに見ているだけの愛玩人間達や、走り回ってない新免にしてみればなんてことはない。
そして戦闘行動で心拍数の上がっている向路にしても、少しくらっとくる程度の異変だろう。
だが――

(いくつも強力な特性使って!たくさん酸素が必要なあなたには!鉢の中の金魚気分ですよ……!!)


【相転移により肉体を気化させ、周囲の酸素濃度を下げる。一番酸素を必要としてるヤツがぶっ倒れる程度に調整】

36 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/24(金) 04:06:13.89 0
>「やってやるしかないですわね!!」

(そうよ!やってやるわよ!アナタみたいな可愛い子、
 無惨に殺しちゃうのは勿体無いけど……私が死ぬよりは百万倍マシだものねん!)

鍵山は大鳳をしかと両眼で捉え、凝視する。
彼女の肉体強化は一級品だ。
確実に射程範囲に収め、回避不能な状態で胴体を閉じる必要があった。

(来るなら来なさい!アナタがどんなに早く動けようと、私の『開閉』はもっと速いわよん!)

全体重を動かす必要がある大鳳と、薄く伸ばした胴体を閉じるだけの鍵山。
より速く動けるのは後者だ。故に鍵山は勝利を確信し――だが大鳳は予想外の行動を取った。
ドレスの裾を大きく引きちぎり、その布切れを鍵山の視界を遮るように放り投げた。

一瞬、鍵山が大鳳を見失った。
ほんの一瞬だ。次の瞬間にはまた視界は開けている。
だが――鍵山には時間がなかった。
大鳳と伏見をまとめて押し潰し、再び胴体を開いて、元の形に閉じ直す必要がある。

鍵山の肉体強化は――視覚だけでなく聴覚も伸ばしてある。
対応力の高い体質を活かすべく、どんな状況でも異変を察知出来るようにだ。
しかし――視覚と聴覚、それぞれは決して高水準ではない。

音だけでは索敵は不完全――それでも鍵山は勝負に出た。

(分かるわよん!アナタ、この期に及んでフェイントかけるような人間じゃない!今度は見誤らないわ!
 アナタにとっての正解はこの隙に一旦引いて、殺人鬼ちゃんを見殺しにして、その後で仕掛けてくる事!
 だけど――アナタはそれを選ばない!馬鹿みたいな――最後の勝負に臨んでくる!)

影山は視線を目一杯下に向ける。
姿の全容は確認出来ずとも、脚は見える。

(そこ――!)

影山が渾身の肉体変化で胴体を閉じた。
鉄の扉が勢い良く閉ざされたかのような轟音と、骨と血の詰まった袋が潰れる音。
手応えは――確かにあった。
生やした刃が、頭部か、肩か腕か、急所でないどこかを抉るだけに終わった手応えが。

鍵山がその失敗を認識するよりも速く、影山の側頭部に強烈な衝撃が叩き込まれた。
鍛錬された肉体強化型の上段蹴り。
大鳳が加減をしていなければ――単純な硬化能力で耐えられるものではない。
首がすっ飛ぶか、頭が爆ぜるか、いずれにせよ即死だろう。

37 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/24(金) 04:08:28.18 0
「……なぁ、お二人さん。すんげー激闘の後で悪いんだけどさ。
 そろそろ五分、経つんじゃないかな。降ろしてくれよ、死んじまいそうだ」

鍵山との戦闘を終えた君達の頭上からか細い声が聞こえた。
吊るされた少女の声だ。鍵山に切断された脚の断面から、血が徐々に滴り落ちていた。
伏見の血液による効果が失われて、怪人特性が本来の物に戻ろうとしているのだ。

すぐに彼女を降ろして、ついでに床に落ちている脚の輪切りを適切な形でくっつければ、再生は間に合うだろう。
勿論、暫しの時間を要する事になるが。

「あのオカマ野郎が言ってたけど……アンタ達、ただの商品じゃないんだろ。
 ちょっとやそっとじゃ捕まりそうにないし。」

その間に二人はある程度の情報収集をする事が出来る。
脚の再生と不死の感染が終わった少女は、何やら頭部に兎の耳が生えつつある。
本来の体質、怪人特性によるものだ。
その耳が生え切れば彼女には最早この場に長居する理由はない。
あまり長々と話をする事は出来ないだろう。

38 :名無しになりきれ:2015/04/24(金) 04:08:52.69 0
さて、君達がこれから向かうべき場所は――実のところ、あんまりない。
商品として潜入した君達が得られる情報源は然程多くない。

「なぁ、アンタ達……鳥籠の……なんていうか、敵、なんだろ?
 私達のとこに来てくれないか?私達も、奴らをやっつけたいんだ」

少女の言葉は余りに浅慮なものだった。
が、君達がそれに付き合ってやるか。
それとも脱走を図ったものの、やはり諦めて戻ってきた商品として過ごすのかは自由だ。

ともあれ君達は少女の提案を受け入れたなら出口を目指す必要がある。
そして拒否したとしても、一度別れた後で「悪い、もう一度だけ助けてくれないか」と少女は戻ってくるだろう。

坑道の出口の前には、男が立っていた。
栗のように逆立った短髪に、おにぎりのような顔の輪郭。
上半身は裸で、下はタイツのように張ったジャージを履いた男が、一心不乱にスクワットをしていた。
一回一回に時間を掛け、しっかりと負荷を重視している。
汗の匂いが出入口前の広い詰め所に充満している。
上半身も常日頃から鍛えているようで、岩盤さながらの頑強な筋肉を誇っていた。

「おっ……やっと来たか……思ったより遅えな……まぁいいけど……ちょっと待ってろ……。
 九十七……九十八……九十九……」

男は君達を視界に捉えてもなお、スクワットを継続している。

「よし……千、と。とりあえずここで一区切りすっか。
 んで、えーと……どこまで話した?いや……まだなんも説明してねえか」

男は坑道の出口を塞いだまま語り出す。

「ま、簡単に言えばな。お前らはここに連れて来られたのは、お前らが『本物』か確かめる為なんだわ。
 こんな坑道一つ脱出出来ないで『超人』も『史上最悪の殺人鬼』もねえだろって事だな」

だが、と男は言葉を繋ぐ。

「マジに逃げられちまっちゃそれはそれで困る。分かるよな。だから俺がここにいる。
 俺がお前らの脱走を阻止して、ついでにお前らがマジに本物なのか念を入れて確かめるって訳だ」

男はゆっくりと重心を深く落とし、脇を閉めて両腕を顔の左右へ――総合格闘技の構えを取ろうとする。

「言っとくけどわりと本気でやるからな。『超人』つったら前から気になってた名前だ。
 ニセモン臭かったらぶっ殺すぞ。お前ら結構マジで絶体絶命だかんな。具体的には……」

とは言えその動きは緩慢で――脇をすり抜ける事は出来なくとも、不意を突くくらいは容易いように見える。
ただでさえ男はついさっきまで、本気で負荷をかけてスクワットに臨んでいたのだ。
咄嗟の対応力は落ちている。



『……その声、まさか『不動』か?』

不意に、二人の耳孔内の通信機から喝堂の声が聞こえた。

『大鳳。ソイツとまともにやり合うな。ソイツは俺でも手こずる相手だ。おい、聞こえてるか、大鳳』

喝堂の声色には極僅かにだが焦燥の色が滲んでいた。
しかし彼の警告が二人に届くのは――彼女達が動き出してしまった後だろう。


【情報収集ロールの結果は行動判定で差し込みます】

39 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/25(土) 21:56:23.38 0
二兎追うものは一兎をも得ず。これは至言だ。
勿論世の中には二つも三つも目的をこなせる者もいる。
だが、それは単にその者の実力に対してこなした『目的』が、兎に満たない程度の物だったに過ぎない。

高峰円治もまた流川と岩男を兎未満だと思っていた。

「あー、ミスったなーこれ。ケチったなーこれ。もうちょい使っとかなきゃだったかー」

円治の体質『高燃費』はまさしく諸刃の剣だ。
敗北を恐れて過剰な出力を発揮すればエネルギーの無駄遣いになってしまうし、
逆に消耗を恐れて必要な出力を確保出来なくても、やはりエネルギーを無駄にしてしまう。

「ま、ケチった挙句いいのをもらって大ピンチとかなるよりはマシかなー。
 どっちにしろ、お前のスペックじゃ次の一手は避けられないだろー」

一番厄介そうな向路は触手で弾き飛ばした。
エネルギーを追加消費しなくとも今の出力だけで、十分岩男を上回れる。
更に一歩踏み込み、両手で首を掴み、捩じ切る。彼我の実力差ならば余裕で実行出来る。

だが――またも円治は見誤った。今度は、向路の怪人特性を。

>「ッぉおォオオ!」

(っ、はぁ!?いやいや早すぎだろ!)

頭上から暴風の如き蹴りが迫る――円治が咄嗟に足を止めた。
だが間に合わない。向路の瞬発力は円治の想定を遥かに上回っていた。

「だぁークソ!結局『追加』かよ!こんくらいで……いや、ケチってる場合じゃねー!」

円治の頬が更に、一段二段と萎んだ。
追加で燃料を消費したのだ。

「っずおらぁ!」

円治は触手で床を刺し、全力で自分の体を横転させた。
確かに己の頬に触れ、皮膚を抉った向路の蹴り足が――それ以上深くめり込むよりも速く逃げ切ったのだ。
それほどの速度で回転していながら――着地とその後の体勢維持は完璧だ。

「いやぁ……今のは焦ったわ。お前、めちゃくちゃ速いのな」

再び距離の離れた向路と、その後ろの二人を見据える円治の容姿は大きく変化していた。
今や向路と比べても細身に見える。ついでに目もぱっちり開いていた。

「けど、分かっちまえばどうって事ねーんだよな。悪いけど」

円治は触手を体の前面に配置する。
構えは両手のひらと腕で三角形を作るように――空手における前羽の構えに似ている。
手は防御を重視し、触手による面制圧で完封するつもりだ。

「もう絶対、お前の土俵で勝負なんかしてやらねー……ぜー……?」

不意に円治がふらつき、足をもつれさせた。
先ほどの蹴りをもらっていたのかと思わず頬に手を触れる。
だがそんな訳はない。回避は完璧だった。それは円治本人が一番よく分かっている。

40 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/25(土) 21:56:59.31 0
ならば何故――よろめき、揺らいだ視線が、偶然にも流川を正面に捉えた。
そして円治は思い至る。あの女はいつの間に人間達の拘束から逃れ、ついでに全裸になったのか。
加えてその反応速度や跳躍からは想像出来ないほどの鉄パイプの威力。その根源は何なのか、と。
あの時は――噴射音が聞こえていた。

(ガスか!味方も巻き込んで展開するかよ普通!)

酸素含有量の低い気体を大きく吸い込んでしまった際――仮にそれを自覚しても呼吸を止める事は不可能だ。
血中酸素濃度が低下する事によって呼吸反射が起きてしまうからだ。
つまり不足した酸素を取り戻そうと、かえって酸欠状態を加速させてしまうのだ。

「これは……ちょっと……ヤバい……なー……」

円治は既に直立の姿勢を保てなくなっていた。
勢いを失った独楽のように倒れ込み――瞬間、彼の背から生えた触手が肥大化した。
最早筋肉は頼りにならない。だからこその判断だ。
意識一つで操作出来る、肉体変化の触手に余剰エネルギーのほぼ全てを注いだ。

そして――窓目掛けて全力で薙ぎ払う。
同時に抉り飛ばした窓枠の端に触手の先端を引っ掛け、自分の体をたぐり寄せた。

「ぶはぁ!はぁ……はっ……あー、死ぬかと思った……」

風通しの良くなった窓際で呼吸を整えて――円治は緩やかに立ち上がる。
彼は右手で、向路が傷めつけた愛玩人間の髪を掴んでいた。
体をたぐり寄せる際に確保したのだ。
その勢いに耐えられなかったのか、男の首はあらぬ方向へ曲がっている。

構わず触手が素早く男の腕を突き刺す。
そして円治はその腕を口元にまで吊し上げ、齧った。

彼の頬や体型が僅かに膨らみを取り戻した。
肉体強化によって消化吸収能力が向上しているからだ。

窓際への移動の為に肥大化させた触手は未だ健在で、強襲課員を牽制するように揺らいでいる。
とは言え――肥大した触手を動かし続けるには大量のエネルギーが必要だ。
故に円治はもう触手の維持にエネルギーを割いていない。
触手は徐々に縮小化しつつある。エネルギーをある程度回収しつつ、燃費を下げているのだ。
だがもう暫くの間は、足止めとしての機能を保持し続けるだろう。

「ふー、生き返った……おっと、そんな目で見んなよなー」

彼の食事風景に、少なくとも一人は嫌悪感を覚える者がいるだろう。

「なんつーかさー。お前が自分の事を人間の仲間と思えるのはさー……お前が人間と同じで弱いからだよ」

その視線に円治は言葉を返す。

「そりゃ俺にもさー。滅多に会えねーけど人間の友達くらいいるぜー。でも普通はそうじゃないだろー。
 だって奴ら、どう見たって怪人よりも下等じゃん。ペットだったり、経済動物だったりが妥当な線だろ。
 たまたま友達や家族みたいになれる奴もいるってだけでー」

触手が元の太さにまで萎み――それとほぼ同時に円治の食事も終わった。

「そう、犬みてーなもんだよなー。犬を友達だっていう奴はいてもさー。
 俺は犬の仲間だー。犬を大事にしない奴らは殺してやるー。だなんて言う人間は頭がおかしいだろ。なー?」

41 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/25(土) 21:57:30.61 0
死体は半分ほどが無くなり、体型は向路よりもやや太めの段階にまで戻っている。

「さて、改めてー……もうお前達の得意な事はぜーんぶ分かっちまったー。
 だから後はー……俺の得意な事だけしてりゃーいいって訳だー」

円治の背から細身の触手が更に二本生えた。
加えて足の裏には微細かつ鋭い棘が乱立。
触手の多用による重心の変動から起こる体勢の乱れを防ぐ為だ。

体質『高燃費』の得意な事。
強みとは即ち――極々単純に、真っ向から敵を上回れる事に他ならない。

細身の触手が向路に襲いかかる。
二本の速度は均一ではない。
まず一本目が下半身を薙ぐ。向路の瞬発力の前では回避されるのは想定内。
だからこその二本目の触手で、回避した直後の動きを刈るつもりだ。

残る一本は――岩男へと迫る。
目的は打撃ではない。捕縛である。
肉体強化に長けていない岩男では避け切れない速度だ。
そして捉えてしまえば、後は簡単だ。
全身の骨をへし折るように圧迫しながら触手を振り上げ、頭から床に叩き落とす。
岩男の防御力を知った上で、攻撃箇所を全身に散らせれば対応出来ないだろうという判断だ。

そして流川に対しては――単純に、恐ろしいほど速く接近し、手刀を放った。
振り下ろしの、流川の右腕を斬り落とす軌道だ。
人間達の拘束からの脱出、再加速する鉄パイプ、そしてガスによる攻撃。
流川の能力が気化――厳密にはそれだけではないが――である事は既に分かっている。
だが、だったら怪人特性を発揮する前に腕を切断してしまえばいい。
神経伝達を絶たれた腕が勝手に怪人特性を発揮するなどあり得ない事だ。
まずは右腕を斬り落とし、それを窓の外にでも捨ててから、次は左腕、と。
流川が絶命するまで部位を変えて同じ事を繰り返せばいい。

全ての動作をほぼ一瞬の内に行った円治の体型は再び痩せ細っている。
だが――彼は消費を気にしてはいない。
背後にはまだ食べ残しがあるし、それが尽きても『備蓄』はまだまだあるのだ。
牽制用の大触手生成と、消化吸収力の強化をするだけのエネルギーが残せていれば、何度でも補給は可能なのだ。



【→向路:隙を生じぬ二段構え
 →岩男:触手による捕獲からの強圧迫&ブレーンバスター
 →流川:超速チョップ】

42 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/04/26(日) 22:39:11.58 0
> 「しつれい!」
無我夢中で拳を突き出していた岩男は、その声と同時に襟首を引かれたことで我に返った。
そして間もなく向路の反撃が目の前で始まる。
>「ッぉおォオオ!」
> 「っずおらぁ!」
二人の応酬を、岩男は目で追うことができなかった。
目の前の二人と岩男とでは決定的に異なるポイントがある。
それは瞬発力、いわゆる体のバネの差である。
岩男は自分の拳に視線を落とした。
手応えは無かった。やはり回避されたのだ。
瞬発力、いわゆるバネの無い攻撃はこの男に刃がたたないのだ。

> 「散りますよ!」
「おう!」
流川が円治の背後に回ろうとするのに対して、岩男は円治の正面へ回ろうとした。
しかし、一瞬岩男はめまいを覚えて頭を抱えた。
触れてみると、こめかみ辺りの鉄面に凹みがあるのがわかる。
その瞬間を見ることはできなかったが、おそらく円治の攻撃によるものだろう。
一流ボクサーのパンチはかすっただけで相手をノックアウトすると何かの本で読んだ気がするが、
まさか自分がそれを経験することになろうとは思っていなかった。
しかし、ここでハッと岩男はある事に気づいた。
(これは・・・もしも俺が考えている通りだとしたら・・・わかったぞ!奴の弱点が!)

一瞬のめまいから回復した岩男は、なぜか円治も足をもつれさせてふらついているのが見えた。
もしかして自分をからかっているのかとも思ったが、
彼の後ろに、自分が流川の頭に乗せたソフト帽が落ちているのを見て事情がわかった。
流川は再び体をガスにしたに違いない。
ところで、なぜ流川が体をガスにすると円治が苦しむのか、学の無い岩男には理解できなかった。
岩男の脳内で、幽霊の格好をした流川が「うらめしや〜」と一生懸命に円治の首を締めているイメージが浮かぶ。
事情はどうあれ、今はきっとチャンスなのだ。このチャンスを活かさない手は無い。
岩男は左右それぞれの手に、流川が使っていたのとよく似た鉄パイプを鍛造した。
「流川君!これを使え!!」
岩男は両手に持っていた鉄パイプを流川の方、より正確に言えば円治の上を通りすぎる軌道で放り投げた。
流川モデルと違い、岩男モデルのそれは先端が薙刀状になっていた。
岩男はさきほど、ほとんど犯罪行為の流川が鉄パイプによる一閃で円治を苦戦させたところを見ている。
だから先に刃のついたこちらの方が有利で、しかも今度は二本であるから威力も二倍であると、
まるでバカバカしいほど単純にそう考えたのであった。

「はああああああああああああッッ!!」
鉄パイプを投げた岩男は続けて、自分がさきほどまいた鋼球に体をあずけるようにして円治の足元へ滑りこんで行く。
いわゆる、スライディングキックである。
スタンディングの向路が攻め、岩男が足元をすくい、最後に相転移した流川が上から襲いかかる。
それで決着がつくだろうと岩男は考えていた。
・・・この時までは。

43 :犬男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/04/26(日) 22:40:42.05 0
甘かった!
いくら岩男がバカでもスライディングキックで教室の壁に虚しくぶつかったならすぐさまそう悟るものである。
敵怪人円治はその触手を存分に働かせて窓際まで退避したのだ。
> 「ぶはぁ!はぁ……はっ……あー、死ぬかと思った……」
そう言ってあえぐ円治の右手が持つモノに、岩男の視線は釘付けにされる。
人間?一体、どうして!?
円治の触手がその男の腕を突き刺した時、最悪のイメージが岩男の脳裏を駆ける。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
岩男の絶叫も意に介さず、円治は男の腕を齧り、咀嚼していく。
それは、人が人に対して絶対にしてはいけない行為(タブー)の一つだ。
岩男は今すぐにでも円治に飛びかかって行きたかった。しかし、状況がそれを許さなかった。
全身が鋼で覆われていても隠せないほど、岩男は怒りに身を震わせる。
しかし今の岩男にできることは、円治が人間を貪る間に少しずつ後退し、備えることだけであった。

> 「ふー、生き返った……おっと、そんな目で見んなよなー」
「き…さ…まぁああああッッ!!」
岩男はいつの間にか教室の隅に待機していた。
仮面に隠されていても、その憤怒の形相が透けて見えるようだ。
「貴様のような奴は人間じゃないッッ!!この俺がぶっ倒してやる!!」
円治からすれば甚だしいほど滑稽だろうが、これが岩男の信条(心情)を如実に現すセリフであった。
> 「なんつーかさー。お前が自分の事を人間の仲間と思えるのはさー……お前が人間と同じで弱いからだよ」
「なんだとぉ!?」
岩男は売り言葉に買い言葉とばかりに応える。
> 「そりゃ俺にもさー。滅多に会えねーけど人間の友達くらいいるぜー。でも普通はそうじゃないだろー。
>  だって奴ら、どう見たって怪人よりも下等じゃん。ペットだったり、経済動物だったりが妥当な線だろ。
>  たまたま友達や家族みたいになれる奴もいるってだけでー」
「・・・・・・・・・」
岩男はその言葉に沈黙した。
> 「そう、犬みてーなもんだよなー。犬を友達だっていう奴はいてもさー。
>  俺は犬の仲間だー。犬を大事にしない奴らは殺してやるー。だなんて言う人間は頭がおかしいだろ。なー?」
「俺は・・・俺は・・・!
 ・・・・・・そうは思わない」
やや冷静さを取り戻した岩男が円治に語りはじめた。
「警察犬・・・というのは知っているか?
 人間よりも優れた嗅覚をもって麻薬を探したり、爆弾を見つけたり、
 犯人に立ち向かって倒すように訓練された犬達のことだ。」
そんな事は岩男に説明されるまでもないだろう。
「人間にとってもそうであるように、これは危険な仕事だ。
 毎年殉職する警察犬は後を絶たない。
 だから、勇敢に犯人に立ち向かう彼らと一緒に働ける事は名誉なことだと思っている。
 彼らは、俺達の大切な仲間だ」
岩男は円治の反応を確認した後、続けて言う。
「聞こえなかったのか?俺は犬の仲間だ!
 自分のモノサシだけで犬を弱いと決めつけるお前のような奴は、この俺が倒す!!」

44 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/04/26(日) 22:43:03.18 0
円治が食事によってその体型が太くなったのを見た岩男は、
まだ予想でしかないが円治の怪人特性がなんとなく見えてきた。
きっと奴は、食べれば食べるほど強くなる性質を持っているのだ。となると、他の人間達も危ない。
「何をしている!?見てなかったのか!?死にたくなかったら、ここから離れろ!!」
岩男は愛玩人間達にそう叫んだ。

ところで、岩男が教室の隅で待機していたのには3つの理由があった。
まずその1つは、教室の隅を背にしすることで
左右45°の範囲まで円治が襲いかかる方向を限定できることである。
円治のスピードで側面や背面から攻撃されてはどうしようもできない。
しかし、さきほど正面から襲ってきた円治に奇手を打ち、それでもまだ不利だったのだ。
だから岩男は円治が思いもよらないような攻撃をしなければならない。
そして、そのための準備はできていた。

人間を貪り、自分の体を作りなおしていたのは円治だけではない。
岩男もまた、自分の体を作りなおしていたのだ。
円治と向路にあって、岩男に無いモノ・・・それは体のバネである。
岩男は鋼に覆われた自分の体に巻きつけるように、文字通りバネを鍛造したのだ。
本当にバカみたいな、しかし決して体をはったギャグでやっているわけではない。
「こおおおおおおおおおおおおおおぉッッ・・・・!」
岩男は陸上競技の選手がクラウチングスタートの体勢を決めるように、
腰を落とし、足のバネにエネルギーを蓄積させた。
岩男が教室の隅で待機した、すなわち壁を背にして待機した理由の2つめがこれである。
「たあああッッ!!」
岩男は背面の壁を、足のバネに蓄積したエネルギーで蹴り飛ばした。
彼の体が文字通り弾けるように、円治に向かって襲いかかる・・・はずであった。

「ガッッ!?」
タイミングが悪かった。今まさに飛びかからんとした岩男は、
一手先を行っていた円治の触手に捕縛されたのだ。
岩男を拘束した触手が、彼の骨を圧迫し、砕かんとする。
「ぐああああッッ!!」
円治の判断は正しかった。どれだけ体を鋼で守っていても、
関節部分だけはフリーにしていなければ動くことがままならないという弱点をついたのだ。
いわばカニの関節をむしるようなものである。
このまま締め上げれば、岩男の骨はバラバラになる。
後は煮るなり焼くなり活殺自在であろう。
しかし仮面に隠れた岩男の顔は、まだ勝負を諦めていなかった。
「思ったとおり!やはり俺の体に直接触れて攻撃してきたな!!
 だが、そうしなければ攻撃できないことがお前の弱点だッッ!!」
そう叫んだ岩男の踵部分から、槍の穂先のようなものが勢い良く伸びた。
その狙いの先は、コンセントである。
そう、それが岩男が教室の隅で待機していた3つ目の理由だったのだ。
多少狙いがズレても、というより狙い自体が大雑把にしかつけれないのだが、
コンセントを壊す勢いで伸びた穂先はその役目を果たそうとするだろう。
すなわち、岩男の鋼の体に電気を通し、触手の先にいる円治本体を感電させることだ。

【鉄パイプ(岩男モデル)を鍛造して投擲。酸欠状態の円治にスライディングキックをしかけるが失敗。
 人間を食べる円治に激おこ。例え話に対して例え話で返す。
 教室の隅から体のバネを使って飛びかからんとするが失敗、触手に捕縛される。
 体に電気を流して感電させるためにコンセントに向けて槍を鍛造する】

45 : ◆PyxLODlk6. :2015/04/27(月) 05:20:57.66 0
【行動判定】

>「思ったとおり!やはり俺の体に直接触れて攻撃してきたな!!
  だが、そうしなければ攻撃できないことがお前の弱点だッッ!!」

岩男の自信ありげな宣言を円治は鼻で笑い、振り返ろうともしなかった。
岩男の怪人特性が触れた所で脅威になるものではない事は既に分かっているからだ。

故に円治は直後に襲い来る電流に対して、心身共に身構えがまるで出来ていなかった。
大抵のコンセントに適用される電流はおよそ15アンペア。
人間の場合ただちに感電死には至らず、むしろ小学生がシャープペンの芯を穴に挿して感電ごっこが出来る程度の電流だ。

だが、それでも痺れるものは痺れる。
ほんの、一秒にも満たないほどの僅かな時間だが、円治の動きが遅延した。
向路へ放った二段構えの触手も、流川を狙う手刀も。

しかし――あくまでも遅延だ。攻撃が中断される事はない。
つまり――岩男もそのまま床へと叩きつけられる事になる筈だ。



【追加のリアクション等希望する場合は構いません】

46 :名無しになりきれ:2015/04/27(月) 23:20:25.36 0
言うてまだ3〜4ターン目やろ
単純に伏見班より人数多いから回りが遅いだけで

47 :名無しになりきれ:2015/04/27(月) 23:20:49.86 0
誤爆や、すまんな

48 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/05/02(土) 21:53:47.82 0
 
「……ッチ」

天井を蹴った勢いそのままに床を踏み、軽く一歩分下がり体勢を整える。

(……避けたな、アイツ)

殆ど死角からの、まだ見せていなかった超瞬発を用いた攻撃を敵は認識してから避けた。
牽制のつもりで雄叫びまで上げて攻撃を意識させたとはいえ、殆ど無傷で避けられるとは、正直肝が冷える。
防御かカウンターを取らせて足を止めるつもりでいたので、まんまと逃げられたのは痛い。
天井を蹴り攻撃モーションを取ったところまででは、回避する余裕はなかったはずだ。
敵が殆ど一瞬で回避を行えるのならば、その戦闘力は喝堂に匹敵しかねない。だとすれば勝ち目はかなり薄いと言うことになる。

>「いやぁ……今のは焦ったわ。お前、めちゃくちゃ速いのな」

「どうも。避けられるとは思ってなかったから凹むよ全く」
(……いや、そんな手練れならこんなところで見回りなんかしてないだろ。
 なにか欠点があるんだ。……例えば、)

敵が先程よりも更に小さくなっていること、とか。
触手の素早く重い攻撃や硬質化、先程の回避、生半可な肉体強化ではないパワー。
これらを成り立たせ且つ同時に運用しているのはリソースをピンポイントに絞っている以外の理由がありそうだ。
理屈は分からないがどんどんと痩せていく様子から考えると、エネルギーの過剰燃焼ともいうべき消費と引き換えに高い能力を発揮するのが特性らしい。
それならばやりようがある。喝堂の言葉を借りるならば、百戦戦い抜けない奴だ、この敵は。
なればこそ、負けられない。

>「けど、分かっちまえばどうって事ねーんだよな。悪いけど」

「それはこっちの台詞だ。悪いけどな」

一呼吸、深く吐いて吸う。さあて行こ、う、ぉ?

>「もう絶対、お前の土俵で勝負なんかしてやらねー……ぜー……?」

目の前の敵が姿勢を崩すのと同時、視界がぐらりと揺れた。敵の隠されていた攻撃かと思ったが、それで敵の方が被害が大きいのは妙だ。
人間達が何か出来るとも思えない。更によくよく目をやればなにかされているのは敵と自分だけのようだ。
……流川か。目があった瞬間のリアクションからして、僕までこうなるのは予想外だったらしい。
主に激しい動作を行う敵と自分だけが苦しんでいて、流川がそれを引き起こした……恐らく気化した彼女を吸い込んで酸欠になった、とかそういう感じか。
不幸中の幸いか、相手よりこちらの方がまだ余裕はある。このままぶっ倒れる前にイニシアチブを取りに行く……つもりだった。

「え」

頭痛と目の眩みにクラクラしながら一歩踏み出したとき、景色が更に歪んだ。
急激に酸欠が進んだのではない。転がってきた鉄球を踏みつけてバランスを崩したのだ。
転びこそしなかったが、足は止まり、目線は円冶を外れた。明らかな隙を晒したのだ。
再び円冶の姿を視界に捉えたときには、既に状況を覆された後だった。
窓は割られ、新鮮な空気が教室へ流れ込んでくる。そして、円冶の手には……人間。

49 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/05/02(土) 21:55:42.08 0
  
> 「ふー、生き返った……おっと、そんな目で見んなよなー」

円冶が人間を貪る様を睨みながら、向路は呼吸をゆっくりと繰り返し体調を万全な状態へと近付けていく。
この目線は敵に警戒を途切れさせぬ為のブラフだ。せめてあの膨らんだ触手へエネルギーを回させて回復量をいくらかでも削りたい。
人間を殺められた挙げ句食べられていることに(自己)嫌悪は止まらないが、だからと言って無策に跳び掛かるのではバカと同じだ。
相手に回復されるのは非常に宜しくないが、先程のような無様を繰り返すわけにはいかない。
万全を期す。そして打ち倒す。

>「なんつーかさー。お前が自分の事を人間の仲間と思えるのはさー……お前が人間と同じで弱いからだよ」
>「なんだとぉ!?」

新免と円冶の掛け合いを聞き流しながら、拳をグッと握り込む。この時間で右腕の感覚もかなり戻ってきた。
要所を任せるには不安があるが、戦闘に支障を来す程ではなさそうだ。

>「何をしている!?見てなかったのか!?死にたくなかったら、ここから離れろ!!」

「……いや、大丈夫。部屋の隅で大人しくしててよ。
 アイツを片付ければ、食われる心配は無くなるでしょ」

精一杯言葉を選んで人間達に声をかける。
あくまで、彼らの身近に立ち彼らを思っているかのように、そして嘘になりえることは言わぬように。
新免も忘れたわけではないだろうが、彼らは一度敵対行動を取っているのだ。ここで外に出せば、『鳥籠』構成員を呼びに行く可能性だって0ではない。
ここに彼らを残すことで起こりうる損害と、彼らを逃がし新たな敵が現れるリスクを天秤に掛け、向路は前者の方がマシだと判断した。

50 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/05/02(土) 22:00:57.70 0
  
>「さて、改めてー…(略)…俺の得意な事だけしてりゃーいいって訳だー」

(二本?でもさっきより細いな。
 上が本命で下は誘導か?……まさか増えるとはなぁ)

円冶の更なる触手の生成に対して少々面食らったが、これは悪いことばかりではない。
敵はまだ補給できると考えて消費度外視の攻撃に出たのだろうが、本体に詰め込んだエネルギー総量は体型を見るに戦闘開始時よりも少ないように見える。
つまり、ガス欠が遠からず起きると言うこと……その時こそが最大の隙だ。

「っと……!」

浅く飛び上がり、横薙ぎに振るわれる触手に足の裏を叩かせると同時にこちらからも蹴り込み後方への推進力とする。
次いで来る二撃目を拳で弾き、ダッキングで抜ける……つもりでいたが眼前で動きが止まった。
原因はなんとなく思い当たる。支援局で羽音と共にやってくるあの音とよく似たものが聞こえたからだ。
目だけ動かして探ると触手に捕らわれた新免からなにやら棒が壁へと伸びている。また無謀な行動をするものだ。
……だが、今までで一番良い結果をくれた。

「新免、さっき犬の仲間とか何とか言ってたけど、敵の例え話に乗るなよ。
 ヒトはヒトだろ」

聞こえてるか分からないが新免へ声をかけながら向路は跳び……、触手ごと新免を真横から蹴り飛ばした。
少なくとも、頭から落ちるよりはダメージは小さいだろう。
そして、触手の先端に括られた殆ど鉄の塊に等しい新免を蹴り飛ばしたことで、円冶のバランスもただではすまない筈だ。
電流を受けて肉体のコントロールが狂った直後だ。足だけで踏みとどまることは出来ないだろう。
今までは触手で姿勢を制御していたが、この状態の太い触手ではそれを行えない。先程向路を狙っていた触手を用いるにも、このままの一本では細すぎる筈だ。

「もし人間を犬だとして話すなら、僕らも犬さ。
 所詮生まれながらの才能なんて精々犬種の違いくらいだろ。僕らは狼どころかハイエナですらない、ただの犬だ」

この辺り、向路の少年期が思考形成に関わっているのだが今話すのは止めておこう。
言葉を続けながら、向路は新免を蹴った勢いを使い床へ。そこから再び跳躍し、流川へと腕を振り上げる円冶の背後へ回った。
恐らく、敵は流川を見くびっているだろう。流川の攻撃は一度凌いでいるし、触手を使わず直接本体が出向いたのがそれを示している。
だから向路が背後に回ったとなればこちらへと振り返る筈だ。こちらの速さを知っているからこそ、闇雲な攻撃でみすみす隙を見せはしないと思われる。
そこを流川が叩くことが出来れば良し、出来なければこのまま相手がガス欠になるまでインファイトに興じよう。
もし流川への処理を優先するのならば、このまま背後から渾身の寸勁を叩き込み、エネルギー補給の要である内蔵を破壊するつもりだ。

「やるぞ流川ァ!」

ついでにブラフも忘れない。
正直流川の特性については詳しくないし何も考えてはいないのだが、そんなことを敵が知るまい。
さあ、一瞬でも迷ってみせてくれ。

【人間に待機を指示。
 新免を救出?
 流川を使って円冶を挟み撃ちへ。
 触手は放置気味】

51 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/10(日) 15:14:01.52 0
>「これは……ちょっと……ヤバい……なー……」

酸欠を誘発する『市香ガス』にまかれた触手男――円治が膝を折った。
チャンス!瞬時に目配せした新免が、己の特性を解放する。

>「流川君!これを使え!!」

鍛造能力によって造り上げられた二本目の刃付き鉄パイプ。
手数を増やすのは単純に吉だ。敵には両腕と触手しかない、波状攻撃で飽和させれば、貫ける!

「行きますよ、新免さん!!」

市香の鉄パイプが加速し、新免が床を滑るようにして足払う。
タイミングはばっちり同時であった。しかし。

「!!」

円治の触手が伸びたのは市香でも新免でもなく、明後日の方向――教室の窓際だった。
強靭な筋肉の塊が窓硝子を吹き飛ばし、えぐれた窓枠に引っ掛け、円治本体を牽引する。
そうしてまんまと戦闘領域から離脱した触手男は、新鮮な空気を吸いながら一つ土産を所持していた。
人間の死体。囲われていた愛玩人間の一人である。

>「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

意図に気づいた新免が絶叫する、その声が全てを上書きしたにも関わらず。
円治が死体に齧りつくその水音や咀嚼音まで明確に市香の耳に届いた。
生理的嫌悪を押して追撃をかけようとするが、敵もさるもの、触手を巧みに使ってこちらを牽制している。
そして、犠牲者の実に半分が食い散らかされるまで、市香達にはどうすることもできなかった。

>「ふー、生き返った……おっと、そんな目で見んなよなー」
>「き…さ…まぁああああッッ!!」

消費したエネルギーを補給した円治が余裕の表情で語る。
それが新免の怒りに火を注ぎ、立場だけでなく彼らの間に横たわる価値観の溝もまた明確となった。
市香も同意見だった。もちろん――新免の方にだ。

人間と犬、怪人と常人の差が似たものだと市香は考えない。
それは人道にもとるとかそういうんじゃなくて、単純に生み出す経済効果の違いが大きいからだ。

犬は、どれだけ高級な犬種であっても所詮犬畜生だ。高くとも云十万、云百万して、それだけだ。
だが人間は違う。例えば芸術に秀でた人間は、自分自身の値段以上に価値のあるものを生み出すことがある。
手先が器用であれば工芸を、頭脳が明晰であれば研究や政治を、容姿が魅力的であれば芸能を。
ただの人身売買じゃ得られない様々な利益の可能性を、人間は秘めている。
だから市香は自分と常人とは別の生き物だと認識しているが、彼らに対等な敬意を払っている。

>「聞こえなかったのか?俺は犬の仲間だ!自分のモノサシだけで犬を弱いと決めつけるお前のような奴は、この俺が倒す!!」

「まぁ色々と言いたいことはあるんですけど……貴方を倒すという点においては、わたし達全員同じ気持ちですよ」

市香は両腕にそれぞれ鉄パイプを掲げ、太鼓のバチのように構える。
付け焼き刃の二天一流。片腕で扱うには重い武器だが、蒸気のパワーを借りれば振り回すのに難はない。
あとは、自分がその双刃の繰りをどこまで制御できるかだ。

「初撃は合わせます、あとは流れで!」

新免が深く腰をかがめると同時、市香は円治の左舷に向けて駆け出した。
向路も、新免も、円治からは距離がある。なにかやるとすれば接近してその勢いでワザを繰り出すはずだ。
であれば市香がすべきは、敵の注意を正面から逸し、味方の攻撃時に側面から同時攻撃を浴びせること。
集団攻撃の基本原則――クロスファイアだ。

52 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/10(日) 15:14:32.76 0
>「こおおおおおおおおおおおおおおぉッッ・・・・!」

新免が咆哮。その裂帛の気炎を追い風にして、鋼の四肢が跳躍する。
向路との小競り合いの時とは比べ物にならない速力、単なる肉体強化ではない。仕込みがある。
迎撃するように円治が触手を伸ばす。チャンスだ。こちらも跳びかかり、波状攻撃を狙う――

「!!」

市香は必死にブレーキを掛けざるを得なかった。
円治は触手を伸ばしながら、更に自らの足で疾走したのだ。
その脚力は肉体強化の加護を得て、市香を遥かに上回るスピードで――市香へと肉迫する!
これだ。これが怪人円治の強み、強力な触手を展開しつつ、自身も強化して動き回れる、まさに自走砲台!

「やば」

己の失策に気づいた時には既に、円治の手刀が上から降ってくるところであった。
唐竹割りの軌道は、真っ直ぐに市香をぶった斬るコース!
咄嗟に盾になるよう掲げた刃つきの鉄パイプは、刃の根本の部分からあっけなくひしゃげ、剪断された。
このパイプは新免が鍛造したもの。市香は自分の肉体として認識することができず、よって硬度も形状も変えられない!
パイプを砕いた手刀はまったく勢いを減衰させないまま、市香の右腕を同じように切断せんと打ち降ろされる――

>「思ったとおり!やはり俺の体に直接触れて攻撃してきたな!!だが、そうしなければ攻撃できないことがお前の弱点だッッ!!」

刹那、ほんの一瞬だが、円治の動きが停止した。
同時に耳をつんざくような、あるいは揚げ物を作るときのような大気を叩く音。
抵抗の大きい物体を電気が無理やり押し通る、感電音だ。

「新免さん!?」

なぜ彼が放電を?新免の特性は鋼を生み出す鍛造能力のはず――
だが今はそんなことを詮索している場合じゃない。
わずかな時間停止した円治の手刀も、やがて時は動き出す。無慈悲なギロチンが動作を再開する。
市香の身体能力では、そんな寸毫にも満たない時間でそこから脱出することなど不可能だった。

「ああああああッ!!」

悲痛な悲鳴が口から自然にこぼれ出た。
鮮血と共に宙に舞ったのは、市香の二の腕から先。切断された右腕だ。
そして市香本体もまた、切断の衝撃でふっとばされ、切り口から夥しい血液を流しながら床を転がった。

「あっ……つぅ――」

床に右腕の落ちる水音めいた音。握っていたパイプの刃部分が床を滑る金属音。
市香はすぐに立ち上がるが、バランスを崩し――地面につく手がなくてそのままべちゃりと転倒した。
その隙を見逃す円治ではない。追撃の手刀が今度は市香の首を落とさんと迫る!

>「新免、さっき犬の仲間とか何とか言ってたけど、敵の例え話に乗るなよ。ヒトはヒトだろ」

だが、円治が市香に止めを刺すことは叶わなかった。
展開された触手を掻い潜って肉迫した向路が、新免を蹴り飛ばし――触手経由で繋がっていた円治を崩したのだ。
大きく上体を逸らされた円治の手刀は空を切り、その隙に今度こそ市香は殺傷圏からの脱出を成功させた。
パイプを杖にして、震える足で立ち上がる。
止血もままならない右肩からは、今も粘り気のある暗い色の血が細い糸のように流出し続けている。

>「もし人間を犬だとして話すなら、僕らも犬さ。
 所詮生まれながらの才能なんて精々犬種の違いくらいだろ。僕らは狼どころかハイエナですらない、ただの犬だ」

流川市香は人間を仲間だと唱える新免とも、人間も怪人も同じヒトだと言う向路とも、異なる考えをもつ者だ。
人間は怪人とは別の生き物だし、人間は怪人より弱いし、人間は怪人と同じようには生きていけないと思っている。
だが――それは怪人が人間をないがしろにして良い理由には……人道を無視して食い物にして良い理由にはならないはずだ!

53 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/10(日) 15:15:47.19 0
「『鳥籠』の売人さん。あなたは学校に行ったことがありますか?電車に乗ったことは?ゲームをやったことは?
 着ている服も!美味しいご飯も!住み良い街も!便利な機械も!
 ――全部人間サマが作ったものじゃないですか。人間が人間の為に作ったものじゃないですか」

敵地のど真ん中で、人間に裏切られて、片腕ふっとばされて、それでも市香は言ってのける。
残った左手で構えた鉄パイプを、真っ直ぐ円治に突きつけて言う。

「チャチな怪人特性一つで神様でも気取ってるんですか?服を着て、ご飯食べてるのに。
 今まで散々人間面してきたくせに今さら棚に上げるんじゃあないですよ」

市香は人間に敬意を払っている。
彼女は人間の学校で、義務教育の恩恵を受けながら育ってきた。
こうして危険ながらも定職に就けているのだって、人間達が怪人の市香にもちゃんと教育を施してくれたからだ。

市香だけじゃない。怪人は、怪人だけでは生きていけない。
選ばれた新人類なんて戯言を抜かす奴もいるが、いわば怪人なんてのは人間社会に紛れ込んだ寄生虫だ。
人間でもないくせに人間の作った飯を喰い、人間の社会保障に寄り添ってその存在を認められている。
支援局が『愛玩人間』なんて怪人側にはなんの被害もない案件に出動しているのだって、支援局が人間社会の一部だからだ。

「そうして弱いと軽んじてきた人間のために、いまからあなたはぶっ倒されます。
 人間を食い物にしたばっかりに、人間と仲良くしたいわたし達に、ぶっ倒されるんです」

新免を援護した向路が超瞬発で円治の後ろに回る。
挟み撃ちの状況で、市香に出来ることはただ一つだ。

>「やるぞ流川ァ!」
「アイサー、向路班長!!」

隻腕で鉄パイプを振り上げる。
大上段から打ち下ろすような一撃に、蒸気加速のパワーをコレでもかと注ぎこむ!

「るぅぅぅぅぅぅああああああああ!!!!」

――もちろんブラフだ。
三人を一気に相手にできる円治相手に、肉弾タイプでない市香を混ぜた編成で太刀打ち出来るとは思わない。
事実として向路と共に戦えば穴になるのは市香の方だ。
円治の実力なら、向路を抑えこみつつ市香を一瞬で仕留めてタイマンに持ち込むことも可能だろう。
そこへ新免が飛びかかったとしても、三人では結局同じことだ。

ならば、『もう一手』そこに上乗せする。それも、視覚外から予想もつかない不意の一撃をだ。

市香の切断された右肩からは、今も出血が糸のように流れ出ている。
その血の『糸』は、床に血溜まりをつくり、さらにその血だまりは床に転がった右腕へと続いている。
『血液』を通して、市香の右腕は繋がっている。

先刻の手刀の攻防、新免がつくったわずかな隙に、市香は逃げることができなかった。
それは身体全部を飛び退かせるのには時間が足りなかったということであり――『一部』を逃がすことは出来たのだ。
円治の手刀が右腕を断ち切る一瞬前。市香は二の腕を液状化させ、蒸気加速によって右腕を発射した。

そう!市香は右腕を自切していたのだ!
液状化した肉体によって有線接続されたまま吹っ飛んだ右腕は、いま円治の足元に転がっている。
そのすぐ傍には刃の基部で叩き折られたメイドイン岩男の薙刀パイプ。
形状変化の応用で神経の通った右腕は、市香の意思通り蠢き、床上でパイプを握りこんだ。

柄を失った薙刀パイプは、つまりは蒸気加速機能のついた短刀にほかならない。
左腕での大上段を打ち下ろすと同時、市香は右腕のパイプも加速させた。ロケットの如く刃を握った右腕が射出される!
上からの大振りの一撃と、下からの伏兵の一撃。
天地から挟み込むあぎとの如く、市香は都合二撃を叩き込んだ。

【右腕欠損。向路との挟み撃ちに応じ、大上段から攻撃すると同時に自切した右腕でも加速攻撃】

54 : ◆PyxLODlk6. :2015/05/15(金) 02:09:35.45 0
感電による動作の遅延は一瞬だった。

流川と岩男にとって、一瞬はただの一瞬だ。
瞬きするほどの時間で――その間に出来る事など殆ど無い。
だが円治ならば、高度な肉体強化を修めた怪人ならば――その一瞬の間に怪人を殺す事が出来る。

>「ああああああッ!!」

「はい、まず一人目ー」

しかし――感電によって遅れたものは、動作だけではない。
もう一つ、思考力にも遅延が生じていた。
彼は半ば反射的に、直前に取っていた行動を敢行する事しか考えられなかった。

向路もまた自分と同じく、一瞬で怪人を殺められる怪人である事を、考慮出来なかった。

岩男を床に投げ落とすはずだった触手に衝撃が走る。
大きな重心の動きが生じ、足裏の棘だけでは体勢が維持出来ない。円治がよろめく。
触手が掴んでいた岩男を咄嗟に放棄するが、既に遅い。
流川は己の殺傷圏内から離脱している。

>「新免、さっき犬の仲間とか何とか言ってたけど、敵の例え話に乗るなよ。ヒトはヒトだろ」

「……おっと、まーたやっちまった」

もしも向路が後味の悪さや、仲間意識――円治には知り得ぬ事だが、今後の任務への支障、
そういったものを考慮していなければ、彼には十分に自分を殺す時間があった。
心臓が己の浅慮に抗議を上げるように暴れる。

肉体強化によって平均的に、かつ極めて高水準に強化された感覚が、背後の向路の存在を感知する。
だが、まだ仕掛けては来ない。仲間とタイミングをあわせるつもりなのだろうか――円治はそう予測する。

「こりゃあ……参ったなー。これ、良くない位置取りだよなー」

余裕の態度を保ちながらも――内心、円治は焦燥していた。
今の一瞬で誰一人殺害出来なかったのは誤算だった。
流川達は補給を妨害しながらも、まだ二人の人員を戦闘に割く事が出来る。

>「『鳥籠』の売人さん。あなたは学校に行ったことがありますか?電車に乗ったことは?ゲームをやったことは?
  着ている服も!美味しいご飯も!住み良い街も!便利な機械も!
  ――全部人間サマが作ったものじゃないですか。人間が人間の為に作ったものじゃないですか」

不意に、流川が言葉を発した。

「んー?まぁ、そうだなー」

時間稼ぎと言った口調ではない。
そして空白の時間が生じるのは円治にとっても悪い事ではなかった。
彼は生成した触手を縮小する事で――自食作用によってエネルギーをリサイクル出来る。
故に何気ない声色で、円治は流川の言葉に応じた。

>「チャチな怪人特性一つで神様でも気取ってるんですか?服を着て、ご飯食べてるのに。
  今まで散々人間面してきたくせに今さら棚に上げるんじゃあないですよ」

だが思っていたよりも、流川は踏み込んできた。
感情を露わにして――意志と敵意を剥き出しにしている。

55 : ◆PyxLODlk6. :2015/05/15(金) 02:10:23.09 0
>「そうして弱いと軽んじてきた人間のために、いまからあなたはぶっ倒されます。
  人間を食い物にしたばっかりに、人間と仲良くしたいわたし達に、ぶっ倒されるんです」

「……ヒトが二本の足で歩けんのはさー。猿から進化したからだろー。
 動物が目を持ってんのは、大昔のクラゲがなんかすげー進化したからなんだってなー。
 お前、猿やクラゲを敬ってんのかー?んな訳ねーよなー。世の中だってその内、怪人由来の素材ばっかになるぜー」

円治も応じるように言葉を紡いだ。

「……俺には理解出来ねーよ。人間を仲間だとか、同じだとか」

触手の見た目は変化させず、中身を虫食いにするようにして行っていたエネルギーの回収が終わった。
これ以上の会話は、無意味だ。

「まー、なんだ……来いよ」

>「やるぞ流川ァ!」
>「アイサー、向路班長!!」

流川が動いた。
背後の向路が同時に仕掛けて来る。
円治は――振り返らない。

(言ったろー。もう俺の得意な事だけしてりゃいいってよー。お前の得意な事なんか、させてやらねー)

円治の背から生えた三本の、エネルギーを回収した後の抜け殻のような触手が根本から千切れる。
代わりに新たな、鋭利で短い触手が何本も飛び出した。
攻撃の為に接近せざるを得ない向路が飛び込む先に、待ち受けるように。

>「るぅぅぅぅぅぅああああああああ!!!!」

無論、向路は強い。
触手を躱し、その上で自分への攻撃を続行してくるだろう。
だが――それには少なくとも一瞬、時間がかかる。

(さーて、この一瞬だ。遅いぜ遅いぜー。その鉄パイプ、大きく弧を描かなきゃ振り回せないのは弱点だよなー)

円治の視線が鉄パイプの根本、流川の左手を捉える。
初撃を受けた時は、体勢が崩れていた。
今度は受け止める必要すらない。鉄パイプを保持する左手を手刀で斬り落とす。
そのまま距離を詰め――首を握り潰す。一瞬で、脳と胴体の接続が絶たれるように。

手刀は狙いを過たず流川の左手に迫り――しかし不意に、体から力が抜けた。
同時に感じる、腹部からの熱。

「あ?」

次の瞬間には、流川の鉄パイプが円治の右腕の根本にめり込んでいた。
その慣性に対して踏み止まれず、円治が吹っ飛ぶ。

窓辺の柱に叩きつけられた円治は自分の下腹部を見た。
折れた薙刀の刃が深々と突き刺さっている。
その刃の根本に、流川の右腕と、血の糸が繋がっていた。

「っ……あぁ、そういう……」

咄嗟に左腕で血線を断った。
だが――向路を迎え撃つ為に生成した触手が柱に突き刺さっている。
即座に動き出す事が出来ない。
もっとも触手がなければ、柱に激突した衝撃で内臓により酷いダメージを受けていたが。

56 : ◆PyxLODlk6. :2015/05/15(金) 02:11:01.90 0
「あー……クソ、これは……ヤバい……なー」

体に力が入らない。
この状況で、補給も出来ず、三対一。
明確な死の予感が、円治の心臓を再び荒ぶらせた。

「クソ、クソ……死ぬかよ……」

円治が歯噛みする。
死を避ける為に、思考が肉体強化による効果を更に超えて加速する。

「……俺には……俺にも、人間の友達がいるんだ。だから……」

そうして口をついて出た言葉がそれだった。
彼の本能は、咄嗟に情状酌量を得る事を――命乞いを選んだ。

「っ、クソが……死にたくねえ……!」

そして同時に――彼の理性は、打算を、不意打ちを選んだ。
円治の体が痩せ細る。
殆ど骨と皮になるまで細く。

瞬間、窓の外に極細い無数の触手が現れた。
柱に突き刺さった触手を強化し、そのまま屋外にまで貫通させて、枝分かれさせたのだ。

触手群は肉体強化による高度な感覚の元に制御されている。
故に流川達を包囲し、また円治への道のりを阻むように、超高速で襲いかかった。
それは死角も弾切れもない、必殺の弾幕だ。

だが――その攻撃は、そう長くは続けられない。
円治は既に栄養失調死の寸前までエネルギーを消費している。
すぐに補給を行わなければ、彼は死んでしまうからだ。
その時間切れがいつ訪れるのかは――流川達にも、円治にも、分からない。


【槍衾】

57 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/05/19(火) 21:12:16.68 0
狙っていたコンセントからの電流攻撃は、しかし円治の行動を一瞬遅らせる程度しかできなかった。
彼の攻撃は継続されている。岩男、危うし!である。
そのピンチを救ったのは向路だった。
>「新免、さっき犬の仲間とか何とか言ってたけど、敵の例え話に乗るなよ。
> ヒトはヒトだろ」
そう言って岩男ごと触手を蹴り飛ばしたのだ。
「わかってますよ!例え話だってことくらい!俺だってそのつもりで・・・!」
直後に「ぐえっ!?」という悲鳴と一緒に岩男は地面に落下した。
円治がとっさに触手から岩男を開放したからだ。
岩男は今まで蓄積したダメージのせいもあり、しばらく目を回した。

我にかえった岩男が状況を見ると、向路と流川の二人が円治を挟み撃ちにしているところだった。
>「るぅぅぅぅぅぅああああああああ!!!!」
少し離れていた場所から見ていた岩男には、 流川本体が左腕で上から打ち込むのと時を同じくして、
流川の右手がまるでロケットパンチのように下から突きこんで行く様子がよく見えた。
「あれは二天一流・・・喝咄切先返し・・・!!」
流川の攻撃を見た岩男はとっさにそう叫んだ。
(技の詳細は本筋から離れるので割愛する)
無論それは人間の技なので流川のような事はできないが、
技のコンセプトとしては同一のものといって差し支えないだろう。
人間の技によって円治を打ち破ったのは、
少なくとも岩男にとっては意味のある行為だと思えた。

流川の一撃で窓辺の柱に叩きつけられた円治を見た岩男は、これで勝負がついたと思った。
ふと見ると、先ほど向路にのされた怪人が倒れている。
岩男は彼に近づいて、両手に手錠をかけた。
無論、手錠は岩男の能力で鍛造されたものである。
岩男は、のされた怪人の襟首を掴んで無理やり引っ立たせた。
「お前の罪状は障害!監禁!他にもいろいろあるんだろうが・・・
 全て喋ってもらうぞ!黙秘権は無しだ!」
おそらくそうしている間に向路と流川は円治に止めをさそうとしたのだろうか。
円治から命乞いらしき言葉が聞こえてくる。
>「……俺には……俺にも、人間の友達がいるんだ。だから……」
「勝手な事を言うな!お前が殺した人間にだって、友達がいたんだ!家族もいたんだ!
 それなのにお前はなんだ!恥ずかしいとは思わないのか!?」
とは言ったものの、岩男の本心には実は迷いがあった。
こうして実際に戦ってみて思ったが、円治は逃げようと思えば逃げれたのではないだろうか?
だが、円治は逃げなかった。
それはきっと、今自分が締めあげている仲間の怪人を見殺しにしないためではないか?
もしも立場が逆だったとしたら、例え多勢に無勢であっても、仲間を置いて逃げたりしないだろう。
岩男はここに来て向路から聞かされた言葉を思い出す。
向路は、もしも自分が鳥籠に先に誘われていたら彼らについていくかもしれないと言った。
円治がもしも鳥籠ではなく支援局に先に誘われていたらどうだったのか?
自分と円治、その二人にどれほどの違いがあったのか?

58 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/05/19(火) 21:13:07.21 0
多分に妄想を含んだ思考の末、岩男は円治にこういう言葉をかけずにはいられなかった。
「お前のやったことは許される事ではない!だが、それでも、もしもお前が罪を償い・・・
 生まれ変わったつもりでやりなおそうと考えるなら・・・!」
岩男の言葉は、円治によってかき消された。
>「っ、クソが……死にたくねえ……!」
「ぐあっ!?」
岩男は突然出現した極細の触手に乱れ突かれて吹き飛ばされた。
体に鋼をまとっている箇所はガードできるが、
そうでない関節部分に何発か刺突が滑り込み、肉をえぐられる。
痛みと共に血が流れ、銀色のボディに赤いラインがいく筋もしたたる。
だが、そんな事は岩男にとってどうでもよかった。
自分の隣に立っていた、円治にとって味方だったはずの仲間の怪人が、
攻撃の巻き添えをくらって串刺しになったことに比べれば・・・
「ッッ!?ばかやろおおおおおおおおおお!!」
それは円治に対する言葉であると同時に、
ほんの少しでも円治とわかりあえるかもしれないと、
勝手な想像をしてしまった自分に対する罵倒であった。
きっと円治をこうまでしてつき動かしているのは、
仲間への献身ではなく、組織の期待を裏切る事によって
確実にもたらされるであろう制裁への恐怖・・・
所詮、あいつらは、鳥籠は、俺達の敵なんだ・・・!!

「このままでは人間達も危ない!」
立ち上がった岩男はすぐさま、体に巻きつくように鍛造されたバネを効かせるように身を沈めた。
先ほど不発に終わったバネジャンプをもう一度しようとしているのである。
しかし今いる岩男の位地は壁から離れてしまっている。
そのまま飛び上がっても、天井に頭をぶつけてしまうばかりであろう。
「お前が槍衾ならば!俺はそれを打ち破る大身槍になる!
 ・・・だぁああああああああああッッ!!」
だから岩男は飛び上がる瞬間、足元に陸上競技のクラウチングスタートに使う台のようなものを鍛造し、
飛び出すベクトルを円治のいる方向へ合わせた。
文字通りバネが弾ける勢いで岩男の体が宙を舞う。
「えあああああああああああああッッ!!」
空中で前転した岩男は踵に鍛造していた槍を十文字型に変形させると同時に円治の方へ向け、
パワーが逃げないように、全身の関節部の隙間に鋼を鍛造して体を固定させた。
岩男の体は飛び蹴りの体勢を維持したまま、放物軌道を描いて円治に迫る。


しかし焦っていたとはいえ、一度防がれた技を再び放ったのは拙速であったかもしれない。
さらに問題なのは、出血が岩男が思っているよりもずっと激しいことだ。
おそらくこの攻撃が成功しようとそうでなかろうと、
岩男は間もなく失血により意識を失ってしまうだろう。

【向路にのされた怪人を尋問しようとする。
 円治を仲間にしようと考えたが直後の攻撃により後悔する。
 バネジャンプからの全身ロックキック!】

59 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/05/22(金) 04:06:07.87 0
 
向路の呼びかけに流川が応じ、円治は待っていたとばかりにそれを迎え撃つ。
一旦停滞していた戦況が、幾度目かの分岐点へ向けて再び進み始めた。

目の前の触手が千切れ、新たな触手が生成される。今までで最多のソレはまるで鋭利な剣山のようだ。
しかし、この距離ならば攻撃は殆ど直線的な動きになる。それならば、潜り抜けるのも易い。
だが、それは相手も分かってやっているだろう。これは時間稼ぎなのだ、流川を殺すための。
向路は流川を煽ったものの、果たして彼女が敵とこの距離でやり合えるとは思っていなかった。
先程敵へ大見得切ったのが聞こえたところから流川も無策では無いと思うが、既に彼女は腕を一本失っている。
せめて死なないでくれと思いながら触手を交い潜り、床スレスレの状態から復帰しようとした、その時。
切断されていた流川の右腕が刃を持って敵を強襲する。
それは正確に敵を穿ち、燃焼を繰り返し痩せ細った敵の身体ごと壁へと吹き飛んでいった。
……器用な能力だ、羨ましい。

「流川悪い、無理させたな。よく頑張った。
 ……で、くっつくのか、それ」

円治から目を離さず流川を労いながらその腕を指さし訊ねる。
このタイミングでのこの行動は流川を気遣った故であり、また、円治へ下手に近付いて最後っ屁を貰わぬようにするためだ。
奴が命を省みなければ、まだ余力はある筈……と、考えていたとき、その口からこぼれたのは自らの死の運命を否定するものだった。
円治の特性が向路の想像の通りならば、現状かなりギリギリの筈で、ここから怪人特性を発揮した場合どうなるかは想像に難くない。

「……死ぬか生きるかは、お前次第だよ」

向路は円治に対しては、はっきり嘘を吐いた。向路に円治を生かす気は毛頭無い。彼は生かしておくには強過ぎる。
生命維持が出来る程度まで回復させてしまえば、即座になんらかの害を為すビジョンが向路の脳裏を過ぎるのだ。
……しかし、奴に死ぬ気がないのであれば、生かす選択肢を見せることで無茶はせずにその能力を生命維持へ回すだろうとも思った。
この怪人からなにかしらの有益な情報もついでに聞けるかも知れないという思惑もあった。
なので向路は円治をひとまず無力化出来たと思い、円治の眼前まで行っても殺害をせずにまず流川の右腕を回収するだけに留めた。
それは、致命的な甘さだった。
取捨選択を誤ったことで、再び現れた分岐は最悪の方向へ進み出す。

60 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/05/22(金) 04:16:04.42 0
 
( ! ! ! ……[ピーーー]ッ!)

円治から目を離し、背を見せた。そのまま数歩戻って流川へ腕を渡そうとした瞬間、向路の目の端に触手の群が現れる。
脳内で自分へと罵声を浴びせながら、手の中の腕を流川へ押し付けると同時に、向路は全力で跳んだ。
恐ろしく速く、数えることも出来ない程の触手の包囲に、向路の皮膚は俄に粟立っていた。
恐らく、無差別攻撃。なにもかもをも巻き込む無理心中だ。
流川は負傷、新免は既に気が抜けており、肉体強化の無い二人がこの初撃を人間達の分まで凌ぐには反応が間に合わないだろう。
自身も攻撃面は兎も角、守るということはてんで苦手なのだが、やれるのは自分だけなのだと攻撃を認識した瞬間に思ってしまった。
故に、迷う間もなく跳んでいた。
触手の先端に追いつけば、それを指の間に通すようにして掴み取り、捻り上げるように食い止める。
更に掴み切れぬ触手はわざと腕を射線上に晒し自らの腕でその切っ先を受け、腕を回して絡め取る。
人間達を突き飛ばすようにして後ろへ追いやり、出来る限り自身の身体の陰に隠すようにするが、
……如何せん九人を向路の身一つで守りきることは出来なかった。
 

(……所詮、能ナシは能ナシだな)

背を熱いモノが伝っていく。足も腕も、熱が抜けていくのが分かる。目の前の人間達の表情も、目に血が入ったのかぼやけて分からない。
だが、目の前の床を染める赤が、自分の血だけではないことは理解できる。
新免なら、鉄板でも作り出してなにもかも守れたのだろうし、流川本人が腕を回収していれば、ドライな彼女は腕を抜くと同時に止めも刺しただろう。
最後に情けないミスをした。それも超特大の致命的なものだ。あぁ……嫌になる。

「すまない」
(でも、まだ、動くから)

自身への気休めか、誰へともなく謝罪をこぼしながら全身に力を込め直す。
乱暴に身体を回して突き刺さった触手を抜き、絡んだものは引きちぎって身体を自由にする。
乱暴に顔を拭い、視界を取り戻す。

(……挽回にも、ならないけどさ)
「諦められないでしょ……!」
 

61 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/05/22(金) 04:16:44.91 0
 
迫る触手の群へ向けて左右の拳でコンビネーションを放つ。更にそこから連動して身を翻し足刀を振るい、続けて跳躍、蹴りの軌跡が円を描く。
触手の群を片っ端に迎撃しているのだ。無論それらの何割かはその間を縫って向路を刺すが、それでも致死的な傷は避けている。
血の飛沫を飛ばしながらも向路が激しく動き続けるのは、自らの急所を守る意味もある。
しかしその代償に、腕や足は陵遅刑を受けているかのごとく徐々に、しかし確実に削られる。

(……こういうときこそ新免が頼りなんだけどな)

働かない頭で情けのないことを考えながらも、向路の動きは止まらない。
先程から新免の声は聞こえているのだが、内容までは耳に入ってこない。今度は一体なにを、と思う余裕も向路にはなかった。
……だがそんな状況でも、次に新免が視界に入ったときには唖然とした。それは怒りであり呆れであり、悲しみだった。

(何やってんだ……ッアイツは ! ! ! )

なぜそう思ったのか、この時の向路は理解出来なかった。この状況でそれを考えるほどに脳の処理能力が空いていない。
だが、そんな状況であっても新免の行動は見ただけでそれは違うと思ってしまえるものだった。
向路が見たのは、鉄の塊のようになった新免が敵へ突っ込んでいく様子だ。
まず、新免の攻撃方法は向路自身の能力を馬鹿にしているようであるし、円治の能力を考えれば、ほぼ死体の状態のヤツにあんな攻撃をする必要も感じられない。
ただ、そんなことは些末ゴトだ。
向路を落胆させたのは、新免が『人間を守る』ことを放棄していることだ。
死にかけとはいえ、敵とは言え、目の前で人を殺しているとは言え、あれだけ正義を口にする男が命を奪うことに何の躊躇もないことだ。
人を救える優れた能力で、人を救えるときに、人を殺そうとすることだ。

「ァァァあああああああぁアぁあアぁぁあアアア ! ! ! ! ! 」

言いえぬ感情を発散するように、叫びと共に向路の動きが加速する。
全身を血の赤に染めながらも攻撃の連動が絶え間なく続き、その動きは残像も残らぬ程に加速する。
だがそれももって後三秒といったところだろう。謂わば、これは燃え尽きる直前の蝋燭だ。


【流川の腕回収/フンフンディフェンスあと三秒/かなり出血、かなり怪我/新免に一方的にがっかりする】

 

62 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/24(日) 22:27:08.29 0
片腕を伏兵とした、上下からの挟撃。
向路の陽動、そして下腹の刃傷により迎撃に鈍りのあった円治は頭蓋に加速パイプをまともに受け、吹っ飛ばされた。
手応えアリだ。死んでいなくとも立てはしまい。

「ふぅーーーーっ」

極度の臨戦集中を呼気の整頓によって解除した市香は、肉体の具合を確かめるように鉄パイプを二度振った。
口の中の異様な乾きは緊張の為であり、また身体の水分量が損耗していることの証でもある。
今回もまた、危ない綱を渡ってしまった。

>「流川悪い、無理させたな。よく頑張った。……で、くっつくのか、それ」

「班長の陽動のおかげですよ。ついでに新免さんの刃物も。腕は大丈夫です、怪人ですから」

言ってからしまったと思った。ここは功労をもっとアピールしとく場面だったか。
いやしかし、他隊の向路にも新免にも市香の査定を云々する権限はないから、やっぱ自然体で良いのか……?
答えの出ない問いにうんうん唸っている間に向路は壁に叩きつけられた円治のもとへ歩み寄った。
止めを刺す前に尋問は必要だろう。あるいは、拷問が。

>「……俺には……俺にも、人間の友達がいるんだ。だから……」

「そーですか、羨ましいですね。わたしにはいないので」

市香は人間を尊敬しているが、それは種族としての人類に対する敬意だ。
人間だからと言って手放しに好きになるわけじゃないし、人類全体の利益の為なら人間個人を見殺しにだってする。
その辺、『人間を軽んじているが好きな人間もいる』円治とは正反対の市香である。

>「お前のやったことは許される事ではない!だが、それでも、もしもお前が罪を償い・・・
 生まれ変わったつもりでやりなおそうと考えるなら・・・!」

「あとわたし達への最大限の協力と情報提供も追加で。金庫の暗証番号くらい知ってるでしょ?」

脱ぎ散らかしていた制服の山に手を突っ込んでバックパックを漁りながら、、市香は無感動に言った。
命乞いに耳を貸すつもりはないが、生き残りの可能性を提示することは有効だ。
円治が鳥籠の中でどれくらいの立ち位置なのかはわからないが、吐かせるだけ吐かせてしまおう。
とにかくいまは情報が足りない。
敵の戦力の全体像は未だにつかめないし、逃げた人質の連中がどうなったかもわからない。
共生派とか言う敵対組織なのか内ゲバなのか不明な連中まで出てくる始末だ。

「なるべく早くここを引き払いましょう。敵がわたし達の行動に気づく前に」

バックパックから水ボトルを出して水分補給している間に、向路が戻ってきた。
小脇に市香の腕を抱えていて、班長に使いっパみたいなことさせて申し訳ない気持ちで一杯になる。

「すいません向路さん、いまくっつけます――」

受け取ろうと残った腕を差し出した瞬間、窓硝子が一斉に割れた。
窓の外から突入してきたのは、細く無数の触手!その形状は色みも相まって彼岸花のようだ。
市香は最初新手の援護かと思ったが、やせ細っていく円治を見てすぐにその考えを改めた。
紛れも無くこれは円治の技。文字通り死に花を咲かせに来たのだ!

立ち位置的に市香には彼岸花の展開が見えていた。
にも関わらず背中を向けていた向路よりも反応が遅れたのは、やはり彼女の戦闘怪人としてのそこが限界なのだろう。
腕を押し付けられて一歩下がる。その鼻先を触手が駆け抜けていく。

「ひえっ!」

63 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/24(日) 22:27:41.20 0
臨時の上司の姿はすぐに見えなくなった。超瞬発で跳んだのだ。
そしてすぐに市香も自分の身を護るための行動に移らざるをえなかった。
掴んだ片腕ごと肉体を液状化。重力に引かれて落ちていく身体を触手が救い上げるが、零れていく。
そうして触手の嵐の中、市香は床面で肉体を合流させることに成功した。
眼球だけを生やして周囲を伺えば、鋼の流星となって円治に特攻する新免と、そして。

>「ァァァあああああああぁアぁあアぁぁあアアア ! ! ! ! ! 」

固まって避難した人間たちの盾となるように、立ちはだかり、触手を片っ端から迎撃する向路の姿だった。
その鬼神の如き乱舞は迫り来る触手を嵐の如く吹き散らす。
だが、それで全てが落とせるわけではない。
撃ち零した触手は容赦なく向路の肉体を抉り、血飛沫はこちらまで飛んできた。

やがて、円治の断末魔のような触手嵐も終わりを迎える。
それが新免のトドメによるものなのか、円治自身が力尽きたからなのかは定かではない。
確認している暇などなかった。市香はすぐに肉体を再構成すると、裸足で走りだした。
満身創痍の向路が倒れこむその直前に間一髪間に合い、抱きとめる。

「向路さん!向路さん!!」

意識を失わぬよう呼びかけ続けながら、市香は向路の負傷を検める。
急所は免れているが、とにかく傷の数が多い。深く切り裂かれた箇所も少なくない。
一番の問題はこの出血だ。向路の後方5メートルほどの床と壁が扇状に紅く染まっている。
これが全て向路の血飛沫だとすれば、かなりの量が持って行かれていることになる。
いくら怪人と言えども、血を失えば死んでしまうのは生物共通の弱点だ。

「とにかく血を止めなきゃ……ああ、なんでこんな無茶を!」

バックパックから応急処置セットを引っ張りだし、ガーゼを裂いて止血帯をつくる。
だが、もはやそんなもので押さえるのが焼け石に水なほどに、そもそもの出血箇所が多すぎた。
咄嗟に自分の頬に指を当て、骨伝導の具合を確かめるようにして偽装無線機へ声を送る。

「黒野隊長!こちら流川、向路班、鳥籠構成員と遭遇し、戦闘になりました!
 敵怪人は殲滅しましたが向路班長が重傷、出血多量で処置が困難です!支援を要請します!!」

伝わったかどうか確認することすら忘れて市香は振り仰ぎ、背後の新免に声を荒らげた。

「ボサってないで血止めになるものを探してください、なんでもいいですから!手持ちの道具じゃ抑えきれません!」

叫んでから、市香ははっとなった。
手薄とは言えまだ校舎には敵構成員が残っている。
これだけ派手に暴れれば誰かが異変に気付いて向かってきてもおかしくはない。
もちろん血止めは先決すべきだが、次に必要なのはここからとっとと移動することなのだ。
仲間の血を見たことで市香もまたパニックに陥っていた。

(向路さん……どうして……)

向路だけじゃない。
新免も、市香も、この任務が始まってかららしくないことばかりしている。
親人間主義のはずの新免は囚われた人間を護ることよりも円治にトドメを刺すことを選んだし
向路に至っては自分の命を懸けてまで救護対象でもない人間達を護った。
そして市香もまた、取り乱して新免にまで暴言を吐いている。

この異常な状況が自分たちを狂わせているのか。
否、そもそもまともだとか異常だとか、そういう物差し自体陳腐なのかもしれない。
自分たちははじめからこういう人間で、結局は相容れない集まりで、
とどのつまり今までは皮を被っていたから上手く回っていただけなのかも。
上滑りする思考にはとりとめがなく、時間だけが化石燃料のように浪費されていく。
この一秒はただの一秒じゃない。向路の命のタイムリミットだ。

64 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/24(日) 22:28:39.15 0
「血がとまらない……とまらないよ……」

いつのまにかうわ言のようにつぶやく声に鼻水をすする音が混じり、涙で目の前が滲んでいた。
死にかけても居ないのに走馬灯のように過去の光景が脳裏をよぎる。
二年前、親友が死んだ時、市香はなにもできなかった。
気がつけば病院のベッドの上で、支援局の監査官があれやこれや質問して、最後に親友の死を知らされた。
ボロボロの身体を押して向かった葬儀の斎場では、遺族から強く参列を拒絶された。
いまでも市香は、家族ぐるみで仲良くしていた親友の家族の、目を盗んで墓参りを続けている。

なぜあの時、自分は死の場面に居合わせられなかったのか。
死に目にひと目でも会うことができたなら、二年も引きずる後悔も少しは溜飲をくだせただろう。
何もわからないまま叩きつけられた絶望に、迷い、苦しみ、泣き叫ぶこともなかっただろう。だけど。

だけど――みっちゃんが死んだあの時に、ただそこに居られれば良かったの?
断じて違うと、市香はいまなら言い切れる。
死に目に会いたかったんじゃない。寄り添って、彼女を助けたかったのだ!
何を犠牲にしてでも、その命を救いたかったのだ!!

「……新免さん、止血お願いします」

市香は覚悟を決めた。
ボトルをとり、右手を乱暴に洗い清める。
目を閉じ暫し集中すると、右腕の肘から先が輪郭を失い無色透明な液体へと変化した。
体組織の有機成分を可能な限り退避させ、右腕を水分と無機質――ミネラルの塊へと変じたのだ。
市香はそれを向路の身体の一番深い傷口へ当て、破れた血管から体内へと侵入させた。
見る見るうちに右腕の体積が減っていく。

市香がやっているのは、言わば大量の生理食塩水を直接血管に注ぎ込んでいるようなものだ。
失血性ショック死とは血を失ったことによる血圧の低下が原因で発生する。
ある程度の血圧がなければ血は廻らず、酸素が供給されずに細胞が死んでしまうのだ。

逆説、血圧さえ確保できれば血液の内訳は、短期的な生命維持に限ればある程度融通が効く。
具体的には20%程度を生理食塩水に置き換えても通常と遜色ない程度には機能する。
ただ血圧を維持するだけならもっと割合を増やしても良いだろう。
言わばこれは心臓マッサージの代わりだ。血を押し流してやることで、強制的に循環を確保する。
急場凌ぎの間に合わせではあるが、まともな輸血設備のないこの環境でやれることの最善だろう。
あとは、向路自身の怪人としての回復力に賭けるしかない。

「う……ぐ……」

そしてこれは市香にとっても賭けであった。
流川市香は海が苦手だ。
浸透圧の関係で水分が持って行かれるし、海水と血液の成分が似通っていて、自分の身体と海との境界がわからなくなる。
再びフラッシュバックするのは、昔敵対する組織に捕縛されて頭から塩水をぶっかけられた時の記憶だ。
あの時の、塩水の滴るのと一緒に肉が溶けて床に集まっていく感覚はいまでも悪夢に見るぐらい鮮明だ。
前述の通り海水と血液は塩分濃度を始めとして成分が似ている。
つまり市香は、海と同じぐらい血の海もダメなのだ。

いま、市香は『向路という血液の塊』の潜り込んでことを成している。
肉が溶け落ちていくような"あの感覚"が再び彼女を襲い、責め苛んでいく。
強烈な吐き気に口の中が粘っこい唾液でいっぱいになり、ぎりぎりのところで嘔吐を飲み込む。
顔は真っ青で、涙などはとうに決壊して頬に筋をつくり、震えが来て歯の根が合わなくなる。

それでも市香は血の循環をやめなかった。
向路さえ持ち直せばすぐにでもここを動かなくちゃならない。
そうなった時、足手まといになるのだけはゴメンだ。

「戻ってきて……!」

【槍衾を回避後、負傷した向路の失血を補うため生食注入。トラウマ刺激して吐きそう】

65 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/05/27(水) 13:16:28.32 0
「……ふぅ。折角の一張羅が台無しですわ」
鍵山の頭部を蹴り飛ばし、その勢いを体を捻らせながら殺し着地し、彼女はぼやいた。
勝てはしたものの肩は抉れ、スカートもビリビリに破け、大鳳のご機嫌は斜めだ。

>「……なぁ、お二人さん。すんげー激闘の後で悪いんだけどさ。
 そろそろ五分、経つんじゃないかな。降ろしてくれよ、死んじまいそうだ」
「おっとと、今助けるので少々待っておいてくださいな」
少女を吊るしている紐を手刀で引きちぎり、落下する少女の身体を支えると
傷口に響いたが、不安にさせまいと顔には出さずグッと堪えながら着地した。

それから後は簡単だ。伏見の指示に従い輪切りにされた少女の足をくっつけ
再生するまでしばしの間待機しながら、ボロボロになったスカートの切れ端で傷口を止血。
腰から下が丸見えになっているが、
ドレスがなくなってもスパッツと包帯でグルグルのミイラ状態であり色気のへったくれもない。

>「あのオカマ野郎が言ってたけど……アンタ達、ただの商品じゃないんだろ。
 ちょっとやそっとじゃ捕まりそうにないし。」

「まあ、色々ですわ。詳しくは言えませんが……。貴方このあたりのこと何か詳しく知ってませんの?
 地理とかでもわかることがあれば聞きたいのですが。というか貴女その耳可愛いですわね
どういう能力か教えてくれません?」

そんなことを聞いていると、少女の方から大鳳達に懇願してきた。
>「なぁ、アンタ達……鳥籠の……なんていうか、敵、なんだろ?
 私達のとこに来てくれないか?私達も、奴らをやっつけたいんだ」

「敵……には間違いありませんが、現時点でやっつけられるかは正直微妙なところですわねぇ……」
大鳳は言葉を少し渋っていた。確かに最終的には打倒という目的は間違ってないし、
彼女自身助けてやりたい気持ちでいっぱいだ。だが今回の目的は潜入調査であり
敵の戦力も未知数な今安易な答えは出せない。
「とりあえず、ここから出るまでは協力しますわ。というか貴方一人で出て行っても
 すぐに捕まるのが関の山でしょう?というわけで、しばらく私たちと行動を共にするというのは如何かしら?」
そして出した結論が、これだ。少女を保護し、出来るのであれば喝堂達のところまで連れて行く。
仮に少女のこれが演技で、獅子身中の虫になったとしても喝堂・黒野の二人を出し抜けるとは思えない。
少女が敵の敵……つまり鳥かごとは別の組織だったとしてもどうとでもなる。

「さて、そうと決まったら早速行きますわよ。まずはここからの脱出ですわ!」

66 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/05/27(水) 13:17:22.83 0
そうやってウサ耳の生えた少女と伏見と共に、坑道の出口までたどりつくと
そこには如何にも筋肉ダルマといった風体の男が一心不乱にスクワットをしていた。

「……なんですの、あれ」
その口から出たのは決して呆れから発された言葉ではなく、むしろ逆だ。
(あの方、かなり出来ますわ……!!)
日頃から訓練をしている大鳳には彼の筋肉が見せかけのものではないと理解できる。
しかも自分たちが視界に入ってもそれをやめないとなると、それはつまりいつでも対処できると自信の表れだ。

>「ま、簡単に言えばな。お前らはここに連れて来られたのは、お前らが『本物』か確かめる為なんだわ。
 こんな坑道一つ脱出出来ないで『超人』も『史上最悪の殺人鬼』もねえだろって事だな」
>「マジに逃げられちまっちゃそれはそれで困る。分かるよな。だから俺がここにいる。
 俺がお前らの脱走を阻止して、ついでにお前らがマジに本物なのか念を入れて確かめるって訳だ」
>「言っとくけどわりと本気でやるからな。『超人』つったら前から気になってた名前だ。
 ニセモン臭かったらぶっ殺すぞ。お前ら結構マジで絶体絶命だかんな。具体的には……」

「確かめる……。随分と上から目線なのですわね」
それが慢心でないことは大鳳は本能で理解できている。だからこそ、身体の震えが止まらない。
何も彼が臨戦態勢を取るまで待っていたわけではない。ただただ動けなかっただけだ。
そうやって立ちすくんでいる大鳳の耳に、喝堂からの通信が響く。

67 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/05/27(水) 13:18:34.52 0
>『……その声、まさか『不動』か?』
>『大鳳。ソイツとまともにやり合うな。ソイツは俺でも手こずる相手だ。おい、聞こえてるか、大鳳』

(あぁ、やはりそうなのですね)
喝堂の声に含まれる僅かな焦燥を感じ取り、大鳳の体は更に震えを増した。
あの喝堂ですら手こずる相手、自分では到底適わないだろうという事実。
「凶華、この少女をよろしくお願いしますわ。」
だが、その震えは何も恐怖から来るものだけではない。二人を背に、大鳳は一歩踏み出す。
(隊長でも手こずる相手、『不動』……。任務中ですのに、私情は慎まねばなりませんのに……
 こんな状況、不覚にも燃えてしまいますわ!!!)
また一歩、大鳳は踏み出す。いつものように猪突の如く猛進するわけでもない。
そう、今の彼女を動かすのは圧倒的強者に対する反骨心、喝堂のそれを聞いたとき
彼女の身体の震えは武者震いへと変貌したのだ。
「ええ、おそらく貴方は私より強いのでしょう。今の私たちは絶体絶命なのでしょう」
(とりあえず、凶華さえいれば、私の傷はなんとでもなります。この選択はあながち間違いではないでしょう。
 もっとも、殆ど私のわがままなのですが……)
そしてまた一歩、踏み込む。地面を踏みしめ、ゆっくりと、悠然に、不動と呼ばれる男の目の前までたどり着く。
そうしてお互いの拳の射程内で、大鳳は宣言した。
「だからこそ、『超人』大鳳勇。タイマン張らせていただきますわ!!」
その言葉と共に、開戦の右ストレートを不動の胴体へと叩き込まんと拳を突き出した。

【まっすぐいいって右ストレートでぶっとばす】

68 : ◆PyxLODlk6. :2015/05/28(木) 13:49:39.72 0
>「お前が槍衾ならば!俺はそれを打ち破る大身槍になる!
  ・・・だぁああああああああああッッ!!」

岩男の取った攻撃は――端的に言えば下策だった。
彼が立ち向かおうとしているのはただの槍衾ではない。
触手だ。肉体強化によって鋭敏化した感覚によって制御された、触手なのだ。

(なんだよ、その……馬鹿みてえな攻撃……チョロいんだよ……。
 そんなチャチな蹴りをいなして……テメェに回転を加えながら、窓の外に……。
 高く高く放り投げてやるくらい……簡単なんだぜ……)

触手は真っ向から岩男とぶつかる必要がない。
槍の先端に触手を触れさせ、いなし、そのまま軌道を逸らす事が出来る。
その際に高速で回転を加え、天地不覚にした状態で、遥か上空から落下すれば、岩男が特性で己の命を守れる可能性は低いだろう。
円治は容易く、岩男の命を奪う事が出来た。
せめてもの道連れとして。

そして――槍衾が止まった。触手を動かすだけのエネルギーが尽きたのだ。

人間達は――最も向路に近かった一人を除いて皆死んでいた。
向路がいかに奮闘しようとも、たった四本の手足で全ての人間を守る事など不可能だった。

触手が一斉に床に落ちて、萎れていく。自食作用だ。
だが――触手から回収出来るだけのエネルギーでは、円治にはもう生命を維持出来るだけの力は戻らない。

>「血がとまらない……とまらないよ……」

『触手から回収出来るだけのエネルギーでは』、だ。
岩男が出血により意識朦朧となり、向路が倒れ、流川が混乱する中――微かに、何かを齧る音が響いていた。
手だ。己の左手を、円治は双眸を爛と光らせて食していた。
自食作用よりも更に直接的に、エネルギーを肉体から回収する為に。

床に落ちた触手群の中から一本だけが、再び張りを取り戻した。
それは音もなく浮かび上がり――横に薙ぎ払われた。

狙いは、岩男。
その頭部を、無理矢理叩き起こすように。
岩男の鉄兜がくわん、と金属音を奏でた。

円治は岩男を窓の外へと放り捨ててはいなかった。
殺せた筈の岩男を、ただ軌道を下に逸らして床に突き立てるのみに留めていた。
何故か。

「……可哀想な、奴だよなー。お前って……」

彼が岩男を哀れんだからだ。

岩男の特性なら、先ほどの攻防――もっと違った事が出来た筈だ。
鍛造した武器を回収――再操作出来る彼は、貫いた触手を切断し、破れた傍から再生する盾だって作れた。
鏡面を作り出して自身と皆を守ったまま円治を捉える事が出来た。
更に盾から槍を生やせば、防御を崩さぬまま円治に攻撃する事さえ出来ただろう。
触手で止めようとも、その度に形を変えて迫る防御不可の槍が作れた筈なのだ。

それが実際に放たれたのは、一つ覚えの飛び蹴りだ。
人間の技を、怪人が無理矢理活用しようとしたような、飛び蹴りだった。

69 : ◆PyxLODlk6. :2015/05/28(木) 13:50:35.02 0
「……調教、されちまったんだろうなー……。
 お前は……人間で……人間にとっての……警察犬だって……よー……」

岩男は自分の事を、犬の仲間だと叫んだ。
後にあくまで例え話だと、彼は向路に対して訂正したが――円治には、あれが岩男の本心のように思えた。

そう思うと――岩男を殺す事は出来なかった。
円治にとって岩男は、どんなに人間寄りだとしても、それでも怪人なのだ。
つまり人間にとっての人間――犬ではない、同じ存在。

「だから……これ以上は……哀れ過ぎて……見てらんねーんだよなー……」

極限状態で、本能に従った時――円治は流川達に対して非情になりきれなかった。

「ソイツ……さっさと助けちまえよ……」

円治の両腕の肉は――もう残っていない。

「……お前らが……何するつもりか知らないけどさー……やるなら……せめて……急いでくれよなー……」

そう言ったきり――彼は動かなくなった。

岩男は何かを言いたげにしていたが、それを噛み殺すようにして向路の方へと振り返った。
そして鉄の帯を向路の各部に巻きつけ、即席の止血バンドのようにした。
向路を見下ろすその視線は、再び円治の亡骸を振り返るその視線は――不可解の感情を宿していた。

『――向路班。聞こえますね』

それと殆ど同時に、向路班の通信機に黒野の声が届いた。

『援軍は既にそちらへ向かっています。君達は彼の支援を受けて……』

そして黒野は、こう続けた。

『……潜入任務を続けて下さい』

もしも流川達が抗議の声を上げようと、それ以上黒野が言葉を発する事はないだろう。
代わりに通信が途絶してからほんの数秒後に、『何か』が窓から教室に飛び込んだ。

砂だ。黒を基調とした服の埋もれた、ちょうど『成人男性一人と同程度の体積であろう量の砂』の山が教室の真ん中に出来ていた。
その砂山の五合目ほどが、もぞりと隆起する。

中から姿を見せたのは――右手だ。
手の甲にやや大きめの瘤と、『目玉』のある右手が這い出してきた。

右手は周囲を見回すと、すぐに殺された人間の死体へと這い寄っていき――それを『捕食』し始めた。
そして得た肉を分割し、新たな右手を作り出し――それはまた別の死体へと向かっていく。
一人だけ、幸運と向路の奮闘のお陰で生き永らえた人間は、その様を青ざめた表情で見ていた。

「――いいか、人間。騒いだり、我々に敵するような言動行動は全て控えろ」

『右手』達による清掃が加速する中――声が聞こえた。
音源は、砂山だ。
同時に砂が独りでに蠢き、人の形を成し――そして本当に人になった。
器用な事に、衣類は全て着用した状態になっている。

70 : ◆PyxLODlk6. :2015/05/28(木) 13:52:20.41 0
「お前を殺すのも、その後に『作り直す』事もそう難しい事ではないと覚えておけ。
 ……君は、流川、だったな。そこをどいてくれ、酷い顔色だ」

砂化怪人――彼の名は須波獏。黒野隊の隊員だ。
砂を固めたような髪留めで後ろに纏め上げられた黒い長髪と、顔の下半分を隠すマスクが特徴的だ。

須波は向路の傍で屈み込むと、まず彼の体に手を添える。
肉体から変化した砂が向路の傷口を覆い、血を吸って固まった後に肉へと再変化し、煮凝りのような止血剤と化した。
それから懐から何らかの薬液が詰まった注射器を取り出す。

「昇圧剤だ。怪人由来の……まだ未認可のな。効かなかったら恨むぞ開発部……」



さて一方でその頃――『右手』は、室内の『清掃』を終えていた。
血痕も、人間達の死体も、鳥籠の二人の死体も綺麗さっぱりなくなって――代わりに消えた死体と同じ数だけの雨場造利がそこにいた。
彼らは自分が今さっき食した死体を模した姿に変化する。

そして――直後にドアの破れた教室の入口に二人の鳥籠構成員が駆けつけてきた。

「おい!一体何があった!」

「……あー、わりーわりー。俺が勘違いしちまったんだ。ソイツらを、共生派の連中だって」

そう答えたのは、円治の姿をした雨場だ。
骨格などから痩せ細る前の容姿を推察したようで、中肉中背の体型を取れている。
隊長達からある程度無線の内容を聞かされていた彼は、当り障りのない回答が出来た。

須波は既に砂化して、窓の外へと消えている。
唯一生き残った愛玩人間の背には、商品に化けた雨場が密かに手を触れていた。

「お前……彼らは商会の人間だぞ。岩倉から何も聞いてなかったのか?なんて事を……」

「怪我は……大丈夫か?……すまないな。補償はさせてもらう。が……こちらが飲める程度のものにしてくれよ」

鳥籠は『商会』との争い事を好ましく思わない。
故にこの『落ち度』を帳消しにする為に、君達にそう切り出した。
余程ビジネスに支障が生じるような要求でなければ、飲まざるを得ないだろう。
むしろ『商会へ』ではなく『君達個人へ』の補償で済ませたいとすら思っている筈だ。

さておき――君達は上手くすればここで有用な情報を聞き出せるかもしれない。
勿論、情報源はそれだけではない。
向路班は次にどんな行動を取ってもいい。



【『補償』にかこつけて何か聞き出せるかもよ
 これからどうする?】

71 : ◆PyxLODlk6. :2015/05/29(金) 22:11:32.81 0
>「まあ、色々ですわ。詳しくは言えませんが……。貴方このあたりのこと何か詳しく知ってませんの?
  地理とかでもわかることがあれば聞きたいのですが。というか貴女その耳可愛いですわね
  どういう能力か教えてくれません?」
 
「ん?……あぁ、えーとな、この耳は私の体質だよ。兎っぽくなる……しょーもない体質だろ。
 地理は……山ん中なら……私達の拠点は、山奥にあるんだ。
 『鳥籠』の連中でも踏み込んでこれないくらいの山奥にな」

裏を返せば「そこまで追いやられている」という事だが――少女はそんな事は口にしなかった。
隠したかったと言うより、言葉にして認めたくなかった為だろう。

「なぁ、アンタ達……鳥籠の……なんていうか、敵、なんだろ?
 私達のとこに来てくれないか?私達も、奴らをやっつけたいんだ」

>「敵……には間違いありませんが、現時点でやっつけられるかは正直微妙なところですわねぇ……」
  「とりあえず、ここから出るまでは協力しますわ。というか貴方一人で出て行っても
  すぐに捕まるのが関の山でしょう?というわけで、しばらく私たちと行動を共にするというのは如何かしら?」

「……そうだな。私だけじゃ、正直厳しい」

>「さて、そうと決まったら早速行きますわよ。まずはここからの脱出ですわ!」

「あっ、待った!その……アンタ達さ、私達の拠点に来てくれよ。
 アンタ達みたいな強い助っ人がいればきっと……いや、とにかくまずは来てくれよ、頼むよ」

そう懇願する少女からは相変わらず、不都合な真実を言葉にしたくない、と言った気配が漂っている。
だが――そのお陰でかえって悪意がない事だけは、浮き彫りになって感じられるだろう。
もっとも、悪意がない事は、悪でない事の証明にはなり得ないが。

彼女の懇願は大鳳達が聞き入れるかどうかはとにかく――その場で立ち話をする理由はない。
三人は坑道の入り口へと向かい――そして不動と出会う事になる。

>「凶華、この少女をよろしくお願いしますわ。」

伏見は何も言葉を返さない。
こうなっては何を言っても無駄と判断したのだろう。
そんな所が心底嫌いなんだ、と言わんばかりに顔を顰めながらも、一歩引いた。

72 : ◆PyxLODlk6. :2015/05/29(金) 22:14:21.22 0
>「ええ、おそらく貴方は私より強いのでしょう。今の私たちは絶体絶命なのでしょう」

真正面から一歩また一歩と歩み寄ってくる大鳳を、不動は悠然と見下ろしていた。
その表情には――武闘派らしい獰猛な笑み。

>「だからこそ、『超人』大鳳勇。タイマン張らせていただきますわ!!」

「っしゃあ!来いや!」

大鳳が動くと同時、不動は――動かなかった。
より正確には、動けていなかった。
不動が拳を振り被った時には大鳳は既に彼の懐に潜り込み、拳を突き出していたのだ。

大振りの右拳は外れ、カウンターが決まる形で大鳳の右拳が不動の腹に減り込む。
腹筋が耐え切れずに千切れ、内臓にまで打撃が届く手応えを大鳳は感じるだろう。

「おっ……ご……」

不動が嗚咽と共に上半身を丸めた。
視線は大鳳から外れ、何の構えも取れていない。隙だらけだ。
大鳳がその気になればどんな攻撃でも通す事が出来るだろう。

だが不動の放つ強者の気配は、圧倒的な脅威の存在感は、どれほどの打撃を加えても衰えない。
むしろ徐々に高まりすらしていて――不意に、彼の体勢が更に深く落ちた。
膝が折れ、崩れたのではない。自分の意思で折り曲げたのだ。
何故か――

「――ぜんっぜん効いてねえぞオラッ!そんなモンかよ超人!」

渾身の力で地を蹴る為だ。
瞬間、岩塊の如き不動の体が野猫のように、恐ろしいほど俊敏に跳ね、等身大の砲弾と化した。

その叫びが虚勢なのか本心なのかは分からないが――これだけは確かだ。
もしこの突進をまともに喰らえば、大鳳は水風船のように爆ぜて死ぬ事になる。



【暫しの間殴りたい放題
 でもめっちゃくちゃタフそう
 めっちゃくちゃ速いタックル】

73 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/05/31(日) 00:24:42.91 0
触手の猛攻が途絶えた直後、向路は無意識のまま肩越しに振り返り人間達を、否、人間達だったモノを見た。
見ただけだ。だが、それらに命がないことが何故か直感で分かってしまった。
自らの無力を噛みしめながら、自らを軽蔑しながらに向路は床へと崩れていく。
薄れる意識の中、強く残った自己嫌悪から何故ここにいるかも忘れて死を受け入れつつあった。……駆け寄る流川を視界に捉えるまでは。
意識を手放す直前、ほんのコンマ何秒かの中でだが、臨時の部下の顔は向路に立場を思い出させる。
そしてそれは、向路が死を拒むのに十分だった。








向路は全く状況が分からなかった。
目が覚めたら教室内は侵入時と同じように人間達がいて、死にかけていた筈の敵性怪人も全く何事もなかったように立っている。
しかし頭も含めて全身は際限なく痛むし、口はカラカラで舌も口蓋へ張り付いて声が出ない。
流川は全裸で何故か顔中をべちょべちょにしていて、新免も鎧のままだ。

(まさか敵怪人の特性は冬木さんのような精神に影響するタイプで、自分達はなんらかの幻を見せられていたのか?
 だとしたらこのダメージや疲労はどうなってるのか……いや、まずこの状況から脱することを考えなきゃあな。
 せめて流川と新免には逃げてもわらないと。)

74 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/05/31(日) 00:26:09.13 0
 
……向路は回らない頭なりに必死に状況を理解しようとするが、それは明後日の方向へと進んでいた。
向路はひとまず立ち上がろうとして、まず上体を起こそうとし……ここで初めて自分の身体の状況を見る。
手足を中心に身体の肉は削げ落ち、点々と穿たれた痕があるが、その傷口はゲル状の何かで覆われている。
これは自分の身体が起こした作用ではないことは分かる。だが、流川や新免の特性でもないように思える。
ならば誰がわざわざこんな、というよりも、これだけの怪我であれば出血も尋常でなかったはずだ。
実際意識を失っていたはずで、どうやってこんな場所でその状態から持ち直したのかも分からない。
怪我の具合を見て立ち上がることは諦め、再び床に横になる。全意識を集中して回復に努める必要があると判断したためだ。
この姿勢から声をかけるのは気が引けるが、現状把握が必要だ。渇いた口蓋から舌を剥がし、喉を振り絞る。

「……ぃ、んん゙。……な、にが」

>「おい!一体何があった!」

あったのか、尋ねようとしたところで闖入者。
恐らく『鳥籠』の構成員だろう、この状況で増援など……と、向路が眉間に皺を寄せたとき、思わぬところから声がする。

>「……あー、わりーわりー。俺が勘違いしちまったんだ。ソイツらを、共生派の連中だって」

>「お前……彼らは商会の人間だぞ。岩倉から何も聞いてなかったのか?なんて事を……」

過剰燃焼怪人の声がやってきた構成員にそう返す。
……いや、待て。確かに自分達は共生派ではないが、敵対行動をとったのは間違いない。
彼らがもし幻覚を見せていたにしても、それは変わらない筈だ。あたかも一方的にあちらが誤ってしまったとでも言うような口振りは違和感がある。

>「怪我は……大丈夫か?……すまないな。補償はさせてもらう。が……こちらが飲める程度のものにしてくれよ」

……状況は全く分からないが、どうやら自分達はまだ大切な客人として扱われているらしい。
これは吉……なのだろう。流川や新免の様子を見た感じでも、悪い方向に進んでいる訳ではなさそうだ。

「……じゃあ、悪いけどとりあえず水と食べもの、貰っても良いかな」

メタなことを言ってしまえば、実際はこんなにも滑らかに発声できていない。声はかすかすの上に途中で咽せるし時々痰も絡んでいる。
そのため構成員にキチンと伝わったかは分からないが、現状向路の精一杯はこれなのだ。
状況が分かっていない以上、下手な発言で墓穴を掘ることはしたくないと、また、何時までもこのままでは足手纏いも良いところなので自身の回復を優先させた。
申し訳ないが頼む、という思いを乗せた目配せを流川へ向けて、向路は目を瞑った。

【死亡回避。だがそこ止まりで戦線復帰は出来ず。
 構成員へ食料を要求、情報を聞くことはせず】

75 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/31(日) 05:41:02.30 0
>『――向路班。聞こえますね』

岩男の止血帯でとりあえず血止めを行い、市香による昇圧処置を続行する。
向路の顔色は少しずつ赤みを帯び始めてはいるが、未だ予断を許さぬ状況であった。
耳の中で電子音が響き、無線が作戦本部とつながる・
黒野だ。

>『援軍は既にそちらへ向かっています。君達は彼の支援を受けて……』
>『……潜入任務を続けて下さい』

「はああああああああ!?」

余裕がなかったのもあって、市香は思いっきり不満をぶち上げた。
こっちは涙目になりながら死にかけの班長を手当てしているというのに、黒野の声は涼やかだ。
向路の命などまるで忖度していないかのような物言いに流石の市香もビキっと来た。
しかしそれ以上黒野は何も言うことなく、無慈悲にも通信が途絶する。代わりに窓の外から何かが落ちてきた。

「な……なに……?」

それは、有り体に言えば、砂の山だった。
そしてそこから往年のゾンビホラーのように這い出してきたのは、人間の右手のみ。
『右手』は事切れた円治に飛びかかるとこれを補食し、その質量を使って分裂。
更に他の死体も食べては増力を繰り返し始めた。
その光景に、捕食の方法に、見覚えがあった。

「……雨場さん?」

しかし応えるように発せられた声は雨場のものではなかった。
つごう11人分の死体が片付くのと平行して、砂山が人の形を模し、本当に人になった。

>「お前を殺すのも、その後に『作り直す』事もそう難しい事ではないと覚えておけ。
 ……君は、流川、だったな。そこをどいてくれ、酷い顔色だ」

「お願いします、須波さん」

砂怪人こと須波獏は、別働班として任務に投入された黒野隊の実働官である。
任務前の顔合わせで既に面識のあった市香は素直に向路の隣を明け渡した。
肉体を砂に変えるとかいう、市香のパチモノみたいな能力だが実力の上では彼の方が遥かに上だ。
彼の砂は向路の傷にまとわり付くと、血を吸って肉に戻り、身体に空いた穴を埋めていく。

(こういう使い方、できるんだ……)

似た能力の市香にも再現可能な芸当ではあるが、『可能』と『容易』はまた別問題だ。
遺伝子の異なる肉体同士を結合させるには拒絶反応を考慮する必要があり、
市香にはまだそこまでの微細なコントロールができない。
実用レベルにまで練り上げられた性質変化の粋が、須波をプロたらしめている部分だ。
そして彼はもうひとつ、何らかの薬を向路の静脈へ注入する。

76 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/31(日) 05:41:30.96 0
>「昇圧剤だ。怪人由来の……まだ未認可のな。効かなかったら恨むぞ開発部……」

市香の体液で水増しした血液を、昇圧剤で強めた心肺能力で強引に巡らせる。
しばらくして、ようやく向路の呼吸が安定し始めた。
容態が持ち直した。市香は腰が抜けそうになった。

「よかったぁ――っぶしっ」

安堵に胸を撫で下ろす間もなく大きなくしゃみを一つ。
全裸のまま汗だくで処置していたので、身体が冷えきってしまっていた。
いそいそと服を着終わったところで、鳥籠の構成員が教室に入ってきた。

>「おい!一体何があった!」

「やっば――」

危惧していたことが現実になってしまった。
向路の治療で足止めを食っているうちに敵の増援を許してしまったのだ。
応急処置を終えたばかりの向路は当然戦闘には復帰できない。
敵は2人。味方は新免と須波と、雨場(右手)。心もとないが、やるしかない。
堅い唾を呑んだ市香が手元のパイプを握り締めると同時、死んだはずの円治が起き上がって喋り始めた。

>「……あー、わりーわりー。俺が勘違いしちまったんだ。ソイツらを、共生派の連中だって」

否、円治ではない。声は同じだが、あの間延びしたような口調がない。
おそらく骨格レベルで変装できる雨場だろう。
鳥籠構成員達は納得したらしく、呆れたように円治を睨めつけた。

>「お前……彼らは商会の人間だぞ。岩倉から何も聞いてなかったのか?なんて事を……」
>「怪我は……大丈夫か?……すまないな。補償はさせてもらう。が……こちらが飲める程度のものにしてくれよ」

先方はどうやらことを荒立てたくはないようだ。
こちらを気遣うような言葉と視線の裏には、自分たちへの上司への怖れが色濃く見えている。
市香も似たような境遇だから間違いない。

>「……じゃあ、悪いけどとりあえず水と食べもの、貰っても良いかな」

「向路さん、気がついたんですか」

彼の言葉はそれこそ蚊の鳴くような微かなものだったが、確かに声を発した。
とは言え満身創痍には変わらず、小腹満たしている場合じゃ全然ないのだが、その謎のマイペースさに市香は幾分か救われた。
少なくとも、もうパニックになることはない。
向路は一度だけこちらを見て、そして瞠目した。あとは任せたと、そういうことらしい。
だから市香は、思いっきり自分を出すことにした。

「全っ然……大丈夫じゃないんですけおおおおおおおおっ!!」

本日三度目の怒声を浴びせたのは、もちろんやってきた後詰の鳥籠二人である。

「こっちは死にかけの怪我人まで出てるんですよ!?一般的に考えて上司が出てきて土下座案件でしょうが!!
 見りゃーわかると思いますけど御社の円治さん、一方的にボコって来たんですからね!
 まずそちらの方にケジメつけてもらっていいですかね!」

77 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/05/31(日) 05:42:07.54 0
市香が円治を引き合いに出したのは、増援の二人の負い目につけ込む為だ。
円治が一方的に商会のメンバーを攻撃したのは、(円治だけ無傷の)状況を見れば明らかだ。
そして円治自身からも、勘違いで攻撃したという言質はとれている。
普通の違法組織なら、この時点で増援二人は円治に対して何らかの制裁行為を行っているべきなのだ。
それがケジメをつけるということであり、イリーガルな社会における仁義の切り方だ。
にも関わらず、二人は円治を窘めるだけで自分たちの身銭を切る形での補償を提案してきた。

(弱いんだ……あの可変式デブ(故)よりもこの二人は、ずっと)

二人にとって、円治をツメるというのは今後の人間関係を考えて最も避けたい選択の一つのはずだ。
だから敢えて初めからそこに言及しておくことで、第二希望以下の要求を通りやすくする。

「まあわたしらも鬼じゃあありません。御社の戦力が減れば今後の商品供給にも影響が出ますからね。
 だからそれに匹敵する誠意を見せてください」

市香は歩調を意識しながら鳥籠の二人に歩み寄る。
脅しの効果はどうであれ、攻撃される心配がないなら堂々と振る舞うべきだ。
こちらは被害者で、お客様なのだから。

「いま、なにやら大事になってるみたいじゃないですか。
 さっきも共生派がどうたらとか仰っていましたけど、一体なんのことなんです?
 見慣れない人を問答無用で攻撃するほど厳戒態勢なんですか?怖いですねえー、ねえ?」

うち一人の肩に触れた。
もう逃げられない。
弱い立場の人間には徹底的に高圧的に振る舞えるのが流川市香という女である。

「安全な場所に案内してもらいましょうか。
 わたしらのバックに何がついてるかわかってますよね?
 それなりの待遇を希望しますよ……」

有事の際に絶対安全な場所など限られている。
戦闘職を有する組織においてそれは十中八九、『強力な護衛の庇護下』だ。
そして護衛専門の戦闘者が常駐している場所と言えば、つまりは要人の傍に他ならない。

組織の幹部クラス以上の居所と、鳥籠の戦力の上限。
両方を確認する為、市香は交渉を開始した。

【質問:この騒ぎは一体何?(脱走の現在の状況)、共生派って何?
 要求:安全な場所への案内】

78 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/04(木) 04:52:48.19 0
不動の一撃よりも疾く、大鳳は確かに一撃をその胴体に叩き込んだ。
その一撃には確実な手応えがあった。
筋を爆ぜさせ内蔵を揺らす、
大鳳がこれまで幾度となく立ちはだかる難敵に叩き込んでいた勝利の福音が
確かに聞こえていた――――だというのに、大鳳は今までにない威圧感を覚えた。

(なんですの……!この違和感は……!!!)

その違和感をかき消そうと、大鳳は耐性の崩れた不動へ容赦ない連撃を叩き込む。
後頭部への肘打ち、丸まった胴体へ潜り込んでの痛烈な掌打
頭部を掴んでの膝蹴り、背骨を叩きおらんばかりの踵落とし……
どれもこれも、まともに入れば確実に意識を刈り取り、命を奪えるに近い一撃だった。
その一つ一つに、一切の容赦も加減も無い痛烈な一撃だった。

しかし、不動は倒れない。それどころかその意志ははち切れんばかりに膨張していく。
その不動が不意に自身の身体を深く落とす。
その動作が不動の限界を告げる合図だとは、大鳳は露ほども思わなかった。
(これは、拙いですわっ……!!)
そう感じた大鳳は攻撃の手を即座に下げ、後方へと飛び下がる。

>「――ぜんっぜん効いてねえぞオラッ!そんなモンかよ超人!」

それとほぼ同時に不動は雄叫びをあげ大鳳へとその鉄のような身体を跳ね飛ばす。
幸いにも攻撃の予兆を感じ取っていた彼女にとって、それを避けるのは難しいことではない。
いくら狭い坑道と言っても、横に跳び避けるだけの幅は十分にあるからだ。

「生憎と、そんな直線的な攻撃に当たるほど愚かではありませ―――ッッ!!」

だが、彼女は気づいてしまった、自身の後方には味方がいることにだ。
不動という男のこれまでの言動を鑑みれば、現状自分と戦っている時に二人をわざわざ襲うとは考えにくい。
だがそれは襲わないというだけであり、伏見たちが安全というわけではないのだ。
仮にこのまま不動が止まらずに、目の前にある二つの障害を弾き飛ばしてしまっても、何の良心の呵責も起きないだろう。
そもそも不動は伏見も試す気でいて、元々二人同時に相手にするつもりでここに構えていたのだ。
目の前に標的がいるのであれば、大鳳との戦いの合間に軽く実力を測ろうとしてもおかしくない。

79 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/04(木) 04:53:20.51 0
(私としたことがっ……、とんだ失態ですわ!!)
そうやって思考を巡らせているうちにも、死を招く砲弾は動きを止めることはない。
大鳳は覚悟を決めたように半歩後ろに身体を傾け、不動に対して構える。
次の瞬間、不動は軌道を変え坑道の壁へと激突していた。
「……っっつぅ!流石に無傷とは行きませんわね……!!」

この時大鳳は身体の全体を、そして生存本能を弱化させ全身を弛緩させ、の分で視力と反応速度を強化していた。
彼女程度の肉体強化では、砲弾と化した不動を受け止めきれないと判断し敢えて弱化することにより、不動を力を誘導し曲げたのだ。
つまるところ合気や消力の真似事をしたのだが、その代償は大きい。
いくら再現したところで所詮真似事であり、不動の力を少しでも受けたという事実は変わらないのだ。
結果として受けに使用した左腕の骨は弾け飛びこそしないものの折れており、掌に至っては粉砕骨折に等しい。

……冷静に考えれば、仮に不動が伏見たち狙ったととしても伏見の怪人特性を考えればどうとでもなるなんてことはすぐにわかる。
伏見とて馬鹿ではない。まだ利用価値のある同行している少女をここで見捨てたりはしないだろうし
少女を庇い不動の突進を一身に受けても、伏見であればなんてことはなく再生が可能だ。
はっきり言ってしまえば、大鳳の今の行動は無駄でしかない。
それこそが大鳳の最大といっていいほどの弱点だ。
それでも大鳳は動いてしまった、大鳳という人間は非情に徹するを由としなかった。

「さて……どうしますかね……!!」
洞窟を呻らせ坑道へと突撃した不動を前に、大鳳は左手の先ほどの戦いで破れたスカートできつく縛りながら、思考を巡らす。
不動のあの異常な回復力を見るに、能力はおそらく肉体変化と身体強化。
高速で再生しつつ、痛みを麻痺させているのかは定かではないが、ともあれ確かめる必要がある。
「手数が減ったのは痛いですが……!!」


どんなに鍛えた猛者であろうと、皮膚には神経が通っている。神経の強度を鍛えることはできない。
皮膚を震えさせその痛みが伝播すれば、いかに鋼のような肉体を持ってしてもその痛みに耐えるのは困難だ。
もっとも、岩男のように全身を岩鉄で包んでしまえば話は違ってくるだろうが
先の手応えからそのような気配は感じなかった。
大鳳はこちらへ向き直るであろう不動が振り向く瞬間にあわせ呼吸を整え
不動の体へと痛烈な平手打ちを叩き込む。

【不動の体へ鞭打。とりあえず相手に確実に痛みが入っているのかの確認も兼ねて】

80 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/05(金) 05:20:25.23 0
>「……じゃあ、悪いけどとりあえず水と食べもの、貰っても良いかな」

「分かった。……だが食用人間は今、無闇に数を減らせる状況じゃないんだ。
 ひとまずは普通の携帯食料で勘弁してくれ。事が落ち着いたら、また改めて提供させてもら……」

>「全っ然……大丈夫じゃないんですけおおおおおおおおっ!!」

鳥籠構成員の言葉が終わるのを待たずに、流川の怒声が響いた。

>「こっちは死にかけの怪我人まで出てるんですよ!?一般的に考えて上司が出てきて土下座案件でしょうが!!
  見りゃーわかると思いますけど御社の円治さん、一方的にボコって来たんですからね!
  まずそちらの方にケジメつけてもらっていいですかね!」

「……あー、まぁ、やらかしちまったのは俺だし。……俺は構わねーけど」

「円治、少し黙っててくれ」

>「まあわたしらも鬼じゃあありません。御社の戦力が減れば今後の商品供給にも影響が出ますからね。
  だからそれに匹敵する誠意を見せてください」

「……もっと、具体的な案が既にあるんだろう。それを聞かせてくれ」

>「いま、なにやら大事になってるみたいじゃないですか。
  さっきも共生派がどうたらとか仰っていましたけど、一体なんのことなんです?
  見慣れない人を問答無用で攻撃するほど厳戒態勢なんですか?怖いですねえー、ねえ?」

「……共生派が、アンタ達の安全を脅かす事はない。奴らにそれ程の力はない。
 だが……だからこそ、見くびり過ぎた。勿論、そんな事はアンタ達には関係ない。
 分かってる。望むなら、ちゃんと説明しよう。しかし、まずは……」

>「安全な場所に案内してもらいましょうか。
  わたしらのバックに何がついてるかわかってますよね?
  それなりの待遇を希望しますよ……」

構成員二人はそこで一度口を噤んで――眼を見合わせた。
それから「ちょっと待ってくれ」と流川達に断り、小声で会話を始めた。
そして、

「……分かった。丁度、アンタの要望を全て満たせる場所がある。そちらに案内しよう」

流川の提案を快諾した。

「だが、今はまだ出来ない。重ね重ねこちらの都合で申し訳ないんだが、今は本当に立て込んでるんだ。
 まずは……それと、共生派についての説明をさせてくれ」

それから鳥籠構成員の一人は向路に提供する食料を取りに向かった。
もう一人は、君達をひとまず事務室へ案内すると言った。

「……流川君、君は」

その道中で、不意に岩男が声を発した。

「……君は、どっちの君が、本当の君なんだ?
 向路先輩が死にかけて……泣いていた君と、今の高圧的な……まるで悪女のような君と。
 俺には……分からない……」

任務とはまるで関係のない戯言だが、岩男は本気で言っているようだった。
円治が死に、向路が死にかけてから、彼は明らかに困惑している。困惑し続けているようだった。

81 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/05(金) 05:21:58.31 0
ともあれ、流川達は事務室に到着して、食事を提供される。

「まず、どこから話そうか……そうだな。『鳥籠』はずっと前から人身売買を生業としてきたんだが」

それから改めて、構成員は口を開いた。

「昔は、今みたいに誘拐などはしていなかったらしい。
 ひ弱で、自力では生きていけない人間を一時的に保護し、人間好きの怪人の保護下へ送る……
 その仲介業者としての性質が強かったそうだ」

だが、と言葉が繋がれる。

「そんなボランティアじみた活動じゃ、今の世の中を生きていける訳がない。
 『羽持ち』様はもっとビジネスを重視すべきだと考えて……その結果、内部抗争が起こったんだ。
 結果は、まぁ『羽持ち』様が勝ったんだが……その時の残党が『共生派』って訳だ」

一呼吸置いて、説明は更に続く。

「要するに、奴らは組織人としての責任感に欠如した妄想野郎共って事だ。
 組織を保ち、構成員を生かしていく事を放棄して、人間なんぞの為に働こうだなんて、イカれてる」

そこで一度言葉は一区切りを迎えて――少し間を置いて、男は呟く。

「『共生派』を率いているのは羽持ち様の、鳥籠発足当初からのご友人らしい。
 山に逃げた連中を野放しにしているのは……きっと羽持ち様にも思う所があるからなんだろう。
 ……これは余計な話だったな。忘れてくれ」

とにかく、と仕切り直しが入る。

「正直に言って、共生派の連中がアンタ達に危害を及ぼす事はないだろう。奴らにそんな力はない。
 勿論、それを理由に安全な場所への案内を断るつもりはないが……。すぐに案内出来ないのはちゃんと理由がある」

と、そこで男の懐から電子音が響く。携帯電話の通知音だ。
男はもう一人の構成員にその携帯を投げ渡す。

82 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/05(金) 05:22:33.75 0
「……どこまで話したんだったか。あー……あぁ、案内出来ない理由だったな。
 明日、俺達は上客を招いて見本市を開くんだ。それで最近は忙しく動き回っていたんだが……
 そのせいで共生派に何かあると悟られてしまったらしい。今回の騒動はそのせいだ」

長い説明に、男が一度お茶を口に含んで喉を潤した。

「……正直に言って、俺達は奴らを完全に見くびっていた。
 鳥籠様の温情で生き残れている程度の奴らが、何かを仕掛けてこれる訳がないと。
 結果として、奴らのせいで食用人間のおよそ七割ほどが脱走した。
 愛玩人間や商業用人間も、食用ほどじゃないが逃げられている」

思わず、男の口から嘆息が漏れた。

「数が足りないんだ。既に成約済みだった商品が逃げ出さなかったのは不幸中の幸いだが……
 このままでは鳥籠の信用に関わる。なんとしても商品を連れ戻さなくてはならない。
 だから、まだ案内は出来ない。……と、ここまでが理由の説明だ」

そして、と男は続けた。

「これは提案なんだが……もし可能なら、手伝ってくれないか。逃げた奴らの追跡を。
 円治に本気で攻撃されて生きていられるって事は、アンタ達相当出来るんだろう」

「ま、俺はまだ本気じゃなかったけどな」

「黙ってろ、円治。……どうだろう。どのみち、まだアンタ達の持ち込んだ『商品』の真贋も確認が取れていない筈だ。
 勿論、仮にこの提案を蹴られたとしても、俺はちゃんとアンタ達を安全な場所に案内する。
 明日の見本市の会場だ。安全は保証する……なにせ羽持ち様がいるからな」



【提案
 話の都合とか特にないのでぶっちゃけ蹴ってもよし】







「――なぁ、君。逃げた人間達は……それを連れて行った怪人は、何か言っていたんじゃないのか。
 例えば……君達を安心させる為に、具体的な逃走プランを教える、とか」

もし向路と流川が提案に乗った場合、岩男は唯一生き残った人間にそう尋ねるだろう。
『回収』に同行し、人間達に追いついた後で鳥籠構成員を始末すれば、『共生派』と接触する事が出来ると判断したのだ。
共生派への期待が、困惑した頭を一時的にだが正常にしてくれたらしい。

人間は
「奴らは川を使うと言っていた。そうすれば感覚強化に長けた怪人でも追ってこれない。逃げ切れると言っていた」
と答えた。

破られたフェンスの奥には、確かに川がある。
校舎からは見えないが、その川は何度も枝分かれを繰り返している。
ファームの傍にまで流れてきているのは、末端の一つに過ぎない。

そこを暫く昇って、分岐を幾つか越えてから山に入れば、嗅覚に優れた怪人でも、確かに追跡は出来ないだろう。
だが――それはあくまで怪人特性を用いるだけでは追跡出来ないというだけだ。
自然の中での『逃走』には必ず『痕跡』が伴うものだ。

83 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/07(日) 04:45:39.19 0
渾身の力で放った突進をいなされ、壁に激突した不動は――満面の笑みを浮かべていた。
体の随所に内出血によるアザを浮かべていながら、その表情が苦痛に歪む気配はない。

「いいぞ!今のはマジでいい!テメェが力だけが取り柄のつまんねー奴とは一味ちげーとは聞いてたがよ!
 今のをいなしてくれるたぁ思わなかったぜ!だがこれで終わりじゃねえよな!もっともっと……」

壁に半分減り込んだまま、不動は喜々として捲し立てる。
そして大鳳を振り返り――渾身の平手打ちがカウンター気味に打ち込まれた。
肉体ではなく、神経へのダメージ――『痛み』を与える事に特化した一撃。
胸部の皮膚が一斉に爆ぜたと錯覚するほどの激痛が不動を襲う。

「いってええええええええ!クソ!クソ!めちゃくちゃ痛え!……けどそれだけじゃねえか!効かねえなぁ!」

神経伝達や脳内物質を制御出来なければ防御し得ないそれを、不動は堪えた。
どうやって――ただの気合だ。つまり痩せ我慢である。
噂に名高い超人――強者との戦闘が彼の神経を昂ぶらせ、痛みを鈍らせていた。

「オラ!まだまだやれんだろ!?もっとスゲーの叩き込んでこいやコラ……あ?」

その昂ぶりのままに不動は大鳳を睨み――使い物にならなくなった彼女の左腕を目にした。
瞬間、不動の表情が唖然に染まり――それはすぐに激憤へと変貌した。

「はぁあああああああああああ!?ばっかじゃねーのお前!?」

不動は構えを解き、棒立ちになっていた。
筋肉も弛緩しきっていて、既に戦闘態勢ではなくなっている。
それほどまでの落胆が彼を襲っていた。

「はぁああああああああああ……いや、ないわ……それはないわ……。
 どうすんだよその左腕……気合でどうにかなるモンじゃねえだろ……マジがっかりだわ……」

不動は深く溜息を吐き――それから大鳳が庇った二人を見た。

「そもそもよぉ!お前らがんなとこいっからこんな事になっちまったんじゃねえのコレ!?
 邪魔臭えんだよ!守ってもらえなきゃ生きていけねえならお外出てくんじゃねえよ馬鹿!死ね!」

瞬間、彼の筋肉が再び隆起する。

「つーか殺すわ。マジざっけんな」

そして双眸を血走らせて伏見と兎耳の少女へ足を踏み出し――

「――やれるモンならやってみろバァカ!」

機先を制するように伏見が大鳳の背後から飛び出した。

「小娘見てろよ超人!巻き添えったら死ぬぞ!」

だが――少女の口元は血で汚れていた。伏見の血だ。
既に不死化は貸し与えられている。
死ぬぞ、と言えばそちらを気掛けずにはいられない大鳳の意識を制限する為だけの言葉だった。

先手を取る形になった山刀の一撃は――不動に容易く受け止められた。
伏見もそれなりには肉体強化を収めているが、特化型には遠く及ばない。
不動にとっては、伏見の一撃など止まって見えただろう。

「うし、手間が省けた。んじゃ殺すわ」

不動は伏見を強引に引き寄せ――まず右腕をもぎ取った。
それから彼女を壁に押し付け――背中で押し潰す。潰し続ける。

84 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/07(日) 04:46:44.89 0
「手ぇ出すなよクソ超人」

しかし伏見の威勢は衰えない。
もっとも、大鳳がいかなる妨害を行おうとも、不動はそれを物ともしないだろうが。

「ま、私じゃコイツ相手にはどう頑張ってもこうなるよね。
 一応奥まで逃げ込んで空気循環器ぶっ壊してから死ぬまで足止めとかも考えたけどさぁ。
 百回やって一回上手くいきゃ良いとこだよね。そもそもその過程で間違いなくその子死ぬし」

頭を押し潰されながらも、伏見は平然と喋り続ける。

「そんくらいアンタでも分かるよね?そこまで馬鹿じゃないよね?
 なのになんだよそのザマ。私の特性を知っててなんでそんな事した訳?
 自分からその子私に任せたくせに?死なないのは分かってるけど痛い思いするのは可哀想って?」

そんなんだからアンタが嫌いなんだよ、と伏見は続けた。

「お前がやってんのは正義でも有情でもなんでもないね!ただの不信だ!この英雄症候群の死にたがり――!」

伏見の言葉を、ぐちゃり、という水気を帯びた音が断ち切った。

「あー……どうよ、超人。ぶっちゃけコイツが何言ってたのかサッパリ分かんねーけどよ。
 これでちったぁやる気出たんじゃねえの。手加減してやっからもうちょい遊ぼうぜ。
 ちなみにつまんなかったら次はそっちのガキぶっ殺すからな」

背中に付いた血と肉片を別の場所の岩壁に擦りつけながら、不動は大鳳を見た。。

「おう、とりあえず俺も片腕だけでやってやるよ。んじゃ行くぞ、おらよっと――!」

そう言って右拳を放つ不動の表情に――最早獰猛な笑みはない。
その表情は例えるなら――黙々とトレーニングに勤しむ時のような、真剣ではあるが機械的な顔。
つまり不動の中で大鳳は既に、自分に適度な負荷をかける為の道具に成り下がっていた。

拳の暴威は未だ健在――だが露骨なまでのテレフォンパンチだ。
これなら右腕一本でも凌げるだろ、今度こそちゃんと避けて反撃してこいよ、という不動の意図が滲み出ていた。



【超絶やる気なしテレフォンパンチ】

85 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/06/12(金) 09:15:51.04 0
>「分かった。……だが食用人間は今、無闇に数を減らせる状況じゃないんだ。(略)事が落ち着いたら、また改めて提供させてもら……」
>「全っ然……大丈夫じゃないんですけおおおおおおおおっ!!」

向路が構成員へ一言返す前に流川の絶叫が教室に響く。
思わずビクリと身を竦ませて、全身の痛みに声にならない呻きを発する羽目になった。

>「いま、なにやら大事になってるみたいじゃないですか。(略)怖いですねえー、ねえ?」

その間も流川はやってきた構成員相手に
堂々とした態度で恫喝をしていく。
短期的には隊長格に匹敵する程のスペックを叩き出すあの過剰燃焼怪人をも駆け引きのネタにしていく様は自信に満ち溢れている。
自分達が相手より強い立場にいると確信していなければこのような態度は取れないだろう。
向路の目線では敵性怪人達は全くの無傷で映ったために自分達は敗れたのだと認識していたので、この流川の態度は妙に思えた。
過剰燃焼怪人がこちらを庇うような言動を取ったこと、始めに向路に襲いかかった敵怪人が何も言わないこと。これらもだ。
流川と構成員の会話を聞きつつ思考を整理していく。
もし、自分の記憶と認識が全て事実として起きたことならば、……やはりこの人間や敵性怪人達と、自身に施された応急処置が分からない。
とにかく頭が回らないので後で流川に聞くとしよう。
丁度流川の方も一段落ついたようだ。

>「……分かった。丁度、アンタの要望を全て満たせる場所がある。そちらに案内しよう」

「悪い、ちょっと手伝ってくれ」

流川と新免に手を借りて立ち上がり、そのまま体を支えられながら構成員の後を着いていく。
ダメージもあるが、なによりガス欠状態で回復すらままならない。酷い頭痛と立ち眩みで、吐かずにいるだけ頑張っている方だと珍しく自分を誉めてやりたくなった。
と、この移動時間も無駄には出来ない。

「ん゙……っと、さっきの教室でなにがあったか簡潔に教えて貰って良いかな。
 触手の群れまでは、僕と君達の記憶に相違ない?
 ないなら、……なんで僕らは、生きてたんだ?」

聴覚強化の怪人を警戒し、小声で2人に自分がぶっ倒れてる間になにがあったのかを問いかける。
僕らとは向路と敵性怪人、そして人間達のことだ。

と、そうこうしているうちに目的の部屋に辿り着いたらしい。

86 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/06/12(金) 09:21:28.92 0
 
>「まず、どこから話そうか……そうだな。『鳥籠』はずっと前から人身売買を生業としてきたんだが」

部屋に入ると崩れるように座り込み、用意された食事に手を付ける。
味も素っ気もない携帯食料をしっかりと咀嚼し、水で流し込んでいく。
とにかく今必要なのは体を動かすためのカロリーと血肉を補うためのタンパク質、そして水。
胃が受け付けなくとも、どうにか戦える状態にまで体を戻さなくてはならない。
ここは敵地であり、今は班を預かっている以上、部下を生きて帰すことが最低限の義務だ。
向路の肉体変化のリソースは雀の涙ほどしかないが、それでも先程まで優先的に内蔵を補修していた。
肉体強化によって消化器系の機能をブーストし、食べた先から肉体の修復へと回していく。
伏見や雨場の再生速度とは比べることも出来ないが、小一時間で怪人特性を十分発揮出来る程度に回復するだろう。
男の話を聞きながらも手と口は忙しなく動き続ける。

>「そんなボランティアじみた活動じゃ、今の世の中を生きていける訳がない。…(略)…その時の残党が『共生派』って訳だ」

……成る程、以前の『鳥籠』も人間に対して怪人を上に置いていたようだが、故にノーブレス・オブリージュとでもいうのか、救いを求める人間達へ救済を行っていたようだ。
しかし男が言うように、潤沢な資金でもなけら無理のある活動だったのだろう。 

>「要するに、奴らは組織人としての責任感に欠如した妄想野郎共って事だ。(略)…人間なんぞの為に働こうだなんて、イカれてる」

彼の言い分はもっともだ。まず自分達が満足に生きれないのでは、他人に施しなどしていられない。
……しかし、そんな慈善組織へ身を寄せたのは己の筈だ。
そして、今の『鳥籠』の行いを正当化することは出来はしない。

>「正直に言って、共生派の連中がアンタ達に危害を及ぼす事はないだろう。(略)すぐに案内出来ないのはちゃんと理由がある」

これまで何度か聞かれた共生派を見くびる発言は、個々の特性以前に内部抗争に勝利したことから来ているようだ。
共生派はついさっきにも見張りを殺し、集団脱走を引き起こしているというのに、見下した目線は変わらないらしい。
向路はこういう手合いが嫌いだった。

>「……どこまで話したんだったか。(略)そのせいで共生派に何かあると悟られてしまったらしい」

明日の人身売買見本市。
きちんと通信機を通じて黒野や喝堂へと聞こえただろうか。
上手くやればかなりの人数を摘発できる筈だ。
逸る気持ちを落ち着けようと、向路も水を大きく一口分飲み込む。

>「これは提案なんだが……もし可能なら、手伝ってくれないか。(略)…アンタ達相当出来るんだろう」

そのままなにかしらの追加情報を待っていたら、相手は図々しくもこちらをパシリに使いたいと言い出した。
勿論断っても良いが……先程共生派のトップは『羽持ち』と親しかったと聞いたことを思い出す。
袂を分かって久しいだろうが、接触出来ればなにかしらの情報が得られるかもしれない。

>「黙ってろ、円治。……どうだろう。(略)安全は保証する……なにせ羽持ち様がいるからな」

どうしようか決め倦ねていたが、男の言葉に更に考えさせられる羽目になった。
今『羽持ち』と接触するのは不味い。それがまず頭に浮かんだ。
もし、こちらの羽持ちこと鳴上雷花のようにポリグラファーのようなことが出来てしまえば、折角掴んだ情報がパーになるどころでは済むまい。
なにより今の向路はお荷物だ。この状態ではもしもの場合に流川と新免を逃がすことも出来ない。

「……俺としては、間違えられてボコボコにされた恨みもあるからな。共生派の連中を探してやりたい。
 それと、共生派の連中が驚異にならないっていうなら、わざわざ明日の準備で忙しいところに邪魔するのも悪い。
 車に置いてきた連中と合流してそっちで休んでも変わらないだろ。
 ……2人はどう思う?」

問いかける形で流川と新免へ言葉を投げるが、これはつまり『羽持ち』を避けたいという意思表示だ。

【回収に同行する意志を見せつつ、羽持ちから逃げたい】

87 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/12(金) 16:29:25.43 0
>「いってええええええええ!クソ!クソ!めちゃくちゃ痛え!……けどそれだけじゃねえか!効かねえなぁ!」

(痛みは通っている……それは間違いないですわね。つまりこれは……)
大鳳の一撃を受け痛みを露にし、それでも狂喜している不動。
それの光景を目の当たりにした時、大鳳はある感情を抱いた。
(この男、少し私と似ていますわね)
敵との戦いを楽しみ、その興奮で痛みすらも悦楽へと変化している。
つまるところ、気合と根性、そういう類のバカなのだ。

不動のことを分析しつつ、左上でだらりとぶら下げながらも、構えている時
こちらに振り返った不動の表情が露骨に変化した。

>「はぁあああああああああああ!?ばっかじゃねーのお前!?」

「…………は?」
余りにも突然すぎる不動の嘆きに、大鳳はしばしの間唖然とした。
なにせこの状況で力を緩めきって落胆するなどという行為が、大鳳には理解できなかった。

>「はぁああああああああああ……いや、ないわ……それはないわ……。
 どうすんだよその左腕……気合でどうにかなるモンじゃねえだろ……マジがっかりだわ……」

「いくらなんでも、その態度は頭にきますわよ……!!」
自分が不動より劣っているであろうことは理解できている。
だがそれでも、これは情けなんて存在ない戦闘のはずだ。相手が怪我したらのならそのままそこを突けばいい。
それなのにそれをしない、つまり不動にとってこれは戦闘ではなく、どこまで行ってもお遊びだったということだ。
(前言撤回ですわ。私はここまで傲慢ではありません……!!)
仮に大鳳が不動の立場だったとしても、こんな相手を侮辱するような真似はしない。


>「そもそもよぉ!お前らがんなとこいっからこんな事になっちまったんじゃねえのコレ!?
 邪魔臭えんだよ!守ってもらえなきゃ生きていけねえならお外出てくんじゃねえよ馬鹿!死ね!」
>「つーか殺すわ。マジざっけんな」

「そんなこと、させるわけが――――」
その動きを察知した大鳳が不動を止めようと踏み出そうとした刹那
>「――やれるモンならやってみろバァカ!」
大鳳よりも先に伏見が不動へと飛びかかった。

88 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/12(金) 16:29:51.06 0
「なっ、凶華貴女何をっっ!!」
>「小娘見てろよ超人!巻き添えったら死ぬぞ!」

咄嗟に伏見のフォローに回ろうとする大鳳の動きを読んでいたかのように
伏見は最善の一言で大鳳の足を止めた。
それとほぼ同時に、不動は伏見の腕をもぎとり、その体躯で彼女を圧殺しようと壁に押し付ける。
「凶華!!!」
その光景を見て、助けないという選択肢は大鳳に存在しない。
伏見を救出しようと駆け出す超人を、またも伏見は制止した。

>「手ぇ出すなよクソ超人」
「しかし……!!」
それでも、今にも動き出さんとする大鳳に対し、伏見は話し続ける。

>「ま、私じゃコイツ相手にはどう頑張ってもこうなるよね。
 一応奥まで逃げ込んで空気循環器ぶっ壊してから死ぬまで足止めとかも考えたけどさぁ。
 百回やって一回上手くいきゃ良いとこだよね。そもそもその過程で間違いなくその子死ぬし」
>「そんくらいアンタでも分かるよね?そこまで馬鹿じゃないよね?
 なのになんだよそのザマ。私の特性を知っててなんでそんな事した訳?
 自分からその子私に任せたくせに?死なないのは分かってるけど痛い思いするのは可哀想って?」
>「お前がやってんのは正義でも有情でもなんでもないね!ただの不信だ!この英雄症候群の死にたがり――!」

そこまで言って、ついに伏見の言葉は途絶える。その光景を前にして、ついに大鳳は力無く頭を垂れた。
伏見の言葉は、痛いほど大鳳へと突き刺さった。
心の中で、伏見の言葉が正しいと思っているからこそ、大鳳の身体は動くのを止めたのだ。
英雄症候群で、死にたがりの……大馬鹿者だ。
(だから…………もう遅いかもしれませんが、信じさせてもらいますわ)
(どのみち、ここで使わなかったら待っているのは全滅でしょう……!!)

大鳳が顔を伏せている間に、不動は伏見だった血肉を壁に擦りつけ大鳳の元へと歩いていく。
それでもなお、彼女は顔を上げる事はない。上げることさえ億劫だった。
但しそれは、決して敗北を悟ったわけではない。ただの準備だ。
不動がやる気を喪失し、伏見の相手をしていたのが図らずの時間稼ぎとなったのだ。
そして、やる気なく機械的に動いていた不動だからこそ、直前まで大鳳の変化には気づかないだろう。
彼女の身体が紅潮しつつあることに……。

>「おう、とりあえず俺も片腕だけでやってやるよ。んじゃ行くぞ、おらよっと――!」
そのやる気のないテレフォンパンチが大鳳に当たる直前、彼女の身体が、右腕が動き不動の腹部を殴りつける。
それは最初に放った一撃と変わらぬ、不動にとっては平凡な突きだ。威力が跳ね上がっていることを除けば、だが。
(終わった後に動ける限界が10秒……ですが、本当に死に瀕するのは、果たしていつでしょうかね)
大鳳がこの状態の限界を10秒としているのは、あくまで訓練での自分の危機感によるものだ。
実際に破裂するのが1秒後なのか、はたまた20秒なのか、それはやってみるまでわからない。
最悪、本当に死ぬまでに伏見が血を分け与えてくれれば、どうとでもなる。
(こんなことなら先に……っていうのはいいっこなしですわね。お言葉通り、信用させてもらいますわ、凶華……!!)

「さあ、仕切り直しですわよ……!!!」
残り何秒持つかわからない、大鳳は体勢を崩した不動へと先ほどとは比べ物にならない一撃を叩き込もうと突貫する。
【文字通りデッドヒート開始】

89 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/13(土) 22:20:32.08 0
優れた肉体強化型の怪人は、総じて筋力の強化のみに偏重しない。
その筋力を最大限活かす為の諸感覚にも気を配るからだ。

不動も例外ではない。
彼の強化された視覚と思考は、己の拳が大鳳へ届く一瞬にも満たない時間の中で、彼女の異変を捉えていた。

(あぁ?なんだぁ?その色……肉体強化、だよな?
 まぁ……なんでもいいぜ。やる気になったと捉えさせてもら――)

気付けば大鳳の拳が再び不動の腹に減り込んでいた。

「ごっ……が……」

不動の口からくぐもった悲鳴と、鮮血が零れる。
油断はしていた。手も抜いていたし、気も抜けていた。
だが――そんなのはいつもの事だ。彼が本気で敵と戦う事など滅多にない。
それでも、吐血させられるなんて事は数えるほどしかなかった。

(いつ、以来だ……血ィ吐くなんざ……あぁ……『アイツ』とやり合った時以来じゃねえの……?)

意思に反して折れ曲がろうとする体勢を、裂けた腹筋を固めて無理矢理保つ。
そして大鳳を見た。その表情には決死の意志が宿っている。
この飛躍的な筋力の向上には、相応のリスクがある――それを察せない不動ではない。

「――やるじゃねえか!超人!いいぞ!」

不動の表情が、再び嬉々に染まる。

「これなら……特性を使っても、楽しめるってモンだぜッ!!」

そして――瞬間、不動の肉体が隆起した。
内出血によって生じた無数のアザが消えていく。再生しているのだ。
だがただの再生ではない。

千切れた筋肉はより太く。破れた皮膚はより強靭に。
摩耗した神経はより図太く。傷んだ内蔵はより頑丈に。

それが不動の体質であり、怪人特性。
彼の全身は『筋肉』と同じ性質を持ち――故にあらゆる部位が『超回復』する。
負荷が掛かり、傷ついた分だけ、より強く再生するのだ。

「オラッ!もっとだ!もっと死ぬ気でかかって来いや!
 こんなモンじゃよぉ……またスクワット始めちまうぜ!俺ぁよぉ!!」

不動は両手を頭上に掲げ、仁王立ちで大鳳の攻撃を受け続ける。
一撃一撃が必殺の威力を持つ打撃群を全て堪え、再生し続ける。
そうする事で『超回復』は加算されていく。そして――

「行くぜ、超人。お前相手じゃ『全力』は出せねえけどよ。『本気』でやってやるよ」

不動は全身が『筋肉』だ。負荷を掛ければ掛けるほど、より強く回復する。
負荷とは、ダメージだ。
つまり敵が強ければ強いほど多くのダメージを受け、彼の『全力』は上昇していく。

だが筋肉は、長期間負荷を掛けずにいると衰える。
彼にとって『全力』とは――自分の意思で出せるものではない。

90 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/13(土) 22:21:51.12 0
かつて自分に限界まで負荷をかけた男を、不動は思い出す。
同時に思う。大鳳ではそこまでは――自分の『全力』には届かない。
だが、それでも――彼女は強い。十分に楽しませてくれた。『本気』を出すには値する、と。

「今度は、がっかりさせてくれんなよ」

不動が右拳を大きく振り被る。そして――全力で突き出した。
それはパンチと言うよりも、ラリアットのような軌道だった。
腕で薙ぎ払い、それを避けられても体ごと相手にぶち当たる、二段構えの攻撃。

それは、ある意味で究極のカウンターだ。
大鳳の強さが、今まで打ち込んだ全ての打撃が、そのまま不動の強さと化して上乗せされているのだから。



【本気アタック】






(……あんなんあるならさぁ、もっと早く言えよな、あのバカ……!)

辛うじて再生した頭部と片目で見た光景に、伏見が毒づく。
言葉は出ない。まだ喉も肺も再生出来ていないのだ。出る訳がない。

(ホウレンソウは社会人の基本だろうが!まずそういう能力があるって報告して、
 これから使いますって連絡して、どうして欲しいか相談してこいよ!
 よりにもよって私がこんなにやってからそんな見るからにヤバそうなの使いやがって!どうすんだよ援護!)

組織の完全に潰れた肉体を再生するにはそれなりの時間がかかる。
取れる行動は、限られていた。

91 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/16(火) 16:31:36.12 0
大鳳の必殺の打撃を受け、血反吐を吐く不動に対し容赦のない連撃を加えていく。
一撃一撃、手を抜くことなんてまるでない、限界突破の連撃を見舞っていく。
打撃が当たるたびに、不動の身体を破壊している感覚が伝わってくる。
だが……それでも大鳳は手を緩めることは無い。

(手応え有り……ですがまだですわ!!)
>「――やるじゃねえか!超人!いいぞ!」
>「これなら……特性を使っても、楽しめるってモンだぜッ!!」


殴られているその最中、唐突に不動の体が膨れ上がる。

「やはりそういうことでしたかッッ!!!」

大鳳の察し通り、不動の能力は再生だった。
しかもその度に相手の身体は強大になっていく。
つまるところ不動の能力はただの再生ではなく、言ってみれば超回復。

(なるほど、道理で『不動』なんて異名がつくわけですわね……!!)

相手の一撃を耐え切り、すぐにそれ以上の力を持って襲いかかる。
肉体強化同士の戦いであれば、これほど強大な能力はない。
なにせ耐え切りさえすればほぼ確実に相手よりも強くなれるのだから。
それがわかってなおも、大鳳は攻撃を止めない。

>「オラッ!もっとだ!もっと死ぬ気でかかって来いや!
 こんなモンじゃよぉ……またスクワット始めちまうぜ!俺ぁよぉ!!」

「そっちこそ私以外によそ見なんかするんじゃありませんわよ!!!」

ここで大鳳が手を緩めようなら、今度こそ不動はあの少女へと矛先を向けるだろう。
ただでさえ時間が無いのだ、自分から離れられるほんのコンマ一秒すら惜しい状況でそうなる事態は避けたい。
だがそれとは別に大鳳はこの状況を少なからず、心のどこかで楽しんでいた。
相手が自分より確実に強くなる、臨死の戦い――彼女はそれを望んでいる。
なにより大鳳はまだ勝機を見失ってはいない。

92 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/16(火) 16:32:32.23 0
そして、その時はついに到来した。

>「行くぜ、超人。お前相手じゃ『全力』は出せねえけどよ。『本気』でやってやるよ」
>「今度は、がっかりさせてくれんなよ」

そう宣言し、大鳳へと体ごとラリアットをぶつけてくる不動。
ラリアットを避けたとして、あの鉄塊の如き突撃を喰らえば今の大鳳とて無事では済まない。
よしんばその突撃を避けたところで、この時点で既に、自身が定めていた10秒という時間は過ぎている。
いつ心臓が破裂し、肉が千切れるかもわからぬ状況だ
なによりこの時限付きの強化が終われば、大鳳の肉体からは当分の間怪人として備えうる再生能力も喪う。
端的に言って詰みに近いのは火を見るより明らかだ。

(それを待っていましたわ…………!!!
 生憎と、相手が硬いケースを想定してない私ではありませんわ!!!)

そんな絶体絶命の状況で、超人は、大鳳は笑う。
その足裁きを見れば、大きく動く余裕がないのは明らかだ。
不動のラリアットが当たる数瞬前、大鳳はその力を視力と処理能力につぎ込み、不動の軌道をはじき出す。
そして最低限の動きでその腕だけを躱すことに専念し、残りの力で大地を踏み込み
その右手にて渾身のねじり貫手を放つ。
不動が大鳳の力を吸収してのカウンターを放つならば、こちらも同じように今の不動の力を利用するだけだ。
だからこその貫手、一点収束で一撃を叩き込む為にはこれが一番だ。
もっとも、相手を貫くには激突の衝撃でこちらの腕、ないし指が粉砕されず、尚且つ自身が衝撃を受け止めきれないといけないわけだが……。
その点先に左腕が潰れたのも怪我の功名だった。
もはや動かない左腕への供給を捨てたからこそ、その分のリソースをほかに回すことができた。

(狙うは心臓……!いくら再生するといっても、異物が入ったままでは再生はできないでしょうッッ)

だが、仮に貫けたところで不動のタックルが止まることはないだろう。車と同じでブレーキがかかろうと急に止まることはない。
言ってしまえばこれは相討ち上等の作戦だ。
大鳳に迷いはない、どの道ここで倒さなければ待っているのは全滅という結果のみだから。

【カウンターにはカウンター。貫手でそのまま心臓破壊を狙う】

93 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/06/21(日) 13:58:32.44 0
>「……分かった。丁度、アンタの要望を全て満たせる場所がある。そちらに案内しよう」

譲歩の引き出しに成功し、まずは一歩目の手応えに市香は内心拳を握る。
だがそれはぬか喜びだった。

>「だが、今はまだ出来ない。重ね重ねこちらの都合で申し訳ないんだが、今は本当に立て込んでるんだ。
 まずは……それと、共生派についての説明をさせてくれ」

(まだ何かあるのぉ〜〜?)

一枚岩じゃない過ぎる。
顧客ほっぽり出して人員を割り当てねばならないほどに緊急事態ということだろうか。
構成員に誘われ、市香たちはひとまず教室を辞することとなった。
道中、新免が戸惑いを隠せていない様子で声をかけてきた。

>「……君は、どっちの君が、本当の君なんだ?
 向路先輩が死にかけて……泣いていた君と、今の高圧的な……まるで悪女のような君と。
 俺には……分からない……」

「どっちもわたしです。相手によって態度を使い分けるのは社会人の常識ですよ、新免さん」

嘘をついた。どちらも本当の市香ではない。
真実の彼女とは、もっと利己的で現金主義で、自分さえ良ければ誰が悲しんだって構わないような人間だ。
だけどそれが市香を構成する全てというわけじゃあない。
仲間が死にそうになったら悲しいから泣くし、相手に非があれば態度だって大きくなる。
それらは、市香の本質と矛盾なく同居できる感情だ。

「むつかしく考える必要なんてありません。貴方の好きな方のわたしと付き合っていけばいいんですよ」

一行はやがて、事務室へと到着する。
そこで食事を振る舞われ上がら、今回の騒動の成り立ちを聞く運びとなった。

>「まず、どこから話そうか……そうだな。『鳥籠』はずっと前から人身売買を生業としてきたんだが」

その先の説明を、要約するとこういうことになる。
『共生派』とは、"鳥籠"の一派閥であり、本体と内ゲバ状態にある連中のこと。
鳥籠首領の"羽持ち"とは旧知の仲であり、故に獅子身中の虫を潰しあぐねているということ。
囚われた人間達を逃したのは『共生派』であり、そのせいで鳥籠の在庫が流出してしまっていること。

>「これは提案なんだが……もし可能なら、手伝ってくれないか。逃げた奴らの追跡を。
 円治に本気で攻撃されて生きていられるって事は、アンタ達相当出来るんだろう」

(生き延びたっていうか、ぶっ殺したんですけどね……)

ともあれ、幸か不幸か円治との対峙を制したことにより、市香達の実力について信頼が得られているようだ。
彼らは、上司と同様に、円治並の力を持つ市香達を怒らせることを恐れている。
この提案も、負い目のある状況で下手にフリーにして色々嗅ぎ回られるより、
いっそ自分たちの内部へ巻き込んで眼の届く範囲においておこうという判断なのかもしれない。

94 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/06/21(日) 13:59:05.04 0
「どうします、向路さん」

市香は頭を下げて向路に囁いた。
どう動くにしても向路の負傷はついて回るのだから、まずは彼の体調と相談すべきだろう。
動けないから休んでいると彼が答えれば、鞭打ってでも働かせるというわけにはいくまい。

>「……俺としては、間違えられてボコボコにされた恨みもあるからな。共生派の連中を探してやりたい。
 それと、共生派の連中が驚異にならないっていうなら、わざわざ明日の準備で忙しいところに邪魔するのも悪い。
 車に置いてきた連中と合流してそっちで休んでも変わらないだろ。 ……2人はどう思う?」

「わたしは異論なしです。ただし謝礼は弾んでもらいますよ。山狩りする為に岐阜くんだりまで来たわけじゃないんですから。
 ほんとこんな……人口ピラミッドが倒壊寸前のド過疎地域なんかに……」

市香は頭を上げて鳥籠構成員を見据えた。
とかく我々は"巻き込まれた被害者"という体を維持しなくてはならない。
幸いにもそういう被害者面は市香の得意技だ。世が世ならきっと百戦錬磨のクレーマーになっていただろう。

>「――なぁ、君。逃げた人間達は……それを連れて行った怪人は、何か言っていたんじゃないのか。
 例えば……君達を安心させる為に、具体的な逃走プランを教える、とか」

黙っていた新免が、生き残りの人質にそう尋ねた。
追跡のための手がかりを、生かしておいた情報源に求めたのだ。
向路が人間たちを身体を張って守ったのは、決して無駄ではなかった。

>「奴らは川を使うと言っていた。そうすれば感覚強化に長けた怪人でも追ってこれない。逃げ切れると言っていた」

「川……ですか。確かに校舎の裏手には山からの支流がいくつか流れてますね。
 匂い消しに水辺を使うのは逃走の定石、妥当なセンだと思います」

ということは川は歩いて渡れる程度の深さと幅なのだろう。
渡し船を予め用意できるぐらいザル警備ならもっと早く脱走が断行されていただろうからだ。
逆に、徒歩で渡河可能な川だけに絞れば逃走経路の割り出しは難しくない。

「地図と……それから足の早い兵隊を何人か貸してください。
 候補を絞って人海戦術で当たりましょう」

どうせ市香達に監視がつくだろうが、追跡ルートを分散させればその人数は減らせるはずだ。
特にいまは鳥籠も人手に余裕がない状況。
始末するチャンスはいくらでもあるし、その罪は共生派とやらに負わせれば良い。

「行くならとっとと動きましょう。
 日が暮れるまでに戻らないと、わたし等のボスにもどやされちゃいます」


【提案に乗る。地図と兵隊の貸与を要請】

95 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/22(月) 05:56:42.72 0
不動が『本気』で放った渾身の一撃を、しかし大鳳は見切っていた。
いや、読んでいた――待ち侘びていたと言うべきか。
最小限の動きで不動の剛腕を避け、貫手によるカウンターを被せてくる。

その動きを――超強化された大鳳の動作を追い続け、負荷を重ね続けた不動の眼は、捉えていた。
背筋に悪寒が走り、心臓が一際大きく跳ねる。
暴風の如き貫手が秘めた脅威を不動は察知していた。

「――っしゃああ!やってみろや超人!外すんじゃあねえぞコラァ!!」

その上で、彼は回避行動を取らない。
むしろ腕の軌道を更に大きく広げ、胴体を曝け出す。

瞬間――紅蓮の手刀の切っ先が、不動の胸に深く埋まった。
だが突撃の勢いは緩まない。
不動は大鳳もろとも壁に突っ込む。そのまま押し潰してしまえば彼の勝ちだ。

しかしそうはならなかった。
不動の足が不意にもつれ、倒れ込む。

「う、お、おぉ……」

図らずも大鳳を押し倒す形になった不動は、すぐに左手を地面に突いて上体を起こそうとする。
起こそうとするが――出来ない。
肘が意図に反して折れ曲がり、再び大鳳を挟んで地に伏した。

「は……は……やるじゃ……ねえか……」

心臓が再生出来ない。
酸素が体内に廻らない。
超回復によって強化された運動機能が、十全に発揮されずにいる。

不動は起き上がる事を諦めた。
右腕を自分と大鳳の間に差し込む。
そして前腕を彼女の首に強く押し付けた。
絞め殺すのではない。首を押し潰し、それから腕を引っこ抜くつもりだ。

「ぐっ……どうだ……よ……苦しけりゃ……逃げても……いいんだぜ……」

そう言われて逃げる大鳳ではない。
我慢と我慢の拮抗――だがそれは永遠には続かない。

「……こりゃ……やべぇ……な……」

大鳳を見下ろす不動の体が、がくがくと揺れる。

「超人……マジかよ……これほど……たぁ……思ってなかった……」

言葉はそこで途切れ――不動の体が再び地に伏した。
そして今度は、それきり動かない。
脈も呼吸も完全に止まり、瞳孔反応も無くなっている。
単純な肉体強化型の特性ではそれらを偽装する事は不可能だ。

つまり――不動は絶命していた。

「この……馬鹿……そういうのやるなら……先に……言っとけ……」

頭部から胸部にかけてと、右腕のみを優先して再生した伏見が地面を這いながら唸った。
大鳳の状態は良くない。恐らくは自分の血がなければ死に至ると伏見は直感していた。
だが遠い。完全に破壊された組織を無理矢理繋ぎ合わせただけの今の状態では、すぐには這い寄れない。

96 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/22(月) 05:57:32.39 0
「クソ……間に合わないんじゃないの……これ……!」

伏見が吐き捨てるように呟き――瞬間、少女が動いた。
口元の血を右腕で拭い、同時に大鳳に駆け寄り、その部位を口に押し付けた。
拭ったのは先ほど強引に飲まされた、伏見の血だ。

「ま……一応保険は掛けといたけどさぁ」

「……いきなり血ぃ飲まされたかと思ったら、今度はそれをこの人に飲ませろって。
 意味分かんなかったし、今でも分かんないけど……ホントにこれで大丈夫なのかよ?」

「んーん、全然」

「はぁ!?」

伏見の血肉は飲んだ相手を一時的に死なないようにするだけだ。
大鳳の超強化による反動は普通に発生する。
下手すれば突然落とした水風船のように爆ぜた大鳳に、少女は心底肝を冷やすだろう。

「あー、やっぱりそうなるんだ……でもま、とりあえず即死さえしなけりゃ、こうやってさぁ……」

ようやく一応の五体を再生し終えた伏見が、しかしまだ立ち上がれず座ったまま大鳳ににじり寄る。
そして自分の手首を噛み切って、血液の溢れる傷口を彼女の口に無理矢理押し付けた。

「大量に飲ませてやれば、この「死に続け」を起こしてる特性そのものを塗り潰せちゃうんだよね」

もっとも当分の間、大鳳は肉体強化をろくに使えなくなるが――
血の効果が切れた瞬間に死ぬよりはマシだろ、と伏見は思っていた。
実際にはどのみち反動で特性を使えなくなる為、関係ないのだが。

正直な所、伏見はこういった「自分の不死感染ありき」のやり方は好みではなかった。
緊張感がなくなるからだ。

(でもまぁ……今回はね?私が焚き付けた訳だしぃ……って、一体誰に言い訳してんだか)

自分の思考を誤魔化すように伏見は口を開く。

「それにしてもまぁ、アンタこれ、大手柄なんじゃないの?
 仮に鳥籠をぶっ潰してやれなくても、えーとなんだっけ?コイツの組織……なんたらだかには大打撃じゃん」

そう言ってから少女へ視線を向ける。
露骨なほど、凝視した。

「……いや、大丈夫だって。今のは聞かなかった事にするよ」

「よし、いい子だ。さて……そんじゃとりあえず、逃げようか。
 大鳳、アンタも一応私とおんなじ特性にはなってるけど、怪我を治すには食べ物が必要でしょ。
 私もぶっちゃけ今ハリボテ状態だし……まぁ、この子んとこに言ってみるのも悪くないかもねぇ」

喝堂達と合流したところで、大鳳と伏見の立場はあくまで「商品」だ。
「出品」され、深くまで踏み込んで捜査するにはむしろ合流せず、囚われの身のままの方が好ましい。
だがこうも二人揃って衰弱していては、いざという時にまともな働きが出来ない。

伏見は少女の耳を両手で抑えさせ、「そのまま」と手のひらで抑えるような仕草と共に言って聞かせた。

97 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/22(月) 05:57:50.50 0
「……とりあえず、あの子んとこで体治して色々探って、それから奴らにもう一回捕まっとこう」

それだけ言ってから、「よし」と頷いてみせた。

「ところで……アンタ立てる?……いや無理すんなやっぱ立たなくていいわ。
 もう少し、再生してからにしよう。あー、つーかソイツの死体食っちまえばいいんだ。
 アンタもどう?生でかぶりつく事になるけど……」

言いながら伏見は不動を振り返り――彼は立ち上がっていた。

「なっ……!」

咄嗟に飛び退こうとするが、出来ない。
それでもせめて先ほど落とした山刀へと手を伸ばそうとして――やめた。
そんな物でどうにかなる状況ではないと、直感してしまったからだ。

「まさかこれほどまでとは……思ってなかったぜ、『超人』」

不動の体は、赤く染まっていた。血液によってではない。皮膚全体が紅色に変化している。
その姿は――先ほどまでの大鳳の状態に酷似していた。
すなわち、極度の肉体強化による皮膚の紅潮。

「これが俺の『全力』だ。出したのは……出せたのは、マジで久々だな。礼を言うぜ。ありがとうよ」

不動の蘇生は彼の怪人特性による現象だった。
彼の特性は掛かった負荷の分だけ自身を超回復させる。
すなわち――『自身の死』という極大の負荷を特性によって打ち消す事。
それが彼が『全力』を出す為の条件だった。

伏見は動けなかった。
殺人鬼としての勘が、今の不動が『全力』かつ『本気』である事を告げていた。
攻撃は言うまでもなく、逃走の打ち合わせすら許されない。
それをした瞬間に全員が肉塊以下の、壁と床の汚れに似た何かにされる。
自分はそれでも生きていられるが――他の二人はそうではない。
再生も出来ず、不死が解けた瞬間に死ぬ状態にまで追い込まれれば、それは死んだも同然だ。

「――お前ら、逃してやるよ」

だが――不動は大鳳達を見て、そう言った。

「ただし、そっちの殺人鬼の方は駄目だ。そこのチビが、超人、テメェを連れて行く事だけを俺は許可してやる」

その口調は有無を言わせない。
当然だ。彼には物理的にそれを可能とするだけの力がある。

「殺されんのは……この全力の状態になるのは、本当に久しぶりだった。
 テメェは、ここで殺しちまうのは勿体無え。だからコイツは置いていけ。
 そうすりゃ……テメェは取り返しに来るしかねえ、だろ?」

不動は鍵山や少女と同じように、大鳳達がただの商品でない事を察していた。
二人の背後にある繋がりを。
しかし、彼にとってそんな事はまるで関係がないのだ。

「……行けよ、超人」

伏見がそう呟いた。

「引っ張ってけ、ウサ耳。私の再生が終わってないんだから、ソイツだってまだだからさ」

そうして大鳳は――坑道から山奥へと少女に連れ去られた。

98 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/22(月) 05:58:23.96 0
「……私は、謝んないからな。あの状況ならこうするのが一番だったって、私でも分かった」

坑道を出てから暫くして、少女が呟いた。

「一番だったけど……それで納得行かないのも、分かってるんだ。私も……そうだったから」

そしてそう続けた。

「……私達は、共生派って言ってさ。鳥籠の奴らがやってる事をやめさせたかったんだ。
 でも……ホントは、出来ないって分かってたんだ。私達にそんな力はないって。
 それでも……何かせずにはいられなかったんだ。その結果が……アレさ」

囚われ、鍵山に受けた拷問を思い出し、眉をひそめる。

「私達は、失敗したよ。だからこそ分かるし言える。もう少しだけ、我慢してくれ。
 私が……もう少し我慢すりゃ、アンタ達と出会えていたように、アンタもウチに来りゃ、きっと今より良くなるよ」

そう言って再び歩き出そうとして――少女は足を止めた。

「……誰かいる」

少女の兎耳がぴくりと揺れる。
何者かの足音を三つ、捉えたのだ。

「……何かを探しまわってるような動きだ。アンタが逃げ出した事は、多分まだバレてないだろうけど……多分、私達だ」

足音の主は、共生派の残党と、逃げ出した人間達を探す鳥籠の構成員だった。

「参ったな……遠回りしようにも、ここから少し先には山道の跡があるんだ。
 あんまり植物が茂ってないんだ。そこを通る時に、嫌でも視線が通っちまう……」

少女はちらりと大鳳を見て、しかしすぐに鳥籠構成員へと視線を戻す。
今の大鳳の状態では敵を始末する事など不可能と考えたのだ。



君にはそれが見当違いである事を証明する権利がある。



【山中にて哨戒を発見。周囲はかなり鬱蒼としてる模様】

99 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/26(金) 20:31:17.70 0
>「……俺としては、間違えられてボコボコにされた恨みもあるからな。共生派の連中を探してやりたい。
 それと、共生派の連中が驚異にならないっていうなら、わざわざ明日の準備で忙しいところに邪魔するのも悪い。
 車に置いてきた連中と合流してそっちで休んでも変わらないだろ。 ……2人はどう思う?」

>「わたしは異論なしです。ただし謝礼は弾んでもらいますよ。山狩りする為に岐阜くんだりまで来たわけじゃないんですから。
 ほんとこんな……人口ピラミッドが倒壊寸前のド過疎地域なんかに……」

「……あぁ、アンタ達個人への謝礼、の範囲で済ませられるなら御の字だ。助かるよ」

>「地図と……それから足の早い兵隊を何人か貸してください。
  候補を絞って人海戦術で当たりましょう」

「地図……地図か。ちょっと待ってくれ。山方面の地図となると……探してくる。
 人手は、もうすぐ会場設営の方から増援が来る筈だ。それまでには地図を用意する」

>「行くならとっとと動きましょう。
  日が暮れるまでに戻らないと、わたし等のボスにもどやされちゃいます」

「あぁ、こっちはどやされるじゃ済みそうにないからな。悪いが、頼むぞ」



そうして五分ほどして鳥籠構成員が地図を持ち帰ってきた。
元々は学校の教材だったらしく、ひどく埃臭い上に色褪せている。

「既に山狩りに出ている奴らにまともな地図は配ってしまってな。
 こんなので悪いが、勘弁してくれ。それと……これも渡しておこう。
 追跡隊同士で連絡を取り合う為の無線機だ」

地図と無線機が流川に手渡された。

増援にきた構成員達、十人の内の半分は、極めて不服そうだった。
誰だって逃げ出した家畜を追いかけて山中を駆け巡りたい訳はない。
だが同時に、焦燥と諦観も感じているようだった。
こうして駆り出されてしまった以上、商品を取り戻せなかったらその責は自分達も負う羽目になるからだ。

そしてもう半分は――前者よりも更に強い焦燥を感じているように見えるだろう。

「……とりあえず、さっさと行こう。日が暮れちまったら追跡はもっと難しくなる」

増援によこされた構成員の、後者の内の一人がそう言った。
男の頭頂部には一対の兎の耳が生えていた。

「だがよぉ……どうやって追跡しろってんだ、こんなモン……」

学校の北部フェンスを出て川を遡り、最初の分岐点に辿り着くと、構成員の一人が忌々しげに呟いた。

「こっちはたったの十三人で、均等に二手に分かれていくのか?
 奴らを見つけた頃には俺たちゃ二人か、一人に減ってる。散り散りに逃げられたら結局おしまいだぞ」

苛立ちを隠そうともしないその男に対して、

「――痕跡を見つけるんだ」

口を開いたのは、新免岩男だった。

100 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/26(金) 20:32:11.70 0
「痕跡ぃ?」

「そうだ。例えホシ……いや、共生派が俺達より先に逃げていても、そこを通った痕跡はずっと残り続ける。
 それを見つければ……追跡は可能だ」

言いながら、彼は川の分岐点の周辺を歩き回る。

「……これだ」

そして立ち止まると、川の真ん中にあった岩を指差した。

「これが、どうしたんだよ」

「逃げ出した人間達は、きっと長い間十分な運動をしていなかっただろう。
 それに靴も履いていない。川を昇り続けるのは辛かった筈だ。
 だから……ここで一度、転びかけたんだ。見ろ、この岩の下、泥が露出している。
 川の流れで自然に収まっていた形から動いた証拠だ」

それは流川にとっては嬉しくない誤算だっただろう。
岩男は今、思考が漫然としている。
だからこそただ自分の「恩師に教わった事」が自然と口から出てきている。
自分が話しかけている相手が、先程まで殺してやると息巻いていた組織の人間だという事も忘れて。

「……へえ、お前すげえな。なんだそりゃ、誰に教わったんだ?」

だが鳥籠の男がそう言うと、岩男ははっとしたように顔を上げた。

「な、なんだ……どうしたんだよ」

「いや……なんでもない。行こう」

その後も『痕跡』による追跡は続き――

「おい、見ろよこれ!うっすらと泥の足跡が残ってるぜ!奴ら、ここで川から出やがったんだ!」

ついには川を用いた追跡妨害を完全に看破してしまった。

「後は足跡を追って……いや、まずは他の奴らを呼び集めてここいらを重点的に探せばいいのか。
 行けるんじゃねえの、これ!お前マジでお手柄だぜ!」

男は岩男の肩をバンバンと叩きながら、嬉しそうに笑う。
対する岩男は――何とも言えない、相変わらずの困惑の表情をしていた。

「アンタら、無線機預かってたろ。早く他の連中に……」

「――いや、そうはさせない」

瞬間、ウサ耳男の放った上段蹴りが、男の体を地から浮くほどに強く蹴り飛ばした。
ウサ耳はその勢いを殺さず続けざまに流川へと狙いを定め――しかしその耳がぴくりと動く。
直後、葉の生い茂った樹上から木製の矢が降り注ぐ。
ウサ耳男は飛び退いてそれを回避したが――何人かはそれを躱し切れずに負傷、或いは絶命した。

「……あーあー、やっぱりそう来るかよ宇佐見。ま、そりゃそうだわな。
 もし妹を連れ帰れたら、殺さず飼ってもいいなんて言われて……それを飲めるわきゃねえわな」

蹴り飛ばされた男――軽井隼也の声が聞こえた。
軽井は生きていた。恐らく肉体強化型の、渾身の前蹴りを受けたにも関わらずだ。
樹木の表面に片手一本でしがみついていた彼は、しかし樹状の何者かを警戒したのかすぐに地面に降りた。

101 : ◆PyxLODlk6. :2015/06/26(金) 20:33:02.47 0
「やれやれ……面倒くせえ状況だな……。オイ、アンタら。
 あとなんとか生き残ったテメェらも。とりあえず、コイツと上の奴、始末しちまおうや」

軽井は宇佐見を流川達と自分で挟み込む位置に移動する。
君達は共闘を申し出られたが――この状況、最も好ましいとそれを成立させるのは困難を極める。
だがその分、成功時のメリットも大きい――かもしれない。

「……おい、聞こえているんだろう。『啄木鳥』。俺はお前達の巣を荒らすつもりはない。
 妹がそちら側で生きる事を選んだなら、俺はそれで構わない。だから……手を貸せ」

言葉と同時、宇佐見は膝を屈め――足元にあった石を流川目掛け蹴り飛ばした。
虚を突き、更に自身も地を蹴る。
怪人特性『兎化』によって特別強化された脚力は恐ろしい速力を発揮し、彼と君達との距離を埋める。

だが、埋め切らない。
宇佐見は君達の目前で急ブレーキをかけ――右、蹴り足を半歩引き、溜めを作る。
同時に君達の頭上から再び無数の矢が降り注いだ。
逃げ道は――ある。宇佐見が渾身の蹴りを以って待ち構えている、前方だ。



【四つ巴?】

102 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/27(土) 21:02:33.81 0
大鳳の想像通り、不動は彼女渾身の一撃を避けようとはしなかった。
肉を突き刺す音と共に、大鳳の貫手がその体へ突き刺さる。
それでも不動は、攻撃を受けながらも突撃を辞めようとはしない。
だが、それを成し遂げる膂力は不動には残っておらず、
その身体は大鳳の体を挟み、地面へと倒れ伏した。

>「は……は……やるじゃ……ねえか……」

「はっ……!どんなもんですか……!!」

口ではそう言って強がるものの、大鳳の強化は地面に倒れた時点でもう効力を失っていた。
幸いにも心臓が破裂する前に能力は無意識に停止していたのだ。
それでも不動の胸からその手が離れないのは、もはや根性によるものに他ならない。

不動は起き上がることをやめて、そのまま大鳳の首に右腕を押し付け
持ち前の重量で彼女を押しつぶそうと目論む。

>「ぐっ……どうだ……よ……苦しけりゃ……逃げても……いいんだぜ……」

「誰が……逃げる……もんですか……!!」

>「……こりゃ……やべぇ……な……」
>「超人……マジかよ……これほど……たぁ……思ってなかった……」

他者から見れば取るに足らない時間、だが当事者にとっては永遠にも等しい根比べも遂に終焉を迎える。
不動の身体が震えを起こし、徐々に力を無くし……最後には地に伏した。

「わた……しの、……」
――――勝ちですわね。
そう言おうとしたものの、その言葉を発する力は最早大鳳には残っていなかった。
大鳳の心肺も徐々に力を失い、その肌も先ほどまでの紅潮とはうって変わって青ざめている。

(あぁ……これまっずいですわね……)
急速に力を失う自分の体と裏腹に、大鳳の思考はクリアだった。

>「この……馬鹿……そういうのやるなら……先に……言っとけ……」

悪態を吐きながらも大鳳へと這いずっていく伏見だが、その速度では到底間に合わない。
だが、それも伏見にとっては想定内だったらしく
伏見の血がべったりとついたその右腕を大鳳の口に押し付ける。
生存本能からくるものなのか、大鳳はそれを無意識に舐めとっていくと
心臓から血が通い始め、全身から血が噴き出し少女を酷く驚かせたが、
どうにか大鳳は一命をとりとめた。
それに加えて、更に伏見が自分の血液を大鳳の口に流し込むことによって
血の効力が切れて死ぬという当座の危機は起こることは無くなった。

103 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/27(土) 21:03:07.19 0
「すみませんわね……」

>「それにしてもまぁ、アンタこれ、大手柄なんじゃないの?
 仮に鳥籠をぶっ潰してやれなくても、えーとなんだっけ?コイツの組織……なんたらだかには大打撃じゃん」

「正直……殆ど相討ちに近いですが…………ね」
(あぁー……身体動きませんわねこれ……。これからどうしましょう……)

いくら伏見の血を貰ったからといって、大鳳の身体の負荷はとうの昔に限界を超えており
回復にはかなりの時間を要するのは考えるまでもないことである。
そんな状態であることも相まって、伏見と少女の会話を聞くのもままならない状態だった。
そうしてその場に寝たままでいる大鳳だったが、
そんな彼女の戦士としての本能が――何かの警鐘を鳴らしていた。

>「なっ……!」

それを証明するかのように、伏見の驚愕の声が響く。
確かめる為に大鳳が伏見の視線の先を見やると
――――そこには不動が立っていた。
先ほど確実に絶命したはずの彼が、そこに立ち塞がっている。
しかも、その身体は先ほどの大鳳のように身体が紅潮している。

>「これが俺の『全力』だ。出したのは……出せたのは、マジで久々だな。礼を言うぜ。ありがとうよ」

「流石に……出鱈目すぎますわよ……」

いくら超回復だと言っても、まさか自分の死からも回復するなんてことまでは想像できない。
しかも、今の彼は全力だ。
伏見と少女がそもそも戦いに参戦できるわけもなく
頼みの綱である大鳳も今は満足に動けることはない。
はっきり言って――――詰みだ。

>「――お前ら、逃してやるよ」
>「ただし、そっちの殺人鬼の方は駄目だ。そこのチビが、超人、テメェを連れて行く事だけを俺は許可してやる」
>「殺されんのは……この全力の状態になるのは、本当に久しぶりだった。(以下略

「な、にを…………」

不動の言葉に反抗しようとしたものの、今の彼女にそれを成すだけの力はない。
それがわかっているからこそ、次の言葉がその口から発することができず言いよどんでいた。

104 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/06/27(土) 21:04:02.03 0
>「……行けよ、超人」

そしてしばしの沈黙を破ったのは、他でもない伏見だった。
続く伏見の言葉を聞くと、少女は大鳳に有無を言わせる間も与えずに彼女を山奥へと連れ去った。



坑道から山奥へと脱出している最中、ふたりの間には会話はなかった。
だが、山奥へと近づくと……少女が遂に口を開いた。

>「……私は、謝んないからな。あの状況ならこうするのが一番だったって、私でも分かった」
>「一番だったけど……それで納得行かないのも、分かってるんだ。私も……そうだったから」

それからも少女は話を続けていく。
無論、大鳳も少女の言うことは理解できていた。
だからこそ、自分の力不足を改めて痛感してしまっていた。

>「私達は、失敗したよ。だからこそ分かるし言える。もう少しだけ、我慢してくれ。
 私が……もう少し我慢すりゃ、アンタ達と出会えていたように、アンタもウチに来りゃ、きっと今より良くなるよ」

「そう、ですわね……」

気持ちの入らない返事を大鳳が返した後、少女は足を止め音を確認した。
それが哨戒であることは、火を見るより明らかなことだ。

>「参ったな……遠回りしようにも、ここから少し先には山道の跡があるんだ。
 あんまり植物が茂ってないんだ。そこを通る時に、嫌でも視線が通っちまう……」

そう言った後、少女は大鳳を見てどうしたものかと思考を逡巡させている。

「…………とりあえず、相手の姿が確認できるところで待ちますわよ。
 今の私でも一応、護身くらいはできますし……何より――」

視認してみるまで、本当に敵かどうかはわからない。 

【木陰で様子見】

105 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/07/02(木) 13:43:42.79 0
  
>「わたしは異論なしです。(略)ほんとこんな……人口ピラミッドが倒壊寸前のド過疎地域なんかに……」

「そういうなよ。すぐ近くに都市があるよりマシだ」

食事を一端止め、身繕いを整えながら流川を宥めるように言うが全くポジティブさのないこの発言で頑張ろうというのは難しいだろう。
……しかし、この血の染み着いたボロ服では山に入るのに不適切だな、と整わぬ服を伏し目に見て溜息を一つ。

>「……あぁ、アンタ達個人への謝礼、の範囲で済ませられるなら御の字だ。助かるよ」

「……取り敢えず、服を一揃え貰えないか?サイズさえ合えばなんでもいい。
 これは謝礼に含まないでくれよ。必要なことだからな」

ここでグダグダと時間を稼ぐつもりだったが、以外にすんなりと着替えを貰えることになった。
一人が地図を取りに行っている間に、別の一人に彼らが当直で使用するという教室へ案内され、彼らの着替えらしいツナギの作業着を受け取る。
なぜか新品だという包装されたままの下着もついてきたのでありがたく使わせて貰った。
服を脱ぐのも着るのも難儀したがなんとか着替えを終え、着ていた服は適当な袋を貰いそれに詰める。
こちらで処分すると言われたが、断った。

>「川……ですか。確かに校舎の裏手には山からの支流がいくつか流れてますね。匂い消しに水辺を使うのは逃走の定石、妥当なセンだと思います」

着替えを終えて部屋に戻ると流川が地図を見ながら逃走路に見当をつけていた。
どうやら新免が聞いた生き残りの情報を元にある程度の目星は付けられているらしい。

「悪い、待たせた」

>「行くならとっとと動きましょう。
 日が暮れるまでに戻らないと、わたし等のボスにもどやされちゃいます」
>「あぁ、こっちはどやされるじゃ済みそうにないからな。悪いが、頼むぞ」

粗方準備は終わっていたようだ。
戻ったその足で再び部屋の敷居を跨いだ。

106 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/07/02(木) 13:45:30.85 0
  
>「……とりあえず、さっさと行こう。日が暮れちまったら追跡はもっと難しくなる」

「……こっちは追跡が不可能になったと判断したらそのまま離脱するからな。
 悪く思うなよ、労力に見合わないことはしない主義だ」

持ち出した携帯食料をかじりつつ歩を進めていた向路はそう嘯き、集められた怪人へ目をやっていく。
やってきた10人の構成員は皆一様に焦りを顔に表しているが……半数はそこに露骨な不満が覗いている。
それもそうだろう。こんな仕事は面倒でしかないが達成できなければ良くないことになる。嫌なこと尽くしだ。
……では、そんな不満が顔に出ない残り半数は何者なのだろうか。
彼らの半数がすこぶる真面目である、という可能性も無い訳じゃないが……まさかそうではないだろう。
不満も感じている筈だ。しかしそれ以上に焦燥感を覚えさせる要因がなにかあるのだ。
失態に対する羽持ちの対応を恐れているのだろうか?
……ともかく、探索へのモチベーションの高い怪人が複数いるということは確かだ。
なかでも、今発言したうさ耳のようなものを生やした男は厄介そうだ。あの耳が伊達でなければ、この探索で有用に働くことだろう。
出来るだけ時間を使い、回復へと当てたい向路としてはエンゲージが早まるのは避けたいことであった。

>「だがよぉ……どうやって追跡しろってんだ、こんなモン……」

なので、現在の状況は正直ありがたいと感じている。
川を使っていることが分かっても、このような分岐点を攻略する作戦は組み上がっていなかったのだ。
無論工作員としてのスキルを持つ流川や警官上がりの新免は目敏くなにかを見つけているかもしれないが……それをわざわざ教えてやる必要もあるまい。

>「こっちはたったの十三人で、均等に二手に分かれていくのか?(略)散り散りに逃げられたら結局おしまいだぞ」

向路は人数を分けていくことに反対だ。
それは共生派を発見しても取り逃がすか、逆に殺される可能性が高いと考えたからだ。
そして……、向路らが構成員を殺す必要が出来た際に不都合があるから、というのもある。
取り敢えず前者の理由を発言しようと口を開きかけ……そのまま固まった。


>「――痕跡を見つけるんだ」
>「痕跡ぃ?」
>「そうだ。例えホシ…(略)…それを見つければ……追跡は可能だ」

新免が蕩々と追跡方法を語り出したからだ。
確信をもって追跡を続けることは必要だ。人員が分かれることを防げるし、有る程度奥まで進んだ方が構成員を排除するにも都合がいい。
だが……、追跡のための技術をバラしてしまうのまではやりすぎだ。
追跡方法をこちらだけが分かっていれば、追跡探索のペースをコントロールも出来たのだから。
……しかし、新免だけを責めることは出来ない。予め時間を稼ぐという方針を伝えなかった向路も悪いのだ。

>「いや……なんでもない。行こう」

新免が嫌に静かだったことには気付いていたが、ついそれを良しとして放置してしまっていた。
一度に大量の人死にを見たのが(恐らく)初めてだった為だろう、新免が放心しているのにケアしなかったことを悔やみつつ、面々の後方を歩き出す。

107 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/07/02(木) 13:47:14.50 0
「……そうだ。流川。さっきはマトモにお礼も言ってなかったな。
 ありがとうな、助けてくれて。……そしてすまん。班を纏める立場の自覚が足りないな。
 キチンとしたお礼は帰ったらまたさせめくれ。なにか欲しいものが有れば言ってくれ」

「あぁ、新免も。悪かった。ありがとうな。
 ……ただ、まるで偉そうなことが言える立場じゃあないが、一段落したら言いたいことがある。
 それまで死なないよう、シャキっとしろよ」

川を上りながら向路は流川と新免を捕まえて小声で話しかけていた。
先程、大雑把に教室内でのことの説明を受けて、自らの失態と、須波に新免、そして流川により死を免れたことを知ったのだ。
流川、新免の緊急措置がなければ、須波の補肉ゲルも昇圧剤も間に合わなかったかもしない。
班を率いる、同僚を導くべき自分が、その同僚に多大な負担を強いたのは大きすぎる反省点だ。
エゴで動くなと新免に言った自分が、反射で動いた挙げ句に死にかけたのでは反面教師も良いところだ。
そして、外部班の須波も……雨場にも、危ない真似をさせることになった。
意識を取り戻した後に見たあの怪人も、人間も、雨場の分身であり、生きていた人間は一人と聞いたときは流石に少し効いたが、一人は助けられたのだと無理矢理前を向く。
自分も死にかけ、仲間を危機に晒し、たった一人。それが己の実力なのだと。
仲間が拾ってくれた命はまだ到底使い物にならないが……挽回を決意し、肉体の再構成に意識を注ぐ。
 

108 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/07/02(木) 13:53:29.47 0
>「おい、見ろよこれ!うっすらと泥の足跡が残ってるぜ!奴ら、ここで川から出やがったんだ!」

先頭を歩いていた男が声を上げる。どうやら残念なことに追跡は順調なようだ。
体はこうして動く分には問題ないが、戦闘となればそうはいきそうにない。
エンゲージにはまだかかるだろうが、そう遠くはないだろう。果たしてぶっつけ本番でどの程度やれるか……不安が募る。

>「アンタら、無線機預かってたろ。早く他の連中に……」

……ここで他班を呼び寄せるかどうかは悩ましい所だ。非戦闘員であっても何十人と片っ端から殺せる程、体は回復していない。
流川は問題なく戦えるだろうが作戦の性質から、あの過燃焼デブクラスでなくとも、戦える怪人が各班にいるのは確実だろう。
そう考えると、呼ぶならせめてここの構成員を下した後か。

「……待った、確実に」

>「――いや、そうはさせない」

捕捉できてからでも良いだろう、そう言う前にコトは起こる。
厄介な敵だと思っていたうさ耳が、他の構成員を蹴り飛ばし、……さらに流川へ危害を加えんとする。

「ながッ……ちィ!」

うさ耳と流川の間に割り込もうとするも、うさ耳の目立つ耳が何かを察知し、攻撃を取りやめたのを見て反射的に一歩下がり身構える。
耳の向いた方向を大雑把に判断しそちらへ目をやれば、矢だ。
次の瞬間に降り注ぐ矢を向路は背負っていたズタ袋を盾にしてかわすが、対応できなかったのだろう、目の端で何人かが倒れていく。

>「……あーあー、やっぱりそう来るかよ宇佐見。(略)もし妹を連れ帰れたら、殺さず飼ってもいいなんて言われて……それを飲めるわきゃねえわな」

…………そういえば、流川の盗聴の時だ。『鳥籠』構成員は一枚岩ではないような会話があった。
事務所で共生派に関する話を聞いた時には、共生派寄り思想のメンバーがまだ残っているのかと思ったのが、違ったらしい。
弱みを握られて『鳥籠』に従事している構成員を指していたのだろう。このうさ耳も、その一人らしい。

109 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/07/02(木) 13:54:09.83 0
 
>「やれやれ……面倒くせえ状況だな……。オイ、アンタら。(略)とりあえず、コイツと上の奴、始末しちまおうや」

「そうしたいのは山々だが、正面切って戦える程には回復していないんだ。俺は逃げに徹させて貰うよ」

思い切り蹴り飛ばされた筈の男が平然としていることに驚いたが、それを極力顔に出さぬようにしながら戦闘を拒否するポーズを取る。
全員殺す必要があったことを思えば、このまま数を減らして貰えれば有り難いが……そううまくは行くまい。
うさ耳以外を殺し、うさ耳との敵対を拒否し停戦。共生派に反『鳥籠』の印象を付け合流。ただしこちらの事情を多少なりとも話す必要がある。
うさ耳と弓士を殺し、現状維持。共生派との接触までに残りの人員の殺害を図る。増員の可能性が有り。
後々のリスクの大きさを考えれば、前者を取りたい。気持ちの上でもだ。しかし、共生派が自分達と相容れない場合、前者は愚策になる。
……それに、言ったほどではないが現在向路の戦闘力が落ちているのは代え難い事実であり、仲間に負担を強いるのは明白だ。

>「……おい、聞こえているんだろう。(略)だから……手を貸せ」
 
「ッ流川!……新免!」

うさ耳が再び流川へと攻撃を仕掛けたのを苦々しく思いながらも向路は声を上げる。
方針を悩んでいる時間はない。

「ごっこはやめだ!」

二人へ言うと同時、眼前にまで迫ったうさ耳が攻撃を待ったのを見て、向路はそちらへと突っ込んでいく。
恐らく、先程のうさ耳の発言から弓士とうさ耳は既知のようだが仲間ではないらしい。
故に、共闘では弓士がタイミングを測るか、うさ耳がその聴力でもって合わせていくことになるのだろう。
今は恐らく、その後者だったのだろう。わざわざ前に出たというのにその流れを止め待ちの姿勢をとったのは、攻撃に巻き込まれるのを避けるための筈だ。

「僕らを信じろ」

前へと飛び込む最中、小声で囁く。
うさ耳には聞こえたと思うが、果たしてこれで攻撃を躊躇ってくれる保証はない。
このまま攻撃モーションが崩れなければ、超瞬発を使わざるを得なくなる。それは肉体的にも心理的にも避けたいが……どうなるか。
このまま抜けられれば、蹴られた男と相対する。肉体強化を受けているであろう蹴りを受けて、平気な顔をしている奴だ。
正直相性は悪いようだが、どう殺すか。まずは能力を見極めなければ。

【『鳥籠』にこっそり反旗を翻したい。うさ耳を口説きたい。
 新免君への発言は流していただいて結構です。】

110 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/03(金) 18:51:02.25 0
>「…………とりあえず、相手の姿が確認できるところで待ちますわよ。
  今の私でも一応、護身くらいはできますし……何より――」

「……まぁ、それもそうか。今のアンタの状態じゃ、こっちから仕掛けるのは自殺行為だもんな」

付近の茂みに身を隠しながら、ウサ耳の少女は頷いた。
足音は三つ。それが大鳳にも聞き取れるほど近づいてくるまでに、そう時間はかからなかった。

「おい、こんな方に来て何しようってんだよ。早く逃げ出した人間共を追わねえと……」

「……逃げ出したって事は……あっちは成功したのか……。
 いや……とにかく、どう考えてもアンタの仲間じゃなさそうだな」

少女は思わず安堵した様子でそう零し、しかしすぐに表情と声色を苦めた。

「ふん、商会の連中が来なきゃ俺達は今でも脱走に気付けてなかったんだぞ。
 今更追いかけてなんになる。それより、もっと確実なやり方がある」

足音が大鳳達の隠れている茂みに近づいてくる。

「――餌を使うんだよ。ちょうどいいのが、すぐそこにいる」

瞬間、少女の表情が強張った。
唇は固く結ばれて、額には冷や汗が浮かんでいる。

足音が大鳳達へと近づいてくる。
そして――そのまま通り過ぎていった。
少女が静かに、深く、息を吐いた。

「奴らは『監獄』の方も襲撃していた。無線を聞いていなかったのか?
 だが、ファームとは違ってこちらは真正面から攻め込むしかない。
 呆気無くしくじって……一人が捕まった。鍵山は拷問をすると言っていたが、ソイツを借り受ける」

「鍵山だろ?もう死んでるんじゃないのか?」

「それなら人質の方から一人見繕うしかないな。丁度、靖夫が死んだらしいから、余りはある。
 とにかく……奴らの仲間か人間を甚振りながら山を練り歩けば、向こうから寄ってくるだろう。
 なんなら商品を返さないなら余っている人質連中を殺すと呼びかけてもいい」

「……参ったな。あそこに行かれちまったら、私達が逃げ出した事がバレちまう。
 アイツらがもう少し遠くに行ったら、すぐにここから離れよう」

少女は静かにそう言って――しかし不意に彼女の耳がぴくりと揺れた。

111 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/03(金) 18:52:22.57 0
「この声……!」

そして三人の哨戒とはまるで別の方向へ、弾かれたように振り向く。
その際に、茂みががさりと揺れた。

「……今、何か聞こえたぞ」

哨戒の内の一人が、振り返った。

「あん?気のせいだろ?」

「いや、確かに聞こえた。……もしかしたら、監獄のお仲間を助ける為に、既にこの辺りにまで奴らが来ているのかもしれん」

男は大鳳達の方へと引き返し――しかし確信がある訳ではないようで、周囲を闇雲に探り始める。

「おい、何やってる。お前達も探せ」

その指示を受けて他の二人も渋々ながら周囲を見回す――ような素振りをする。
一人は樹木によって男の視線が届かない位置で足を止め、もう一人もぶらぶらとそこらを歩き回るだけだ。
ろくに説明も受けず山中を歩き回らされた身としては当然の対応だが――隙だらけだ。

「……悪い。この状況……どうにか出来ないか?やらかしたのは私だ。囮が必要ならやらせてくれ」

少女はそう言うが――未だに耳だけは、恐らく無意識にだが、先ほど振り向いた方向へと捻れている。
この状況下でも意識から消し去りきれない何かがそちらにあるのだ。

どのみち、最早隠れてやり過ごすという事は出来ない。
何をするにも、まずは哨戒の三人を始末しなくてはならない。
別段、手練の気配は感じられないだろうが――それでも怪人だ。
殆ど常人並みの状態にまで弱った大鳳を軽く縊り殺すだけの力はある。



【縛りプレイ】

112 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/07/05(日) 20:40:57.13 0
>「既に山狩りに出ている奴らにまともな地図は配ってしまってな。
 こんなので悪いが、勘弁してくれ。それと……これも渡しておこう。追跡隊同士で連絡を取り合う為の無線機だ」

市香の所望した地図と人員の他、無線機が手渡された。
どういう意図から図りかねるが、これは有用なアイテムだ。
使われている周波帯を解析して専門機材で傍受すれば、『鳥籠』の指示系統を盗み聞きすることができる。

>「……とりあえず、さっさと行こう。日が暮れちまったら追跡はもっと難しくなる」

(暮れてくれたほうがわたし達には都合いいんですけどね)

手配された人員は十人。
それぞれ悲哀こもごもといった態度を浮かべているが、市香にそれを忖度する余裕はない。
どうせ不要になれば始末してしまう連中だ。余計なコミュニケーションもとるべきではないだろう。
暗殺する隙を図るぐらいは、しておく必要があるかもしれないが。
……市香のこの判断を、彼女は後に後悔することになる。

都合十三人の追跡隊商会班は、先発隊を追う形で山へ分け入った。
既に探索に出ている連中が均していった道を登り、やがて川の分岐へと辿り着く。
逃げた連中を追うためには二手にわかれるか、何らかの根拠をもって片方に決め打ちするしかない。

>「――痕跡を見つけるんだ」

後者を選ぶことになったのは、岩男の発言によるものだ。
彼は川の中からそこを誰かが通過した痕跡を見つけ出し、皆に教示する。
その口調にはさっきまでのような迷いはなく、はっきりとした断言の頼もしさがあった。
……これはまずい。

(なんか新免さん覚醒入っちゃってません?)

根拠を見つけることは重要だが、それはあくまで内輪で秘しておくべきカード。
この追跡行においては市香たちが主導権を握り続けなければならないからだ。
十人の手下どもに、勝手にあっちゃこっちゃ行かれては困るのだ。
横を見ると、同じ思考に辿り着いたと思しき向路が苦虫を噛んでいる。

「……黙らせますか?」

市香は向路にだけ聞こえるように、声を落としてぼそりと聞いた。
黙らせるというのは、あらゆる意味を内包した『黙らせる』だ。
別の話題を唐突に振って言外に新免に気づかせても良いし、なんなら無言で腹パンをくれてやってもいい。
後者は特に、先ほど見せた市香の態度の横柄さと、新免の陰のある振る舞いから、そう不自然には見られないだろう。
しかし、その判断を下す前に、新免は情報を伝え終えて追跡を再開してしまった。
慌てて向路と共にその後を追う。

>「……そうだ。流川。さっきはマトモにお礼も言ってなかったな。
 ありがとうな、助けてくれて。……そしてすまん。班を纏める立場の自覚が足りないな。
 キチンとしたお礼は帰ったらまたさせめくれ。なにか欲しいものが有れば言ってくれ」

「そんな向路さん、お礼なんてそんな……」

市香はすごく爽やかな笑顔でそう返した。
要らないとは言ってない。

「いくら死にそうなところを助けたからってそんな、トラウマ押してまで治療したからってそんな、ねえ?」

お礼が要らないとは、言ってない。
新免の情報により探索はスイスイ進み、やがて一同はとある川辺に辿り着いた。

113 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/07/05(日) 20:41:34.03 0
>「おい、見ろよこれ!うっすらと泥の足跡が残ってるぜ!奴ら、ここで川から出やがったんだ!」

(見つかっちゃったよ……正解)

市香は向路と共に目頭を揉んだ。
お手柄のはずの新免も、何故か微妙な表情で喜び合う手下達を見ている。
あまりにも時間を稼げてないこの状況で、任務を成功させて帰投するのは望ましくない。
となれば、あとは追跡員の全滅という結果をもって強引に『失敗』してもらう他ない。

>「アンタら、無線機預かってたろ。早く他の連中に……」

ここまでか――と市香は秘密裏に腰の鉄パイプに手をかけると同時。
手下の中に混じっていた、うさぎ耳の男が突如跳躍した。

>「――いや、そうはさせない」

その脚力をふんだんに使った上段蹴りが、市香たちの傍にいた手下の1人を蹴り飛ばす。
蹴られた男はあっけなく吹っ飛び、うさ耳の視線がこちらを向いた。

>「ながッ……ちィ!」

向路の警告に弾かれるようにして市香は身構える。
だが慣性そのままにこちらへ肉迫しようとしていたうさ耳の特徴的な耳はぴくりと震え、地面をえぐってブレーキする。
市香は殆ど直感で理解し、叫んだ。

「――新免さん!」

同時、すぐ目の前にいた新免の襟首を掴んで引き寄せる。
彼の襟を引くのは本日二度目だが、今度の新免は動揺しなかった。
市香の短い呼び声の意図を察し、掌を上空へ翳す。そして彼は己の特性を解放した。

掌から生み出されたのは、噴水めいた放射状に拡がる鋼の板。
それは瞬く間に傘の如く新免と市香を包むドームを形成し、一拍遅れて雨あられが傘に着弾した。
ズドドド!とトタンの屋根に土砂降りが叩きつけるような音。
へこみ、歪んだ傘の隙間から見える足元に転がった『あられ』の正体は、細い木の棒であった。
杭にも似たその形状は、射出してダメージを与えることに特化した、『矢』だ。

すぐにドームから這い出ると、川べりは阿鼻叫喚であった。
肉体に木の矢を生やされた手下達が、複数名流血して倒れている。
何人かは急所を貫かれたのかうめき声すら上げることなく絶命していた。
すぐに周囲に視線を走らせ、向路が無事なのを確認して安堵する。
そして厄介なことに、うさ耳も無傷で殺傷領域から飛び退いていた。

(敵襲?待ちぶせ?でも、うさ耳も巻き込むような攻撃……仲間割れ?)

市香の脳裏をぐるぐる駆け巡る問いは、こんな状況に放り込まれたら当然のものだ。
逃げた連中の殿が待ち伏せしていたというなら納得もいく。しかし、うさ耳の立ち位置がわからない。
待ち伏せで追跡隊を全滅させるつもりなら、少なからず誘導するような言動があるはずだ。
しかし追跡行において彼は殆ど発言しなかったし、何よりいまの攻撃は彼をも巻き添えにする無差別射撃だった。

>「……あーあー、やっぱりそう来るかよ宇佐見。ま、そりゃそうだわな。
 もし妹を連れ帰れたら、殺さず飼ってもいいなんて言われて……それを飲めるわきゃねえわな」

そして、こちら側にも無事な者がいた。
うさ耳に蹴り飛ばされて矢の射程から逃れていた、確か軽井とかいう新免と仲良くしていた男だ。
驚くべきことに彼は、うさ耳のどこから見てもクリーンヒットな蹴りを受けて、しかし目立ったダメージがない。
樹の枝に捕まることで勢いを殺していた。

114 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/07/05(日) 20:42:48.04 0
>「やれやれ……面倒くせえ状況だな……。オイ、アンタら。
 あとなんとか生き残ったテメェらも。とりあえず、コイツと上の奴、始末しちまおうや」

「はあああっ!?そっちの仲間割れにわたし達まで巻き込まないでくださいよ!!
 そのぶんのお給料出てないんですけお!!」

市香は憤慨しつつ、少しずつ後退する。
戦おうが戦うまいが、この位置はまずい。敵の矢の良い的だ。

>「そうしたいのは山々だが、正面切って戦える程には回復していないんだ。俺は逃げに徹させて貰うよ」

向路も同様に戦闘拒否のジェスチャをする。
市香はそれに応じる素振りをしながら、新免の手を握る。
そこから袖をつたって彼の耳もとまでひも状に伸ばした液化細胞を送り込み、秘密裏に声を伝達した。

『狙撃手の対応お願いします。相手のメインウェポンは新免さんの装甲を貫けないですから』

鉄の鏃をつけていない木の矢では、人体を貫けても鋼の鎧を貫くことはできない。
それは石でも同様で、木も石も金属の持つねばりすなわち粘弾性によって威力を殺されてしまうのだ。
金属を破壊するには同等以上の硬度とねばりをもつ金属製の武器が必要である。
おそらく、あの矢はこの山の中で現地調達した自作の武器なのだろう。
木を削って矢軸を作れても、鋳造/鍛金技術の必要な鏃までは作れなかったと思われる。
鏃なしに飛距離を稼ぐことは難しく、故にわざわざ樹上にまで近づいてから撃ってきたのがその証左だ。

>「……おい、聞こえているんだろう。『啄木鳥』。俺はお前達の巣を荒らすつもりはない。
 妹がそちら側で生きる事を選んだなら、俺はそれで構わない。だから……手を貸せ」

うさ耳の一方的な射手への提案が、通ったのかどうかはわからない。
しかし、無言のコンセンサスを得たと思しきうさ耳は再びこちらに飛びかかってきた。
石を蹴り飛ばしてからの時間差攻撃というおまけ付きでだ。

>「ッ流川!……新免!」

ぶち撒けられた石は単調な軌道を描き、難なく回避することができた。
しかし問題はそこからだ。石を回避したところへ間断なく第二撃という定石は、市香にも通用する。
ようは石礫は容易く避けさせて思い通りの場所にこちらを誘導する文字通りの布石でしかない。
追って迫ってきたうさ耳の一撃を、市香は躱すことができるだろうか。

「――ッ!?」

果たして、うさ耳は本命の一撃を加える前に急ブレーキをかけた。
よくブレーキする男である。
そしてブレーキした意味を、頭上から再び響く風切り音で理解する。
矢の雨だ。

>「ごっこはやめだ!」

向路がバックパックを投げ捨てて市香とうさ耳の間に入る。
その意図もまた、市香は瞬時に把握した。

(こっちと協力するってことですね?向路さん!)

もともと全員始末すべき相手だから、どちらにつこうが市香達のやることは変わらない。
だが待ち伏せしていたとなれば襲撃者側に利があることは確か。
そして襲撃者――啄木鳥と呼ばれた者に共闘を持ちかけたうさ耳も、啄木鳥陣営と扱うべきだろう。

115 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/07/05(日) 20:43:16.07 0
>「僕らを信じろ」

果たしてこの言葉だけでこちらの意図は通じるだろうか。
しかしここで市香が余計な口を挟めば極限状態での説得力に悪影響を及ぼすことは確かだ。
であれば必然、行動で示すのみ――!

「新免さん!」

再び仲間の名を呼んで、その意図通りに新免が鉄傘をつくる。
金属の拉げる音の響く下で、市香は片膝を折り、両手の指を前方へと突き出した。
潤沢に水のあるこの場所だからできる、一つのアイデアをかたちにする。

(いまのわたしには、須波さんみたいに拒絶反応を制御して体組織を移植することはできない……)

開いた指先は、それぞれ木矢の蹴撃を生き残った者達……軽井を除く複数人を照準している。
指は十本ある。十人以下に減った敵なら、1人の狙い漏らしもない。

(逆に考えるんだ……『制御のできなさ』は使い方次第で武器になると――考えるんだ!!)

瞬間、市香の指先から幾条もの線が迸った。
圧縮射出された流川市香の体液。体内で肉体を気化させ、その圧力で発射したのだ。
それら射出体液は狙い過たず手下達の首や顔などの露出した肌へと到達。
近距離であること、味方であるはずの市香に油断していたことなどが重なり、体液は全員に着弾し、浸透した。

「流川君……もう保たないぞ!」

ぐしゃぐしゃになった鉄傘を支えながら新免が叫んだ。
確かに木の矢では鉄を穿つことはできないが、薄い板金は貫通せずとも破壊はできる。
アルミ缶を雑巾絞りするように、強い圧力を間断なく与えることで板金は『千切れて』しまうのだ。

「もう終わりました」

市香は指に垂れたしずくを払いながら呟いた。
軽井を除く生き残りの手下達が、一様に胸を抑えながら倒れこんだのだ。
流川市香という『他人の細胞』を体内に取り込んだことによる拒絶反応。
免疫不全によって各種臓器や呼吸器に重篤な障害の出るその病の名は――アナフィラキシーショック。

抗体が生成される前の為、命を落とすほどの臓器障害は起きないが、
少なくとも血圧降下のショック症状によりまともに動くことはできないだろう。
解毒には市香が細胞を回収するという措置が必要であり、実質的に生殺与奪を市香が握っている状態である。

などとドヤ顔で達成感に塗れた市香を小脇に抱えて新免が飛び退くと同時、
鋼のドームは自重を支えきれなくなって倒壊した。


【新免によるカバーの下、軽井と宇佐美以外の鳥籠構成員をアナフィラキシーショックで攻撃】

116 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/10(金) 03:03:12.69 0
宇佐見一郎は、体質故に優れた聴力を持っている。
その感覚が樹上から再び射撃が放たれる事を察知していた。
故に、足を止めた。矢の弾幕の一歩外で渾身の力を溜めて流川達を待ち受ける為に。

宇佐見は優れた戦闘員だ。
『兎化』の体質による卓越した脚力は戦闘時において主導権の確保に極めて有用だ。

そして彼は同時に優れたポリグラファーでもある。
ただの肉体強化とは一線を画した聴覚は心音、呼吸音、声色から相手の感情を感知出来る。

>「僕らを信じろ」

その正確無比な一対の耳が、向路の言葉に害意のない事を感じ取っていた。
だが理性は、咄嗟にそれを信じ切る事は出来なかった。
結果的に宇佐見の蹴りはタイミングを外され――やむを得ず横へ大きく飛び退く。

「あぁ?なんだぁ?なにやってんだ……」

軽井には向路達が味方であるという先入観があった。
故に反応が、察しがつくのが遅れる。
まさか、と思った時には既に向路は目の前にまで迫ってきていた。

「よっ!?」

しかし――仮に彼が軽井に攻撃を仕掛けても、それは命中しないだろう。
彼は軽く地面を蹴るような動作で、しかし向路の遙か頭上にまで跳び上がっていた。

数本の木矢が放たれるが、肉体変化によって刃化した腕が恐ろしく速く閃く。
矢は容易く切り落とされ――更に軽井は虚空を『蹴った』。
瞬間、彼の体が空中で軌道を変え、向路から大きく離れた地点に着地した。

「……なーるほどねえ。『商会』の方にも、テメェみたいな奴らがいたって訳だ。なぁ宇佐見」

軽井はその性格や口調とは裏腹に、察しのいい男だった。
岩男の説いた追跡法をすぐに学習していた事からも分かるように、一を聞いて十を知る事が出来る。
故にこの状況が『四つ巴』である事もすぐに気付いた。
ただ一つ、向路達が『商会』側の不穏分子であるという誤解はあるが。

(……参ったな。他の奴らはもう使い物になんねえか)

この状況、最も危険な立ち位置にいるのは自分だ――軽井は思考する。
宇佐見、啄木鳥、商会――もとい流川達。それら全員と敵対関係にあるのは彼だけだ。

「啄木鳥ぃ!テメェよう……本当は、最後の最後にゃ全員殺しちまうつもりなんだろ?」

故に軽井は声を張り上げた。

「最初にテメェは宇佐見も巻き添えになる形で矢を打ちやがった。まとめて殺す気だったんだ。
 そりゃそうだよなぁ。ソイツがやっぱり気が変わって、妹を連れ戻す為に全てを報告するかもしんねーんだ。
 だが思いがけずソイツが協力を申し出やがったから……俺と、そこの連中を始末するまでは利用しよう……そういう魂胆だろ?え?」

返答はない。だが構わず言葉は続く。

「俺も、テメェの体質は知ってるんだぜ。……手出しするなら、俺以外からにするんだな」

軽井は自分が窮地に陥ったら迷わず啄木鳥の体質を叫ぶつもりだった。
そうなれば啄木鳥は困る。軽井を仕留めても、まだ四人残っている。
特性を知られた状態で一人と戦うか、特性を知られた状態で四人と戦うか。
どちらが好ましい選択かは――言うまでもない。

117 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/10(金) 03:04:17.01 0
故に、木矢は再び流川達と宇佐見の頭上から降り注ぐ。
宇佐見は聴覚によって矢の射られた方向を聞き分け、咄嗟に木の影に身を隠す。

「――どうしてだ!」

不意に、矢の豪雨を甲冑によって防御しながら、岩男が叫んだ。

「どうしてそんなにも簡単に、敵味方を切り替えられる!
 お前達には善悪の区別は!信じるべき正義は……ないのか!?」

腹に据えかねてきたものが、とうとう爆ぜたかのような叫びだった。
その言葉に軽井は――呆然としていた。

「何言ってんだ、お前?今そういう状況じゃねえだろ?……生きるか死ぬかの瀬戸際だぜ?」

「それでも!正義は、正義だ!……そうだろう!?」

最後の一言は、まるで自分に言い聞かせているかのようだった。
宇佐見ほどの聴覚がなくとも、彼が今、狼狽している事を察するのは容易い。

軽井が溜息を零した。
あまりにも馬鹿馬鹿しい話ではあるが――邪魔者を減らすには絶好の機会だ。

「あぁ、そうかもな。じゃあ」

軽井が右腕を振り被り――再び頭上から風切り音。
しかし降ってきたのは矢ではない。槍だ。
三本の槍が、絶妙に岩男の動きを妨げるように地面に突き刺さった。

「なっ……!」

「――死ね」

同時に軽井が動いた。
岩男との距離はおよそ5メートルほど開いていたが、ただの一瞬でそれが埋まっていた。
素早い――だけではない。その跳躍には、殆ど予備動作が存在しなかった。

先鋭化した指先が甲冑の面頬に迫る。
その速度は岩男には到底反応出来るものではなく――しかしその致命の指先は彼の眼球まで届かない。

宇佐見が彼に跳びかかり、踵落としを繰り出していた。
軽井は被弾の寸前でそれに気づき――しかし回避は行われない。直撃する。
風車のように回転しながら地面へと叩き付けられ――まるで怯まず地面を両手で押して跳躍、その場から離脱した。

「……手を組もう。この状況は、お互い良くない。だろう?」

宇佐見は流川達に向けてそう言った。

「奴の体質は『軽量化』だ。奴の体は羽のように軽い。なおかつ、それでも生命活動を維持していられる」

己の体質を暴かれて、しかし尚も軽井は不敵な表情を絶やさない。

「はっ、そんなよーく見りゃ分かる程度の情報、バラされたところで問題ねーよ。
 むしろ……お前は「そこまで」しか晒せねえ。啄木鳥の体質を言わねえのはなんでだ?」

余裕の態度で問いを発し、答えを待たずに言葉を続けた。
 
「妹の選んだ世界を壊しちまいたくねーからだろ?」

宇佐見は答えない――その沈黙は、肯定だった。

118 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/10(金) 03:04:46.92 0
宇佐見は啄木鳥を殺したくない。妹が生きている世界に傷を付けたくないのだ。
彼にとって最も理想的な展開は、軽井を仕留め、啄木鳥から逃げ切る事だ。
つまり――流川達に啄木鳥を殺されるのは、出来れば避けたい。

「……だとしても、お前は敵だ」

「ま……そりゃそうだ。だが気をつけろよ。ソイツはあんまり信用出来ないぜぇー!」

煽るように軽井は叫び、膝を屈める。

「おい啄木鳥!テメェが主体だ!合わせてやるよ!」

自分から動けば大きな隙を晒す事になる。
返答はなく、代わりに降り注ぐのは木製の槍だ。
喰らえば言うまでもなく重傷を負い、避けても地面に突き刺さり身動きを阻害する。

その中で――身軽な軽井だけが、殆ど自由自在に動き回れる。
突き立てられた槍の先端に飛び乗り――刃化した腕で眼下を薙ぎ払う。
狙いは向路と流川のみ。防御に長けた岩男は逆説、後回しにすればただの鈍亀だ。



【軽井の信頼度が10下がった!
 宇佐見の信頼度が5上がった!
 啄木鳥との関係が敵対になった!】

119 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/07/10(金) 23:38:18.87 0
>「……まぁ、それもそうか。今のアンタの状態じゃ、こっちから仕掛けるのは自殺行為だもんな」

「まあ…………正攻法では正直三人相手は厳しいのは事実ですわ」

今の状況は非常に芳しくない、先ほどよりも多少は回復ものの十全とは言い難い。
少女の言うとおり三人相手にこちらから仕掛けるのは確かに自殺行為に等しい。
もっとも、手段が無いというわけではないのだが。
そうして身を隠しているうちに、哨戒している者たちの会話が聞こえてきた。

(何やら色々と起こっているのですわね……。その方が都合がいいのですけれど)

>「――餌を使うんだよ。ちょうどいいのが、すぐそこにいる」
>「(前略)だが、ファームとは違ってこちらは真正面から攻め込むしかない。
 呆気無くしくじって……一人が捕まった。鍵山は拷問をすると言っていたが、ソイツを借り受ける」

「貴方も妙な事情をお抱えのようで……」

>「……参ったな。あそこに行かれちまったら、私達が逃げ出した事がバレちまう。
 アイツらがもう少し遠くに行ったら、すぐにここから離れよう」
>「この声……!」

「それには賛成ですわ。って貴方何を……!?」

撤退を進言した少女が不意に振り向き、不幸にも茂みが揺れてしまった。
そして相手もそれを聞き逃すほど愚かではなかったようだ。
少なくとも一人は熱心にその原因の捜索を開始している。

>「……悪い。この状況……どうにか出来ないか?やらかしたのは私だ。囮が必要ならやらせてくれ」

「囮といえばむしろこの私の方が……なんていっている場合ではありませんわね。
 少々きついかもしれませんが、熱心に私たちを探している彼と、それともう一人くらいをなんとか誘導できません?」

確かに三人相手では、はっきり言って自殺行為だ。
だが、各個撃破なら勝利の潰えていない、その為に鍛えた技術だ。

「一人一人なら、なんとか始末できますわ。だからその間、陽動を頼みます」


【各個撃破を目的に二人の陽動を頼む。その間に残った一人を撃破したい】

120 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/15(水) 03:57:19.81 0
>「一人一人なら、なんとか始末できますわ。だからその間、陽動を頼みます」

「あぁ、分かった。任せてくれ」

言うやいなや、少女は茂みから静かに這い出し――地を蹴った。
わざと足音が立つような走り方で、近くにあった太い木の陰に飛び込む。

「今の音……」

男達が振り返った。

「やはり近くにいたようだな……」

そして少女が身を隠した木へと近寄っていく。
面倒臭がっていた二人も、流石に何かあるという実感が湧いてきたらしい。
一番近くにいた男がファイティングポーズを取りながらその陰を覗き込んだ。

「……誰もいない?」

しかし少女はそこにいなかった。
どこへ行ったのかと言えば、上だ。

彼女は「兄」と違って瞬発性に欠けるが、しかし『兎化』の体質を持っている。
少し力を溜める時間があれば――逆説それが出来ない戦闘は苦手だが、卓越した脚力を発揮出来る。
男達が振り返った時には彼女は既に樹上に跳び上がっていた。

「……なぁ、やっぱ気のせいなんじゃねえか?」

男は振り返り、班長にそう言った。

「……もっとよく考えろ。相手は怪人だぞ。姿を隠しているかもしれない」

しかし班長は足を止めず、自分も音が聞こえた付近を調べるべく近寄っていく。

必然、少女が隠れた木から遠くにいた、もう一人のやる気のない男は、他の二人から距離が開いた。
一応調べている体を取らなくては班長がうるさい為、そちらに向かってはいるが、その歩みは緩慢だ。
加えて他の二人の視線と意識は、当然彼には一切向けられていない。

孤立した一人が、大鳳の隠れている茂みの傍を通りかかる――



【決定ロールでおkです。少女を動かし、他の二人を仕留める事までやっても構いません】

121 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/07/16(木) 04:26:06.65 0
>「あぁ?なんだぁ?なにやってんだ……」
>「よっ!?」

有り難いことに飛び退いてくれたうさ耳の横を駆け、向路は足下の小石を目の前の男……軽井へと蹴り飛ばした。
ただ石を蹴っただけだが、先程の流川に対するうさ耳の攻撃の流れを連想させるソレはなにかしらの対応を取らせるはずだ。
能力を使わせられたら御の字、でなくとも不意の際に取る行動を見られれば良し。
はたして、軽井は向路の攻撃圏内から易々と逃げおおせた。
向路はその瞬間を見逃さなかった。肉体強化の殆どを回復へ回しているが、戦闘が始まった段階で動体視力の強化だけは戻していたのだ。
軽井はまるで溜めもなく軽く跳ねるようにして遙か上空へと跳び上がっていた。単純な肉体強化ではああいう芸当は不可能だろう。
肉体変化を併用したにしても奇妙だ。矢が放たれることは軽井にも分かっていただろうに、後ろや横ではなく、上へと逃げた訳とは……。
向路は飛来する矢を見据え、着弾圏内の外へと足を動かしながら軽井の能力についてなんとなく予想を付ける。

>「……なーるほどねえ。『商会』の方にも、テメェみたいな奴らがいたって訳だ。なぁ宇佐見」

どう言うわけか跳び上がった地点からかなり離れた場所へ着地した軽井へ視線を戻す。
コレも特性を用いたのだろうが、空中で移動できるのは相当に厄介だ。

>「啄木鳥ぃ!テメェよう……本当は、最後の最後にゃ全員殺しちまうつもりなんだろ?」

軽井はおもむろに弓師──キツツキというらしい──へと声を張り上げた。
先程のうさ耳のように、取引を申し出るつもりかもしれない。
向路はあえてそれを妨害しないことにした。取引をするとき……それは手札を晒すときでもある。

「最初にテメェは宇佐見も巻き添えになる形で矢を打ちやがった。…(略)…そういう魂胆だろ?え?」
>「俺も、テメェの体質は知ってるんだぜ。……手出しするなら、俺以外からにするんだな」

122 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/07/16(木) 04:30:26.46 0
 
取引の結論……矢の襲来。
だが、キツツキとの取引の仕方も分かった。矢の雨をうさ耳の動きに追従することで逃げながら考える。
彼は体質がバレることを嫌い、また敵を効率良く、安全に処理することを望んでいるらしい。
それならばやりようはある。ただ、そのまえに確信しなければならないことがある。

「なぁ、ウサミくん……でいいのかな。幾つか聞きたいんだが─…」

>「――どうしてだ!」

向路の声をかき消したのは、新免の叫びだ。声の代わりに溜息をこぼし、向路は頭を抱えた。
彼が啄木鳥の身の振り方を理解できないのは分かる。その疑問を口に出さずにいられない性分なこともだ。
だが、鎧を纏ったことによる慢心なのか……無防備過ぎる!

>「何言ってんだ、お前?今そういう状況じゃねえだろ?……生きるか死ぬかの瀬戸際だぜ?」
>「それでも!正義は、正義だ!……そうだろう!?」

「ッッウサミ君 ! ! 」

>「あぁ、そうかもな。じゃあ」
>「――死ね」

「頼む!」

新免を助けたくとも、現状の特性が制限された向路では達成できない可能性が大きすぎた。
協力関係を築いたとはいえ未だ信頼するには材料の少ない宇佐見を頼るしかできなかったことに歯噛みしながらも、彼がソレを叶えてくれたことに胸をなで下ろす。

>「奴の体質は『軽量化』だ。奴の体は羽のように軽い。なおかつ、それでも生命活動を維持していられる」

「……ありがとう。助かったし、助かる」

木陰から這い出て、宇佐見の傍まで移動しながら徐々に特性を通常時のものへと戻していく。
まだ回復は6割に届かない程度だが、動けないでいるよりはマシだ。
宇佐見による特性の解説はおおよそ向路の予想通りであった。蹴りをまともに食らっても全く意に介していない辺り、肉体・性質変化も併用していそうだ。
こちらは鉄パイプ殺法流川と徒手空拳の宇佐見と向路。見事に打撃系ばかりだ。新免が刃物武器を作り出せるとはいえ、相性は悪い。
向路のグローブもチタンの爪を備えてはいるが、あまり活用できなさそうである。

123 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/07/16(木) 04:30:43.32 0
 
>「はっ、そんなよーく見りゃ分かる程度の情報、バラされたところで問題ねーよ。(略)啄木鳥の体質を言わねえのはなんでだ?」
>「妹の選んだ世界を壊しちまいたくねーからだろ?」

宇佐見に問いかけようとしていたことの答えに近いものを聞くことが出来た。
宇佐見は啄木鳥へ敵意を持っておらず、それはつまり彼は『鳥籠』ではないということだ。
共生派なのかは分からないが、この『鳥籠』のお膝元とも言える土地だ。『鳥籠』と競っている同業者ということはないだろう。
つまり、向路らとしても敵対する理由が無い。むしろ宇佐見や共生派のことを考えると殺す方がマズい。

>「……だとしても、お前は敵だ」

そう、現状倒す必要がある敵とは軽井のみ。
どういう方法を取ったのかは分からないが、他の構成員は流川が処理をしてくれた。
ここで啄木鳥を抱き込めれば、これ以降の処理も捗るだろう。

「……流川、キツツキをもう一度こっちへ戻したい。僕らも敵対して良いことないからね。言えることは言ってしまおうか」

この場で誰が最も啄木鳥への敵意を持っているか、それは明白に軽井だ。彼自身がそう言ったようなものだ。
非敵対の意志表明だけで寝返らせることが出来なければ、支援局の看板を出すのも吝かでない。

「口説くのは任せていいかな?僕そういうの下手だからさ」

>「ま……そりゃそうだ。だが気をつけろよ。ソイツはあんまり信用出来ないぜぇー!」

「流川を守るんだろ?余計なこと考えてる暇はないよ」

新免へ言いつけて数歩分前へ進み、向路は降り注ぐ槍を紙一重でかわしながら軽井を目で追っていく。
見る間に周囲を埋めたこの槍の森は大きく身動き出来ない代わりに敵の踏み込みも深くする。
槍の上を跳び回る軽井がこちらへ致命的な攻撃をするためには、思い切り接近し、大振りする必要があるのだ。
槍の上というポジションを守るためには体重を戻し攻撃に重さを加えることは出来ない。
更に相手は長く伸ばした刃による薙払いを敢行してきた。バランスを保つため、あの刃は鳥の羽のような軽さだろう。故に速いとはいえ、

「っウサミ君!」

弾くのも容易い筈だ。ナックルガードを正面から防御に使うのは通常なら愚行だが、質量差が十分あればこれでも足りるだろう。
宇佐見に援護攻撃を求めながら最大の隙を作る方法を思案する。うまく啄木鳥を寝返らせたとして、逃げられてしまっては元も子もない。
超瞬発も満足に発動できそうにない今、向路は攻め倦ねていた。

124 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/07/16(木) 07:31:18.74 0
「案外暗殺向きな能力っぽいですわね……」

少女の動きを見つつ、自身も行動を起こすために体をセッティングしていく。
残ったリソースを動員し、自身の体を弱く、脆弱にしていく。
最早一般人並まで衰えた能力で下手に強化しても怪人相手ではどうしようもない。
だからこそ弱化なのだ。その分を強化に回すわけでも無く、ただただ力を弱めていく。

そうしているうちに、少女の巧みな誘導により出遅れた男が大鳳の近くまで接近している。
男の姿を確認すると、大鳳は幽鬼のような足取りで彼の元へと赴く。
大鳳の移動によって茂みが揺れる。近くにいた男も当然それを察知しこちらを向くだろう。
普段の彼女であれば、振り向かせる隙も無く一撃で仕留めることが出来ただろうが、
生憎と今の彼女にそんな芸当は無理な話だ。

そんな半死人のような足取りの大鳳を前にして、男は初めこそぎょっとしたものの
直ぐに体勢を立て直し止めを刺さんばかりに拳を振るう。

――――それは確かに大鳳の体を捉え、真芯を着いた……はずだった。
だが大鳳は今までとふらついてはいるものの、有効打たり得てはいなかった。
そればかりか、カウンターのように彼女は弱弱しい拳を放つ。

「油断……しましたわね……?」

大鳳の拳が男の身体に当たる直前、その脆弱な一撃が敵を屠る凶打へと変貌した。
彼女の能力は凡庸ながら無二の特性として、瞬時に特定部位を強弱化できる。
元々弱っていたことと弱体化の二つが合わさったことにより起こる究極のリラックス、
そこからインパクトの瞬間に残ったリソースを片腕に集中することで起こる一撃は、
結果として油断していた男の命を一瞬で奪うには充分の威力を秘めていた。

「貴方の敗因はただ一つ、漫画を読んで勉強しなかったことですわ」
「……ふぅ、まずは一人。」


だが安堵している暇はない。少女が向かった先に自分も足を向ける。
今度はなるべく足音を立てないように気配を消していく。

(ある意味この弱った身体もこういう風に使えますわね……)

彼女がいくら能力が使えなくても、身体に刻まれた技術は健在である。
普段演習でしか使わないような技術を惜しみなく使うことによって
ある意味では普段以上に大鳳は輝ける。

気配を消して男たちの背後まで近づくと、歩みの遅い方の男の背後に立ち、
その背骨へと拳をそっとあてがい、放つ。
少ないリソースの使い方、足を強化し力を胴体へ、胴体を強化し力を腕へ
そして腕から手へ、力と重心に移動よる。
最も近く、最も遠くから放たれる一撃が、気だるげな男の背骨を破砕し醜い断末魔を上げる。

それを聞いて班長と思われる人間も異変を感じ大鳳の方へと振り向くが、それが彼の運命を決めた。
彼がこちらに振り向いた瞬間。木の上から少女が飛び出し、その脚力を遺憾無く発揮し男の首を吹き飛ばす。

「これで、ひとまずはなんとかなりましたわね……やっぱり漫画読んでおいて正解でしたわ」

当座の危機を凌いだことを確認し、弱化を解いて少女へと呼びかける。

「さて、それじゃあ改めて索敵お願いしますわ、えーっと…………そういえば貴方の名前聞いてませんでしたわね」

【とりあえず索敵を頼む】

125 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/07/21(火) 02:52:10.55 0
市香がアナフィラキシーショックによる手下の無力化に成功したと同時。
うさ耳の脇を抜けた向路の突進に軽井は驚愕していた。
それはそうだ、今までさんざん仲間ヅラしてきた連中が何の予兆もなく裏切ったのだから。
図らずも新免の追跡教示によって積み上げられた信頼が功を奏したとも言える。

>「……なーるほどねえ。『商会』の方にも、テメェみたいな奴らがいたって訳だ。なぁ宇佐見」

だが敵もさるもの、軽井は膝だけで高く高く跳躍し、向路の攻撃範囲から逃げおおせる。
更には虚空を『蹴り』、空中で軌道を変えて遠くへ着地した。

(マリオですかあんたは!)

先ほどのうさ耳との攻防と言い、軽井という男は『吹っ飛び過ぎている』。
まるで風に吹かれた木の葉のように、ひらりひらりととらえどころのない挙動を格闘技術に織り込んでいる。
コミック然とした特殊な武術でないならば、おそらくはそれが軽井の特性。

>「俺も、テメェの体質は知ってるんだぜ。……手出しするなら、俺以外からにするんだな」

追撃を攻めあぐねているうちに今度は軽井が樹上の啄木鳥とやらと交渉を始めた。
口を挟もうにも啄木鳥の性向が分からないことには提示条件が墓穴になりかねない。
市香には、歯噛みして軽井の口上を聞くことしかできなかった。
結論として、啄木鳥は軽井サイドについたらしい。
降ってきた木矢がその返答だ。

「うわやば」

向路はうさ耳の動きをトレースして回避。
市香はまたぞろ新免に飛びつき、彼が新造した装甲の陰に隠れてやり過ごす。
3対2対1というパワーバランスは変わらないが、これじゃこちらがうさ耳側につくメリットが台無しだ。
やはり啄木鳥による一方的な射撃支援は重すぎる。

>「どうしてそんなにも簡単に、敵味方を切り替えられる!お前達には善悪の区別は!信じるべき正義は……ないのか!?」

「まあ確かに啄木鳥さん、コロコロ寝返りすぎですけどね……」

新免の青臭い問答は正直付き合ってられないが、言いたいことはよくわかる。
さっきからあの弓手、何の担保もない言葉だけで掌返しすぎである。
しかしまあ結局は、軽井の言う通りなのだ。
生きるか死ぬかの瀬戸際なら、より強いカードを持つ方につくのは実際正しい。

>「……手を組もう。この状況は、お互い良くない。だろう?」

再びの軽井の急襲から新免を救ったうさ耳が、共闘を申し出てきた。
もとよりそのつもりの市香達には断る理由がない。

>「奴の体質は『軽量化』だ。奴の体は羽のように軽い。なおかつ、それでも生命活動を維持していられる」

「中身スッカスカってことですか。あったまわるそーな顔してますもんね」

向路とうさ耳の近接二枚看板に隔てられた市香はようやく人心地がついている。
軽井から目線を切らずに、すぐそこの川で汲んできたボトルいっぱいの水を補給する。

126 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/07/21(火) 02:52:55.76 0
>「はっ、そんなよーく見りゃ分かる程度の情報、バラされたところで問題ねーよ」

己の特性が暴露されても、軽井は余裕を崩さない。
それもそうだ、体重がメチャ軽いことが分かったからってどうしようもない。
体重の軽さが影響するであろうパンチの威力にしたって、奴は刃物を形成することで補っている。
こちらの打撃は暖簾に腕押すみたいにいなされ、軽井の刺突はあり得ない角度から回りこんで来る。
これを厄介と言わずしてなんと呼ぶというのか。

(いちおーぶん殴れば吹っ飛んでくみたいですけど、ホームランしちゃうとまずいですよね……)

軽井は取り逃がせない。
このままおめおめと鳥籠への帰還を許せば、市香達の離反が敵にバレてしまう。
その時点で潜入捜査は失敗だし、『羽持ち』とやらの耳に入れば命も危うい大失態だ。
だからここで殺す。その為にできることを考える。

>「……流川、キツツキをもう一度こっちへ戻したい。僕らも敵対して良いことないからね。言えることは言ってしまおうか」

目下の問題は軽井以上に樹上の啄木鳥だ。
こいつを黙らせないことには軽井を殴りにいくことすら困難だろう。
先程新免めがけて打ち込まれた『槍』レベルの攻撃は、新免の装甲だけじゃまず防げない。

>「口説くのは任せていいかな?僕そういうの下手だからさ」

「男のひとの仕事だと思うんですけお、そういうのは!」

年収1000万以下の男は口説く気になれない市香である。
いや、案外鳥籠のようなイリーガルな組織は良い給料貰っているのかもしれない。税金払ってないだろうし。
啄木鳥は山の中で生活して武器も手作りなロハス野郎なので、物的財産に乏しいのだろうけど。
この豊かな自然こそが最大の財産?反吐が出ますね!

市香が内心で毒づいた直後、軽井が再び吶喊してきた。
雨のように降る啄木鳥の槍の支援付きで、植え付けられた槍の林を軽業師のように渡ってくる。
迎え撃つ向路も宇佐美も、良いのを貰ってはいないようだが攻めに転ずることもできないでいる。

「それじゃ掌もうひと回転、してもらいましょうか……!」

市香の両頬が拗ねた子供のようにぷくりと膨らんだ。
そのまま顔を頭上を飛び回る軽井へ向けると、口から大量の白い気体を吐き出した。
体内で気化させ、空気中で冷えて微細な水分粒子に結合した――霧である。

「忍法毒霧(大嘘)!!」

先刻の攻防で、うさ耳の踵落としを直撃しても軽井は一回転しただけでノーダメージだった。
うさ耳の言う通り、肉体を本来生存できないレベルに『肉抜き』して羽毛の如く軽いのだろう。
あるいはそもそも著しく軽量な細胞でできているのか……いずれにせよ、密度が恐ろしく低い。
だから打ち込まれた慣性のほぼ全てが移動や回転に置き換えられてしまって、肉体の破壊には至っていない。
だとすれば軽井の着ている服とかもすごく軽いのか、その辺は謎だがこの際無視して良い。
羽毛のように軽いからパンチが効かないと言うのなら。

(『濡れた』羽毛ならどうですか……!)

羽虫なんかは羽が水に濡れてしまうと飛べなくなるらしいが、軽井の場合はどうだろう。
市香の吐き出した霧は無差別的な範囲攻撃故にもちろん向路やうさ耳も付着するが、
その影響を大きく受けるのは比重の軽い軽井だけのはずである。
水滴が付着するだけで、彼は体重が二倍にも三倍にもなるのだ。

127 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/07/21(火) 02:53:35.03 0
そして市香はまろび走り、軽井の攻撃範囲から飛び出して地面を転がり、樹上を見据えた。
啄木鳥を口説けとは無理難題もあったものだが、班長の指示ならやるしかない。
流川市香が玉の輿に乗りために磨いた男をオトすテクをついに実践する時がきた。

「啄木鳥さん!わたしたちは貴方の敵じゃありません!
 鳥籠からの脱走者を追ってこの森に入り込んだだけで、侵略する意図はありません」

啄木鳥は応えない。
返答代わりに槍でも降ってくるかと思ったが、軽井の支援と両立するのは難しいようだ。

「それに脱走者を追ったのは、別に鳥籠に連れ戻そうとしてってわけでもないんです。
 逃げたきゃ逃げても構わない。ただ、逃げた彼らがどこへ行くのか――何を頼っているのかを知りたかった」

こんな山奥に、着の身着のままで脱走した者が長く滞在できるとは思えない。
食料も無ければ、一晩過ごす為の衣類すら持っていないからだ。
かと言って、岐阜の緑深い山中を潜り、山越えなんて出来るはずもない。
人のいる街にたどり着く前に野垂れ死ぬのがオチだ。

それを、長くここに囚われている者達が分からないはずがない。
鳥籠は脱走を防ぐ為にまず最初に脱出が絶望的な状況を植え付けるだろうからだ。
ならばなぜ逃げ出したのか――答えは簡単、この山中に協力者と合流するアテがあるからだ。

「それが貴方たちであるなら、こんなに都合の良いことはありません、啄木鳥さん。
 わたしたちは、貴方たちの頭痛の種を取り除くプランを提示しに来たんです」

敢えて、『共生派』というワードは使わなかった。
現状その呼び方を使っているのが鳥籠だけである以上、余計な誤解は産みたくない。
ついでに啄木鳥がもし共生派でなかったら、それはそれで面倒なことになるだけだ。

「――『羽持ち』の打倒。それがわたしたちの目的です。
 かの"鳥籠"首領を討ち取り、世界をちょっとだけ平和にする為にわたし達はここへ来たんです」

あながち嘘とも言い切れない。
市香自身には隊長格の実力者である『羽持ち』とことを構える気など毛頭ないが、
必要な情報を集めて帰投すればあとは支援局の主力がなんとかしてくれるはずだ。
その辺は市香なんかよりよっぽど荒事に向いた(例:妖怪ウイング女)怪人の仕事である。

「羽持ちの首を獲りにきたからには、あの軽井とかいうスカ男なんかは余裕でぶち殺しますよ。
 だけどラスボス前に奥の手は温存しておきたい。啄木鳥さんが協力してくれればそれが可能なんです。
 あなたを庇ってる宇佐美さんとわたし達が共闘してるってところを根拠に、ひとつ信用してもらえませんか」

こういうときに間違っても使っちゃいけない論法が、『あの軽井はきっと裏切りますよ』というネガティブキャンペーンだ。
信用の出来なさで言えば市香達も大概であるし、その特大のブーメランを軽井に投げ返されれば墓穴を掘ることになる。
結局のところ、判断の天秤は啄木鳥の中にしかないというのが歯がゆいところだ。


【軽井に霧吹き攻撃/啄木鳥と交渉。提示カード『羽持ちの打倒』】

128 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/26(日) 00:18:30.21 0
>「これで、ひとまずはなんとかなりましたわね……やっぱり漫画読んでおいて正解でしたわ」

「……なんなんだ、そのマンガ?って。武術の指南書か何かか?」

大鳳を振り返った少女は怪訝そうに首を傾げた。

>「さて、それじゃあ改めて索敵お願いしますわ、えーっと…………そういえば貴方の名前聞いてませんでしたわね」

「名前?……あぁ、恵子、だよ。宇佐見恵子。体質がこんなだからさ、昔勝手に決められたんだ。
 名前がないと不便でしょ、ってさ。出来れば下の名前で呼んでくれると嬉しい。上の名は、好きじゃないんだ」

少女――宇佐見恵子は苦々しげにそう言った。

「それで……ええと、索敵だったよな。実は、私達のアジトの近くに……誰かがいるんだ。戦ってる。
 けど別に、そこはどうしても通らなきゃいけないって訳じゃないんだ。回り道出来る」

でも、と恵子は続ける。

「……そっちに、寄ってもらえないか。私の聞き間違いじゃなかったら……そこに私の、今の仲間と……兄貴がいるんだ」

その表情には緊迫感が滲んでいる。

「啄木鳥さんは……私達が人間を助けに行くのにも反対してた。
 勝ち目がないからって。何かあっても、私達を助けないとも……言ってた。
 あの人は「今」が大事なんだ。今を守る為なら、私達だって見殺しにする」

恵子の口調は、啄木鳥を責めるようなものではなかった。
ただ、怯えと焦燥の響きがそこには秘められていた。

「結局、あの人の方が正しかった……。ホントは分かってた。あの人の方が、私達より正しい判断が出来るんだって。
 でも、だからこそなんだ。だからこそ……あの人はきっと兄貴を殺しちまう!
 鳥籠に残る事を選んだ兄貴を、あの人が生かしておく訳がない!」

目頭に涙を滲ませて、恵子は大鳳に大きく詰め寄った。
そして大鳳の右手首を掴む。

「頼む、兄貴を殺させないでくれ。アンタなら、出来る筈なんだ。
 アンタがいれば、鳥籠にだってきっと勝てる。だろ?勝てるよな?
 ……それが、それが正しい事だって……あの人に分からせてやってくれ」

少女の意志は固い。
万が一大鳳が断ろうとしても――彼女は大鳳の手首を掴んだまま全力で走り出すだろう。
状態が万全でない大鳳ならば、それに逆らう事は難しいと判断した上で。

129 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/26(日) 00:19:04.52 0
 


軽井が放った高速の刃は、しかし硬質な音を奏でるのみに終わった。
向路が最小限の動きでそれを弾いたのだ。

「うぉ……っと。マジかよ、やるじゃねえか」

体勢を崩した軽井は、しかし余裕の表情のままだ。
どのみち地の利は自分にある。
乱立する槍によって身動きを制限された向路達の攻撃は、自分には届かないと踏んでいたのだ。
故に――頬を大きく膨らませた流川への認識が一瞬遅れた。

しかし軽井は肉体強化による感覚の鋭敏化を高い水準で修めている。
流川の変調を一瞬遅れで認識しても、十分な思考時間があった。
また先ほどの、他の仲間達を制圧した攻撃を行うつもりかと彼は判断し、後方へ跳躍――

>「忍法毒霧(大嘘)!!」

「んなっ!?」

しかし放たれたのは「線」の射撃ではなく水蒸気による「面」制圧だった。
軽井はそれを避け切れず――よろめき、槍の足場から転げ落ちる。
その滞空時間は先ほどの跳躍に比べてずっと短かった。

「うお……おぉ……」」

軽井は咄嗟に起き上がりざまに後方へ飛び退き――再び転んだ。
明らかに体のバランスを保てていない。
異常なほどに軽量な彼の身体は、服が水を吸っただけでも重心が狂ってしまうからだ。
だからこそ普段は撥水性の高い服装を心がけているのだが――今日は、明日の見本市の会場設営があった。
彼は動きにくいレインコートではなく、作業着を着用していて、そのままの格好でここへ来た。

瞬間、樹上から無数の矢が軽井へと降り注いだ。

「う、おるぁあああああああああああ!!舐めんな啄木鳥ッ!!」

迫り来る矢群を前に、軽井は咆哮。
同時に彼は仰向けの状態から身体を反転。
作業着の背が破れ、蝙蝠のそれに良く似た羽が一枚飛び出し――矢の雨を払い除けた。

「……啄木鳥っつーより、まるで蝙蝠だよな、テメェは」

憎々しげに吐き捨てる軽井は、しかし啄木鳥を非難しない。
啄木鳥の目的は皆殺しだ。
特性を暴露されて後の戦いを不利にしたくなければ手を貸せと、一時的な協定を結んでいるだけで。
軽井がヘマを踏めば、啄木鳥がそれを見過ごす理由はないのだ。

先鋭化させた指で作業着を引き裂き、脱ぎ捨てる。
体の重心は正常化したが――

(あのメスガキ……さっき毒か何か飛ばしてやがったよな。クソ、こいつぁ厄介だぜ……)

その表情からは、既に軽薄な笑みが消えていた。

軽井は肉体変化重視型の怪人だった。
肉体強化を感覚増強に絞り、肉体変化によって体質『軽量化』の利便性を上げている。
背中から生やした羽根は硬化させれば刃にも盾にもなり、軟化させれば限定的な飛行能力を得られる。
脚部から生やせば『空気を蹴る』事も可能だ。
全身を軟化させればまさしく羽毛か暖簾の如く敵の打撃を受け流す事すら可能だ。

130 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/26(日) 00:19:28.10 0
(落ち着け……これでアイツらの手札は大体見えてきた。
 肉体強化型が一人と、水鉄砲が一人と、金属を操る奴が一人……。
 水鉄砲は厄介だ……濡れて土や枯れ葉が引っ付いたら動きにくいったらありゃしねえ)

岩男の特性も軽井の攻撃能力では厄介だが、彼は先の攻撃にまるで反応出来ていなかった。
つまり肉体強化を修めていないのだと軽井は察する。
ならば接近を許さず回避し続ける事は難しくない。後回しでもいい、と判断した。

「おい啄木鳥!まずは……」

>「啄木鳥さん!わたしたちは貴方の敵じゃありません!
  鳥籠からの脱走者を追ってこの森に入り込んだだけで、侵略する意図はありません」

軽井が声を上げるよりも早く、流川は機先を制していた。

>「――『羽持ち』の打倒。それがわたしたちの目的です。
  かの"鳥籠"首領を討ち取り、世界をちょっとだけ平和にする為にわたし達はここへ来たんです」

流川の口説き文句に対して――しかし返事はない。
肯定の言葉は返ってこず――代わりに矢の雨も、降ってこない。

啄木鳥は迷っているのだ。
嘘――の可能性は低い。流川達は軽井と敵対している。
だが、それと「流川達が自分達『共生派』の味方になり得る」かはまた別の話だ。
流川達の目的が「鳥籠の業務をまるごと乗っ取る事」である可能性を否定出来ないからだ。

最も安定した選択肢は、今まで通り「皆殺し」だ。
そうすればこの場所を知る者は外部組織にはいなくなる。現状維持が出来る。
だが――それでいいのか、という考えが鎌首をもたげつつあった。

軽井が舌打ちを鳴らす。
啄木鳥が迷っている事を彼は察知していたが、出来る事はない。
「特性をバラすぞ」という脅しは啄木鳥が自分に攻撃を仕掛けてきた時にしか使えない。
この状況でそれを言えば、かえって啄木鳥の判断を後押ししてしまう。

「……クソが。テメェ絶対ぶっ殺してやるかんな、啄木鳥」

悪態を吐き、軽井は単独での戦闘を決意した。
幸い、彼の特性は対多数に向いている。
三次元的な挙動が可能な上に動きそのものも速い為、ヒットアンドアウェイに高い適性があるのだ。

(だが……この周囲の『木』。コイツが厄介なんだよなぁ……。
 啄木鳥の野郎がどこに潜んでやがるのか、分かりゃしねえ……)

本来ならば、軽井にとって理想の戦法は周囲の木の幹を利用して、常に高い位置から肉体変化による攻撃を繰り返す事だ。
だが、何故か彼はそれをしない。出来ない理由があるのだ。
それが『啄木鳥の特性』である事は、恐らく流川達にも察する事が出来るだろう。

また――説得の間、樹上を注視する事が出来た流川はもう一つ、気付ける事があるだろう。
周囲の木にはおかしな点があった。「枝が繋がっている」のだ。
別々の木から伸びた枝が、空中で一つに融合している箇所があった。
それもまた啄木鳥の特性が原因だ。

「……俺の口からは、アイツの特性は言えない」

宇佐美が呟く。
もしそれをしてしまえば、彼と啄木鳥の関係性は決定的になってしまう。

131 : ◆PyxLODlk6. :2015/07/26(日) 00:19:53.05 0
「……すまない」

決定的に啄木鳥と「敵対」してしまうからだ。
啄木鳥は宇佐美を完全に敵とみなし、絶対に逃すまいと殺しにかかってくるだろう。
妹が選んだ世界を害したくない宇佐美一郎にとって、それは許容出来ない事だ。



「……兄貴!」

不意に、戦場に少女の声が響いた。
宇佐美恵子の声だ。
軽井の背後から、その声は聞こえた。

しかし恵子の意識が捉えていたのは兄の姿と――啄木鳥が放った物であろう、無数の矢と槍だけだった。

「啄木鳥さん!待ってくれ!私の話を……」

瞬間、軽井が動いた。この瞬間を見逃すほど彼は間抜けではない。
振り返りざまに少女に跳びかかる――と見せかけて、体を一回転。そして跳躍、滞空。
羽根を更に一枚生やし、刃化。背後の木の幹を切りつけ、食い込ませる――身体を空中で固定。
同時に腕を羽根状の、歪曲した刃に変化させ、流川へ伸ばし、振り下ろした。
歪曲しているのは、厄介な向路や宇佐美、岩男の防護の上から流川を斬り付ける為だ。

硬質化した刃には回転による加速が、遠心力が乗る。
その切っ先は生半可な肉体強化では捉える事も敵わない程に速く、鋭い。
幾ら軽いとは言え、無防備に受ければ肩口から心臓まで、刃は容易く滑り込む。

更に背後への牽制も忘れない。
背に生えた片翼を腕同様に刃化させ、伸ばし、恵子の足を薙ぐように放つ。
機動力を削ぎ、人質として確保する為だ。

恵子はつくづく足を切断される事に縁のある少女らしい。
が――軽井の判断は、完璧とは言い難い。
何故なら彼女の隣には、大鳳勇がいるのだ。



【後衛狙い即死スキル&足払い
 
 啄木鳥との関係性が「中立」になった!
 啄木鳥はどちらに対しても「手を出すのを控える理由」がある!】

132 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/07/26(日) 23:02:06.62 0
>「……なんなんだ、そのマンガ?って。武術の指南書か何かか?」

「あら、漫画も知りませんの?
 漫画とは私たちのような怪人にとっては指南書みたいなものですわね」

さも当然のように切り返し、ついで探索を少女に求めると同時にここにきて始めて彼女の名前を聞いた。

>「名前?……あぁ、恵子、だよ。宇佐見恵子。体質がこんなだからさ、昔勝手に決められたんだ。
 名前がないと不便でしょ、ってさ。出来れば下の名前で呼んでくれると嬉しい。上の名は、好きじゃないんだ」

「恵子ですか、了解しましたわ。そういえばこちらも改めての自己紹介はしてなかったですわね。
 私、大鳳勇ですわ。出来ることなら末永く仲良くお付き合いしたいものですわ」

そう言って大鳳は苦々しい顔をした恵子の心を和らげるように微笑む。
無論、お互いの組織に関してのことなのは間違いないが、仲良くしたいのは本心である。
少しの時間とはいえ、時間を共に行動している大鳳にとって恵子は既に友と呼ぶに等しいと感じているのだ。

>「それで……ええと、索敵だったよな。実は、私達のアジトの近くに……誰かがいるんだ。戦ってる。
 けど別に、そこはどうしても通らなきゃいけないって訳じゃないんだ。回り道出来る」
>「……そっちに、寄ってもらえないか。私の聞き間違いじゃなかったら……そこに私の、今の仲間と……兄貴がいるんだ」

それに続く言葉を大鳳は静かに受け止める。

(なるほど、色々と複雑な環境みたいですわねぇ)

頷きつつも話しを聞いていると、不意に恵子が大鳳の手首を掴んできた。

>「頼む、兄貴を殺させないでくれ。アンタなら――――

「いいですわよ」

恵子が言葉を吐き出しきる前に、大鳳はそれに応えた。

(隊長達だったら、突っぱねてそうですわね……。やはり私に隊長は向いてないですわ)

軽くため息を吐き、言葉を続けていく。

「そんな涙目になるのははしたないですわ。
 私は少女の、それも友人の切なる願いを聞き届けないほど冷酷ではありません。
 とは言っても、今の私ではそこまで半人前もいいとこですから、恵子にもしっかり動いてもらいますわ」

恵子が掴んでいる手首を解き、大鳳は改めて握手という形で握り直す。

「さあ、案内してくださいまし。貴方の大切な人の元へ」

133 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/07/26(日) 23:03:11.12 0
しばしの間、恵子に連れられて森の中を走っていくと、すぐに戦場へと到着した。
……到着したはいいもの、大鳳は割とどうするべきか迷っていた。

(なーんか、よくわからないことになってますわね……)

今あるリソースを視力に費やして状況をなんとか確認すると
そこに見えるのは5人。流川、向路、岩男、それに加えてうさ耳生やした男と妙な体躯をした男だ。
十中八九、恵子が言っていた兄貴とはあのうさ耳男の事だろう。
ぱっと見る限り、身内の三人と妙な男が戦っているようだが、周囲に刺さっている矢が気がかりだ。
流川たちにそんなものを使う怪人がいるわけでもない、かと言って他の二人も弓のようなものを持っているようには見えない。

(もう一人隠れてますわよねぇ……さしずめ樹上といったところでしょうか)

>「……兄貴!」

思案している大鳳をよそに、恵子が声を張り上げる。
その言葉に反応して、奇妙な男――軽井が機先を制するように、
凶刃と化した翼で恵子の足を切りかからんと動き出した。
それは正確無比な攻撃ではあった。だがそれは恵子が一人だったらの場合だ。


「もしかして私、いないと思われてます?だとしたら――――心外ですわよ」

動きの遅れた恵子の体を掬い上げ、さながらお姫様抱っこでもするかのように持ち上げると、
恵子の重さに身を任せつつ、背後へと跳びその一撃を避ける。

「あんまり一人で突っ走ならないでくださいまし。今の私たちは二人揃ってやっとこさギリギリ一人前ってところですわよ」

恵子に諭すと共に普段の自分への盛大なブーメランを投げつつ、深呼吸をし、叫ぶ。

「なんだか知らないですけど!この大鳳勇、義理と友情の為に馳せ参じましたわ!」

恵子を降ろしつつ、大鳳も宣言する。
とりあえずは、自分がここにいるということを流川達に伝える為に。
ついでに、自分が誰と戦えばいいのか教えてもらうために!

【恵子の護衛をしつつ、戦況確認】

134 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/08/01(土) 05:04:13.77 0
 
>「うぉ……っと。マジかよ、やるじゃねえか」

「……速いのは慣れててさ」

刃は弾き返すことが出来たが、奇妙な手応えに違和感が残る。
速いが軽く、しかし力がないわけではない。見た目こそ違うが、フリッカージャブなどが感覚的に近いか。
見た目より加速があり、軽量化と言いながらも攻撃の質まで軽いわけではない。今までの経験則が生かしにくい、嫌な攻撃だ。

>「忍法毒霧(大嘘)!!」
>「んなっ!?」

背後から飛び出した流川が随分なことを口走りながら軽井へと水を吹き付けた。
それによってバランスを崩した軽井は地上へと落ちたが、追撃はならない。
軽井共々巻き込む、というより軽井を中心に狙って放たれた矢に巻き込まれかねなかったためだ。

> 「う、おるぁあああああああああああ!!舐めんな啄木鳥ッ!!」
> 「……啄木鳥っつーより、まるで蝙蝠だよな、テメェは」

……しとめるには至らなかったが、軽井の能力の大部分を暴くに至った。
敵対開始時の奇妙な挙動は羽状の肉体変化によって空中移動をしたのだろう。
そして先程からの変化。硬化も行えるのは間違いない。
やろうと思えば全身を守れるであろう翼は厄介だが……雷が降ってこないだけ優しさがある。

「蝙蝠って、その羽根でヒトに言えるのか?」

言いながら向路は槍の間を縫って流川と軽井の間へ移動する。簡単に飛び越えられてしまうだろうが、いないよりは牽制になるだろう。

>「おい啄木鳥!まずは……」
>「啄木鳥さん!…(略)…侵略する意図はありません」

流川がキツツキへ語りかけているうちに目を走らせてどこにどう空間があるかを確認していく。
キツツキの攻撃によってそれも容易く変わるだろうが、把握しておいて損はない。
流川が語り終え、返ってきたのは無反応。
……上等だ。少なくとも聞く耳持たないと言うわけではないようで、戦況はかなりこちらに引き寄せられた筈だ。
勿論、また急に攻撃を始めないとも限らない。完全に気にしないわけにはいかないが先程までよりは軽井へとウエイトをかけられるだろう。

135 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/08/01(土) 05:05:29.39 0
 
> 「……俺の口からは、アイツの特性は言えない」
>「……すまない」

「……そうする必要があるんだろ?なら、気にすることないよ」

それにこれだけ攻撃を見れば、なんとなく想像も出来る。
間髪入れない矢と槍の攻撃。これを、こちらから全く察知できないところから結構な精度で行うのは五感の強化だけでは成されないだろう。
個人の攻撃とは思えない同時攻撃数や、この場所の立地を考えると、キツツキは複数人によるチームの可能性も生まれる。
しかし、軽井や宇佐見の口振りでは複数いるとは考えにくい。更に、能力を知られると困るようだ。
もし個人ならば、攻撃、敵の確認、矢の補充までをこなせる能力ということになる。
ここで再び立地、そして矢と槍を見れば、ある程度その能力も絞られる。
 
> 「……兄貴!」

と、突然響きわたる声。それにもっとも早く対応したのは軽井だ。宇佐見共々、こちらは少々面食らってしまっていた。
声を上げた少女をちらと見て、その隣の人物に仰天したのだ。この森の中でも殊更に目立つあのヒトは……、などと考えている場合ではない。

「ッ……!」

超瞬発さえ満足に使えれば違う方法も取れたが、今はこれ以外にやりようがない。
向路は軽井を睨んだまま背後へと地面を蹴った。流川を背中で押し退け、刃と相対する。
向路のグローブは指先の鉤爪から手を保護するために防刃素材で作成されている。それ故、ピンポイントだが防御に使うことが出来る。
しかし、それだけではこの刃を止めるには不十分だ。切れない故に、湾曲した刃は手の中を滑り抜けその先の肉を裂くだろう。
だからこそ、まずは抵抗を与えてやる必要があった。

「ッ痛ぅー…」

自身の右前腕を貫かせ、左手で刃を握り掴む。
刃の先端は左肩に食い込みながらも、致命傷には至らない。
そして、これによって生まれた一つの結果。

「……これで、捕まえた」

軽井は数の不利に焦ったか、更なる増員に戸惑ったか、なんにせよフットワークという利点を捨てるような攻撃を取ったのは失策だっただろう。

【肉を切らせて骨を断ちたい。
 リアクションがあまり取れず申し訳ない】

136 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/08/10(月) 00:38:32.02 0
市香の交渉が果たして啄木鳥に通ったのか、明確な答えをもらうことはできない。
しかし、確実な変化が戦況にもたらされた。

>「……クソが。テメェ絶対ぶっ殺してやるかんな、啄木鳥」

軽井が、啄木鳥の支援を当てにしなくなったのだ。
これで当面、厄介な援護と厄介な三次元殺法を同時に相手にしなくて済む。
つまりは封じられ続けてきた向路の特性を活かして戦えるということだ。

(しかし……本当になんも喋んないですね、啄木鳥さん)

交渉に応じるわりには返事の代わりに射撃を寄越すというコミュ障ぶり。
もしかして啄木鳥は、喋らないのではなく喋れないんじゃ?とさえ思えてしまう。
例えば本当にすぐ傍に隠れていて、声を出すと居場所が割れるとか。
あるいは『声が届かない場所』からこちらを攻撃しているのか。

>「……俺の口からは、アイツの特性は言えない」
>「……そうする必要があるんだろ?なら、気にすることないよ」

「そうですよ、貸し借りなしで行きましょう」

うさ耳の言葉に軽く応えた市香だが、さてどうしたものだろう。
ここまで戦闘状況を好転させる為に数々のサムシングを積み上げてきた。
結果として啄木鳥の狙撃はなくなったし、向路が十全に動ける状況まで漕ぎ着けた。
もうひと押しだ。市香の考える『最良の結果』まで、もうひと押し。

向路が動ける以上、地力に勝る軽井相手にタイマンで遅れを取ることはないだろう。
特性を封じられた上に啄木鳥の援護まであってなお向路を殺しきれなかった軽井にこの先勝ち目があるとは思えない。
啄木鳥さえ抑えておけば、あとは放っといても向路が軽井をぶちのめしてくれるはずだ。

だが、それじゃ足りない。
それだけでは、啄木鳥にとっての市香たちが『山ん中で内ゲバ始めた馬鹿共』以外の何者でもなくなってしまう。
市香たちにとっての啄木鳥が、『横からちょっかいかけてきたただの外野』でしかなくなってしまう。
この先の協力を漕ぎ着けるには、それ以上の関係が必要だ。
『共犯関係』という強固なつながりが――共に"鳥籠"に敵対するという共同戦線が。

そしてそれを得る為には、啄木鳥の能力の謎を解き、彼を無理やりにでも従わせる交渉材料が要る。
その喉笛に爪を立て、『死にたくなければ手を貸せ』と言って初めて最良だ。

(こちらから見えないところに隠れ、精度の高い射撃を大量に、連続して放てる特性……。
 十中八九環境依存型――それもかなり極端な!)

怪人のびっくり人間博覧会めいた特性には、当然のことながら相性の良い環境というものが存在する。
他ならぬ市香自身、水辺とそうでないところでは発揮できる能力の自由度が段違いだ。
啄木鳥もまたそうした特定の環境で強力な力を発揮するタイプの特性なのだろう。
見上げれば周囲の木立の枝どうしがまるで接ぎ木でもしたかのように繋がっている。
さながら複数の木が一つの生物として脈打っているかのようだ。

「もしかして啄木鳥さんの特性って――」

>「……兄貴!」

市香が降って湧いた発想を口に出すより前に、さらなる外野の介入というかたちで状況が動いた。
視線だけを声のしたほうに寄越すと、駆け寄ってくる1人の少女と、そして――

「大鳳さん!」

"商品"として搬入されて以降別行動をとっていた大鳳の姿がそこにあった。
一緒にいたはずの伏見は連れていないようだ。飛び出してきた人影は2つだった。

137 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/08/10(月) 00:38:59.17 0
同時、闖入者に気付いた軽井が跳躍、少女へと飛びかかる。その動きはフェイクだった。
彼は羽をつかって幹に自分を固定し、その身体を軸にして第二の刃を放ったのだ。
まるで大駒のように回転して放たれた刃は、市香の目には殆ど光の線にしか見えなかった。
反応できた向路が市香を押しのける。伸ばした彼の左腕から鮮血が舞う――

「向路さん!」

>「……これで、捕まえた」

鼓動1つ分の時を経て、向路の左肩から薄く鋭い刃が生えていた。
出血はあるが、命には届いていない。
そして彼が血をベットして稼ぎ出したのは、値千金の殺し札。
軽井のヒットアンドアウェイを封じる翼の拘束だった。

>「なんだか知らないですけど!この大鳳勇、義理と友情の為に馳せ参じましたわ!」

同時に狙われた少女を抱えて飛び退いた大鳳が声を張り上げる。
市香は啄木鳥に聞かせるつもりで大声で応じた。

「大鳳さんこいつです!この半裸蝙蝠羽野郎をとっととぶち殺してください!!
 あ、中身スカスカなんで気をつけて!」

同時に市香は踵を返して走りだした。
鉄パイプでぶん殴るしかできない市香には依然として軽井に有効打を与える術はない。
その衝撃を利用して向路の拘束を抜けられたら目も当てられない。
だから市香は迷わず軽井との対峙を捨てて駆け出した。
たどり着いたのは――手近な木立の幹。

「っ!」

疾走の勢いそのままに特性を解放、肉体を液体へと変化させる。
速度のついた『走る汁』は、狙い過たず幹へとぶち当たり、飛散――しなかった。
スポンジに落とした水の如く、ぶち撒けられるより先に染み込んだのだ。

「啄木鳥さん!ここが正念場ですよ!!」

幹の染みとなった市香が、そのままで液体を震わせ、声を発した。

「いま、木の中に潜り込んだわたしの細胞が、維管束伝いに木々全体に行き渡りました。
 わたしの意思ひとつで適当な枝の内圧を高めて破裂させることも、気化熱で凍らせることも可能です」

樹皮の薄い木の幹に聴診器を当てると水音が聞こえるというのは有名な話だが、
根から水を吸い上げ木々全体に運ぶ速度は想像よりもずっと高速だ。
その流れに乗って、市香は自身の液化細胞を木立の隅々まで伝播させていた。
空中で繋がった枝を通して、連結された全ての枝にそれが可能であることは啄木鳥にも分かるだろう。

「選択して下さい。ここでわたしたちと敵対するか、わたしたちの為に軽井さんを撃つか。
 沈黙は敵対行為とみなします。決めるのはあなたです。だから……どちらもお勧めはできません」

事ここに至って、市香は甘言を口にできなかった。
市香達は100%こちらの都合で、啄木鳥に共闘を強いているのだ。
彼が共生派であれなんであれ、犯罪者達が一様に畏怖する『羽持ち』なる強者との敵対関係に巻き込むことになる。
もう昨日までの日常には戻れない、鉄血と修羅の狂宴への片道切符をこれから彼に押し付けるのだ。

「茨の道を歩きませんか――わたしたちと一緒に」


【最終交渉】

138 : ◆PyxLODlk6. :2015/08/14(金) 23:24:47.98 0
軽井が放った斬撃は、極めて高速だった。
伸長させた刃を縦に大きく振り下ろしたその切っ先は、多大な遠心力を帯びていた。
だが逆説――速いのは切っ先だけだ。動作そのものは大振り極まりない。

本来はその驚異的な速力を秘めた切っ先を、当て続けられる位置取りが彼には出来た。
しかし今はそれが叶わない。
啄木鳥の存在が精神的な檻となっているのだ。
加えて地形によって横薙ぎの斬撃を制限されていれば――向路がそれを見切れない訳がなかった。

>「……これで、捕まえた」

「だぁああああ!クソうっぜえ!舐めやがって!」

>「なんだか知らないですけど!この大鳳勇、義理と友情の為に馳せ参じましたわ!」

>「大鳳さんこいつです!この半裸蝙蝠羽野郎をとっととぶち殺してください!!
 あ、中身スカスカなんで気をつけて!」

「やれるもんなら……やってみやがれ!テメェら全員ぶっ殺してやる!」

沸き立つ激情を隠そうともせず軽井は叫んだ。
そして――



――その時既に、流川一香は次の一手を打っていた。

>「啄木鳥さん!ここが正念場ですよ!!」

液化し、付近の樹木に自身を流し込み――周囲の木々に行き渡らせる。

>「いま、木の中に潜り込んだわたしの細胞が、維管束伝いに木々全体に行き渡りました。
  わたしの意思ひとつで適当な枝の内圧を高めて破裂させることも、気化熱で凍らせることも可能です」

彼女は啄木鳥の怪人特性を見抜いていた。
『植物と同化する』という彼の体質を。

啄木鳥は彼女達のすぐ傍にいたのだ。
周囲の樹木と同化し、そこに潜んでいた。
軽井が木を用いた高所からの断続的な攻撃が出来なかったのはその為だ。
啄木鳥の同化がどこまで至っているのかが分からない状態で、木々を足場に戦うのは危険過ぎた。

>「選択して下さい。ここでわたしたちと敵対するか、わたしたちの為に軽井さんを撃つか。
   沈黙は敵対行為とみなします。決めるのはあなたです。だから……どちらもお勧めはできません」

流川の呼びかけは確かに啄木鳥に届いていた。
彼女は既に、彼にとって言葉を用いて返答しなくてはならない存在になっていた。

>「茨の道を歩きませんか――わたしたちと一緒に」

流川の真向かいに位置する樹木の中程が、不意に膨れ上がる。
「膨れ」は人の形をしていた。
細身で面長の、鼻筋の通った、そう若くない男の上半身が木の表面に浮かび出た。

彼が、啄木鳥だった。

「――60点だな。君の提案は」

啄木鳥はそう答えた。

139 : ◆PyxLODlk6. :2015/08/14(金) 23:50:58.62 0
「私の体質を見抜いた所までは見事だが……君だって一度くらいは見た事がある筈だ。
 手足が爆ぜたり、凍ったくらいでは到底死なない、肉体変化型の怪人を。
 私がそうである事までは予想が出来なかったのか?」

啄木鳥は樹上から無数の矢と槍を降り注がせていた。
それらはどのようにして生成されたのかと言えば――肉体変化によってだ。
彼は『植物、主に木と同化した上で、肉体変化を行える』のだ。

「今の状況で鳥籠を本気で怒らせるか、この状況から君達全員を始末するか。
 どちらがよりリスキーかと言えば……言うまでもないな」

木々が変形を始めた。
既に流川が維管束から液化細胞を流し込んでいるにも関わらずだ。
破裂させられようが、凍結させられようが、自身の命にまでは届かないと踏んでいるが故の行動だった。

「だが」

樹上に無数の矢が、槍が、杭が、槌が実っていく中で、啄木鳥の視線が恵子を捉えた。

「……木々が凍ってしまっては、矢の回収や変形の修復に時間がかかる。
 そうなると……結局、戦闘の痕跡が隠せなくなってしまうな。それでは本末転倒だ。
 君達を始末して、鳥籠にまでここを嗅ぎ付けられては、それこそ最悪だ」

そして啄木鳥は、一度溜息を吐くような仕草を見せてから、こう続けた。

「君の提案に乗ろう。……と言っても、私に「我々」の決定権がある訳ではないがね」

それから視線を流川よりやや離れた位置へと逸らす。

「だから君も、もうその銃を下ろしてくれ。その脅しは心臓に悪い」

彼の視線の先では新免岩男が、拳銃を構えていた。
銃の密売が横行するこのご時世に、装填数が少なく精度と制御性に乏しいニューナンブを。
銃口を向ける先は啄木鳥ではなく、上空へ。

それは流川達が「国」に帰属する何かだと想像させ、
またこれ以上の敵対が鳥籠の追跡を助長させてしまうと思わせるには十分な行為だった。

「……俺に、そんなつもりはなかった。俺はただ……彼女を守る為に、銃を抜いただけだ」

岩男は小さく呟く。
それは正しくもあり、間違ってもいる。
彼は意図して「考えなし」に動いたのだ。
考えてしまえば――自分が脅しなどという、汚い行為を取ろうとしたと、自覚してしまうからだ。
だが、その自覚から目を逸らそうとも――彼の心中に立ち込める黒霧は更に濃度を増していく。
岩男の表情は、まるで今にも泣き出しそうな子供のようだった。

「ところで……」

ふと、啄木鳥が言葉を発した。

「君の仲間、向路……だったかな?彼が危ないかもしれないぞ。
 軽井は、私と同じく肉体変化型重視だ。つまり……いや、もう遅いか」

140 : ◆PyxLODlk6. :2015/08/14(金) 23:52:16.97 0
「――捕まえた、だぁ!?馬鹿が!捕まってんのは……テメェの方だぜ!!」

流川が啄木鳥への交渉を開始したと同時、軽井は叫んだ。
同時に彼の背中から「三枚目の羽根」が生えた。

その驚異的な機動力に隠れがちだが、軽井は肉体変化型の怪人だ。
彼は身体の至る所から羽根を生やす事が出来る。
つまり、機動力を殺す為に拘束を――そう考えた相手を、陥れる為の罠を常備しているという事だ。

硬度と速度を重視した彼の肉体変化は、代わりに「追加」の変形が困難だった。
故に既に突き刺した刃を変形させ、攻撃を行う事は出来ない。
だがほんの僅かな「返し」を作り出したり、硬度を下げるくらいならば不可能ではない。

三枚目の羽根は、向路が掴んだ刃――右腕を、その肘より先から切り落とした。
同時に――大鳳を捉え損ねた二枚目の羽根が、切断されたそれを突き刺し、付近の木に縫い付ける。
最後に、三枚目の羽根が二枚目を断ち切れば――捕らえた筈の刃は一転、向路の動きを制限する拘束具と化した。
肉体強化型の怪人の感覚を以ってしても、殆ど一瞬の出来事だった。

「テメーはそこで暫く突っ立ってな!ボケが!まずは――」

瞬間、軽井が地を蹴った。

視線は流川と岩男へ。
そして軽やかに跳び上がり、付近の木に足を付け――再度、今度は強く跳躍。

「――やっぱここは一旦逃げる事にするわ」

軽井は猛烈な勢いで、地面と平行に、飛んだ。

状況が悪化し過ぎたのだ。
啄木鳥の援護が完全に機体出来なくなった上、新手の敵まで現れた。
最早彼に戦闘を継続する理由が完全になくなってしまった。

逃げに徹した彼を追跡する事は、限りなく困難だ。

「だが完全に尻尾巻いて逃げるってのも気に食わねー。お前らはそこで死ね」

軽井が飛んだ先には大鳳と恵子がいた。
彼女達に、刃化した左腕による横薙ぎの斬撃が迫る。
君達に深手を負わせて、時間稼ぎをするつもりなのだ。

非戦闘員と、見るからに負傷している者を狙う。
その判断は決して間違いではなかった。
ただ、あまりに常識的――常人的過ぎる。
彼自身、「軽くて素早いならば拘束すれば」という常識に罠を潜ませているにも関わらずだ。
軽井の判断は決して間違いではなかったが――軽率では、あった。




【決定ロールOKです】

141 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/08/23(日) 01:27:08.36 0
>「大鳳さんこいつです!この半裸蝙蝠羽野郎をとっととぶち殺してください!!
 あ、中身スカスカなんで気をつけて!」

「了解しましたわ!」

とはいえ今の大鳳では自分から打って出ることは敵わない。
先の攻撃や、向路とのやり取りを見る限り衰弱した自分の身体能力では到底捉え切れるものではない。
であるのならばどうするか。
その答えは不意を突いたカウンターでの一撃だ。

(今は機を待つ時ですわ……!)

大鳳は恵子の傍らでその流川達を見つめながらじっと戦況を観察していた。
そしてその時は、存外早く訪れることとなった。
仔細の程まではわからないが、どうやら蝙蝠野郎こと軽井を取り巻く状況が悪化したのか
彼は戦火の中心から飛び出し、撤退を決めることにしたようだ。

>「だが完全に尻尾巻いて逃げるってのも気に食わねー。お前らはそこで死ね」

「来ましたわね……。恵子、下がってください」

大方このまま追われてもまずいと判断したのだろう。
軽井は大鳳や恵子を狙い深手を与えんとその鋭き凶刃を放っていく。
二人を負傷させておけばあの中のいずれかは治療等に掛からざるを得ない。
そうなれば追跡の足が遅れるのは間違いない。
それを察知できない大鳳ではない。彼女はいち早く恵子を射程範囲外へと退避させる。

(負傷者の存在が隊に与える損害を十分考慮しておりますわね……ですが)

軽井が向かってくる数瞬の間に、大鳳は思案を巡らせる。
流川曰く中身がスカスカの痩躯こそ、彼の能力なのだろう。
故に軽く、疾く、脆い。
その弱点をカバーし、長所を生かすための刃構築能力。
殺傷能力を補う為に体から刃を形成できるようにすることは珍しいことではない。
むしろ肉体変化型であるならばオーソドックスとも言えよう。

142 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/08/23(日) 01:27:52.06 0
(だからこそ、知っているならば対策の立てようはありますわ……ッッ)

猛速で向かってくる軽井とは真逆に、大鳳はこの森林という空間においてなお一切足音を立てないような
静かで緩やかな歩みをもってして軽井へと向かっていく。
滑り足とでも言うような重心の移動を感じさせないその歩法は
軽井の機敏な動きと相まって彼の呼吸を外させるには十分な役割を買っている。

(さて、お次は……決めますわよ)

先の向路との攻防を見る限り、下手に軽井を拘束することは危険だ。
無論、今の大鳳にそんなことをできる余裕もないのだが。
そんな彼女でも、力が大幅に衰えている彼女でもできることはある。
相手の狙いが自分であり、且つその目的がはっきりしており、何より軽井は事を急かねばならない。
だからこそ迎撃できる余裕が生まれる、言ってみればそれはハイリスクハイリターンの決め打ちだ。
軽井の体は脆い。恐らく今の大鳳の力でも十分な一撃を与えられるだろう。
その速さに関しても、こちらを狙い攻撃してくるのであれば、相手の軌道上に攻撃を置けばいいだけなのだ。
そうすれば、相手の長所は必然的に意味を成さなくなる。
ただ一点、羽の形成能力については如何せんどうしようもないのだが
それについても伏見の血の効力が活きている現状、ある程度の傷は許容できるということを軽井は知りえない。

(動きさえ予想できているのならば……!)

限界ギリギリまで持てるリソースを目に使い、軽井の動きを観察、そして予測。

「見切り、ましたわッッ!」

瞬間、目に使っていたリソースを随時動かしながら
静かだった歩みから急速に踏み込み、迫り来る斬撃を避けつつ軽井の懐へと潜り込む。
そこに肘撃をねじ込んだ後、鉄山靠を軽井の体へと押し込んだ。

【軽井の体へと持てる力の全てでカウンター】

143 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/08/29(土) 05:17:50.93 0
 
>「茨の道を歩きませんか――わたしたちと一緒に」
>「――60点だな。君の提案は」

流川はとうとうキツツキの口を開かせ、交渉の場にまで引きずり出した。
隊長達や雨場らが可愛がっていることから実力に対して心配はしていなかったが、今更ながら新人とは思えぬ働きぶりだ。
輸送船での任務後、経歴や配属後の任務歴も閲覧できる範囲で目を通し、新人ながら気に入られるのも分かると思ったが……それにしても、である。
今回、実際に組んだことで確かに怪人特性も含めて優れた能力を持っているのがよく分かった。
特性の応用は幅広く、判断力や状況適応能力も歳不相応に高い。向路が支援局入りしたときとは大違いだ。
だが、それら以上に流川を流川たらしめるのはなによりもその胆力なのだろう。
鳴上隊長を会って早々に挑発したという逸話に始まり、今日も円冶を相手に接近戦で上回って見せ、今も敵の体内へ入り込むに等しいことをしてみせた。
まだ十代とは思えない思い切りの良さだ。全裸への躊躇無さも含めて。
けして能力を過信しての無謀ではない。流川は常に最大の戦果を狙い、それの獲得を目指している。それはつまり、生存第一だ。
故に、今この瞬間のキツツキのことは流川へ完全に任せられる。

>「――捕まえた、だぁ!?馬鹿が!?捕まってんのは……テメェの方だぜ!!」

閑話休題、長々となったがつまりキツツキから意識を外し、軽井を全力で叩くということだ。
流川とキツツキのやり取りが始まる前、既に向路は動いていた。
刃が止まればそれを何時までも肩にぶっ刺して置く必要はない。左手でしっかりと刃を掴んだまま、屈伸するようにして肩から刃を引き抜く。
鯨の潮吹きのように吹き出した血が顔の左半分を染めたが、傷口からの出血はもう殆どない。筋肉に力を込め疑似的に止血しているのだ。

>「テメーはそこで暫く突っ立ってな!ボケが!まずは――」

次いで右腕を引き抜こうとして、刃に僅かな返しが付いたことに気付く。
肉体変化の素養があれば傷口を故意に開いて抜くことも出来るだろうが、向路には少々難しいことだ。
そして、視線の先で軽井が自らの右腕を引きちぎり、木に縫いつけたことにゾクリとしたものを感じながらも、それが軽井にとれる最善手であることも理解できた。

144 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/08/29(土) 05:19:02.63 0
 
>「――やっぱここは一旦逃げる事にするわ」

当然、そうすはるだろう。治したばかりの腕をこれ以上傷付けるのは辛いが、逃がす訳にはいかない。
腕を捨てた相手に比べれば、多少肉が抉れる程度どうってことはない。
左手で出来る限り刃を固定し、右腕を一旦根本側へ押し込んで傷口を広げ、思い切り真っ直ぐに引き抜く。
返しの部分が骨を擦る感触に怖気立つ。余計な血管にも引っかけたか、多少激しく血が吹き出した。
だが痛みに耐えつつ軽井の軌道を捉えようと瞳だけは逸らさない。

>「だが完全に尻尾巻いて逃げるってのも気に食わねー。お前らはそこで死ね」

軽井がここでミスを犯したのは、ここまで有利を取っていたが故だろう。殺せるはずだった敵を残しおめおめと逃げることが彼には出来なかった。
プライドか、驕りか。それとも日々人間達の生殺与奪を握っていた為に感覚を狂わせたか。
能力も計り切れていない敵に突っ込むタイプだとは思えなかったが……こちらとしては単に好都合だ。
なにせ、向かった先にいるのは例え手負いといえど『超人』。ついでに殺そうなどといって相手に出来るヒトではない。

>「見切り、ましたわッッ!」

号と共に、凄まじい速度で軽井がこちらへと飛ばされる。大鳳勇のタックルを受けて無事でいられるとは思えないが、軽井の特性上もしもがある。
軽井の刃を右手で掴みあげつつ、軽井が横を過ぎていきそうになるのを左の拳で地面に叩きつけて制する。
大鳳の鉄山靠によって意識を持って行かれていたのか、全く無抵抗に反動で弾き上がる軽井の体に向けて、断裁機のように刃を振り下ろした。

「……悪いな。」

大鳳の鉄山靠は向路の寸勁と同じように衝撃を浸透させる内部破壊型の打撃だ。
大鳳のセンスと努力によって磨き上げられた鉄山靠は、打撃に滅法強い軽井に対してすら容赦なく衝撃を叩き込んだ。
打撃をモロに食らうなど、軽井にとっては予想外であり、その精神と肉体に与えた衝撃の強さは実際のもの以上だっただろう。
肩から斜めに刃が食い込んだ軽井は血を流しながら、顔には恐怖とも衝撃ともとれる表情で固まっていた。
恐らく死んでいるだろうが、念のためにと向路はその顔に足をかけ、踏み抜いた。

「…………大鳳さん、助かりました。けど、色々と聞きたいことが、あるのはお互い様っスよね……。
 ……流川、キツツキさんはなんだって?取り敢えず停戦以上に持ち込めたなら、ちょっと色々と話をしていこう。
 具体的には、これからのこととか」

「新免、悪いけど足下のバックパック投げてくれ。……そんな顔してるなよ、今は生きて帰ることだけ考えろ。
 帰ってからなら悩みくらい散々聞いてやる」

145 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/08/30(日) 23:39:56.22 0
幹を暗く染める"染み"から発せられた脅迫まがいの提案に、ついに啄木鳥の声が応えた。
染みの向かい側にメキョァッとせり出したのは、木彫りの彫刻めいた人影!

>「――60点だな。君の提案は」

(この人が、啄木鳥さん……)

美形である。
齢はそう若くないが、理知的でどこか儚げな線の細さは響く者には響くのだろう。
金は持ってなさそうなので市香の好みじゃないが。

>「私の体質を見抜いた所までは見事だが……君だって一度くらいは見た事がある筈だ。
 手足が爆ぜたり、凍ったくらいでは到底死なない、肉体変化型の怪人を。
 私がそうである事までは予想が出来なかったのか?」

「うぐぅ……」

もっともな指摘に市香は呻いた。
とは言えこの木立そのものである啄木鳥を一撃で絶滅できるのは市香の上官ぐらいなものだろう。
そのあたりが市香の戦闘怪人としての限界であり、啄木鳥が強者たり続けられる所以だ。
特性を巧妙に隠ぺいする戦術、本体の居所を掴ませない立ち回り、そして木立と同化することで得た耐久力。
とどのつまり、啄木鳥は強いのである。

>「今の状況で鳥籠を本気で怒らせるか、この状況から君達全員を始末するか。
 どちらがよりリスキーかと言えば……言うまでもないな」

頭上に実る果実の如く、槍や矢が形成されていく。
市香は冷や汗を(染みだけど)だらだら流しながら努めて平静に言った。

「……わたしが一撃であなたの全細胞を木っ端微塵に出来る可能性を忘れてませんか?」

市香にできることは、もう全神経を投入してブラフを張るぐらいであった。
当然、彼女にそんな芸当は不可能であるが……言うだけならタダだ。
啄木鳥の言葉がブラフである可能性も捨てきれないことだし。

>「だが」

そんなブラフ合戦は、やがて啄木鳥が矛を納めるかたちで終結した。
騙し果せたわけじゃないだろう。そして、騙すことだけが今回の交渉材料ではない。

>「君の提案に乗ろう。……と言っても、私に「我々」の決定権がある訳ではないがね」

――双方へのメリットの提示。Win-Winの関係構築である。
ブラフがあろうとなかろうと、結局のところ啄木鳥を動かせるだけのメリットがあれば良い。
それは報酬。啄木鳥の組織の平穏を約束するという『利』だ。
そして。

>「だから君も、もうその銃を下ろしてくれ。その脅しは心臓に悪い」

146 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/08/30(日) 23:40:33.44 0
新免は拳銃を空に向けて構えていた。
リボルバーの無遠慮な銃声が響けば先行して森を捜索している連中が気づくだろう。
そいつらを全員1人残さず片付けるのは、最早啄木鳥には不可能だ。
一人でも報告要員が引き返していたらその時点でアウトなのだから。

>「……俺に、そんなつもりはなかった。俺はただ……彼女を守る為に、銃を抜いただけだ」

あのニューナンブは新免の『誇り』、あるいは英雄性の象徴だ。
だから彼はあの銃を頑なに武器として使用しなかったし、向路と対立した時は市香へとそれを預けた。
だが彼はいま、ついに敵対者への脅しを目的に拳銃を使ってしまった。
市香を守る為に――彼が嫌悪していた悪党と同じ道へ踏み入れてしまった。

「新免さん」

どう声をかけていいかわからなかったが、泣きそうな顔の同僚の名を市香は呼ぶ。
彼の湿った視線がこちらを見る、その刹那、

>「君の仲間、向路……だったかな?彼が危ないかもしれないぞ。
  軽井は、私と同じく肉体変化型重視だ。つまり……いや、もう遅いか」

啄木鳥の配慮のない一言が二人を現実へと引き戻した。
市香は新免と目をあわせる直前でその声に反応し、振り仰いた。
そうして――とうとう新免と顔を突き合わせて話をする機会を失ってしまった。

視線を引き剥がして振り向いた先で、軽井は再び跳躍していた。
向路に拘束されていたはずの彼が何故――その答えは考えるまでもなく軽井の右腕が立証していた。
肘から先がない。つまり、

「自切ッ!!」

切り落とした右腕は向路の肩を突き刺したまま、もう一方を木に固定されていた。
磔にされた向路を置き去りに、軽井は高速のステップで戦闘領域から離脱する!

「こっの……!」

木の幹からぬるりと飛び出た市香は全裸で腐葉土を踏み、走りだす。
しかし間に合うはずもない。背を向けた軽井は隙だらけだが、それを突く飛び道具がない!

(まずい……完全逃亡モードの軽井さんには誰も追いつけない……!)

向路は磔刑状態、市香と新免は論外。
軽井が本気を出せば、どの段階からでもここから校舎まで逃げ帰ることは可能なのだ。
今まで戦闘に付き合ってくれたのは、啄木鳥との連携でこちらを殺せると踏んでいたからに過ぎない!
好転したはずの状況は、あまりにもあっけなく絶望へと変わる――はずだった。

>「だが完全に尻尾巻いて逃げるってのも気に食わねー。お前らはそこで死ね」

「あっ」

最後の最後で軽井は欲を出した。
逃亡したと思しき『商品』が二人、彼の進行方向に立ち尽くしている。
どこぞから拉致られてきたと思しき、年端もいかぬ少女と……育ちの良さそうな女性。

147 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/08/30(日) 23:41:04.35 0
「大鳳さん」

女性の名を呼んだ時には既に確定した未来を思って、市香は安堵ともう一つの感情を込めて嘆息した。
同情である。

>「見切り、ましたわッッ!」

大鳳は水の上を歩くような重量感のない歩法で滑らかに軽井へ肉迫。
まるでそこに収まるのが予定調和のように、鋭く研ぎ澄まされた肘打ちが軽井の鳩尾に抉りこまれた。
だけで終わらない。そのまま大鳳は脚さばきで身体を180度回転させ、『後ろへ踏み込んだ』。

――人体の構造は、有事の際に緊急回避をするための『後方へ飛び退く』動作に向いた造りをしている。
走りだすには重心をかなり前へ傾けなければならないことからもわかるように、
前方への跳躍は後方へのそれと比較して単純に二倍の動作時間がかかる。
逆説それは、同じ動作時間であれば後方への跳躍は前進の二倍の力で行えることに他ならない。

その理論を磨き込み、武術の技として昇華させたものがすなわち――

「テツ・ザン・コー……」

背面体当たりである。
通常の体当たりが肩からぶつかるいわゆるショルダーチャージであるのに対し、
背中全体で突進する鉄山靠はまさに迫り来る壁!
軽井はまるでダンプに正面衝突されたかのごとく撥ね飛ばされる。

>「……悪いな。」

そこへ更に、磔から脱した向路が超瞬発で追いついた。
流れるように振り抜かれた左拳が、飛翔する軽井を容赦なくぶち抜き、地面へ叩き落とした。

……宙を飛び舞う蚊のような羽虫は、拳で叩き落とそうとしてもなかなかうまく行かない。
体が軽く、木の葉のようにふわりと浮いて回避してしまうからだ。
しかしそんな羽虫を一撃で仕留める方法がある。
両手で挟んで潰すのだ。

随分と変則的ではあったが、大鳳・向路両名の見事な"挟み撃ち"により軽井は潰れた羽虫のようになった。
止めとばかりに向路が頭を踏みつぶし、軽井の体は一度強く痙攣したあと動かなくなった。
チャチな怪人特性など問題にならない、問答無用の連撃であった。

(なんで隊長になれないんだろうこの人たち……)

向路、そして大鳳。
肉体強化特化型の二人はそれぞれ得意とするジャンルこそ違えど、己が分野では達人級だ。
だが、怪人単体として見た場合、どちらもそう特別に稀少で強力な特性というわけではない。
比較対象が隊長格になってしまうのも酷な話だが、少なくとも市香の見立てでは一歩か二歩後塵を拝している。
彼らの真骨頂は、その連携にこそある。

戦闘の世界というのは難儀なもので、「強い」と「強い」を足し算しても「超強い」となりはしない。
例えば鳴上と喝堂を同じ戦闘に投入しても、鳴上の範囲攻撃に喝堂を巻き込んでしまう。
逆に近接特化の喝堂のレンジでは鳴上の支援は毒にも薬にもならない。
仮にお互いが気遣い合って(あり得ない仮定だが)完璧にレンジを住み分けたとしても、
結局それぞれが別々の場所で戦っているのとなんら変わりない結果になってしまうのだ。
……そもそも連中が連携を必要とするかどうかはこの際考えないとする。閑話休題。

148 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/08/30(日) 23:41:34.01 0
戦力を相乗させるには、相手と状況に合わせて臨機応変に手札を切り替えることが必要だ。
大鳳は多彩な武術のレパートリーから最適なものを選びとる引き出しの広さが。
そして向路には、超瞬発によりコンマ刻みで変化する駆け引きに追従できる対応力がある。

連携力。集団戦闘の中で活きる力。
どちらも市香は持っていない、そしてここから上へ行くならば必ず手に入れなければならない能力だ。

これまでのいくつかの任務で、市香は常に足りないものに気付かされてきた。
死ぬまでに、そのすべてを手に入れなければ未来はない。
向路達は、隊長格を頂きとしたその巨大な道程の半ばにいる先行者なのだ。

(これが支援局で生き残るっていうことなんですね、向路さん)

>「……流川、キツツキさんはなんだって?取り敢えず停戦以上に持ち込めたなら、ちょっと色々と話をしていこう。
  具体的には、これからのこととか」

「あ、はい。ちょっと待っててくださいね」

靴の裏に軽井の残骸を貼り付けた向路に呼ばれ、市香はそそくさと服を着た。
隣では新免がバックパックを拾うためにかがむ気配を感じたが、今さらそっちを顧みることもできなかった。

「とりあえず交渉は成立しました。啄木鳥さん、協力してくれるとのことです。
 ……と言っても羽持ちさんがいるのって校舎内でしょ。役に立つんですかね啄木鳥さん」

随分と不躾なことを言いながら、市香は失われた水分を経口補給する。
ついでにバックパックから取り出したのはプロテインの錠剤。水だけでなくタンパク質も消耗品だ。

「んで、今さらですけどなんでボロボロの大鳳さんがここに?伏見さんと一緒に搬入されてたんじゃないんですか。
 なんか知らない童女を連れているし……なんでゴスロリ重犯罪者がうさ耳少女になってんですか。等価交換?」

大鳳が事情を話す話さざるにかかわらず、市香は啄木鳥に水を向けるだろう。

「啄木鳥さん。さっき『我々』の決定権がどーのこーの言ってましたよね。
 まだ説得しないといけない人でもいるんですか。
 そういえば羽持ちさんと旧知の共生派リーダーというのはこの先に?」


【大鳳に状況確認。啄木鳥に共生派リーダーの所在を訪ねる】

149 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/05(土) 23:30:12.30 0
>「見切り、ましたわッッ!」

軽井の放った超高速の斬撃を掻い潜り、大鳳はその懐に潜り込んだ。

(あぁ?マジか……コイツもそこそこ出来る奴だったのかよ。クソ、マジでツイてねえ!)

視聴覚に特化した肉体強化を持つ軽井の感覚は、大鳳が自分の斬撃を回避する瞬間を認識していた。
だがそれで彼が焦ったりはしない。
先の足刈りを跳んで回避した時点で、大鳳が肉体変化型ではない事は分かっている。

肉体強化による攻撃での迎撃を恐れる理由は彼にはなかった。
打撃ならばその威力を全て「吹っ飛ばされる力」にして殺してしまえる。
その上で吹っ飛ぶ先を調整して、再び木を蹴って再加速、逃走出来る。
もし掴もうとしてきたのなら、あえて捕まってから肉体変化で串刺しに出来る。

故に、軽井は何の警戒もなく大鳳の攻撃を待ち受け――肘撃がその脇腹に刺さった。

違和感を覚えたのはその時だった。
身体が吹っ飛ばない。
その肘撃は打撃のようで、打撃ではなかった。
外から内へ捩じ込むようなそれは、まるで鉄杭だった。

軽井は打撃の「受け方」で吹っ飛ぶ方向を制御する技術を収めているが、大鳳はその逆。
打撃の「当て方」で彼を吹っ飛ばないように制御したのだ。
結果生じたのは――軽井が敵の目の前で地に足を着けて、なおかつ体勢が崩れているという状況。

直後の出来事を、完全に呆気に取られていた彼は認識出来なかった。
身体の内側が爆ぜるような衝撃が走り、そこでようやく軽井の意識は戦闘に復帰した。

(痛……吐血……?俺が……?あのアマ、一体――)

とは言えそれは、とても正常な状態ではなかったが。
怪人として円熟し、久しく受けた事のない打撃の衝撃に、軽井は完全に意識を奪われていた。
故に自分がどちらへ飛ばされているかなど、考える事も出来なかった。

>「……悪いな。」

その声と同時、軽井の視界に白閃が走り――彼は絶命した。

150 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/05(土) 23:30:55.89 0
「とりあえず交渉は成立しました。啄木鳥さん、協力してくれるとのことです。
 ……と言っても羽持ちさんがいるのって校舎内でしょ。役に立つんですかね啄木鳥さん」

「……準備はしているさ」

彼とて鳥籠の打倒を諦めていた訳ではない。
ただ機を待つ必要があっただけで。

>「啄木鳥さん。さっき『我々』の決定権がどーのこーの言ってましたよね。
  まだ説得しないといけない人でもいるんですか。
  そういえば羽持ちさんと旧知の共生派リーダーというのはこの先に?」

「いや……逆だ。今までは私があの方を説得してきた。
 羽根持ちと再び相まみえるなら……もう少し、傷を癒やしてからにして欲しいと」

そして、と続く声は――岩男の背後から聞こえた。
そこには啄木鳥が立っていた。
樹木から生えた上半身は――そのまま残っている。それはただの伝声管だった。

「……あの方がいるのは、この下だ」

そして彼は手近な、やや太めの木に手を触れ、同化する。
瞬間、その木の幹が根本から上方にかけて2メートルほど裂けた。
中には――地の底へ続く穴が見える。

「ここが入り口だ。が、少し待ってくれ。後片付けをしなければ」

地面から這い出した木の根が、周囲の死体へと絡み付く。
そして突き刺さり、幾分かの血を吸い上げて細くした後で、地面の下へと引きずり込んでいった。
撒き散らされた無数の矢や槍も木の根が触れ、再同化する事で跡形もなく消え去っていく。
最後に血痕や矢の痕が残った地面を混ぜ返し、木の葉を被せ――啄木鳥は流川達を振り返る。

しかしその視線は――宇佐美一郎、一人に注がれていた。

「宇佐美、君は……どうする?」

「……こうなった以上、俺一人で帰っても殺されるだけだ」

「……では、行こう。聴覚特化型に悟られぬよう、拠点はかなり深い地点にある。気をつけて降りてくれ」

縦穴の中には僅かな出っ張りが幾つか生成されている。
それを足場に降りていく事が可能だが――慣れていない者にはやや手間かもしれない。

『隠れ家』の中は存外に広く、灯りもあった。
啄木鳥が、付近に坑道跡のある脆い地層を少しずつ押し広げ、築いたものだ。
空気の循環も食料の調達も彼の特性なら問題にはならない。

啄木鳥の背を追って歩いて行くと、不意に宇佐美恵子が足を止めた。
その視線の先には彼女と同じくらいの年頃であろう少年少女が。
そして数人の、肥満気味の成人男女がいた。

「……啄木鳥さん、その」

「君達がした事は、浅慮だったし、非効率的だったが……正しい事だった。
 何も気にしなくていい。謝る必要もない。後の事は……私達がなんとかすればいい」

151 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/05(土) 23:31:33.02 0
啄木鳥はそう言って恵子の背に手を添え、他の子供達の方へと導いた。
それは「負い目など感じず、友と互いの無事と成功を喜んでいい」という優しさであり、
同時にこれ以上先には付いて来ないようにという断絶でもあった。

「君も、ここに残るといい。君もまた……その子の「世界」だ」

宇佐美一郎はそう言われて――何も答えなかった。
啄木鳥も、すぐに彼から視線を外して再び歩き出した。
どう答えても苦味が残る状況で、そして、答えを聞かずにいてやる事が出来る状況だった。

「……もし、私達が事を仕損じたとして。彼らをこの町から無事に脱出させる事は、可能だろうか」

それから少し歩いた所で、啄木鳥が流川達に尋ねた。
背後の通路は肉体変化によって封鎖されている。恵子の聴覚を気にしての事だ。
その答えがどうであれ――彼は「そうか」と答えるだろう。その表情には、やや差異が生じるだろうが。
どのみち、やるしかない事に変わりはないのだ。

拠点の奥へ向けて歩く最中、彼は何度か途中の小部屋を覗き見るように首を小さく左右に降っていた。
口には出さないが――大人達の姿が見えないからだ。その事は流川達もすぐに気付けるだろう。

共生派は元々、何かしらの「弱さ」を持つ者達の集まりだ。
慈善事業だけでは生きていけないという現実が見えない理想主義者か。
人間を別種の生物と割り切り、商品として扱う事が出来ない甘さを抱えていたか。
そういう怪人の集まりだ。
啄木鳥も例外ではない。彼はただ弱さを霞ませる強さも兼ね備えていただけで。

「弱さ」は環境によって変質する。
容姿や語気が弱い人間が、やがて心まで痩せ細り、他者に怯えるように成り果てるように。
鳥籠を怒らせるには十分過ぎる子供達の行いは、大人達の弱さを変質させる切欠としては十分だったかもしれない。
啄木鳥の表情に変化はないが――歩調はほんの僅かに、早まっていた。

しかしその歩みが、不意に止まる。
彼の視線の先、拠点の最奥に当たる部屋。
そこには――人集りがあった。
彼らの様子は、啄木鳥の不安に反して――意気に満ちているように見えた。

「――無事、皆帰ってこれたようだね」

部屋の奥から、穏やかな声が響いた。
同時に人垣が二つに割れる。
その先には、一人の男が立っていた。

いち早く目につく外見上の特徴は、スキンヘッドと、濃い目の口髭。
だが剣呑さはなく、容姿はむしろ穏和な人格を感じさせる。
見た目上の年齢は啄木鳥と大差なく、三十代の後半ほど。

しかしその肉体は細身だが筋肉質で、傷一つなく、艶やかですらある。
にも関わらず圧倒的な強者のみが放ち得る気配、存在感が彼にはあった。
彼が、共生派のリーダーだと、何も知らない人間でも直感的に理解出来るだろう。

「……神流さん」

「見ての通りね、完全復活だよ。随分と待たせてしまったけど……反撃の時が来たんだ」

神流(かんな)と呼ばれた男は静かに微笑む。
その細めた眼から放たれる視線だけが、力強さを帯びて啄木鳥に注がれていた。

「……分かりました。ですが、まずは彼らの話を聞きましょう。彼らは……得難い協力者です」

啄木鳥はそう言って、周囲の者達に目配せをした。

152 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/05(土) 23:32:37.73 0
「皆は、少し外で待っていてくれ。込み入った話になる。
 私や神流さんの「奥の手」についても、話す事になるだろう」

戦闘怪人の多くは、自分の特性をおおっぴらに語らない。
上辺だけを見せる事はしても、その応用、奥の手、切り札は決して。
支援局の隊長格も、例えその場が作戦会議室であっても、そんな事はしない。
戦闘の最中に見せる事すら敬遠する者もいる。
奥の手が事前に敵に漏れる可能性が増せば、代わりに下がるのは自分の生存率だからだ。

その奥の手を、話す事になる。
少なからず自分達の「弱さ」を知る共生派の面々を退室させるには、啄木鳥の発言は十分すぎた。

神流と啄木鳥、流川達を除く皆がその場から立ち去り――神流が深く、息を吐く。
同時に彼の全身に、無数の傷跡が浮かび上がった。

「……やっぱり肉体変化は、慣れないな」

その夥しい量の切創が、その全てが、鳥籠によって刻まれたものだと察するのに説明は不要だろう。
先ほどまで神流から溢れていた強者の気配が、薄れていた。
傷跡に残った鳥籠の「威」が彼の強さを霞ませてしまっているのだ。

「この事は、彼らには秘密にしておいて欲しい。
 別に戦えない訳じゃないんだよ。傷はもう殆ど治ってる。
 でも……それだけじゃ、彼らはきっと失望してしまう」

神流は申し訳無さそうにそう言った。

「……それで、すまないが早速聞かせてくれ。
 君達の正体と……鳥籠を打倒する策について」

流川は「策」や「今後」について何も言及していなかった。
だが、啄木鳥は彼女を優秀な「仕事人」だと認識している。
怪人特性は戦闘面において決定的な不足があるが、
戦闘能力だけが仕事の遂行に必要なものではないと理解していて、かつそれを実行出来る怪人だと。

故に啄木鳥は、極めて自然に、流川へ問いを発した。




【これからの事とか。これまでの情報共有とか】

153 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/09/09(水) 19:16:54.66 0
「ふぅ……相手が慢心していて助かりましたわ」

大鳳の一撃に加えて向路のトドメが突き刺さり、絶命した軽井を一瞥し、やっと一息ついたように身体を緩ませる。

>「…………大鳳さん、助かりました。けど、色々と聞きたいことが、あるのはお互い様っスよね……。

>「んで、今さらですけどなんでボロボロの大鳳さんがここに?伏見さんと一緒に搬入されてたんじゃないんですか。
 なんか知らない童女を連れているし……なんでゴスロリ重犯罪者がうさ耳少女になってんですか。等価交換?」

「そうですわね。こちらも少々……とは言い難い問題を抱えていますし。
 とりあえず端的に話すのなら、私が不動と名乗る男に負け、条件付きで逃がされたのですわ。
 その条件が凶華で、こっちの少女はまあ……私の協力者ですわ」

自分が負けたということを、彼女はありのままにさらけ出す。
プライドの高い人間であるならば言いよどみそうな事態であっても、大鳳は至極冷静に口に出した。
彼女にとって負けることは恥ではない。無論、後悔や悔しさという感情がないわけではない。
だが、仲間の危機を前にそんなことで塞ぎ込むよりも事態の対処を優先したのだ。

「しかし、私の協力者もどうやら貴方達の協力者と浅からぬ縁があるようで助かりますわ。
 詳しくは話しながらなり安心できる場所まで行ってから話しましょう。私も少々休息が必要ですので」

実際のところ、彼女が十全で動くためにはまだま時間が必要だ。それこそ日を跨ぐ必要がある。
はっきり言って今すぐにでも休みたいというのが大鳳の本音である。

>「ここが入り口だ。が、少し待ってくれ。後片付けをしなければ」

そんな大鳳にとって、流川たちが啄木鳥と呼ばれる男に協力を取り付けていたのは渡りに船だった。
何やらあちらでは込み入った話が展開されているようだが、今の大鳳にとっては些細な問題でしかなく、
ある程度話が纏まった後に追従するように縦穴へと入っていく。

「隠れ家にしては、存外快適そうですわ」

共生派の隠れ家の内装を眺めつつ、大鳳は安堵する。
隠れ家というには必要最低限の居住環境しかないかもしれないと思っていたが
その予想は良い方向に裏切られた。

(これなら休息にも問題はなさそうで何よりですわ)

伏見奪還の為、不動との再戦の為に思案を重ねていると宇佐美が流川達一向に問いかけくる。

>「……もし、私達が事を仕損じたとして。彼らをこの町から無事に脱出させる事は、可能だろうか」

「できる限りのことはするつもりですが、何分そのあたりは上司判断になるでしょう」

はっきり言って、大鳳たちにそこまでできる権限はない。いざ仕損じれば己が身を守るので精一杯だろう。
第一、こと大鳳に至っては不動との因縁がある。
今度こそ命を落としかねないのだ、どうなるかはっきり言って未知数でしかない。
ここが特撮の世界であれば、「自分の身を犠牲にしても彼らだけは助ける」そんなセリフが投げかけれるのだろう。
だが、ここは現実であり彼女は主人公(ヒーロー)ではないのだ。

154 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/09/09(水) 19:18:17.55 0
そうして歩いていくうちに拠点の最奥へとたどり着くと、そこに人集りが出来ていた。

>「――無事、皆帰ってこれたようだね」

その奥からひとりの男の声がすると同時に、人の波が割れ声の主が姿を現す。

「どうやら、彼がここのリーダーのようですわね」

大鳳の本能が、彼の強さを人目で看破した。
見た目がどうこうという話ではなく、纏うオーラが違うとすぐに感じたのだ。

>「皆は、少し外で待っていてくれ。込み入った話になる。
 私や神流さんの「奥の手」についても、話す事になるだろう」

大鳳が彼――神流と呼ばれた男を見定めしていると啄木鳥が周囲の人間に対して人払いをした。
だがそれよりも、大鳳が驚いたのは、無論―――――。

「奥の手を、晒すですって……?」

確かに相手を信用させる為には確かに充分ではあるし、それをブラフにすることもできる。
だがそれは少なからず手の内を晒すということであり、仮に敵対した時にはそれが大きな足かせになる。
大鳳ですら奥の手は本当に追い詰められた時にしか使わない。
たとえ演習で奥の手を使えば勝てるという状況でも彼女はそれをひたすらに隠す。

(元々信用する気ではいましたが……)

>「……やっぱり肉体変化は、慣れないな」

そして、気が付けば神流の体には無数の傷が浮かび上がった。
それは今までの鳥籠との争いがいかに過酷だったかを如実に物語っていた。

>「この事は、彼らには秘密にしておいて欲しい。別に戦えない訳じゃないんだよ。
 傷はもう殆ど治ってる。でも……それだけじゃ、彼らはきっと失望してしまう」

「元々そんなつもりはありませんわ。組織のトップが威厳を保つのは苦労するでしょう」

財閥の一人娘として生まれた彼女にとって、その類の苦労は幼少時から目にしてきた。
故にそれに賛同することになんの違和感も感じなかった。
なにより、その程度で神流の本当の強さが揺るぐことがないと確信しているからだ。

>「……それで、すまないが早速聞かせてくれ。
 君達の正体と……鳥籠を打倒する策について」

「……とりあえず、私はできる限り休みたいところですので、市香頼みましたわ」

【説明は流川にぶん投げる構え。とりあえず休みたい】

155 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/09/15(火) 20:08:00.80 0
「悪い、ありがとう。
 ………新免、お前もある程度は食っとけよ」

バックパックを受け取り、中から水の入ったペットボトルと携帯食料を取り出す。
パッケージは破れているが中身は無事に見えるので気にせず口に入れる。
向路は肉体変化が不得手なために、肉体の回復には大量のカロリーと栄養素が必要になってしまう。その為負傷の際にはとにかく食事が必要なのだ。

>「んで、今さらですけどなんでボロボロの大鳳さんがここに?(略)等価交換?」

>「そうですわね。(略)その条件が凶華で、こっちの少女はまあ……私の協力者ですわ」

「……大鳳さんが合流出来ただけでも良かったです。
 こっちは僕がやらかしましたが、流川達のお陰でなんとか問題にならずに済んでいます。
 僕らのことはまだバレてない……と、思いたいですね」

伏見の姿が見えないとは思っていたが、まさかそれが「させられた」ことだったとは。
大鳳の敗北というのも俄には信じられないことだったが、大鳳勇というヒトがわざわざそんな冗談を言う訳もなく。
彼女はあくまで平坦に言ってのけたが、その胸中には様々な思いを抱えているはずだ。
だが、それを吐露しないことを大鳳が選んだのならこちらが余計なことを言うわけにはいかない。
過ぎたことに手は届かない。伏見の身は心配だが今は無事を信じ、まずやれることに手をつけるべきなのだろう。
宇佐見と、大鳳の協力者だという宇佐見に似た少女の聴力を警戒しつつ、とりあえず細かい箇所はボカして成り行きを説明する。
ここまでのことを大雑把に共有し、次はこれからのことだ。

>「とりあえず交渉は成立しました。(略)役に立つんですかね啄木鳥さん」 
>「……準備はしているさ」

流川は無事に啄木鳥を口説けたようでひとまずは安心する。
これで先に進むための手立てが出来た。

>「啄木鳥さん。(略)そういえば羽持ちさんと旧知の共生派リーダーというのはこの先に?」
>「いや……逆だ。(略)羽根持ちと再び相まみえるなら……もう少し、傷を癒やしてからにして欲しいと」

リーダーの傷とは、共生派と現『鳥籠』の諍いによって負ったものだろう。
恐らくだが、『鳥籠』の隆盛を考えれば共生派との分離はそれほど最近のことではない筈だ。
そのときの傷が未だに癒えていないというのは『羽持ち』の恐ろしさの一端が嫌でも感じられる。

>「……あの方がいるのは、この下だ」
>「ここが入り口だ。が、少し待ってくれ。後片付けをしなければ」

背後に現れた男は、樹上の啄木鳥と同じ顔をしている。
……木を自在に操作でき、能力の露見を避け続けたこの男なら、これくらいのダミー作成は考えておくべきだった。
そしてそんな用心深い彼が周囲の死体や槍などを地中へと引きずり込んだがために、戦闘の面影はもはや無い。
血の臭いすら、混ぜ返された土の匂いで覆い隠されてしまった。

>「宇佐美、君は……どうする?」
>「……こうなった以上、俺一人で帰っても殺されるだけだ」
>「……では、行こう。聴覚特化型に悟られぬよう、拠点はかなり深い地点にある。気をつけて降りてくれ」

啄木鳥を先頭にウロに入り、その内部を降りていく。内部は余り出入りに適した作りとは言えず、まだ癒えない腕と肩に厳しい。
……しかし、共生派が何人いるのか知らないが、一人二人でないのなら森の中に隠れ続けるのは至難だとは思っていた。故に地下というのまでは分かるが……そこは予想以上に広かった。
『鳥籠』から力の弱い怪人や人間を保護する施設も兼ねていると考えても、かなりのものだ。

156 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/09/15(火) 20:08:35.96 0
>「……啄木鳥さん、その」
>「君達がした事は、浅慮だったし、非効率的だったが……正しい事だった。 (略)後の事は……私達がなんとかすればいい」
>「君も、ここに残るといい。君もまた……その子の「世界」だ」

内部を歩く中で、宇佐見の妹らしき少女と宇佐見が隊列を離れることになる。
なりゆきは分からないが、そうすることを止める権限などない。ただ見送るだけだ。

「ウサミ君、ありがとう。助かった」

宇佐見の背中に向けて言うが、彼は振り返らないし、向路もそれを期待しない。
彼がこの場所に戻り、妹と再会できたのなら人殺しと並んで歩く必要はないのだ。

>「……もし、私達が事を仕損じたとして。彼らをこの町から無事に脱出させる事は、可能だろうか」
>「できる限りのことはするつもりですが、何分そのあたりは上司判断になるでしょう」

啄木鳥の問いに対して向路は無言で返す。
大鳳の答えが殆ど向路の答えと重なるからであり、別の考えをしていたせいもある。
大鳳を倒すほどの強者に、明日の即売会、そこに現れるだろうブローカー、『羽持ち』をはじめとする『鳥籠』。
これらを相手にするとしてどう戦うべきか。今日のように負傷しながらの戦闘では到底勝てはしない。
出来る限り万全を保ちつつ、格上を倒すか……と、いつの間にか拠点の奥についたようだ。
途中から歩みがやや早くなっていた気がしたが、そこにこの人集りだ。
なにか、あったのだろうか。

>「――無事、皆帰ってこれたようだね」
>「……神流さん」

人集りが割れ、姿を現した男。
神流と呼ばれた彼は穏やかな顔でこちらを見やるが、その全身から発せられる力強さは並の怪人では太刀打ち出来ないようにすら思える。
……反面、それは『羽持ち』の強大さをより具体性を持って感じさせてくれるのだが。

>「見ての通りね、完全復活だよ。随分と待たせてしまったけど……反撃の時が来たんだ」
>「……分かりました。ですが、まずは彼らの話を聞きましょう。彼らは……得難い協力者です」
>「皆は、少し外で待っていてくれ。込み入った話になる。 私や神流さんの「奥の手」についても、話す事になるだろう」

神流に会釈をしていた向路の動きが一瞬停止する。
『奥の手』を晒す、というのは他の面々を退ける為の方便だろうか?それとも寄り合いの彼らが共同体として生きる為に取られてきた手段なのか。
この発言にまさか、と思ってしまうのは、普段どれだけ『奥の手』が支援局内で秘匿として扱われているかの証明だ。
向路自身、『奥の手』を知っている同僚は殆どいない。

>「……やっぱり肉体変化は、慣れないな」
>「この事は、彼らには秘密にしておいて欲しい。(略)でも……それだけじゃ、彼らはきっと失望してしまう」
>「元々そんなつもりはありませんわ。組織のトップが威厳を保つのは苦労するでしょう」

神流の体に変化が表れた。

全身に現れた傷痕が、かつての戦いの熾烈さを創造させる。
「……そうしてくれというのでしたら」

彼に刻まれた無数の傷は、きっと共生派の面々に敗北の味と『羽持ち』の恐ろしさを思い出させてしまうのだろう。
非戦闘員と言えど、戦意は高い方が良い。特にこういった寄り合いの組織では。

>「……それで、すまないが早速聞かせてくれ。 君達の正体と……鳥籠を打倒する策について」
>「……とりあえず、私はできる限り休みたいところですので、市香頼みましたわ」

「…………じゃ、流川そういうわけだ。ちょっと僕も、キツくなってきた」

大鳳が流川に任せたのを確認すると向路もそれに習う。と、バランスを崩したように壁へと倒れ込み、一目も憚らずしゃがみ込んだ。
円治戦後から怪我の回復に体力を注ぎ込んでいた為ガス欠状態に陥っていたのだが、ここに来て限界になったようだ。
命に関わりこそしないが、無理に動き続けていた為に暫くはろくに動けないだろう。

157 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/09/23(水) 16:18:47.03 0
>「いや……逆だ。今までは私があの方を説得してきた。
 羽根持ちと再び相まみえるなら……もう少し、傷を癒やしてからにして欲しいと」

市香の問いに、啄木鳥――の形をした彫刻は答えなかった。
代わりに応じたのは、いつの間にか岩男の背後に立っていた同じ顔のもう一人だ。

>「……あの方がいるのは、この下だ」

(顔出したとこぶん殴ってもそれが本体とは限らない、ってことですか……)

なるほど便利な特性だ。
あの彫刻が単なる伝声管としてだけでなく、視覚聴覚などの感覚器も備えているとしたら、
今度こそ啄木鳥の本体を捉えることは不可能になる。
見分け方がわからないし、それこそ地中深くの根に同化して感覚器だけ外に出すことも可能だからだ。

『共生派』の守護神、啄木鳥。
絶対不可侵の能力を持つ彼でさえも頭を垂れる"指導者"が、この先に控えている。

>「ここが入り口だ。が、少し待ってくれ。後片付けをしなければ」

入念に痕跡を隠滅しつつ、啄木鳥は手近な木の幹に同化して割り割いた。
秘匿されていたのは、闇深きウロのような竪穴だ。
森の中に何人もかくまえるようなものではないと思っていたが、地下に隠れ家を用意していたとは。
啄木鳥は門番だけでなく、門を開ける鍵の役割も兼ねているようだった。

(啄木鳥さんが死んだら下のひとたち、生き埋めになるのかな)

あの場で軽井側に付いて、啄木鳥を殺していたらかなり後味の悪い結果になったわけだ。
益体もないことを考えながら、市香は啄木鳥について穴を下った。
ほどなくして共生派のアジトにたどり着いた。

「はあー、これが啄木鳥さんたちのねぐらですか。思ったより窮屈さは感じないですね。
 穴蔵のなかなのにじめっとしてないし、夏場なんかはあの校舎より快適なんじゃないですか」

換気もままならないような洞窟の中にもかかわらず、空気は清浄を保たれていた。
灯りがついている――火を燃やしているのに酸欠になっていないところから察するに、
何らかの工夫によって空気が循環しているのだろう。

>「……もし、私達が事を仕損じたとして。彼らをこの町から無事に脱出させる事は、可能だろうか」

大鳳と一緒にやってきたうさ耳少女を見送りながら、啄木鳥は零すように言った。

>「できる限りのことはするつもりですが、何分そのあたりは上司判断になるでしょう」

大鳳の答えは冷静で、ともすれば冷徹にも聞こえるものだった。
無論、確約することは現状の市香たちには不可能で、大鳳もそれを踏まえたうえで答えている。
しかしその言葉の裏に、市香はなにか、大鳳が即断即答をしかねる事情の存在を感じた。

伏見がいない。
その意味する所を、先程大鳳は簡潔に答えた。
不動という男に敗北し、伏見の残留を条件に命からがら逃げてきたと。
言葉にすれば単純だが、大鳳本人からすればそれこそ腸を断つような苦渋の決断を迫られたに違いない。

158 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/09/23(水) 16:19:36.99 0
("不動"って確か、なんとかっていう怪人組織の頭目だったような……)

以前、隊の定例ミーティング(という名目の吊し上げ会)で鳴上から聞いた覚えがある。
国内の主要な敵性組織の一つで、名前は確か『剛生会』。
より強者と戦って自らの武を育むことを目的としたその組織の、首領の名が不動とか言ったはずだ。

大鳳の戦った不動が本当に『その』不動ならば、鳥籠は別組織とも協働していることになる。
仮に用心棒として雇っているだけだとしても、スルーの効かぬ壁として立ちはだかっているのだ。
そして大鳳は、おそらく不動から伏見を取り戻すつもりでいる。
共生派の庇護下の者達を逃がす余裕など、あるものだろうか。

「まあ、月並みなセリフになりますけど……あなたがたの働き次第ですよ、啄木鳥さん」

市香はあくまで横柄な態度を崩さずに言った。
余計な不安を啄木鳥に押し付けたってどうしようもないのだ。
だったら、虚勢でも自信を持って胸を叩いた方が良い。
啄木鳥はその言葉に怒りも失望も見せず、ただ「そうか」とだけ呟いた。

アジトを横断して奥へと向かう。
市香はキョロキョロ見回して、物陰からこちらを見ている子供たちを目が合うと微笑んだ。
関係ない話だが市香はあまり子供が好きではない。
金を持っていないわりに要求ばかりしてくるし、それが当たり前だと思っているからだ。
しかしその保護者である大人は金を持っているし、自分の子供の為には金使いを惜しまない。
そういうロジックで子供には優しくするのが流川市香という女である。

「しかし大人の姿が見えませんねえ」

市香の声に、啄木鳥は力なく首を振った。
子供がこれだけいるということは、その保護者である大人がもっといてもおかしくはない。
子供だけじゃこの隠れ家に辿り着きようがないからだ。
ではその大人達はどこへ行ったのだろうか。

答えは――アジトの最奥部にあった。
そこには大人の人だかりがあり、彼らには校舎に幽閉された者達とは異なる熱気を感じる。

>「――無事、皆帰ってこれたようだね」

人垣の向こうから落ち着いた渋声が響いた。
呼応するように、モーセの如く人混みが割れ、その先に立つ者の姿を市香達に見せた。
禿頭に髭面、しかし清潔感のある細身の中年男性だ。

>「どうやら、彼がここのリーダーのようですわね」

大鳳がいちはやくその威風を感じ取った。
市香も遅ればせながら理解する。この男、只者ではない。
言葉にするとあまりに陳腐になってしまうが、『強者のオーラ』めいたものを感じるのだ。
例えるなら、安物のクオーツ時計と高級な機械式の時計が、外装の装飾は同じでもどこか重厚さの異なる印象を受けるような。
この差を瞬時に認識できるというのも――つまりは戦力の目利きも、市香が培うべき戦闘センスの一つなのだろう。

159 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/09/23(水) 16:20:12.72 0
>「……神流さん」
>「見ての通りね、完全復活だよ。随分と待たせてしまったけど……反撃の時が来たんだ」

神流、と呼ばれた共生派の指導者。
啄木鳥が反攻作戦は傷が癒えてからにしてくれと説得し続けてきた、手負いの眠れる獅子である。
そして彼が言うには、その傷もついに癒え、戦える状態にあるということだ。

>「皆は、少し外で待っていてくれ。込み入った話になる。私や神流さんの「奥の手」についても、話す事になるだろう」

啄木鳥は周囲の大人達に退去を依頼する。
頼むまでもなく、人だかりは何かを察して潮のように引いていった。
大鳳が愕然として呟いた。

>「奥の手を、晒すですって……?」

その驚きは市香にもわかる。
奥の手は怪人にとって第一に秘匿すべきものの一つなのだ。
奥の手を知られるということは、すなわち戦力の底が露呈するということ。
相手の限界が分かればそれだけ戦術の幅を広くとれる。
自分の実力と照らしあわせて、戦うかどうかを選択できるだけでも相当に有利にことを運ぶことができる。

なにより、『奥の手』には相応のリスクがある。
タネが割れれば対応が容易い、という意味でのリスクはもちろんのこと、
例えば市香のように肉体に強い負担がかかるというリスクも存在する。
事実、フルスターリとの戦いで奥の手を使用した市香は瀕死に陥り、伏見の支援がなければ死んでいた。
他人にそれを知られるというのは、自身の弱点をさらけ出すのと同義なのだ。

――逆説、故に奥の手を教えるというのは怪人にとって最大級の信頼を示すことになる。
あなたは絶対に裏切らないと信じていますよというなによりの証明になるのだ。

「……なるほど。状況は理解しました」

市香はそれだけつぶやくように言った。
つまりは、どこの馬の骨とも知れないような外部協力者に手の内を明かさねばならないほどに、
この共生派という団体は困窮しているということだ。
おそらく、彼らも手段を選んでいる余裕はないのだろう。
何がなんでも、市香達との協力をとりつけたいのは向こうも同じ。
あとは、どちらがどれくらい譲歩するか、の問題である。

そういった意味では、こうして先手を打たれたのは手痛い失態だった。
こちらの切れる手札の少ない中で、先方は切り札に近いカードを出してきた。
交渉は既に始まっている。市香たちにも、同等以上のカードの提示を求められている。

>「……やっぱり肉体変化は、慣れないな」

市香が思案していると、神流が放っていた威圧感がろうそくの火を吹き消すように消沈した。
かわりに体表に浮き出てくるのは、切り傷、擦傷、打撲傷……種々様々な傷跡の数々だ。
それは彼が長年にわたって鳥籠と敵対してきた記録であり、敵の戦力の苛烈さを物語る生き証人。

>「この事は、彼らには秘密にしておいて欲しい。別に戦えない訳じゃないんだよ。傷はもう殆ど治ってる。
 でも……それだけじゃ、彼らはきっと失望してしまう」

「う……」

160 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/09/23(水) 16:20:44.17 0
市香はこんどこそ言葉が出なかった。
神流は一度最強の切り札を見せたあとに、自ら市香たちに『秘密』というカードを一枚譲った。
これは交渉版の威力偵察と言って良い。
奥の手という切り札を提示して、市香たちの反応を見てから一段劣る代替案に切り替えた。
交渉を振り出しに戻りつつ、『市香達には"奥の手の開示"に相当するカードがない/切りづらい』という情報だけは、
まんまと手に入れられたかたちになる。

(神流さん……交渉《こっち》の方もかなりのやり手……!)

伊達に何年も鳥籠と戦争やってない。
啄木鳥以上の曲者、いや食わせ物だ!

>「……それで、すまないが早速聞かせてくれ。君達の正体と……鳥籠を打倒する策について」

ほんの僅かな会話のみで圧倒的な交渉力を見せつけられた市香は、縋るような目で先輩たちを振り仰いだ。
魔を喰い魔に喰われる支援局の坩堝を生き抜いてきた二人なら、きっとこの苦境にも立ち向かってくれるはず――!

>「……とりあえず、私はできる限り休みたいところですので、市香頼みましたわ」
>「…………じゃ、流川そういうわけだ。ちょっと僕も、キツくなってきた」

「か、喝堂隊ーーーっ!!」

もうやだこの脳筋戦隊!
こんな時にもばっちりの連携力を発揮した二人の先輩は、揃って市香に交渉を丸投げして休み始めた。
外部との折衝も下っ端の仕事ってわけですかそうですか。

「もう向路班じゃなくて流川班とかに改名して欲しいんですけお……」

班じゃなくて隊でもいいかもしれない。流川隊。
隊長格で給料どれくらいもらえるんだろう、網シャツ野郎が乗り回してるジャガーぐらいポンと買えるかな。
マッハで現実逃避していた市香の意識は、第一宇宙速度で小奇麗な穴ぐらで戻ってきた。
いいでしょう。こうなったらとことんやってやる。
功績積み上げてとっとと昇進して、この脳筋二人を顎で使えるようになってやる。

「それでは話を始めましょうか、神流さん。……っと、その前に」

市香はその辺の適当な太い根にどかりと腰掛けた。
もちろん腰は深く、足を組んで、ふんぞり返るようにだ。
そして所在なさげにしている啄木鳥に向かって言った。

「来客にお茶の一つも出さないのがあなたがたの正義ですか?――ミロでも可!!」

161 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/09/23(水) 16:21:21.53 0
ミロが出てこようが出るまいが、市香はすぐに話を始めるだろう。
何かを言いかけて、一度口をつぐんだ。

「この部屋の防諜は完璧ですか?」

何年間も秘匿してきたこのアジトが傍受されている可能性は低い。
が、たったいま外部から人間を招き入れたばかりだ。
例えば秘密裏に市香たちの衣服に発信機や盗聴器をつけられているかもしれない。
市香たちにそんな隙がなくとも、宇佐美兄妹にもそれは言えることだ。

(十崎さんが居れば、盗聴対策もバッチリなのに)

十崎の拡張視覚なら、"ムシ"の発する電波を視認して発見することができる。
鳴上なら特殊な電磁波でも放ってすべて壊すことだってできるだろう。
彼らの不在が不便に感じる、市香もそろそろ立派な実働官だ。

「念には念を入れますか」

市香は再び飲料を飲み干すと、その体積で耳たぶから『水糸』を繰り出した。
神流、啄木鳥、そして同僚達の耳へ糸を差し込むと、有線会話ネットワークを形成する。

「これから言葉はすべて外に漏れない声量で発声してください。わたしの水糸で増幅して全員に伝えます」

糸と注意が行き渡ると、市香は改めて自分の胸に手を当てた。

『申し遅れました。わたしたちは"流川隊"。国の特務機関――怪人運用支援局の実働官です。
 わたしは隊長兼下っ端の流川』

初手から方方にぶん殴られそうな嘘をついた。
が、交渉役として矢面に立つ以上、代表者として認識してもらう必要があるのは市香だ。
決して気分だけでも隊長を名乗りたかったわけではない。決して。

『証明になるものは……えぁっと、そっか、潜入任務だから身分証とか置いてきてるんでした』

潜入調査という任務の都合上、万が一捕縛されたり、そうでなくても荷物を検められた場合に、身元がバレることがあっては困る。
よっていま市香達の持つ身分証は、任務ごとに偽造された仮身分の証明書だ。

(潜入時に現地協力者に身元を明かす場合はどうやるんだっけ……)

鳴上から(スパルタで)教えられた中にあったはずだ。
あの女、前日の疲れでちょっとでも居眠りするとそれが永眠になりかねない緊張感のある授業をいつもありがとうございます!

162 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/09/23(水) 16:22:45.11 0
『証明が必要なら、支援局のWebサイトに書いてあるお問い合わせTEL番にかけて実働部に繋いでもらって下さい。
 流川という実働官について問い合わせてもらえれば、あとは当方のオペレータが証明してくれるはずです』

支給品のスマートホン(これもダミーのアドレス情報が満載)を神流に差し出す。
証明の要不要について神流側の言葉を待ち、市香は話を続けた。

『わたし達は、"鳥籠"のサプライヤの一つ"折葉商会"を装ってここに潜入しました。
 本物の商会さんがたはもう太平洋の魚の餌か局の地下で達磨になってますから安心ですね。
 最終的には鳥籠の皆さんにもそうなっていただく予定なんですけど、その前にやることがひとつ』

市香は人差し指を立てた。

『――明日、鳥籠で行われる見本市。その来客を強襲し、人身売買ルートの顧客を一斉検挙します。
 鳥籠本体をどうこうせずとも、資金の供給源を断ってしまえば組織を保っていられません。
 だからこれがわたし達の第一次目標』

さらに中指も立てる。

『しかし、鳥籠が資金枯渇で崩壊しても、リストラで縮小化して地下に潜られると厄介です。
 別の土地で別のパトロン相手に同じことを繰り返されるだけですからね。
 だから第二次目標。鳥籠本体を叩く。
 潜入しているのはわたし達ですけど、当然この案件自体に投入されているのはもっと大勢です。
 支援局選りすぐりの戦闘系怪人が一気呵成に攻め入って、鳥籠の頭を潰す。
 脳味噌と栄養源の両方を潰された生き物が生きていける道理はありません』

立てた指二本で表現したハサミが、架空の鳥籠の手足を裁断する。

「大まかなプランとしてはこの通りです。
 成功させるには、十分な休養と入念な準備、そして相手の情報が必要不可欠。
 こちらとしてもどの系統の怪人をどれだけ用意すべきなのか図りかねますから。
 さしあたって、鳥籠の戦力の頂点――『羽持ち』さんの特性と強さを教えていただけますか?」


【情報交換】

163 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/29(火) 23:31:14.09 0
>「もう向路班じゃなくて流川班とかに改名して欲しいんですけお……」

ぼやく流川に、神流と啄木鳥が同情の視線を向ける。
同情の対象は、貧乏くじを掴まされた事にではない。
今後もそうなり続けるであろう彼女の未来に対してだ。

何故なら強い怪人であるほど、言葉を必要としないからだ。
行動だけで意を通せる力があるのなら、わざわざ会話による物事の解決など図る必要はない。
それはある意味、生物として正しい在り方だ。

しかし一方で、本当の意味で、力だけで意志を貫ける怪人などいない。
喝堂や黒野のような隊長格であっても、部下を用いる。
身を潜めたまま、可能な限り有利な形で敵との戦闘を開始出来るように策を計らう。

その際に、戦場においてある程度の戦闘行為もこなしつつ、敵や第三勢力との折衝を行える、流川のような人材は極めて有用だ。
彼女がこのまま順当にこき使われ、もとい成長し続ければ、優れた実働官になれるだろう。
副官か、或いは諜報員、工作員として、優秀な実働官に。

>「それでは話を始めましょうか、神流さん。……っと、その前に」

そんな未来をまだ知らない流川は、横柄な素振りで傍にあった木の根に腰掛ける。

>「来客にお茶の一つも出さないのがあなたがたの正義ですか?――ミロでも可!!」

啄木鳥は予想外の要求に双眸を微かに見開き、しかしすぐに、どう応えたものかと眉根を寄せる。
そして表情はそのままに近くの壁に手を触れ、同化。
拠点内に彼の肉体変化が及び、流川の腰掛ける木の根が椅子に変形した。
大鳳と向路の傍にも、床から長椅子が浮かび上がった。
樹木の繊維から生成した木糸によるクッションまで用意されている。

「……飲み物は、水か、樹液なら用意出来るが。
 樹液と言っても、私が山中の様々な樹木、植物を肉体変化を介して配合し、品種改良したものだ。
 味は……昆虫が舐めているそれよりかはマシな筈だ」

閉鎖された空間の中、ストレス源は少ないに越した事はない。
とりわけ食事や寝所に関する不快は避けられない上に日々蓄積する。
啄木鳥の手際の良い対応は、それ故の事だった。
ちなみに食事を要求した場合、提供されるのはドングリだ。
それが彼らの主食だった。

ともあれ提供された物の良し悪しはこの場において重要ではない。
流川はすぐに話を切り出そうとして、

>「この部屋の防諜は完璧ですか?」

「……いや、そんな資源は我々にはなかった」

ここで流川がいう防諜とは、電子的な物の事だ。
そもそも敵の侵入を想定していないこの拠点に、電子的防諜はまるで施されていない。
と言うよりも、啄木鳥が言うように、それを可能とする資源や技術がないから、このような形の拠点が出来たのだ。

間に合わせで筆談の道具でも用意しようかと、啄木鳥が再び木壁に手を触れる。

>「念には念を入れますか」

が、その必要は無かったようだ。
流川には防諜の不備を補う手段がある。
それを彼女の口調から察した神流と啄木鳥は、彼女から伸びる水糸を黙って受け入れた。

164 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/29(火) 23:31:48.24 0
>『申し遅れました。わたしたちは"流川隊"。国の特務機関――怪人運用支援局の実働官です。
  わたしは隊長兼下っ端の流川』
  『証明が必要なら、支援局のWebサイトに書いてあるお問い合わせTEL番にかけて実働部に繋いでもらって下さい。
  流川という実働官について問い合わせてもらえれば、あとは当方のオペレータが証明してくれるはずです』

「……いや、結構だ。最近の携帯は、操作した事がないんだ」

啄木鳥は手のひらを立てて流川の提案を断る。
勿論理由は、操作方法が分からないからではない。
もし彼女が敵で、本気で自分達を騙すつもりなら、彼女が提示した確認方法に意味などないからだ。

支援局のダミーサイトに飛ばす。
入力した番号に関わらず一定の連絡先にしか繋げない携帯を用意する。
偽装する手段は幾らでもある。
彼自身が携帯を持っていたとしても、仲間を使って付近のアンテナに細工をして、接続先に割り込ませる事は可能だ。

彼女達は既に、鳥籠への敵対と共生派への協力を行動で示した。
今更疑う理由も、致命的な嘘を吐かれる理由もない。
それ以上の駆け引きは無用だった。

>『わたし達は、"鳥籠"のサプライヤの一つ"折葉商会"を装ってここに潜入しました。
  本物の商会さんがたはもう太平洋の魚の餌か局の地下で達磨になってますから安心ですね。
  最終的には鳥籠の皆さんにもそうなっていただく予定なんですけど、その前にやることがひとつ』

そして流川は鳥籠への討滅作戦を述べ始める。

>『――明日、鳥籠で行われる見本市。その来客を強襲し、人身売買ルートの顧客を一斉検挙します。
  鳥籠本体をどうこうせずとも、資金の供給源を断ってしまえば組織を保っていられません。
  だからこれがわたし達の第一次目標』

第一次目標――その遂行は、いとも容易い。
彼女は検挙と言ってはいるが、それは支援局が今後の事も鑑みれば、その方が好ましいというだけだ。
鳥籠の排除という観点だけで考えれば、顧客を殺傷するだけで十分なのだ。
一人でも死傷者が出れば、それだけで鳥籠の信用は大きく損なわれる。

勿論、無理に支援局の意向を無視する必要はない。
だが――大事なのは、共生派の現戦力でも十分実現可能という事だ。

最低保証された戦果が大きく、かつ実現が容易。
話し始めに提示するには、最適な切り出し方だった。

『しかし、鳥籠が資金枯渇で崩壊しても、リストラで縮小化して地下に潜られると厄介です。
 別の土地で別のパトロン相手に同じことを繰り返されるだけですからね。
 だから第二次目標。鳥籠本体を叩く』

そして続く第二次目標――ここに関しては、啄木鳥はまだ半信半疑だった。
あくまでも信じ切る為の材料がない、という意味でだが。
共生派としても、鳥籠の信用を瓦解させるだけでは最良の結果は得られない。

もしそうなっても鳥籠が実際に崩壊するまでにはタイムラグがある。
その間に多くの仲間や人間が犠牲になる可能性は否めない。
羽根持ちを仕留め、鳥籠を一夜の内に壊滅させるのが最良である事は共生派にとっても同じだ。

>「大まかなプランとしてはこの通りです。
  成功させるには、十分な休養と入念な準備、そして相手の情報が必要不可欠。
  こちらとしてもどの系統の怪人をどれだけ用意すべきなのか図りかねますから。
  さしあたって、鳥籠の戦力の頂点――『羽持ち』さんの特性と強さを教えていただけますか?」

啄木鳥が神流を見る。
神流は自身の体に刻まれた傷の数々を一瞥してから、流川達に視線を向けた。

165 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/29(火) 23:32:23.17 0
「彼女は……決して、僕にも特性を明かしはしなかった。
 『重力子』『風刃』『光子化』……などと聞かされる事はあったが、どれも冗談半分だったよ」

だが、と神流は続ける。

「彼女の起こす「現象」は明白だ。彼女は……目に見えない攻撃を行う。
 僕の体に刻まれた傷の殆どは、彼女が付けたものだ」

切創、打撲傷、擦過傷、大小無数の傷が神流の体には刻まれている。
羽根持ちは不可視性を維持したまま、それだけ豊富な攻撃を実現出来るという事だ。

「それと……彼女は、それほど高くではないけど、空が飛べる。
 宙に浮かび上がる瞬間や、勝負を決める瞬間、ほんの一瞬だけ、真っ白な翼が見えるんだ。
 だから、彼女は『羽根持ち』と呼ばれるようになった」

空が飛べるという事は、言うまでもないが戦闘において恐ろしいアドバンテージになる。
先の軽井は啄木鳥の存在があった為自由な行動を封じられていたが、もしそれがなかったら。
高度を維持したまま延々と、鋭い攻撃を死角から放たれ続けたら。
先ほどとは比べ物にならないほどの苦戦を強いられていただろう。

しかも神流は「それほど高度がない」以外の制限を口にしなかった。
この状況において羽根持ちの弱点を秘匿する理由はない。
つまり――羽根持ちは殆ど制約なしに、空を飛べるのだ。

「そして……彼女の強さか。そうだな、彼女の強さは……」

神流はそこで言葉を区切り――大きな動作で両手を叩いた。
しかし音は伴わず――代わりに流川の髪が、まるで風に吹かれたかのように揺れ動いた。

「……これは僕の怪人特性だ。僕の体質は『流転』。
 僕は自分に接触したエネルギーを、身体に浸透させないまま留め、そして受け流す事が出来る。
 例外は今のところ……重力だけかな」

今しがた実演した際には、衝撃を帯びた極小の肉片を飛ばしたのだが、そんなものは些事だ。
わざわざ補足はしない。語るべき事はそれではない。

「けど、これはあくまで怪人特性だ。例えば、僕が地割れに飲み込まれたとして、
 その際に体を押し潰そうとするエネルギーを受け流し続ける事は出来ないだろう。
 実際に、どれくらいまでなら受け流せるかは分からないけど……」

神流が、自分の体に刻まれた傷を見る。

「彼女の攻撃を、僕は受け流し切れなかった」

神流はそう言ってから、視線を流川達へ向けた。

「……勿論、それは以前の話だ。今もう一度彼女と戦えば、今度はもっと上手くやれる自信はある。
 けど……彼女を誰が倒すかに、強く拘るつもりもないよ。
 僕は既に一度彼女に負けていて……これは、失敗の出来ない仕事だ」

そう述べた彼の声色は、どこか寂しげだった。

「……それと、もう二つほど、いいだろうか」

不意に、啄木鳥が声を発した。

「まず一つは……明日、その見本市の会場に突入する際の事だ。
 私達の突入は、君達が突入した後だ。理由は……私達は戦力的に鳥籠に劣っている。
 君達が場を掻き回してからの方が好ましいだろう。精神的にもだ」

166 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/29(火) 23:32:48.50 0
共生派の面々は皆、鳥籠に一度負けて、山中に追いやられた者達だ。
その彼らが、もう一度理想を掲げ、戦士として戦う為には――それなりのお膳立てが必要なのだ。

「もう一つは……私の『奥の手』についてだ。これは、私達の突入を遅らせる理由でもあるのだが。
 私の特性は樹木と同化して、更にそこに肉体変化を適用する事だが……
 その際の、言わば出力は、木と私自身の比率によって変化する」

啄木鳥が流川を一瞥する。
液体固体の違いはあるが、彼女の特性は自分に似ている筈だ、と彼は認識していた。

「つまり、私という怪人が一度に操作可能な樹木の体積は限られているという事だ。
 体を際限なく希釈していけば、必ず自我や生命活動を維持出来なくなるラインにぶつかるからな。
 だが……そのラインを、押し上げる方法がない訳ではない」

啄木鳥は右手を一旦壁と同化させ、すぐに引き抜いた。
しかし変化は明白――彼の手首から先が無くなっていた。
同化したまま壁の中に取り残したのだ。

「一旦木と同化した部分を切り離し、そしてその部分の再生を待てば、
 十全な私の肉体と、通常よりも私に馴染んだ樹木が出来る。
 そして……この辺りの木々には、何年もかけて既に私を馴染ませてある」

それが私の奥の手だ、と啄木鳥は続けた。

「それらを使えば……私はさながら、動く大樹のようになれるだろう。市街地でも、十二分に戦う事が出来る。
 だがそうなれば「痕跡」が残る。この隠れ家まで容易に追跡可能な、大きな足跡が。
 だから……君達の戦いぶりを見てからだ。私が奥の手を使うのは」

この隠れ家は、何らかの理由で啄木鳥が死亡しても問題なく機能する設計だ。
食料である木の実や樹液は地下に実り、滴るように肉体変化で品種改良されているし、
脱出口も聴覚特化型怪人に悟られない程度の、しかし神流なら地上まで開通させられる空洞が事前に建設してある。
だが彼が奥の手を使ってしまえば、それらも無意味だ。隠れ家の位置は完全に露呈してしまう。

さておき、啄木鳥は前言通りに奥の手を語った。
それはある意味で、君達に対して先手を打ったとも言える。
少なくとも彼は奥の手を語り、説明義務は既に果たした。
神流の話が、終わったのかも確認せず、中断させてまで。

そうする事で、神流が自身の奥の手を語るタイミングを失わせたのだ。

とは言え――それはあくまで啄木鳥の、慎重さ故の独断だ。
君達が尋ねれば、神流は特に抵抗もなく自身の奥の手を実演するだろう。

彼は「失礼」と一言断って、流川の肩に軽く手を置く。
それが奥の手の発動条件だ。
対象の「動作の為の力」を自分の方へ受け流す事で――怪人特性の発動を含めたあらゆる身動きを封じ込む。
更に深く相手を掴めば、呼吸や鼓動の為の力すらも、奪い取る事が出来る。

ともあれ、流川達に大きな異論や質問が無ければ、暫しの休息が得られるだろう。
そして、それからおよそ24時間が経過して、

『――おい』

流川達の耳孔内に仕込まれた小型無線機から、声が発せられた。

『おい、聞こえてるか。向路、大鳳……それと、流川隊長殿?』

低く恫喝するようなそれは、喝堂の声だ。

167 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/29(火) 23:33:20.26 0
『山ァ降りて来い。ソイツらも連れて、堂々とだ。ファームとやらで黒野と合流しろ』

隠れ家の外に出ると、周囲は既に薄暗闇に包まれていた。
ファーム、つまり校舎の屋上には、数人の見張りが潜んでいた。
屋上以外にも何箇所か、戦闘員が待機している地点があるようだ。

商品である人間は既に見本市の会場に運び込まれている。
だが、そんな事は本来共生派には知り得ない事だ。
再び商品の奪還や、情報収集に降りてくる可能性を考慮しているのだ。

その屋上の見張り達が、君達の存在に気付いた。

瞬間、彼らの周囲に突然小規模な「砂嵐」が巻き起こった。
不意の出来事に見張り達は悲鳴すら上げられないまま立ち尽くし――嵐が止んだ。
後に残されたのは、無数の砂によって体表と、頭部の半分を切削された死体だ。

それらが崩れ落ちると同時、屋上に人影が一つ、現れた。
黒ずくめの服装に顔の半分を覆い隠すマスク――須波獏だ。

「……おい、何かあったのか?」

校舎裏の物陰に隠れていた二人一組の戦闘員が、僅かな物音を察知して、そう尋ねた。
そして半ば無意識の内に、屋上へと視線が向かう。
直後、彼らの後頭部を、人影の伴わない拳が強烈に殴りつけた。
拳は二人をまとめて昏倒させると、どこか物陰へと、まるでゴムが縮むかのような動きで消えた。

校舎内でも、同様に制圧が行われていた。
その最中に――神流が、校舎から視線を外して自身の左前方を見た。

「――見本市の会場は既に特定済みです。ここから西に3キロの地点にある、既に閉鎖されたショッピングモール。
 彼らはそこを改装して、パーティー会場に仕立て上げています」

その視線の先に、宵闇から溶け出すように黒野昴の姿が現れた。

「初めまして。私、支援局実働部強襲課の隊長を務めております、黒野という者です。
 おおよその事情は既に把握しています。
 支援局は、あなた方の要求を全面的に受け入れます。今のところは、ですが」

黒野は神流に対してそう述べてから、次に流川達へと向き直った。

「見本市は既に始まっています。鳴上隊を始めとした、他の部隊もじきに到着します。
 ですがその前に……まだ出来る事がある筈です。
 例えば、事前に工作を行ったり、敵の退路や配置を確認したり……伏見隊員の居場所を突き止めたりです」

伏見狂華は、あらゆる意味で支援局の管理下に置いておくべき存在だ。
少なくとも鳥籠に持ち逃げされるような事があってはならない。

「大鳳さん、貴方には申し訳ありませんが……不動との戦闘を避けて彼女が回収出来るなら、それに越した事はありません。
 不動の特性は、一時的な拘束、見当識の阻害に対してはそう高い耐性を持っていない筈です。
 場所さえ特定出来れば、奪取は十分に可能です」

と、不意に君達の視界の外から、エンジン音が響いた。
校舎裏の駐車場に駐められた、商品搬送用の軽トラックが低い唸り声を上げている。
運転席にいるのは――喝堂だ。

「……続きは移動しながらだ。乗れ。運転はしてやる」

喝堂が顎で荷台を指す。
そこには通常の通信機や、替えの衣服、補給品が既に積まれていた。
君達が乗り込むとすぐに、車が発進した。

168 : ◆PyxLODlk6. :2015/09/29(火) 23:34:23.61 0
「……大鳳、テメェが運び込まれた収容所は既に制圧済みだ。
 だが伏見も不動もそこにはいなかった。恐らくだが……見本市の会場か、そのすぐ傍まで運ばれたんだろう。
 アイツの特性は、人間相手にゃ色々と使えるだろうからな」

道中には何箇所か詰所のような建物があったが、どれも既に制圧済みだった。

「まず間違いなくデモンストレーションが行われる。まずそれを見つけ出せ。
 そこからアイツの居場所を辿る事が出来る筈だ」

ふと、喝堂が数秒ほど黙り込んだ。

「……鳴上達も、到着したそうだ」

強襲部隊を輸送するヘリは、山に機体を隠しながら移動するルートを取った。
山が鳥籠の管轄外である事は既に判明していた。
後はファームさえ制圧してしまえば、誰にも悟られずに、短時間で、大部隊を有塚町の中まで運ぶ事が出来た。

「……鳥籠にとって、テメェらは既に死人だ。俺達に連絡が来た。
 共生派とかいう敵対組織の襲撃に巻き込まれてお前らが死亡したってな
 その賠償として……俺達はパーティへの参加権を貰った。人身売買ビジネスを始めるに先立って、自由に顧客とのコネを作っていいってな」

だが、と喝堂は続ける。

「テメェらが既に死人ってのは、あくまでマクロの話だ。
 現場の警備に知らされんのは精々、場違いな服装の連中が数人、パーティに混ざり込むって事だけだろう。
 何食わぬ顔で潜入してもいいし、逆に死人扱いされた事をダシに堂々とゴネるのも悪くねえ」

見本市の会場が遠目に見えてきた頃合いで、喝堂が車を止めた。

「ここから先はテメェらだけで行け」

羽根持ちの特性は完全には把握出来ていない。
事前に自分の存在が、ほんの僅かにでも勘付かれるリスクは避けるべきだという判断だ。

『5分もありゃ、会場は完全に包囲出来る。そうしたら、後はテメェら次第だ。いつ始めてもいい』

そうして、君達は見本市の会場へと辿り着くだろう。
モールは三階建ての、代わりにフロア当たりの面積はやや狭い建物だった。

とは言え、三人一組で動いていては流石に広すぎる。
どこを狙うか事前に明確に決定するか。
或いは一時的に別行動を取るのも一つの選択肢だろう。

会場に展示される商品は勿論、人間だ。
だが一言に人間と言っても、その商品としての形態には幾つか種類がある。
主なものは愛玩用、闘人用、食用。
それぞれ1フロアずつ、専用のブースとして割り振られているようだった。



【補足
 :警備は、内部はそれほど厳重でもない。基本的には】
 :羽根持ち以外の情報に関しては全て「説明済み」。接敵時に取得可能】

169 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/10/04(日) 05:36:32.42 0
>「…………じゃ、流川そういうわけだ。ちょっと僕も、キツくなってきた」

流川に交渉を(半ば強制的に)任せて、大鳳は自身の体を休めるために壁にもたれ掛かる。
それでも、会話に参加しないままでもそれを聞く程度の余力を持たせて三人の会話を流し聞く。
時折目を開けながら啄木鳥の奥の手、神流の奥の手、そして羽持ちの得体の知れぬ能力のこと。
様々な情報が頭に入っていき、いずれ交渉が終わり本格的に休息を取れる状態になっても
彼女の脳内には常に一人の男がこびり付いて離れないでいた。

不動、彼は大鳳が来るのを待ち構えている。
その為の伏見だ、彼女が囚われている以上、何としてでも奪還しなければならない。
だが、恐らく大鳳が来なくても、喝堂や黒野といった隊長格が向かえば不動もそれで満足するだろうし、
その間に伏見を如何様にも奪還できる。
それがベストだ。何も自分ひとりの力で全てを解決するのが正しいわけでもない。
一人でダメなら力を合わせ協力すればいい、彼女が愛する特撮でも実に王道だ。
だが、大鳳はそれを良しとしなかった。
理由は単純な話だ。彼女は自分が思っている以上に負けず嫌いであった、それだけのこと。
負けることは恥ではない、命が助かり次につながっただけでも十分だ。
それは重々に理解している、だが休んでいる間も胸にふつふつと湧き上がる感情を、彼女は止められなかった。
大鳳は『あの状況』出せるで全身全霊の力で立ち向かい、不動の能力を暴き出した。
だからこそ勝機がある。それは条件付きとはいえ、確固たるものとして存在する。
不動と戦い、伏見を救出する。
彼女を突き動かす本音と建前は、再戦を誓うには十分すぎるほどのものだった。



そして日が巡り、大鳳の能力も万全に回復したと言える時に、喝堂からの通信が耳に入る。

>『おい、聞こえてるか。向路、大鳳……それと、流川隊長殿?』
>『山ァ降りて来い。ソイツらも連れて、堂々とだ。ファームとやらで黒野と合流しろ』

「了解ですわ」

端的に言葉を返すと、大鳳は流川達と共に隠れ家を出てファームへと向かった。
言われたとおり堂々と鳥籠の見張り達がこちらに気づくが、それが彼らの最期だった。
あるものは無残に刻まれ、あるものは意識を奪われ、あっという間に見張り達は無力化された。

170 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/10/04(日) 05:37:23.05 0
「これは……獏ですわね。それに黒野隊長……?なるほど、隠れる必要が無いわけですわ」

相変わらず出鱈目な能力者が多いことを軽くぼやいていると、神流が誘導するように視線を見やる。

>「――見本市の会場は既に特定済みです。ここから西に3キロの地点にある、既に閉鎖されたショッピングモール。
 彼らはそこを改装して、パーティー会場に仕立て上げています」

(……つまり、その周辺に不動も)

大鳳が思案していると、どこからきたのかその前方に黒野隊長が姿を現して、神流達に挨拶などをこなしていた。
ある程度話をつけると、黒野は大鳳達に向き直る。

>「見本市は既に始まっています。鳴上隊を始めとした、他の部隊もじきに到着します。
 ですがその前に……まだ出来る事がある筈です。
 例えば、事前に工作を行ったり、敵の退路や配置を確認したり……伏見隊員の居場所を突き止めたりです」
>「大鳳さん、貴方には申し訳ありませんが……不動との戦闘を避けて彼女が回収出来るなら、それに越した事はありません。
 不動の特性は、一時的な拘束、見当識の阻害に対してはそう高い耐性を持っていない筈です。
 場所さえ特定出来れば、奪取は十分に可能です」

「ええ、わかっていますわ。なるべく被害を抑えて確実に凶華を奪還します」

釘を刺すように黒野が大鳳へとアドバイスを送る。
それを承知の上で、黒野から発せられるプレッシャーを受け流すように言葉をぼかしつつ了解の言葉を返す。

そんなことをしていると、エンジン音を唸らせ喝堂の運転する軽トラックがこちらに向かってきた。

>「……続きは移動しながらだ。乗れ。運転はしてやる」

大鳳は黒野に背を向け、無言で荷台へと乗り込むと、そこには衣服や通信機などが積まれている。
だが、彼女の興味はそこにはない、彼女が見たのは補給品が入っている大きめの箱だ。
その中には食料等の補給品が入っていたが、それらとは明らかに違う代物が黒い布に覆われて箱の底に鎮座していた。

171 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/10/04(日) 05:38:20.59 0
「ありましたわ」

ソレらは予め大鳳が、喝堂へと頼んでいた物、正確にはこういった途中で補給が入る作戦時にはいつも用意してもらっているものだ。
とは言うものの、実際に実戦で使用した経験は殆どない、そこまでするような事態に陥ることが少ないからだ。
だというのに毎回欠かさず用意してあるあたり、喝堂の意外な義理堅さが目立つ。
だからこそ彼女は絶対に口にはしないが、喝堂隊に配属されたことに本当に感謝しているし、尊敬している。

>「……大鳳、テメェが運び込まれた収容所は既に制圧済みだ。
 だが伏見も不動もそこにはいなかった。恐らくだが……見本市の会場か、そのすぐ傍まで運ばれたんだろう。
 アイツの特性は、人間相手にゃ色々と使えるだろうからな」

「でしょうね……」

向路達の視線もある荷台の上で、ひと目も憚らず着替えをしながら喝堂に答える。
下着を丸出しにして包帯を巻き直し、左手には指が露出した空手で用いられるようなグローブを嵌めて、
普段のドレス姿の上には派手なコートを羽織り、その中へガチャガチャと何かを入れている。
これらは言うまでもなく不動への対策だ。だが、ある意味で言えば奥の手であるそれを、大鳳は流川達にも見せようとはしない。

>「まず間違いなくデモンストレーションが行われる。まずそれを見つけ出せ。
 そこからアイツの居場所を辿る事が出来る筈だ」

「わかりましたわ」

いつもとはまるで違う事務的な対応で返しつつ、大鳳はこれからのシュミレーションを重ねている。
勝ち筋があるといっても、それはあくまで可能性の話であり、確率表記したら一桁もいいところだ。
だからこそ考える、再戦というアドバンテージを生かすために。
それからも侵入方法のことなど色々話され、その内容は頭にいれつつも事務的な返事を繰り返していると、不意に車が止まる。

>「ここから先はテメェらだけで行け」
>『5分もありゃ、会場は完全に包囲出来る。そうしたら、後はテメェら次第だ。いつ始めてもいい』

不用意に羽持ちを表に出さない為だろう。あくまで大鳳達が主軸での潜入は続いているのだ。
それに従い、装いも新たに彼女達は会場へと歩き出した。

そうして歩いて向かうと、まもなく会場へとたどり着いた。
そこまで広くはなさそうだが、三人で動くには些か広すぎる。

「さて、どうしますか?私は正面から堂々といくつもりですが、
 ……そうですわね、差し当たって闘人用のブースに行こうと思うのですが、伏見さんの力が一番利用されそうですし」

ここを選ぶ理由は無論、一番不動、そして伏見に近いからだ。
伏見の怪人特性上、闘人のデモンストレーションにおいて大切な商品が不慮の事故で死ぬ可能性がなくなるのだ。
その利用価値は計り知れない。本来の理由は戦いを好む不動がいる可能性がいる可能性が高いということなのだが、
確実にこの二人は一緒に配置されている、そういう確信が大鳳にあるからこその選択だ。
不動は外道かもしれないが、こういった約束は守る。そういう男だ、なにせその方が面白いと思っているだろうから。


「とりあえず、私は一人で行きますわ。しかるのち時間と場所を指定してそこで落ち合いましょう」

自分で言って身勝手だというのは重々承知しているが、大鳳はそれを止めることはしなかった。

【伏見達捜索に闘人ブースへと単騎、手がかりを見つけたのち突貫したい】

172 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/10/10(土) 22:16:13.10 0
>「か、喝堂隊ーーーっ!!」
>「もう向路班じゃなくて流川班とかに改名して欲しいんですけお……」

(……ごめん)

返す言葉もないとはこのことか。
座り込んだまま目と耳だけに意識を持っていく。

>「念には念を入れますか」

「ぬぁッ!?」

意識を集中していた耳に不意打ちで水糸を突っ込まれ、すっとんきょんな声が飛び出した。
周囲の面々からの視線を感じつつ、流川に先に進むようジェスチャーで促す。

>『申し遅れました。わたしたちは"流川隊"。国の特務機関――怪人運用支援局の実働官です。 わたしは隊長兼下っ端の流川』

班長どころか隊長まで名乗るとは、流川の今後が少々心配になるが……命までは取られないだろう。
自信たっぷりに交渉を運ぶ流川を薄目で見ながら、その内容を咀嚼していく。

>「それと……彼女は、それほど高くではないけど、空が飛べる。 だから、彼女は『羽根持ち』と呼ばれるようになった」

神流の語る『羽持ち』の特性は不可解なものだった。
肉体変化と透明化の併用が頭に思い浮かぶが、『鳥籠』という組織を統べる強者がそんな小手先とハッタリで務まるとも思えない。

>「そして……彼女の強さか。そうだな、彼女の強さは……」
>「……勿論、それは以前の話だ。(略) 僕は既に一度彼女に負けていて……これは、失敗の出来ない仕事だ」

神流の明かした彼の怪人特性を考えると、やはり先程考えた線は薄いことが分かる。
透明化と形状変化系の肉体変化だけでは神流の怪人特性を突破できるとは思えない。
しかし、共に組織を運営していた神流にすらその特性を隠し通したのは何故なのだろうか。
いつか道を違えることを予期していたのか、単純に秘密主義なのか。秘匿性に優れた特性だからこそ秘密にしたいという心理は分かるが……。
なにか喉元に引っかかるモノを感じつつ、明確な言葉が見つからないこともあり黙ったままでいることにする。
その後、いくらかのやり取りを行った流川率いる一行は明日に備え休息をとる運びとなった。
向路は少々の睡眠を取ると、一旦起床し貰えるだけの木の実と樹液を胃に叩き込み、再び眠る。

173 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/10/10(土) 22:19:17.85 0
>『――おい』

>『おい、聞こえてるか。向路、大鳳……それと、流川隊長殿?』
>『山ァ降りて来い。ソイツらも連れて、堂々とだ。ファームとやらで黒野と合流しろ』
>「了解ですわ」

「向路、了解です。……お世話になりました。それでは」

身体は100%でないなりに、十分なコンディションまで回復した。
地下に残る共生派の面々にそう告げて、流川隊は再び地上へと這い出る。
喝堂に言われるまま校舎へと戻ると、挨拶代わりの無音の殺戮を見せつけられた。
見張りがコレならば、校舎内も推して知るべしということだろう。

>「これは……獏ですわね。それに黒野隊長……?なるほど、隠れる必要が無いわけですわ」

「……須波さんにも、お礼しなくちゃいけなかったな」

それぞれに口を開いていると、景色にそぐわぬきっちりスーツが現れる。黒野だ。
彼によって現在の状況とこれからの作戦要項が伝えられる。
その中には伏見──そして高確率でそこにいるであろう、『不動』に関することも含まれていた。
黒野は喝堂の下にいた際の経験からか、大鳳の行動を先読みして釘を刺す。だが、

>「ええ、わかっていますわ。なるべく被害を抑えて確実に凶華を奪還します」

この答えに黒野が思い切り眉を顰めたのは言うまでもない。

174 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/10/10(土) 22:20:29.98 0
>「……続きは移動しながらだ。乗れ。運転はしてやる」
>「……大鳳、テメェが運び込まれた収容所は既に制圧済みだ。 アイツの特性は、人間相手にゃ色々と使えるだろうからな」

喝堂が転がしてきたトラックに乗り込み、見本市へと向かうまでのうちに装備を整える。
横で大鳳がガンガン脱いでいくのを気まずく思いつつ、向路もツナギを脱ぎ捨て、特殊縫製のブラックジーンズに足を通す。
無地の白Tシャツに袖を通し、青いレザージャケットを纏う。
グローブとブーツもメンテナンスされたものと交換し、かなり乱れていた髪を大雑把に整え、エネルギーバーの封を破る。
喝堂が追加の状況説明をする中、横で大鵬が妙に聞き分けよく答えを返しているのが……つい、溜め息を吐く。

>「……鳴上達も、到着したそうだ」
>「……鳥籠にとって、テメェらは既に死人だ。(略)人身売買ビジネスを始めるに先立って、自由に顧客とのコネを作っていいってな」
>「テメェらが既に死人ってのは、あくまでマクロの話だ。 何食わぬ顔で潜入してもいいし、逆に死人扱いされた事をダシに堂々とゴネるのも悪くねえ」

「その辺りのゴネ交渉はは流川の領分ですね。
 ……ひとまずは穏便に潜り込みたいところですが」

一斉検挙を目的とするなら、さざ波であっても立てたくはない。……だが、物事望むようにばかり進む筈もない。
ただでさえ目立つ大鳳に、向路と流川は複数の構成員に顔が割れている。何事もなく入り込めれば良いが。

>「ここから先はテメェらだけで行け」
>『5分もありゃ、会場は完全に包囲出来る。そうしたら、後はテメェら次第だ。いつ始めてもいい』

「それでは、行ってきます。
 ……喝堂隊長、遺書はいつも通りお願いします」

喝堂が面倒臭そうに手を挙げて応えたを見て、向路はトラックを離れる。
遺書は常に自室にストックがあるが、任務毎に実働部隊の誰かしらにも預けているのだ。
なにかあった際にはそれを改変せずに家族に、ということになっている。
   
>「さて、どうしますか?…(略)…伏見さんの力が一番利用されそうですし」
>「とりあえず、私は一人で行きますわ。しかるのち時間と場所を指定してそこで落ち合いましょう」

「…………大鳳さん、勝算はどのくらいですか?
 貴方のことですから『不動』を倒して伏見さんを奪還するつもりでしょうが、それが成功したとして任務は続けられますか?」

一人先んじて進もうとする大鳳へ向けて、咎めるような語調で言葉が飛び出した。
昨日の失態を思えば向路にこんなことを言う資格はない。それは向路自身よく分かっている。
しかし、出発時からの普段と異なる様子、そして誇り高い武人としての彼女を知るが故に、言わずに入られなかったのだ。

「一人でいくのは、どうしてもですか」

【大鳳への問いかけ。無視して進行可です。その場合は闘人以外のブースへ向かいます。】

175 :名無しになりきれ:2015/10/16(金) 00:33:24.16 0
先にいっとくぞ



ここ肥満がいるスレや

176 :名無しになりきれ:2015/10/16(金) 07:06:22.79 0
>>175
マジここ荒らさない方がいいゆ
2ちゃんねるでも結構発言力あるスレだから。

177 :名無しになりきれ:2015/10/16(金) 08:01:55.71 0
>>176

178 :名無しになりきれ:2015/10/16(金) 12:19:50.53 0
発言力とは何ぞ?w

179 :名無しになりきれ:2015/10/16(金) 20:16:29.67 0
権力のことかいな?
ん?

180 :名無しになりきれ:2015/10/16(金) 20:38:07.88 0
とくむの あおにさい

181 :名無しになりきれ:2015/10/17(土) 01:42:47.66 0
ここも近いうちに
糞猫来るな

182 :名無しになりきれ:2015/10/17(土) 13:21:28.93 0
            人
         ノ⌒ 丿
      _/   ::(  ∞〜 プーン
     /     :::::::\
     (     :::::::;;;;;;;)
     \_―― ̄ ̄::\
     ノ ̄       :::::::::)
    (   ::::::::::::::;;;;;;;;;;;;ノ
      /  -=・‐.‐=・=-i、     
     彡,  ミ(_,人_)彡ミ  
 ∩,  / ヽ、,  `ー'  ノ        
 丶ニ|    '"''''''''"´ ノ
    ∪⌒∪" ̄ ̄∪

183 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/10/19(月) 02:20:12.80 0
>「彼女は……決して、僕にも特性を明かしはしなかった。
 『重力子』『風刃』『光子化』……などと聞かされる事はあったが、どれも冗談半分だったよ」

(だめじゃん……!)

かつて一番ちかくで見ていたはずの神流ですら、羽持ちの能力の全容を掴んでいないと言う。
どうりで裏社会で有名という割りにはその特性についてボヤっとした情報しかないわけだ。
要するに、真相を知ったものは例外なく消されているのだ。

>「彼女の起こす「現象」は明白だ。彼女は……目に見えない攻撃を行う。
  僕の体に刻まれた傷の殆どは、彼女が付けたものだ」

「えっと……"どれ"が件の羽持ちさん由来の傷ですか?」

市香が額に汗しながら問うたのも無理は無い。
先述の通り、神流の肉体は目を覆わんばかりの無数の傷跡で網羅されていたからだ。
それも、えぐられているものがあれば、刻まれた跡もあり、やけどのように爛れている部分もある。
これがすべて羽持ち一人によるものだとすれば、一体どれほどの種類の攻撃が可能なのだろう。
しかもそれを、おそらくは同時に集中させられる。

「エレキパス(エレクトリックサイコパスの略。誰のことかは割愛)が片翼落とされたというのも納得ですね……」

むしろ恐らく隊長格の実力者である神流が何年も苦しむ後遺症を負わされた相手から、
元気に現職復帰できる程度の被ダメに押さえて生き延びた鳴上の株がひとりでに上がってしまった。

>「それと……彼女は、それほど高くではないけど、空が飛べる。
 宙に浮かび上がる瞬間や、勝負を決める瞬間、ほんの一瞬だけ、真っ白な翼が見えるんだ。
 だから、彼女は『羽根持ち』と呼ばれるようになった」

「もうお腹いっぱいなんですけお……」

しかも飛行能力まであるときた。
たった一人の怪人にどんだけ盛るんだよと言いたくなるこの属性過積載。
頭を抱えたくなるのはこの『ぼくの考えたさいきょうの怪人』が実際に存在してしかも敵対関係にある点だ。

(ちょっとフカシこきすぎたかな……)

羽持ちの打倒を、市香は確かに啄木鳥との交渉材料に掲げた。
もちろん二次標的としてそれはいまも活きているが、努力目標ぐらいに下方修正しておいたほうがいいかもしれない。

>「そして……彼女の強さか。そうだな、彼女の強さは……」

神流が言いながら柏手を打った。
が、その音は聞こえずに、代わりに市香の髪がぶわりと後ろに持ち上がった。
風に吹かれた如く、だ。

184 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/10/19(月) 02:20:43.33 0
「??」

突如の不可解現象に市香の頭が疑問符で埋め尽くされる。
とりあえずブローされた髪を手櫛でまとめ直していると、神流が自嘲気味に呟いた。

>「……これは僕の怪人特性だ。僕の体質は『流転』。
 僕は自分に接触したエネルギーを、身体に浸透させないまま留め、そして受け流す事が出来る。
 例外は今のところ……重力だけかな」

>「彼女の攻撃を、僕は受け流し切れなかった」

「それって――」

そこから先を市香は言葉にできなかった。
特性を見るに、神流は防御力に特化した怪人だ。
何度でも言うが共生派を率い、啄木鳥を従え、隊長格にも匹敵する実力者だ。
その神流をして、これだけの手傷を負わせ切った羽持ちの『攻撃力』がいかほどのものなのか。
物語るには、その背中は雄弁過ぎた。

>「……それと、もう二つほど、いいだろうか」

先程見事な所作で樹液を市香にサーブした啄木鳥が不意に口を挟んだ。
市香は土と木立の香りのする液体で満たされた木製のマグを傾けながらそれを促した。

>「まず一つは……明日、その見本市の会場に突入する際の事だ。
 私達の突入は、君達が突入した後だ。理由は……私達は戦力的に鳥籠に劣っている。
 君達が場を掻き回してからの方が好ましいだろう。精神的にもだ」

「はあーなんですか、露払いをしろってことですか?良いですけど……」

恩着せがましく言ってみたものの、流川隊としてもそのほうが好都合だ。
突入のタイミングは任せるということであり、潜入任務をどこで切り上げるかを選べるということ。
相手を見てから喧嘩を売れるのは重要な戦略判断だ。

>「もう一つは……私の『奥の手』についてだ。これは、私達の突入を遅らせる理由でもあるのだが。
> (中略) だから……君達の戦いぶりを見てからだ。私が奥の手を使うのは」

つまり、奥の手発動に伴うリスク――本拠地の露呈――を避ける為に、
奥の手らしく最後までとっておきたいということだ。
それこそ、使うときにはその一撃でかならず鳥籠を殲滅できる段階でなければならない。
鳥籠の残党が隠れ家を見つけ、虐殺に走ることは想像に難くない。
なんとなく試されているようで気に食わないが、少なくとも理屈の上では正論だ。
共生派としてはこのまま引きこもっていれば安全なところを、こちらの都合で協力してもらうわけだから。

異論はない。
そしてそれとは別に、市香には新鮮な驚きと気付きがあった。

(同化ってこういう使い方もできるんだ……)

185 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/10/19(月) 02:21:10.35 0
肉体を切り離して外部の木々に保存し、本体が回復すれば外付けの肉体タンクの出来上がりというわけだ。
自己血輸血という名で常人でも手術の出血補填やドーピングに用いたりする手法であるが、
肉体単位でこれをやれるのはまさに怪人の面目躍如と言ったところか。
木と水、媒体は違えど似たような能力者である市香にも同じことができるかもしれない。
須波の肉体移植を見てアナフィラキシーショックを思いついたように。
しかるに、怪人戦闘とはまさに発想の金脈だ。

「っと、それはわかりましたけどとっとと神流さんの奥の手見せてくださいよ、ほらほら」

なにやら巧妙に話を逸らされそうになった市香はぶんぶんと頭を振って着想を放り捨てた。
あとで考えればいいことは積極的に後回し、これがデキる女の仕事術だ。
要された神流は失礼と前置きして市香の肩に触れた。

「な、なんですか、変なことしないでくださいよね」

市香はその手を払いのけようとして、そして自分の体の異変に気付いた。

「あ、あれ?体、動かな……」

指一本、ぴくりとも動かなくなってしまった。
まるで合気道の達人による実演か、そうでなければ怪しい催眠術師のパフォーマンスだ。
それらと異なる点は、神流の手がまるで友人にでもするように気楽に乗っている、
ただそれだけで市香の一切の自由が奪われてしまっていることだ。

「ちょっ、まっ、待って待って待って待って!!」

たまらず市香は特性を発動し溶けて逃げようとした。
しかしできなかった。液状化の特性すら、その意思に反してピタリと停まってしまっていた。

(これ――見た目以上にやばすぎる……!!)

体の一切の自由が効かず、液状化もできないということは、いま市香は人生で経験したことのないレベルで無防備だ。
なにせいまの自分は新免が持ってるようなチャチな拳銃弾一発で容易く傷つき死ぬわけである。
状況の不可解さとは別の、もっと根源的な内蔵を一掴みにされたような不安感が市香を襲った。

「わかりました、もう十分ですっ!」

市香の悲鳴じみた要請にしたがって神流は肩から手を退けた。
途端に自由が戻った市香は、しかしへたり込みしばらく動悸を押さえるために動けなかった。
これが神流の『奥の手』……と言うにはあまりに穏やかな死神の手。
体のどこにでも触れただけで発動するなら、フルスターリなんて目じゃ無いレベルの、まさに近接殺し……!

「ま、まあ、心強い限りですね……」

それだけ短くコメントして、市香はさっと神流から距離をとった。
次触られたら遠慮なくセクハラで通報しようと心に決めて。

方針と情報共有が済んだら、あとは時来るまで休養をとる段になった。
市香と新免はともかく先輩二人の消耗は深刻で、なるべく長時間の静養が必要だった。

「あ、食事出るんですか?すみませんねどーも……」

炊事を担当しているらしき大人の女性に誘われて、共生派の夕食のご相伴にあずかることになった。
バックパックに戦闘糧食は詰めているとは言え、温かい食事に勝る癒やしはない。
市香は内心ウキウキで隠れ家の中にある食堂へ足を運んだ。

186 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/10/19(月) 02:21:48.44 0
木製の大きな卓袱台めいた円卓に、子供たちが分担して木製食器を並べていく。
円卓にはゴザで編まれた座布団がしいてあって、市香たちは上座に通された。
食堂は共生派が集合できる程度には広く、常に大人の誰かが話し合いや暇つぶしなどで常駐している。
また隣接した小部屋は台所になっており、木の根から滴るのを溜めた水と手製の竈で、簡単な煮炊きができるようだった。
炊事をすれば煙や煤が出るが、そのあたりは啄木鳥がうまく処理する仕掛けをつくっているのだろう。
樹液の入ったグラスと共に供されたのは、平たく堅焼きにされたパンと、山菜入りすいとん、そして乾煎りにされたドングリだった。

「ええーっ、ドングリ食べるんですか?っていうかドングリって食べられるの?
 え、このパンもすいとんの団子もドングリ?うっそだぁー」

すすめられるがままに煎りドングリを口に放り込む。
似たようなビジュアルの天津甘栗と比べると確かに甘さは控えめで、若干渋みはあるが、食べられないこともない。
むしろ酒を飲む人なら結構好きな味覚なんじゃないだろうか。
見れば大人たちの中には樹液を発酵させたどぶろくめいた酒のアテにポリポリやってる者もいる。
聞くところによると、このドングリは生食できるシイの実をベースに啄木鳥が品種改良したものだそうだ。
土中のミネラルを抽出した岩塩もどきで塩味をつけてやれば、ヘルシーおつまみの完成というわけだ。

「このすいとんも、縄文グルメらしからぬ豊かな味わい……」

ドングリのデンプンを練った団子の汁物は、強めの塩気が蒸しやすい穴ぐら生活者には嬉しい。
というかここで採れる塩分の半分くらいは、ここの住民の汗由来なんじゃないだろうか……。
変な想像を振り消して、市香は目の前のすいとんに没頭する。
合間に挟む堅焼きパンは、水分を極力抜いて保存性を高めてあるので、すいとん汁に漬けてふやかして食べる。

「あーこれお通じがよくなるやつだ。食物繊維でよくなるやつだ。そういうのわかっちゃう」

ドングリはアクが多く含まれるために常食には向かないが、食味に乏しい地中生活では渋みも重要な味覚の一つだ。
どうやらアク抜きの仕方にもバリエーションをつけてあって、なるべく飽きないつくりになっている。

「工夫が活きてるなぁー……」

一汁一菜ぺろりと平らげて、市香は満足気に上を仰いだ。
啄木鳥が必死にこの隠れ家を守ろうとする理由が、少しだけわかった気がする。
ここは過酷な環境だが、それでもなお生きんとする意思がたしかに存在する。
それは活気というかたちで見えなくても、間に合わせの寄せ集めでも、必ず尊重されるべきものだ。
生きることに絶望していない。抗うことを諦めていない。
だから護りがいがあるのだ。

通された一番広い寝室の、柔らかく作りなおされたベッドに潜りこみながら、市香は静かに決意する。
共生派との関係は対等だ。必要以上に肩入れするつもりもないし、受けた利益以上のリターンもする気はない。
そしてだからこそ―― 一宿一飯の恩はきっちり返そう。
次は青空の下であれを食べたいから。

187 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/10/19(月) 02:23:36.20 0
>『――おい』

24時間の待機中、うつらうつらしていた市香の目を覚ましたのは耳元で響くドスの効いた声。
はひいっとか情けない声で返事しながら飛び起きるとそこには誰もおらず、声はやはり耳元で聞こえてきた。

>『おい、聞こえてるか。向路、大鳳……それと、流川隊長殿?』

音源は、耳に入れっぱなしの小型無線機。

「お、お疲れ様です喝堂隊長……聞いてらしたんですね」

実に30時間ぶりの網シャツ野郎の声である。
市香は今さらながら自分の飛ばした大法螺で頭をガツンと撲殺される感覚をエンドレスリピート。
帰ったらマジでどう言い訳しよう。もう穴ぐら生活で良いです……。

>『山ァ降りて来い。ソイツらも連れて、堂々とだ。ファームとやらで黒野と合流しろ』
>「了解ですわ」
>「向路、了解です。……お世話になりました。それでは」

回復した喝堂隊二人が鋭く返事を返し、荷物を手早くまとめて隠れ家を辞する。
市香も用意された寝間着から制服に着替えて、バックパックを身体に巻きつけた。

「ごちそうさまでした、次はお日様の下で会いましょう。支援局(うち)のフルコースをご馳走しますよ」

共生派の者達へ端的にお礼を伝えると、神流達を伴って再び川を超え麓へと下る。
既にあたりは日が落ちていた。あれから丸一日経っているのだから当然と言えば当然だ。
追跡行とはちがい今度は目的地まで一直線、思ったよりも時間をかけずに校舎まで辿りつけた。

「堂々と降りてこいって……見張りいるんですけお」

宵闇にまぎれて近づくにしても限界がある。
夜警に夜目の効かぬ怪人を配しているとも思えない。
進むのをためらっていると、校舎の屋上で砂嵐が静かに巻き起こった。
立哨たちが声一つあげずミキサーにかけられたみたいに細切れになった。

>「これは……獏ですわね。それに黒野隊長……?なるほど、隠れる必要が無いわけですわ」

あれ須波さんだったかー、と屋上の惨劇に冷や汗垂らしていると、
地上警備の者達も暗闇からの強襲に為すすべなく始末されていく。
同様に、校舎の至るところで静かなる殺戮が展開されていた。
支援局の増援部隊だ。

(ジェノサイド集団の本気だよぅ……)

本職よりもえげつない国家公務員達の仕事ぶりが一段落して、闇の中から見知った声が聞こえた。

>「――見本市の会場は既に特定済みです。ここから西に3キロの地点にある、既に閉鎖されたショッピングモール。
 彼らはそこを改装して、パーティー会場に仕立て上げています」

「仕事が早いですね……」

どっからその情報仕入れたんだろう。
いやボカすまい、その情報手に入れるのに一体何人の鳥籠構成員が犠牲になったんだろう。
心のなかで南無を唱えながら、黒野と神流の邂逅を見守った。

188 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/10/19(月) 02:25:12.39 0
>「見本市は既に始まっています。鳴上隊を始めとした、他の部隊もじきに到着します。
 ですがその前に……まだ出来る事がある筈です。
 例えば、事前に工作を行ったり、敵の退路や配置を確認したり……伏見隊員の居場所を突き止めたりです」

つまり、まだ潜入任務は終わっちゃいないのだ。
そして大鳳にはもうひとつ、果たさなければならない因縁がある。

(伏見さんの奪還、ですね)

黒野の忠告に大鳳は聞き分けよく頷いている。
"あの大鳳"らしからぬ態度に市香は気付けないが、向路は違和感を感じているようだった。

>「……続きは移動しながらだ。乗れ。運転はしてやる」

喝堂が車を回し、一同は見本市の会場まで向かうことになった。

>「……鳴上達も、到着したそうだ」

「そっちに合流する……ってわけじゃないですよね」

市香の形式上の確認に、喝堂はうんともすんとも言わないが、肯定代わりに説明を始めた。

>「……鳥籠にとって、テメェらは既に死人だ。俺達に連絡が来た。
 共生派とかいう敵対組織の襲撃に巻き込まれてお前らが死亡したってな
 その賠償として……俺達はパーティへの参加権を貰った。
 人身売買ビジネスを始めるに先立って、自由に顧客とのコネを作っていいってな」

(また雨場さん酷使したんですね)

死亡確認には、当然ながら市香たちの死体が必要だ。
ニセのそれをどうやって用意したかと言ったら、やはり雨場が一晩でやってくれたのだろう。
ハイスペック小間使いの先輩には頭がさがるばかり、市香はああはならないようにしよう。
いや既に、だいぶ便利に使われてる気がするけれども。

>「テメェらが既に死人ってのは、あくまでマクロの話だ。
 現場の警備に知らされんのは精々、場違いな服装の連中が数人、パーティに混ざり込むって事だけだろう。
 何食わぬ顔で潜入してもいいし、逆に死人扱いされた事をダシに堂々とゴネるのも悪くねえ」

>「その辺りのゴネ交渉はは流川の領分ですね。……ひとまずは穏便に潜り込みたいところですが」

「ひとのことゴネ得クレーマーみたいに言わないで欲しいんですけお!
 ……でもま、そーですね、昨日からドングリしか食べてなくて丁度立食したいとこだったんです」

市香は軽口を叩いて、それから静かになった。
見本市会場――ショッピングモールが見えてきて、明らかに空気感が変わったからだ。
ここから先はもはや衆人環視、どこで聞き耳を立てられているかわからない。

189 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/10/19(月) 02:26:12.60 0
>『5分もありゃ、会場は完全に包囲出来る。そうしたら、後はテメェら次第だ。いつ始めてもいい』

『流川了解。これより作戦状況を開始します』

小型通信機の骨伝導発声に切り替えて、市香は滑るように車を降りた。
入り口に立っていた見張りは制服姿の売人にぎょっとして、しかし話が通っていたのか無言で道を譲る。
だがもっとぎょっとしたのは、多分後ろに控えるドレスに指ぬきグローブの奇人の姿だろう。
隣の向路は常識的な格好と言えなくもないが、この場がパーティであることを考えるとかなり浮く。
制服の市香が一番目立たないってどういう集団だ。

>「さて、どうしますか?私は正面から堂々といくつもりですが、
 ……そうですわね、差し当たって闘人用のブースに行こうと思うのですが、伏見さんの力が一番利用されそうですし」

「うーん流川隊長的には異論なしです。ただ愛玩用の方にも寄りましょう。雨場さんのご兄弟にもしかしたら会えるかもですから」

雨場の兄弟というのは言うまでもなく円治戦での犠牲者を肩代わりした彼の分身だ。
首尾よくこの会場に陳列されていれば、合流できるのは心強い。

>「とりあえず、私は一人で行きますわ。しかるのち時間と場所を指定してそこで落ち合いましょう」

「あっちょっ、まだ段取りが――」

大鳳がさっさと話をまとめて分かれようとする。
市香が止めるより先に、大鳳を阻むように向路が言葉を差し挟んだ。

>「…………大鳳さん、勝算はどのくらいですか?
 貴方のことですから『不動』を倒して伏見さんを奪還するつもりでしょうが、それが成功したとして任務は続けられますか?」

「ええっ、さっき不動さんとは戦わないって……」

市香は素っ頓狂に驚いて、しかし記憶を辿ってみて二度びっくり。
大鳳は確かに、不動と戦わないとは一言も言っていないのだ。

>「一人でいくのは、どうしてもですか」

「ああもう、こんなところで始めなくたって……!」

敵地のど真ん中で、しかも周りには来客だらけの衆人環視だ。
見張りの死んだ屋上で内ゲバするのとはわけが違う。
市香は出来る限り平静を装いながら通信機に呻いた。

「じゃあこうしましょう、みんなで闘人ブース行きませんか。
 伏見さんの所在と不動さんの居所確認して、そのうえでどうするか決めましょう。
 忘れないでくださいよお二人共、いまわたし達は『流川隊』、隊長の指示に従って下さい」


【職権乱用:闘人ブースへ】

190 :名無しになりきれ:2015/10/19(月) 08:09:10.66 0
隊長の指示?


馬鹿は一人でやってろよ



カス以下

191 :名無しになりきれ:2015/10/19(月) 08:10:36.67 0
糞猫的にはこのスレ




どうなん?

192 :名無しになりきれ:2015/10/19(月) 12:30:18.48 0
浅い知識で物事語るから叩かれる訳

193 :名無しになりきれ:2015/10/19(月) 19:46:51.61 0
            人
         ノ⌒ 丿
      _/   ::(  ∞〜 プーン
     /     :::::::\
     (     :::::::;;;;;;;)
     \_―― ̄ ̄::\
     ノ ̄       :::::::::)
    (   ::::::::::::::;;;;;;;;;;;;ノ
      /  -=・‐.‐=・=-i、     
     彡,  ミ(_,人_)彡ミ  
 ∩,  / ヽ、,  `ー'  ノ        
 丶ニ|    '"''''''''"´ ノ
    ∪⌒∪" ̄ ̄∪

>>189
ドングリ捏ねるのか
バトルするのか
どっちかにしようや

>>190
お前がカス以下や

>>191
お前が糞やと思うわ
でもここも糞やな
おわっとる

>>192
せやな
知識が充分ないのに語るなってことやで

194 :名無しになりきれ:2015/10/19(月) 23:15:24.94 0
>>193
カチャ…







パァン!
(>>193の肛門に銃弾が撃ち込まれる)

195 :名無しになりきれ:2015/10/20(火) 23:45:07.10 0
ドングリはフランクフルトとコラボすることになりました

196 :名無しになりきれ:2015/10/23(金) 23:47:02.59 0
いよう

197 :名無しになりきれ:2015/10/23(金) 23:47:40.23 0
げんき甲斐?

198 :名無しになりきれ:2015/10/23(金) 23:48:31.40 0
ファンタジしてる?

199 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/10/24(土) 05:49:04.63 0
>「…………大鳳さん、勝算はどのくらいですか?
 貴方のことですから『不動』を倒して伏見さんを奪還するつもりでしょうが、それが成功したとして任務は続けられますか?」

いざ入ろうとした矢先、案の定向路が大鳳を制止した。
その問いかけは当然のものだろう、大鳳は長く同じ隊で任務を共にした戦友なのだ。
その彼女が今まで見せたことのない出で立ちをしているということ、
そして彼女の性格を考えれば、一人で特攻しようとしていると思われるのは間違いない。

「勝算は、三割あればいいくらいですわね。」

そんな向路に対して、彼女はあっさりと事実を認める。

「確かに私は不動を倒して奪還する気に違いはありませんが、成功した後に任務の継続も当然念頭においてありますの
 だから、凶華の代わりに私が死んだり捕まったりするということはありませんわ。
 無論、私が勝てばの話ですが」

>「一人でいくのは、どうしてもですか」

これが大鳳の本心であることは言うまでもないが、それでも向路は食いついてきた。
このまま平行線が続き、あわやひと波乱起きてしまいそうなにらみ合いの沈黙が続いていたが、そこに流川が割り込む。

>「じゃあこうしましょう、みんなで闘人ブース行きませんか。
 伏見さんの所在と不動さんの居所確認して、そのうえでどうするか決めましょう。
 忘れないでくださいよお二人共、いまわたし達は『流川隊』、隊長の指示に従って下さい」

「む……。ですが、そうですわね……。確かにここで話しているよりはその方がいいですわね。
 深先もそれなら大丈夫でしょう?」

そして大鳳は彼女の提案(というよりは実質的に強制なのだが)に乗った。
こういう提案をされては、大鳳も向路も従わざるを得ない、というよりは従った方が良いというのは理解しているだろう。

「全く、市香も段々鳴上隊らしくなってきましたわね。」

かなり強引だが、それでもなんやかんや隊を纏める中間管理能力を見て
流川の目覚しい(?)成長を感じ取っていた。

【とりあえず合意、1レスに長々と時間をとってすいません】

200 :名無しになりきれ:2015/10/24(土) 17:13:34.96 0
            人
         ノ⌒ 丿
      _/   ::(  ∞〜 プーン
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 ∩,  / ヽ、,  `ー'  ノ        
 丶ニ|    '"''''''''"´ ノ
    ∪⌒∪" ̄ ̄∪
>>194
おう、ケツにねっとりと入ったで
抜こか

>>195
フランクフルト、ワイも好きや
ワイのフランクフルトしゃぶらんかい

>>199
レスが遅すぎやんか
あかんて

201 :名無しになりきれ:2015/10/24(土) 17:14:19.39 0
>>197
ワイも元気やったで
お前は暇そやな
働こか

>>198
ワイは毎日がファンタジーやで

202 : ◆PyxLODlk6. :2015/10/27(火) 01:01:02.71 0
闘人ブースはモールの二階に設けられていた。
怪人とは比較にならないとは言え、彼らは人間にしては身体能力に優れているからだ。
彼らは屋上から雨樋伝いに地上に降りるくらいの事は、不可能ではない。
故に上下を怪人の層で挟まれた、逃走が困難な二階に配備しているのだ。

とは言え、来賓が大勢いる中で脱走騒ぎなど好ましくない。
脱走は困難にはしているが、そもそも起こらないに越した事はない。

つまり――闘人ブースの警備は他所に比べて厳重だった。

二階の寝具売り場を改築したブースの中には、数十の闘人が並べられている。
付近には金網によるリングも用意されており、中では闘人同士のデモンストレーションが行われていた。
ここで見込みなしと見なされて買い手が付かなければ、食用に転向、または廃棄処分すらあり得る。

皆、必死だった。
闘人は能力的に限られた人間だからこその駆け引きや技術の応酬が見どころだが、
一方で生き残る為に殺し合う様を「浅ましいもの」として優越感に浸る楽しみ方もあった。

「皆様、ここで一つ、今回から新しくご用意させて頂きました催しが御座います」

警備と司会を兼ねているのだろう、日本人らしからぬ黄金色の髪と美貌の、伏し目がちな男が、声を上げた。
男は近くに用意した背の高い丸テーブルから、一本の注射器を手に取り、掲げた。

「この注射器にはとある怪人の血液が封入されています。その怪人の特性は『不老不死』。
 その名の通り、決して死なず……またその血肉を食らった者にも、仮初の不死を貸し与える。
 さながら人魚の血、と言ったところでしょうか」

観客が半信半疑のどよめきを上げた。

「無論、これをただ闘人に使うのでは面白くない。
 お気に入りの人間が戦いに敗れ、壊され、死んでいく……その破滅もまた闘人の妙味ですからね。
 ですが……彼らを「試す」には、これほど便利な物もない」

男は「あちらを」と言ってリング内で戦う二人の闘人を指す。
一人は長身で巨躯、運動神経も申し分なく、長い手足による牽制だけで相手を圧倒している。
もう一人は筋肉質ではあるものの身長、間合いで劣っており、懐に飛び込む事が出来ずにいた。

「一見すればどちらが優勢で劣勢か。どちらが「買い」であるかは明白のように見えます」

男は「ですが」と言いながらリングへと近寄り、中にいるレフェリーに注射器を渡す。
そして二人の闘人の腕に不死の血液を打ち込ませ――レフェリーが彼らの脇腹を掴む。
そのまま力任せに引っ張って――皮膚と筋肉が、まとめて引き千切られた。

甲高い悲鳴を上げて、巨漢の闘人が倒れ、転げ回る。
対してもう片方の闘人は、腸が溢れないよう脇腹を腕で圧迫しながら、堪えていた。
こうなる事を予測出来ていたのだろう。

「これならどうでしょう。片やフィジカルに優れている代わりに、痛みに弱い闘人。
 片や体格では相手に劣っても、痛みに強く……「気付く」事に長けた闘人。
 今まで確かめられなかった商品価値が明らかになり、どちらが勝つのか……分からなくなった」

司会の男が問いかけるようにそう言うと、観客達が俄かに沸いた。
不死の血はこれまでよりも顧客の趣味に沿った商品の提供を可能にした。
加えて、闘人というゲーム自体の奥深さをも拡張したのだ。

203 : ◆PyxLODlk6. :2015/10/27(火) 01:01:36.82 0
と、司会の男が観客へは視線を向けないまま、しかし満足気な微笑みを浮かべていると、
不意に一人の老人が杖を掲げて彼に見えるように小さく振り回した。

「……どうか、なさいましたか?」

「もし良ければ、そちらの我慢強い方の人間……儂らにも少し「試させて」もらえんかのう。
 いや、儂の孫がの、さっきから試してみたいとせがんできてのう……」

老人の隣の、淡い青色のドレスを着た少女が、恥ずかしそうに俯いた。
司会の男は、柔らかな笑みと共に、少女へと手を差し伸べた。

「勿論、構いませんよ。と言うより……この不死の血のもう一つの使い道が、まさしくそれなのです」

「……と言うと?」

老人が尋ねる。
司会の男は返答を保留するように微笑みを投げかけると、まずは少女をリングの内側へとエスコートする。
その途中で、付近の警備兵に何かを耳打ちしながら。

「……このご時世、他人の財や命を奪う事に抵抗を覚えない賊はどこにでもいます。
 怪人として生まれたならば……やはり己の、己の親しき者達を守るだけの力は持っておきたい」

ですが、と男は続ける。

「家族同士、仲間同士での訓練だけでは、実戦特有の感覚を養えません。
 例えば……相手を傷つけ、殺める感覚。自分にはそれが出来るのだという自信」

少女が恐る恐る闘人へと手を伸ばし――その指先から鋭い棘が伸びた。
棘は闘人の筋肉質な胸を容易く貫き、骨をも貫通して、その背中から飛び出す。
その様を見た少女の表情が、ぱあっと華やいだ。

今度は両手を使って、闘人へと無数の棘を突き刺していく。
少女の加虐は加速度的に速く、鋭く、華麗に昇華されていく。

「将来有望、ですね。ですが……」

少女の棘は速く鋭いが、敵の動きを押し止めるような力に乏しかった。
闘人が崩れ落ちる――ような動きに偽装して、重心を落とす。
そして少女へと跳びかかった。
今なら自分は何をされても死なない。少女を人質に取れば、逃亡を図れるかもない、と。

瞬間、闘人の姿が突如燃え上がった、爆発的な火柱に覆い尽くされた。
幾らその闘人が我慢強いと言っても限度がある。金切り声のような悲鳴が上がった。

「実戦において、油断は禁物。大事なのは相手や状況をよく見て、己の特性を理解する事。
 ……そういった事も、学ぶ事が出来ます。お嬢さん、お怪我はありませんね?」

少女はやや頬を紅潮させて、頷いた。
司会の男は微笑み、頷くと、少女を老人の元へと返した。

直後、伏し目がちだった男の視線が――流川達をまっすぐに捉えた。
何の前触れもなく、彼女達が完全な偽装を為していたとしても、だ。

男――感城由多嘉の情報を、君達は知っている。啄木鳥から事前に聞き出している。
感城の体質は『情熱』。
自分が強い感情を抱くか、抱かれた時、体内で強力な爆発性物質が形成される。
それを性質変化によって更に戦闘向きに特化させている。

204 : ◆PyxLODlk6. :2015/10/27(火) 01:02:02.60 0
その体質故に、彼の脳は高度な共感能力を有している。感情を感知する能力。
即ち――鳴上雷花の生体電流感知に酷似した能力を。
彼への指向性を帯びた感情を抱けば、由多嘉はそれを感じ取る事が出来た。

由多嘉の金髪の先端に火が灯り、半ば液状化して、火花のように君達へと放たれた。
もしそれに触れれば、君達は先の闘人と同じ目に遭う事になる。

同時に周囲の警備兵達は、顧客の避難誘導を開始していた。

『始まったか。客の確保、伏見の捜索、こちらでも平行して行いはするが、テメェらもサボんじゃねえぞ』

無線機から喝堂の声が届く。
本隊が動き出したという事だ。

『それと……もし羽持ちや不動を見かけたら……無理はするなよ。この数だ。
 「俺達がすぐに援護に駆け付けられるとも限らねえ」からな』

喝堂は君達に言い聞かせるようにゆっくりとそう言った。

だがその言葉に対して深く考える為の時間はない。
君達は由多嘉の情報を知っている。その体質と特性を。
その実力が、羽持ちの親衛隊に任命されるほどのものだという事も。

「お客様、どうか慌てず。奴らはこの私が成敗致します。皆様は警備の誘導に従って、速やかな退避にご協力下さい」

叫び声ではない、だがよく通る声で由多嘉は宣言した。
自信に満ちた声だ。来賓達から「信頼」を寄せられるには、十分過ぎるほどに。

由多嘉が右腕を振るう――無数の火の粉が等間隔に飛び散り、火柱を上げる。
流川達と来賓達を分け隔てるように、炎の壁が出来上がった。

「……やっと来たか、『共生派』」

由多嘉は感慨深い様子で呟いた。

205 : ◆PyxLODlk6. :2015/10/27(火) 01:03:42.57 0
「もう随分と長い間……羽持ち様はこの日が来る事を待ち侘びていらしゃった。
 お前達は、共生派ではないようだが……羽持ち様は気になさらないだろう。むしろ歓迎するかもしれないな」

伏し目がちだった視線が、君達をまっすぐに捉えた。

「来賓達は一階の隠し通路から外へと誘導される。どこにあるのかは……教えてやる。
 ただし……お前達が羽持ち様の前に立つ資格があるのかを、確かめた後でだがな」

瞬間、再び『火花』が君達へと襲い掛かる。
会場は無数の丸テーブルや椅子、臨時に設置された賭博、遊戯用の設備などが配置されている。
周囲は既に混乱によって雑然としており、一時退避する場所には困らない。

だが由多嘉が君達を見失う事はない。
彼に対して脅威であれ敵意であれ、一定以上の感情を抱いている限りは。

また彼の周囲には『火の粉』が舞っていた。
火花と違い殆どその場から動かないが、紛れも無く彼の特性による産物だ。
触れれば爆ぜる。

高速で直線的に飛翔する『火花』で敵を爆撃し、『火の粉』の地雷原によって敵の接近を封じる。
それが由多嘉の定石――啄木鳥はそう語っていた。

とは言え火の粉の展開は即ち、接近戦が不得手だと敵に教えるようなもの。
敵が懐に潜り込んだ後の、文字通り地雷原の『奥の手』が無いとは思えない。
啄木鳥はそうも語っていた。

『雑魚と遊んでる時間はねえ。羽持ちの親衛隊がどうした。
 テメェらは俺の……俺と鳴上の部下だろうが。さっさと制圧しろ』

無線機から、喝堂の声が聞こえた。



【叩きのめそね】




「……あなたは相変わらず、「自分本位」ですね。
 任務を、そして彼らの安全を考えるなら、あんな事は言うべきじゃなかった」

「……うるせえよ、「ひねくれ者」が」

206 :名無しになりきれ:2015/10/27(火) 12:22:36.37 0
へったくそな文章力だな


そんな設定書いて恥ずかしくないの?

207 :名無しになりきれ:2015/10/27(火) 18:01:45.95 0
>>206お前が恥ずかしいわ無職

208 :名無しになりきれ:2015/10/27(火) 19:41:31.85 0
            人
         ノ⌒ 丿
      _/   ::(  ∞〜 プーン
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 ∩,  / ヽ、,  `ー'  ノ        
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おう ワイや

元気しとるか〜?

209 :名無しになりきれ:2015/10/27(火) 19:42:50.53 0
            人
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      _/   ::(  ∞〜 プーン
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>>205
「爆発的な火柱」か 
もっと良い表現はないんかい
20点やな

>>206
お前が糞やわ
ハゲ

>>207
おう
無職言う奴が無職なんや
分かったか

210 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/10/31(土) 22:30:48.09 0
流川の提案もあり、大鳳は流川・向路と共に闘人ブースへと足を運ぶことになった。
正面から臆することもなく、自然体で大鳳はモール内へと入っていく。
他の二人はともかく、元々大鳳家に生まれた者としてある程度の作法は幼少期より教え込まれそして染み付いている。
故に、本人の性格さえ抜きにすればこういった場所への潜入捜査はこなせるのだ。
だからこそ、闘人ブースまでの道のりは驚く程に容易だった。

>「この注射器にはとある怪人の血液が封入されています。その怪人の特性は『不老不死』(以下略

闘人ブースに入場すると、そこでは今まさに伏見の血液の説明がなされている最中だった。
それを耳にした大鳳の脳裏には、自分が失敗したという悔しさ、伏見が利用されているという怒り
そして必ず助け出すという使命感が渦巻いている。
様々な感情を胸の内に押しとどめつつ、ブースで行われるデモンストレーションを眺めていると
怪人少女の練習台とされていた闘人が、不意に少女へと飛びかかった。
助かりたい一心だったのだろうが、だがその必死の目論見は司会の男によって踏みにじられた。
男の体が火柱に包まれ、悶絶の悲鳴をあげて苦しみ悶えている。
いくら不老不死にされたからといって、精神は別だ。
そのことを理解出来なかった闘人にとっては当然の末路だが、この場合どうしようもない。

そうした一連の処理が終わったあと、司会の男――感城がこちらをまっすぐ見据えてきた。

「やはりばれていましわね……!!二人共回避を!」

元より彼の能力を聞いていた大鳳は二人にこの場から飛び退くことを伝え、自身もすぐさま攻撃に備えて横に飛んだ。

「まるでパイロキネシスですわ……!面倒な……!」

>『始まったか。客の確保、伏見の捜索、こちらでも平行して行いはするが、テメェらもサボんじゃねえぞ』

「わかっていますわ。とはいえ……」

はっきり言って今の大鳳は不動と相対することに全てを割り振っている。
それは装備も含めてのことであり、他の相手と正面切って戦うのはなるべく避けたいのだ。

211 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/10/31(土) 22:31:51.09 0
「二人共、私今回はサポートに回りますわ。好きなように指示して下さって構いませんが
 あの男と直接対峙するのは現状避けたいので……」

二人にこそこそと話かけていると、眼前の男が言葉を投げかけてくる。

>「……やっと来たか、『共生派』」
>「もう随分と長い間……羽持ち様はこの日が来る事を待ち侘びていらしゃった。
 お前達は、共生派ではないようだが……羽持ち様は気になさらないだろう。むしろ歓迎するかもしれないな」

(歓迎……?)

どこか引っかかる言葉を感じながら、対峙する感城を見据えていると、更に彼が話を続ける。

>「来賓達は一階の隠し通路から外へと誘導される。どこにあるのかは……教えてやる。
 ただし……お前達が羽持ち様の前に立つ資格があるのかを、確かめた後でだがな」

「それは有難いのですが、私としては不動がどこにいるかを教えて欲しいところですわね」

だが大鳳の言葉に対して帰ってきたのは容赦のない火花だ。
襲いかかる火花を避けるように大鳳はテーブルの影に隠れるとそのまま思案を始めると……。

>『雑魚と遊んでる時間はねえ。羽持ちの親衛隊がどうした。
 テメェらは俺の……俺と鳴上の部下だろうが。さっさと制圧しろ』

「全く、素直ではありませんわね。うちの隊長様は」

今の大鳳が真っ向から戦えないのは当然不動戦の為だ。
だからといって何もしないで二人に任せるなどもってのほか、ならばやることは一つ。

「結局のところ、私にできるのはいつだってこれくらいですわ」

【テーブルから飛び出し、一足先に感城のターゲットになる。いつもどおりの囮】

212 :名無しになりきれ:2015/11/01(日) 11:09:59.68 0
>>210

お前はそこそこクール


しかし受け身過ぎないか?






まあ頑張れや(笑)

213 :名無しになりきれ:2015/11/01(日) 21:17:40.85 0
            人
         ノ⌒ 丿
      _/   ::(  ∞〜 プーン
     /     :::::::\
     (     :::::::;;;;;;;)
     \_―― ̄ ̄::\
     ノ ̄       :::::::::)
    (   ::::::::::::::;;;;;;;;;;;;ノ
      /  -=・‐.‐=・=-i、     
     彡,  ミ(_,人_)彡ミ  
 ∩,  / ヽ、,  `ー'  ノ        
 丶ニ|    '"''''''''"´ ノ
    ∪⌒∪" ̄ ̄∪

なぁ?
お前ら何しとん?

楽しいか自分

214 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/11/07(土) 08:07:15.30 0
>「勝算は、三割あればいいくらいですわね。」
>「確かに私は不動を倒して奪還する気に違いはありませんが、…(略)…無論、私が勝てばの話ですが」

負けたばかりの相手に対して勝率が三割。けして高いとは言えないが悪くない数字だろう。
しかし、今欲しいのは勝ちだけだ。ベットされているものを総取りしなければならない。
大鳳が『不動』を倒し、任務を続ける意志があるのだとしてもそもそもの勝率が低いのでは駄目なのだ。
反論を紡ごうとして、しかし流川の方が素早く口を開いた。

>「ああもう、こんなところで始めなくたって……!」
>「じゃあこうしましょう、みんなで闘人ブース行きませんか。 …(略)…隊長の指示に従って下さい」

ここでも隊長を名乗るとは。鳴上も既に現場近くまで来ているのに勇気のある真似をする。
地下を出る際に喝堂が流川隊長と口に出したことを利用してだろうが……、大胆不敵と言わざるを得ない。

>「む……。ですが、そうですわね……。 (略)深先もそれなら大丈夫でしょう?」
>「全く、市香も段々鳴上隊らしくなってきましたわね。」

「……そうですね、流川の隊長命令なんて次に聞けるのは何時になるか分かりませんし。
 僕も異論ありませんよ、流川隊長殿」

流川を茶化しながらも向路も同意し、班の意見が固まったことで移動が再開される。
ただ、向路は大鳳の後ろを歩きながらやや複雑な思いを抱えていた。先ほどのやりとりのことだ。
向路は大鳳が無言有言問わず強行する姿勢ならばそのまま見送るつもりでいた。
それは同僚としての信頼であり、武人として尊敬しているからだ。彼女がやると言えば、それはやる時だと信じている。
しかし、予想に反し大鳳は冷静に敵との戦力差を語り、弱音とすら聞こえるものを零した。
それが悪いとか失望したなどということはない。力量差を見極めることは寧ろ必須であり、大鳳に出来ない筈がない。
ならば大鳳が自身を上回ると認める相手に対しそれでも尚一人で挑もうとしたのは、伏見への贖罪の思いがあったのか、誇り高い故か、それとも……。

「……流川、僕らで大鳳さんを勝たせよう」

隣を歩く流川へ声を潜めて呟く。大鳳へ聞こえないようにかなり小声だったので流川に聞こえたかも怪しいが、それでも良い。
この言葉は向路が自身を鼓舞する為に大鳳をダシにして且つ、それを流川と共有することで精神的な退路を断とうという意味で発せられたからだ。
片棒背負わされた流川からすればいい迷惑だろう。

215 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/11/07(土) 08:08:02.54 0
>「この注射器にはとある怪人の血液が封入されています。 (略)さながら人魚の血、と言ったところでしょうか」

ブース内の各所から感じられる醜悪さについ表情に険が乗る。と、妙に耳につく単語が聞こえてきた。
既に大鳳はそちらを注視しており、そのモノが向路の予想通りであることを補強する。
実演を伴うセールスは流麗なトークに不測の事態への対応力まで見せて『鳥籠』の商人としての才覚を感じさせるものだった。
そしてその中で、あの構成員の見せた炎……共生派から提供された情報で上級構成員とされていた怪人の持つ特性と酷似する。
そしてあの男がソレならば、既にこちらに気付いている筈だ……ッ!

>「やはりばれていましわね……!!二人共回避を!」
>「まるでパイロキネシスですわ……!面倒な……!」

「全く、有用そうで羨ましい特性です。……流川、平気か?」

向路は大鳳へ返しながら、いつの間にか肩に担いだ状態になっていた流川を下ろす。
大鳳による喚起とほぼ同時、敵の攻撃を視認すると共に隣にいた流川を担ぎ上げ、
それによる重心移動をフェイントとしながら大鳳を追従するように回避していたのだ。
超瞬発は使用していないが、それでも流川は若干三半規管に影響を受けたかもしれない。

>『始まったか。客の確保、伏見の捜索、こちらでも平行して行いはするが、テメェらもサボんじゃねえぞ』
>『それと……もし羽持ちや不動を見かけたら……無理はするなよ。「俺達がすぐに援護に駆け付けられるとも限らねえ」からな』

「……了解です、無理のない範囲で任務を続けます」

あからさまに思わせぶりな喝堂の指示に思わず口角が上がる。
うちの隊長は少々部下を信用し過ぎではないか?と思ってしまうが……ならば、やり遂げてみせるのが甲斐性というものなのだろう。

>「お客様、どうか慌てず。奴らはこの私が成敗致します。皆様は警備の誘導に従って、速やかな退避にご協力下さい」

「なんだ、お客樣方は避難させるのか。てっきり僕らを倒すのもショーとして見せるのかと思ったよ」

得ている情報によればあの男──、感城は鳴上雷花のように特異体質を生かしたミドルレンジでの戦闘を主にするタイプの怪人だ。
広範囲をカバーする高い殲滅力と周囲の生体の情報を得ることの出来る攻守に優れた体質とそれを生かすリソースは脅威の一言。
だが……、向路にとって重要なのはそいつが殴ったら死ぬのかどうかであり、その点で感城は問題ない。

>「二人共、私今回はサポートに回りますわ。(略)あの男と直接対峙するのは現状避けたいので……」

「分かりました。……じゃあ、派手めに陽動をお願いします。
 流川、僕も隙が有れば殴りに行くけど〆は頼んだ」

大鳳は伏見の血を確認したことで既に意識をそちらへ持って行かれている。
サポートを買って出たのも、全力を『不動』へぶつけるための温存なのだろう。
攻撃参加の意志が無くとも、大鳳がいるだけで敵は警戒せざるを得ない。
感情をサーチして戦略を立てるであろう相手に対して今の大鳳がどう働くかは分からない。
しかし、敵が大鳳を無視するなら、彼女がその隙を見逃すようなことも無いだろう。

216 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/11/07(土) 08:09:00.71 0
>「……やっと来たか、『共生派』」
>「来賓達は一階の隠し通路から外へと誘導される。(略)ただし……お前達が羽持ち様の前に立つ資格があるのかを、確かめた後でだがな」
>「それは有難いのですが、私としては不動がどこにいるかを教えて欲しいところですわね」

「じゃあ君は生かしておかないといけないのか。
 ……少し面倒だな」

大鳳より一足先に前線をキープ、飛び交う火花の中を細かなステップで掻い潜りながら火花の速度や半径を確認する。
これだけの広さがある場所ならば、超瞬発も使い甲斐があるというものだ。

>『雑魚と遊んでる時間はねえ。(略)さっさと制圧しろ』
>「全く、素直ではありませんわね。うちの隊長様は」

「……ええ、本当に」

>「結局のところ、私にできるのはいつだってこれくらいですわ」

一定の距離を保ちながら様子を見ていた向路に対し、大鳳は一直線に感城へと突っ込んでいく。
と、感城の対応が予想よりも遅い。どうやら大鳳が感城以上に『不動』を意識しているために、レーダーが上手く機能していないと見える。
ならば、

「ッふ……!」

瞬間、向路の姿が一瞬掻き消え……、そして2人になって現れる。
雨場のように分裂体を生み出した訳では勿論無い。完全な力業……高速移動による残像だ。
超瞬発による左右移動をしながら前進しているだけ、と文章にしてしまえばなんのことはない。
だがこれは向路の体質、《収斂》によって筋肉の収縮を強制的にコントロールしている故の荒技であり、ただの目眩ましや大道芸では終わらない。
特に感情の動きという《第三の目》を持感城にしてみれば、鬱陶しいノイズとして機能するだろう。
ステルスと化した大鳳とチャフじみた動きをする向路によって瞬間的にでも感城の思考は大きく揺さぶられたはずだ。
肉体強化に特出した2人は火花の中から確実に道を見つけ出しながら進んでおり、すぐさまに感城へその牙を立てるだろう。
そして、この感情レーダーが十全に機能しない中でならば感城も他の感覚器官を頼らざるを得ない。
例えば嗅覚、聴覚、そして視覚。

【不動強くて怖いので周り巻き込んでモチベ上げ
 感城を揺さぶりつつ隙を伺う感じで】

217 :名無しになりきれ:2015/11/07(土) 17:17:25.58 0
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おう
ワイや
おもろいんか?


>>214 向路深先 ◆qwXY9mi/bQ
「……そうですね、流川の隊長命令なんて次に聞けるのは何時になるか分かりませんし。
 僕も異論ありませんよ、流川隊長殿」


ここ突っ込むで

分かりませんし。で
次の行で 僕も異論ありませんよ、流川隊長殿」 か

「。」付けんで 次の行の「、」を省けんかな?
ん?
文章として汚いでしかし


>>215
「分かりました。……じゃあ、派手めに陽動をお願いします。
 流川、僕も隙が有れば殴りに行くけど〆は頼んだ」

ここなんかもそうやな
自分の文章の汚さを反省しよか

218 :名無しになりきれ:2015/11/09(月) 20:57:04.83 0
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おう
ちょっとええか
お前…





ヘタクソ(笑)

219 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/11/12(木) 00:32:37.15 0
>「む……。ですが、そうですわね……。確かにここで話しているよりはその方がいいですわね。
 深先もそれなら大丈夫でしょう?」

ふたりの間に割って入った市香の提案に、大鳳はひとまずの納得を見せた。
向路も同様に矛を納めてくれる。これで人目を引くことは(これ以上)なくなった。
ありがとうございます、と会釈する市香に大鳳はいたずらっぽく微笑。

>「全く、市香も段々鳴上隊らしくなってきましたわね。」

「ははっ冗談はやめてください。……マジで本当に後生ですから」

自覚がないだけにショックだ……。
いくつも鉄火場をくぐり抜けるうちに知らず知らずと鳴上菌に羅患してしまったと言うのか。
作戦前の伏見のゴスロリがフラッシュバックし、自分もいずれあんな風になってしまうのかと寒くもないのに身震いが来る。

>「……そうですね、流川の隊長命令なんて次に聞けるのは何時になるか分かりませんし。
  僕も異論ありませんよ、流川隊長殿」

「あっれ?もしかしてわたしいま、外堀埋まっちゃってます……?」

加えて向路がノリノリで茶化すのがレバー痛打のように効いてきて市香は早くもグロッキーだ。
それにしてもこの先輩二人、いやなコンビネーションブローもあったものである。
流川隊の開幕早々空中分解だけはなんとか防ぎきった人心地をつきつつ、一行は闘人ブースへと向かった。
先頭にタフな大鳳を置き(≒肉壁)、向路と市香が並んでその後ろをついていく。
この会場でいきなりドンパチ始めるものとは思いたくないが、万が一への備えに過剰の二文字はない。

それにしても、一触即発は避けられたにしても、今日の先輩たちはどこか危なっかしい。
大鳳も――そして向路もだ。
向路がこんな敵地の最奥で大鳳と対立することを選ぶとは思わなかった。
市香の知る彼は、もっとこう慎重で、あんまりグイグイ行かないタイプの実働官だった。
もちろん現場として必要な決断は出来るし、パーティのストッパーとして必要な役割でもある。
だからこそ、市香は向路の人間性をそのように理解していた。

だが、何かが変わった。
それが校舎屋上での新免との一件がもたらした変化なのか、
あるいはもっと前から醸造されてきたものが何かの拍子に発露したものなのかはわからない。
しかし、それでも。

>「……流川、僕らで大鳳さんを勝たせよう」

こちらを見ずにそう言った向路の言葉は、市香の腑にストンと落ちた。
なにかは確かに変わったが、変わらない部分もある。
それは向路が、大鳳を仲間として大切に想っていること。
だから彼女を死なせないために、出来ることを最大限にやっているということだ。
少しびっくりして、それからなんだか嬉しくなって、市香は強い笑みをつくった。

「――はい」

先輩と後輩には、この一言で十分だ。

220 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/11/12(木) 00:35:21.25 0
モール二階の闘人ブースでは、今まさにデモンストレーションの真っ最中だった。
司会進行の金髪男――事前情報では感城という名の鳥籠幹部――がアンプルを掲げて解説している。
満たされた赤い液体は、血液に見えた。

>「皆様、ここで一つ、今回から新しくご用意させて頂きました催しが御座います」

不老不死の霊薬。伏見の血だ。
感城はそれを利用して闘人達に不死を貸し与え、肉体を破壊してその効果を実演する。
観客の訝しげなざわめきが、いつしか実在した夢見事への興奮で満ち溢れていく。
市香はその様子を、極力顔に出ないよう配慮しつつも舌打ち混じりに眺めていた。

伏見の血は、あんな三下の手品もどきに浪費されて良いものではない。
使いどころさえちゃんとすれば巨額の富と地位だって得られる代物だ。
例えば医療の現場に使えば、手術中の生命維持が不要になりミスに対するリカバリーが効く。
通常では困難な、例えば心臓を完全に停めないとできない術式にも軽いリスクでトライできる。
然るべき許可と適切なプロモーションさえできればそれは明日からだって可能な活用法だ。
動く金だって、こんな闇社会の場末の場末で使われる端金じゃ済まないだろう。

目の前で続行される重篤な機会損失に、市香のイライラは高まっていく。
いや、もう御託を並べてカッコつけるのはやめよう。
怒り、悔しさ、焦燥、それらに市香の心が埋め尽くされる理由はそれだけでは断じてない。
単純に、気に入らないのだ。

ひとの先輩を、オモチャにしやがって――!

何度も言うが、市香は極力その怒りを顔に出さずに見物していた。
激情にかられて飛び出して死にかけた同僚をつい昨日見たばかりだ。
だから感城を眺めるその視線に険はなかったはずである。
金髪の美貌がこちらを見た。
目が合った。

「――ッ!?」

>「やはりばれていましわね……!!二人共回避を!」

何事かと思考したときには既に、感城の金髪から液状の火花が撃ち放たれていた。
その威力、足元に転がる消し炭の闘人が実証済み。
波濤めいた炎の一閃が市香達へ殺到する!!

大鳳の注意喚起にも反応できていなかった市香は、どうすることもできずに立ちすくんだ。
なにかが腹の下から市香を掬い上げ、ぐわりと景色が動いた。
追って襲い来る慣性に全身の血液が振り回される。
つい先程まで市香のいた床が、爆裂する炎によって洗われていた。

>「まるでパイロキネシスですわ……!面倒な……!」
>「全く、有用そうで羨ましい特性です。……流川、平気か?」

腹の下から向路の声がする。
どうやら彼が肩に担いで退避してくれたようだ。

「立食しに行く前でよかったです……助かりました向路さん」

221 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/11/12(木) 00:36:06.02 0
もし胃に食物が入っていたら先輩の頭をゲロまみれにするところだった。
下におろしてもらいつつ、もう一度感城の情報を脳内で確認する。
感城由多嘉。体質:情熱。自他の感情に呼応して爆発物を生成する怪人だ。
その為副次的に感情察知の能力も有しており、敵意を彼に向けると気付かれる。

(いや敵意向けるなって無理でしょ社会見学ですかこれ……!)

>『始まったか。客の確保、伏見の捜索、こちらでも平行して行いはするが、テメェらもサボんじゃねえぞ』
>『それと……もし羽持ちや不動を見かけたら……無理はするなよ。この数だ。
 「俺達がすぐに援護に駆け付けられるとも限らねえ」からな』

「はあっ?いまどこにいるんですか喝堂隊ちょ――」

視界の外でゴオっと火柱が上がった。
市香達と観客たちとを隔てるように炎の壁が形成された。
これで感城と対峙せずに顧客だけさらっていくことはできなくなった。

>「二人共、私今回はサポートに回りますわ。好きなように指示して下さって構いませんが
 あの男と直接対峙するのは現状避けたいので……」
>「分かりました。……じゃあ、派手めに陽動をお願いします。流川、僕も隙が有れば殴りに行くけど〆は頼んだ」

「流川了解です。短期決戦で行きましょう」

言いながら市香は鉄パイプを抜き放って右手で構える。
大鳳の戦力は不動戦まで温存しておきたい。彼女を勝たせる、向路とそう約束したのだ。
感城は必ず倒すべき相手だが、ここで時間をとられるわけにはいかない。

>「……やっと来たか、『共生派』」

感城が深い渋みのある声でそう零す。
距離が離れているのに、えらくはっきりとその声は聞こえた。

>「もう随分と長い間……羽持ち様はこの日が来る事を待ち侘びていらしゃった。
 お前達は、共生派ではないようだが……羽持ち様は気になさらないだろう。むしろ歓迎するかもしれないな」

「だったらもうちょっとおもてなしムードで出迎えてもらえませんかね……」

>「来賓達は一階の隠し通路から外へと誘導される。どこにあるのかは……教えてやる。
 ただし……お前達が羽持ち様の前に立つ資格があるのかを、確かめた後でだがな」
>「じゃあ君は生かしておかないといけないのか。……少し面倒だな」

大鳳が動くのと同時、傍にいた向路の姿がふっと消えた。
超瞬発で大鳳の前方に出現した彼は、打ち込まれる火花を紙一重で避けながら間合いを形成していく。
ときおり思い出したようにこちらにも火花が飛んできて、市香は悲鳴を上げながら倒れたテーブル脇に飛び込んだ。

222 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/11/12(木) 00:36:37.06 0
>『雑魚と遊んでる時間はねえ。羽持ちの親衛隊がどうした。
 テメェらは俺の……俺と鳴上の部下だろうが。さっさと制圧しろ』

無線機から喝堂の揺らがない声が届く。
こういうとき、あの人格破綻者は本当にズルいと思う。

>「全く、素直ではありませんわね。うちの隊長様は」
>「……ええ、本当に」

上官にここまで言わせて、奮い立たない部下などいない。
それは市香も同じだった。

「とっとと片付けてあのグラサンの鼻を明かしてやりましょう。もちろんうちの隊長にも」

市香は液状化を開始、爆撃の合間を縫って倒れた家具類の影へ影へと移動していく。
前衛二人がヘイトを稼いでくれてるおかげでこっちに飛んで来る火花の数がかなり減った。
焦げた椅子の脇から、万能細胞でつくった目で前線の様子を確認する。

>「ッふ……!」

向路が二人に分裂して火花を避けまくっていた。

(分身……!)

超瞬発と緩急をつけたステップにより、残像が彼を二人に見せているのだ。
蜃気楼や幻影とは違い、その場に向路は確かに『存在している』。
思念察知の能力を持つ感城とて、いずれかを偽物と看破することは不可能だ。
どっちも本物なのだから。

そして向路への攻撃が集中する中、大鳳は逆に不自然なほど狙われていない。
向路と同じくらい前線に出ていて、しかもあんな目立つ格好をしているにも関わらずだ。

(不動さんのことで頭いっぱいだから感情の矢印が出てないとか……?)

理屈はイマイチわからないが、それで足元が掬えるならば有効活用すべきだ。
だが敵もさる者、簡単には肉迫できない事情がある。
舞う粉雪の如く振りまかれたのは、鮮やかに輝く火の粉。
無数のそれは感城の周囲を取り囲むように展開され、重力に引かれることなく滞空し続けている。
試しに小ぶりな瓦礫を投げつけてみれば、案の定爆発した。

「近づけなくないですか……!?」

精密爆撃可能な『火花』と、迎撃の地雷原『火の粉』。
強力な火力と難攻の防御力を備えた、感城はまさに不落城塞!
接近戦メインの二人には相性の悪い相手だ。

『大鳳さん、距離詰めつつで良いのでなんか適当に投擲武器探しておいて下さい』

無線にウィスパーしながら市香は向路の左手から回りこむようにして遮蔽物伝いに移動する。
この厄介きわまる火の粉だが、仮にそれを乗り越えたとしてもおいそれと懐に潜り込めるわけではない。
それ自体が相手を誘い込む罠の可能性があるからだ。
だからこそ向路は感城を翻弄しながらも攻め切れてはいない。
相手は羽持ちが信を置く程の実力者、十重二十重の隠し芸はあると考えて然るべきだ。

223 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/11/12(木) 00:37:05.19 0
『あの火の粉はわたしがどうにかします』

市香は二本のペットボトルを取り出し、蓋を開けて感城へと投げつけた。
水をぶち撒けながら放物線を描いたボトルは火の粉にぶつかって爆発炎上する。
火の粉の壁に少しだけ穴が空いたが、まわりの火の粉が埋めるように移動してすぐに塞がってしまった。

「この程度の水じゃ全然堪えないって感じですね……!」

やけくそのように言うが、これはもちろんブラフだ。
遮蔽物の脇に隠れたまま、肉体の半分を液状化して足元に肉の水たまりを作る。
無色のそれを肉体変化で操作し、火の粉の下をくぐるようにして肉溜まりを広げていく。
さっきぶち撒けた水はこの工作をごまかすための布石だ。

――感城の情熱体質について、市香は考察する。
他者の感情を察知することができるらしいが、それはどうやって知覚しているのだろう。
相手が怒っているのか笑っているのか、そんなものは市香にだってわかる。
それは表情であったり、身振り手振りであったり、もっと直截に怒声や笑声があるからだ。
だが感城は対面してもいない市香たちの、ポーカーフェイスを見破ってみせた。
何か別のやり方があるのだ。感城にしかできないやり方が、
それが分かれば、あとはごまかし方を考えるだけだ。

今回市香は身体の半分だけを液状化し、もう半分は遮蔽物の影に残した。
脳や心臓――感情を司る部分はこの残った方にある。
感城の足元に拡がる液体には感情がなく、故に彼はそれに気付けないはずだ。

『3カウント。3、2――』

瞬間、感城と向路の足元で真っ白な水蒸気が吹き上がった。
市香が展開していた水たまりを一気に気化させたのだ。
爆発的な気圧の膨張により生まれた暴風が、火の粉を上へと吹き上げる。
滞空しているということはあの火の粉はかなり軽い。
そして誘爆を防ぐ為には風圧で爆発はしないようになっているはず。
起爆させずに火の粉だけを上空へ吹き飛ばすことができるはずである。

『今です!』

そして真っ白な水蒸気は感城に対するブラインドも兼ねる。
感情察知可能な感城には本来効果が薄いものだが、向路の撹乱が効いていれば惑わされるだろう。
やるなら感城が火の粉から奥の手に切り替える前に。
火の粉を無力化すると同時に攻撃を叩きこまねばならない。


【モンロー効果(マリリンの方)。火の粉地雷原を上へ吹き飛ばす】

224 :名無しになりきれ:2015/11/12(木) 07:57:19.92 0
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あのなあ

3カウント、3、2て

それカウントの意味あるんか

緊張感出したいならそれ相応の文章描け


ボケ

225 :名無しになりきれ:2015/11/12(木) 08:20:10.17 0
もっと突っ込みどころあんだろ糞猫

226 : ◆PyxLODlk6. :2015/11/14(土) 21:48:09.82 0
(やりにくい……)

と、感城は感じていた。
何故か――原因は視覚と第六感の不一致だ。
赤いドレスの女は幾度となく視界の中央にまで飛び込んでくる。
にも関わらず「感情の感覚器」は彼女を捉えられない。まるで背景のように見えてしまう。

青いレザージャケットの男はその真逆。
常に視界に留まらず、素早く翻弄する動きを取っている。
だが第六感は彼の感情が帯のように、己の周囲を取り囲んでいるかのように認識している。
その為僅かな光の陰影すら、彼の動作の残滓のように見えてくる。

焦燥が、芽生える。

「なるほど……ただの獣ではないらしいな。だが、賢しいだけでは常人と変わらん。
 羽持ち様の前に立つのは……強い、怪人でなければならない」

無論、感城は羽持ちの親衛隊――鳥籠の中でも精鋭中の精鋭だ。
怪人特性が知られていて、対策を講じられたくらいで、怯む男ではない。

「……不動」

手短な呟きは、戦術の一つであり、単純な会話の切り口でもあった。
前者は即ち、敵の興味を引く――感情を誘発させるという事だ。

「あの男の居場所が知りたい……つまりお前達はあの殺人鬼の知己という訳か。
 構わない。望むならそれも教えよう。私としても……あの男の女性の扱いは見ていて不快だった」

この言葉によって大鳳の感情を引き寄せられるかは分からない。
だがこれは所詮成功すれば僥倖程度の小細工だ。
不動の粗野な振る舞いが不快だった事も、大鳳に対する約束も、決して嘘ではない。

と、不意に感城の視界の外から蒸発音と爆発音が聞こえた。

>「この程度の水じゃ全然堪えないって感じですね……!」

最初の攻撃を回避して以来ずっと身を隠している三人目が、何かを仕掛けてきたらしい。
失敗を装っているが――彼に嘘は通じない。
流川が自分を騙すつもりだという事が、感城には分かっていた。

(……策を講じたか。どうするつもりだ)

だが――そこまでだ。
どう騙すつもりなのかまでは彼には分からない。

(「そんな遠くに離れたまま」、害意も抱かず……何をするつもりだ?)

そして――彼女の液化した肉体が己の足元に接近しつつある事に、彼は気づいていない。

感城由多嘉の感情察知は、鳴上雷花のそれと殆ど同質だった。
つまり一部の魚類のように電流を感知出来る第六感を有しているのだ。
鳴上雷花は電流感知の応用として生体電流を読み取り、感情を察知出来る。
が、感城由多嘉はその逆、感情に関するものに限り、生体電流を読み取れる。

ともあれ、故に彼は臓器の位置を欺瞞した流川の位置を読み違えていた。

直後に蒸発音。
感城の周囲から夥しい蒸気が立ち昇り、火の粉の防衛網を天井にまで吹き上げる。

流川の予測通り、風圧による誘爆は起こらなかった。

227 : ◆PyxLODlk6. :2015/11/14(土) 21:49:41.00 0
感城は完全に不意を突かれていた。
彼の『火の粉』は、局所的に掻い潜り攻撃を仕掛ける事は不可能ではない。
例えばフルスターリのような肉体変化に特化した怪人ならば、
棘弾を用いて火の粉を高速で破壊する事も、触手で隙間を縫うように攻撃する事も出来る。

流川もそのような手を取ってくると踏んでいたのだ。
まさか火の粉の防衛網を完全に機能不全化させるなど。
そんな強欲な戦術は想像もしていなかった。

感城は隙だらけだった。
彼と、向路や大鳳の間を阻むものは何もない。

燻っていた焦燥が、爆ぜた。
焦燥だけではない。

してやられたという驚愕。
打撃を受ければ間違いなく敗北は避けられないという恐れ。
だが何よりも――自分にはまだ奥の手があるという自信。

あらゆる「感情」が溢れ返る。

流川達はどうだろうか。
勝ったという確信と歓喜、安堵を感じてはいないだろうか。
奥の手を出される前に倒さなければという焦燥。
こんな呆気無く勝負が終わる訳がないという警戒心。
少なくとも何かを感じているだろう。

そして――感城由多嘉は汗を掻いた。
恐怖や緊張によるものではない、汗だった。

それこそが彼の真骨頂。
自分が負けるかもしれないという状況下。
その時に自分が、敵対者が抱く濃密な感城群。

それを感知した時、彼は全身から汗を掻くのだ。
外気に触れた瞬間、周囲の敵意、害意への指向性を帯びた、激的な爆発を起こす汗を。

即ち――自動発動の迎撃砲。

大抵の敵対者は、それに撃ち落とされて死に至る。
仮に敵が生き残ったとしても、勝負は仕切り直し。
加えて相手はその奥の手に対する恐怖や、警戒などの感情を抱かざるを得ない。

感城を羽持ちの親衛隊たらしめる必生、必殺、必勝の奥の手だ。

君達が反応し切れず、勝負を仕切り直され、苦戦しても何もおかしな事はない。
決して恥ずべき事でもないし、責められるような謂れもない。

だがこの程度で手間取るのであれば、『不動』に勝つなど夢のまた夢である事は間違いないだろう。
そうなれば彼との戦闘が激化する前に、喝堂達に「駆け付けられてしまっても」文句は言えない。



【見せつけようね
 ここで勝てなくても問題ないけど、勝てないと後々不都合が生じるかもね】

228 :名無しになりきれ:2015/11/15(日) 01:28:51.66 0
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あのなあ

まず動かし方が破綻してんねん
アホか

あとキャラ付けな
その喋りじゃ確実に池沼や


見せつけましょうて
頭おかしいんかわれ
勝てないと何が都合悪いねん

229 :名無しになりきれ:2015/11/15(日) 19:30:14.19 0
最近のキャラハンって日本語不自由だよな
レベルが下がった証拠

230 :名無しになりきれ:2015/11/16(月) 20:22:35.84 0
     人
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>>229
せやな

レベルも下がったしやる気が感じられへん

指揮執ってるのがアレやったらついてくる奴もアレやろな
頭腐っとる 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)


231 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/11/18(水) 06:52:10.73 0
思いの外大鳳の行動は効果を発揮したのか、それとも向路とのコンビネーションのおかげか……いずれにせよ感城は攻めあぐねている。
さりとて彼女は自分から攻めようとはしない、本来なら早急に感城を倒すべきだろう。
長引けば長引くほど本命が逃走する可能性がある今、そうするのが一番のはずだ。
だが、こと不動に関して大鳳の中には奇妙な信頼感のようなものが芽生えていた。
彼は騒動が起こった程度で引っ込むような男ではない。
むしろこの状況を、襲撃されてるという事実を知れば歓喜に震える迫り来る敵を、
自分を本気にさせるような仇敵を今か今かと待ち構えている。
そんな確信が大鳳の脳裏には浮かび上がっていた。

……もっとも、これはあくまでの不動個人であり、伏見を奪還した後の任務を完遂するという意味では悪手なのだが。

>「……不動」

感城を牽制し続けている大鳳に対して、彼女が今一番気になるワードを呟く。

>「あの男の居場所が知りたい……つまりお前達はあの殺人鬼の知己という訳か。
 構わない。望むならそれも教えよう。私としても……あの男の女性の扱いは見ていて不快だった」

「それは是非とも教えていただかないといけませんわねッッ!!」

感城の戦術は、今の大鳳にとって驚く程効果的だっただろう。
この瞬間、彼女の感情は間違いなく感城へと向けられた。
このままいけば、大鳳を崩す切っ掛けになったのは明白だ。
だが、実際のところそうはいかない。

大鳳へと仕掛ける直前に、突如として爆音が響く。
一瞬かもしれない、だがそんな音が自身のテリトリーで発生すればそちらに意識が向けられるのは道理だ。
流川の仕掛けが、結果的に感城が大鳳へと仕掛けるタイミングを狂わせたのだ。

(市香が何かやろうとするみたいですわね……)

大鳳は何かを察した。流川が何をしようとしているかまではわからない。
だが、あの流川が、狡猾な策士がただいたずらに爆発を起こしただけで終わるようなことはない。
何か盛大にぶちかます、大鳳はその時を待っていた。

232 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/11/18(水) 06:53:11.37 0
そして、流川の策は実った。
蒸気音と共に、感城の周囲に蒸気が吹き上がると同時に、鉄壁とさえ思われた火の粉の壁を吹き飛ばした。
故に今の感城を守るものは一見すれば何もない。
だが、相手は親衛隊。近距離迎撃手段、即ち奥の手を用意していないほど無能ではないだろう。
むしろ用意しているからこそ、親衛隊の地位まで上り詰めることができた、そう言っても過言ではない。

感城の奥の手が、火の粉を突破され近づかれた時に真価を発揮するものであるというならば
……簡単だ。近寄らなければいい、ここで焦って突貫する必要はないのだ。
何より自分の役目はあくまで囮、本命を隠す為に注意を引く役目だ。
そしてそんな行為はいくらでも用意してできる。

「行きますわよッッ!!!」

大鳳は近場にあった賭博台に手をかける。来賓をもてなす為にもこういったものは質が良い。
どんなところでもこういうのもには手は抜かない。否、抜けないのだ。
ちょっと体を預けたくらいで動きそうな安物は使わない。だからこそ使える。
重量感あふれ、横に倒せば三人は隠れられそうなその賭博台を大鳳は持ち上げ、そして全力で感城へと投げつける。
あまりにも単純、だからこそ強い。肉体強化特化の大鳳だからこそ成せる、大質量の投擲。
剛速で放たれるそれは一度命中すれば瀕死は免れない一撃。
こんなものを目にすれば動揺するのは間違いない。
いくら感情を読み取れて周囲を把握することができようとも、
そんな大質量が飛んできたら視界は塞がれる上に意識をそれに奪われる。
だから隙が生まれる。

(まだまだ終わりませんわよ……!!更に一手ッッ!)

大鳳は止まらない。投げた反動を利用し、一瞬自分の姿が相手から消えたことをいいことに
脚力を強化、地面と水平に跳躍しながら、コートで隠れた背中へと手を伸ばし、ソレを握り締める。
そして脚力に回したリソースを目と、それを握った方の腕、手首へと回し、感情の胴体目掛けそれを投げる。
それは不動対策に用意した武装の一つだ。もっとも、仰々しく対策などと言ったが、それはただの投擲用ナイフだ。
ナイフはおおよそ賭博台が迎撃された数瞬後に当たるように計算して感城へと向かっている。

巨大質量の投擲による目隠しと陽動に加え、それが対応されるであろうと読んだ上での二段構え。
相手を迎撃・対処した直後に一瞬気が緩むのは誰でも同じだ。だからこそそこを狙い、動揺させる。
無論どちらかを受け相手が戦闘不能、ないし降参に追い込めればそれがベストだが、
大鳳は高望みはしない、なにせ自分は囮なのだから。


【強引な大質量投擲とナイフでの攻撃の二段構えの陽動、後の二人に託す】

233 :名無しになりきれ:2015/11/18(水) 23:53:38.96 0
 人 
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これよく言われとることだから
突っ込んどくな


ですわよ
ですわ

これ使えば女キャラだと思うとるやつ
甘い

客観的に見てな
オカマに見えるんやで

ま、性経験不足丸出しやね

234 :名無しになりきれ:2015/11/18(水) 23:55:35.22 0
>>232
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あとな

二段構え

これいちいち二回も言うことか?


よく文章練り直そか

235 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/11/22(日) 17:43:11.09 0
>「なるほど……ただの獣ではないらしいな。 (略)羽持ち様の前に立つのは……強い、怪人でなければならない」

「「……気位の高いことで」」

降り掛かる火花を縫うようにして接近しながらも、あと一歩まで詰められない。
多段ステップの甲斐あってか火花は狙いが散漫であり、回避はそれほど難しくはなかった。
それでも攻め切れないのは、感城の周囲を囲む機雷じみた火の粉と、奥の手の存在だ。
火花と異なりオートで起動する火の粉の群れはこちらの揺動にかからず、奥の手は言わずもがな。
この一戦はあくまで前座、《不動》《羽根持ち》とのエンゲージを前に無謀な攻めは行えない。
向路は待ちを続けられる怪人特性ではないのに攻め切るには一手足りず、思わず歯嚙みする。

>「……不動」
>「あの男の居場所が知りたい……(略)私としても……あの男の女性の扱いは見ていて不快だった」

不意に、感城が口を開いた。
恐らく感城を意識していない大鳳に特性が機能しないのが焦れたのだろう。
大鳳が口にした《不動》の名を用いるのは非常に単純。だが、

>「それは是非とも教えていただかないといけませんわねッッ!!」
>『あの火の粉はわたしがどうにかします』

効果は絶大。
見事なまでに大鳳の感情を向けることに成功しただろう。
感城は大鳳を捉えている。それは確実で、大鳳へ向かっていた攻撃の精度は見違えるようだ。
だが、その間にも流川が策を為していく。
それが完遂されるまでの僅かな時間では、大鳳に土を付けられない。

>『3カウント。3、2――』

「ふー……とッ」

>『今です!』

流川の合図に合わせ向路も動く。
カウント3、2でステップを通常のものに切り替えながらルート取りを行い、0のタイミングで1歩目が踏み出せる形を作っていた。
向路の眼前でまるで手品のように突如として感城を覆う白い蒸気が、彼を守る攻防一体の壁を舞い上げる。
整えたステップで2歩目を踏み込み、3歩目で跳躍。感城が状況に対応するより早く、超瞬発で接近することで叩き潰すつもりだ。

236 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/11/22(日) 17:43:58.14 0
「 !! ────ッバがァ !? 」

次の瞬間、向路は背後方向へと吹っ飛んでいた。
何故、と思う。向路が突っ込んでいったのは蒸気のベールが現れてから1秒にも満たない瞬間でのこと。
肉体強化──その中でも瞬間的な戦闘に特化した向路を上回ることが出来る反応速度を感城が持っているとは思えない。
喝堂伝威のように、脊髄反射レベルの反応だとでも…………!

「そういう…………つ、痛ってぇ」

盛大に数m吹っ飛んだ辺りで無理矢理体を捻り、床を擦りながらも着地する。
距離を開けられ、体中に言いようのない鈍痛があるが骨を折られてはいないようだ。
飛ばされる瞬間、咄嗟に床を蹴り付け超瞬発の勢いを軽減していたおかげか。
その反応は脊髄反射の賜物であり、そして恐らく感城のこの攻撃も同じく脊髄反射によってもたらされたモノ……!
脊髄反射の速度で行われる不可視の攻撃。はたして全ては分からないが、こう考えなければ説明が出来ない。

>「行きますわよッッ!!!」

向路が吹っ飛ばされ、そこから復帰する間に先んじて大鳳の攻撃が行われた。
大質量の投擲による圧倒的な破壊力。対して感城はそれを即座に迎撃。
しかし、大鳳の膂力を持っていて投擲されたソレはそう簡単には止まらない。
体勢を持ち直した向路もそれに続かんとする。

「便利過ぎだよ……君の特性」

だが、ソレ故に穴がある筈だ。
脊髄反射による迎撃は最速のカウンターであり、無敵のように思える。
だが、脊髄反射はコントロールが出来ない。如何にそれが早くとも、必ず最適解が与えられる訳ではないのだ。
……故に全ての行動を脊髄反射の速度で行うことの出来る喝堂は強いのだが。予知じみた察知能力もあってインチキかと思う程の対応力には溜め息しか出ない。
と、閑話休題。感情探知と合わせて使われているだろう感城のコレは、先程までの火花以上に単調になる筈。
多重ステップの錯乱の際に感情探知の精度はある程度読めているが、しかし反応速度が段違いに早い筈で単調だろうと気は抜けない。

237 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/11/22(日) 17:44:24.96 0
────だからこそ、奥の手を1つ使う。
少し話の道筋を逸れるが、向路の超瞬発は通常連発出来ない。
多重ステップの分身も、片足跳躍の安定性向上を目指す中で失敗から生まれた偶然の産物である。結局未だに真っ直ぐ走りながらに超瞬発を使うことは出来ないままだ。
さらに脳が速度に追従出来ない為に、着地の瞬間から踏み込み、跳躍までのみが認識可能域であり、それ以外は向路自身も影しか記憶に残らない。
なので予め決めていた動きを経験の反芻と予測、つまり無意識下で状況への反射で対応していたのだが……相手も反射の速度であるなら、後手の対応では間に合わない。
そこで体質、《収斂》をフルに使い全身の筋肉を強制的にコントロール。
更に脳機能を収斂で一点に集約し、強制的に脳の処理速度を跳ね上げるのだ。
これによって平時に近い判断を超瞬発の最中でも行うことが出来、動きの無駄を極力減らしながら通常以上の連続跳躍を行うことが出来る。
今のところ最高30秒近くまで使用したことがあるが、脳機能の収斂を用いる為にデメリットも大きい。
今回は3秒だ、3秒で詰みまで持っていくつもりでいく。
息を短く吐き、向路は思考を加速させる。爆風の影響の少ない距離から一気に危険域だと思われるところまで跳躍した。
そして着地する瞬間に収斂で十分に縮めた筋肉を解放し右前方へ、爆風が横を過ぎる。
次いで着地、大きくしゃがみ込み床を舐めるように低く跳び、更にその姿勢から左腕で床を突いて体を捻り回しながらバウンドするように方向転換。
爆風が向路のいた地点を叩き、向路はそれから逃げるように感城へ迫る。しかし感城へ近づく程に爆撃は正確さを増し、威力が速さが増す。

床を踏み砕いた瞬間から向路の姿は掻き消えた。感城を含め、誰もが認識出来ないままに2秒が過ぎる。
不可視で迫る神速の爆撃と、不可視と化したベーコンアスパラ。
その攻防の結末は後1秒で衆目の元に明かされるだろう。

【ヤリ過ぎだったり書きにくかったりしたらご指導お願いします】

238 :名無しになりきれ:2015/11/22(日) 22:18:04.27 0
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さっそくご指導な


多重ステップ



説明がくどいな 👀
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239 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/11/27(金) 08:16:33.00 0
カウントゼロの瞬間、果たして市香の策は結実した。
感城の足元から吹き上げた気体の流川市香が、滞空する火の粉を天井目掛けて打ち飛ばす。
そのうちいくつかが天井に当たって爆ぜ、瓦礫と化した建材の雨が降る中。
無防備の感城の懐へ飛び込んでいく向路の後ろ姿が、煌々と輝いた。

>「 !! ────ッバがァ !? 」

次いで轟く轟音、吹っ飛ぶ向路。すなわちそれは爆発だった。
確かに火の粉は除去したはず、火花では向路の速度に届かない、となれば導き出される答えは一つ。
奥の手。感城の持つ最後の砦が、火の粉を捲られた瞬間コンマひとつの遅延もなく発動したのだ。
その事実には驚愕が付帯する。つまり感城は特性の発動を、

「向路さんの攻撃速度に間に合わせた……!?」

言わずもがな超瞬発は目にも留まらぬ速度での攻撃を可能とする特性。
感城は奥の手の近接爆裂を、向路に匹敵する速度で行使してのけたのだ。
その反応速度、脊髄反射の域。
伊達に羽持ちの側近はやっていない、ということか。

>「行きますわよッッ!!!」

ふっ飛ばされて後退する向路のカバーに大鳳が入る。
お互い目も合わせぬ恐るべき連携速度。叩きこまれたのは賭博台(!)だ。
黒檀製のよく磨かれた巨大なポーカーテーブル。
ぎょっとして大鳳の方を見ると、彼女の足元には台の四隅を固定していたと思しきボルトだけが痕跡として残っていた。
あの500kgはあろうかという机を、あろうことか彼女は引っこ抜いて投げつけたのだ。

「に、人間カタパルト…」

高速で飛来する巨大質量、直撃すればその衝撃は大型自動二輪による激突に等しい。
以前たかゆきから昔バイクで撥ねられた話を聞いていた市香にはその威力がありありと想像できた。
ちなみに彼は1週間寝たきりだったらしい。肉体変化型怪人の再生力にもかかわらずだ。
当然感城も顔面でそれを受け入れるわけにはいかず、例の超高速迎撃が発動し、机は爆炎に包まれた。
瞬間、大気圏に突入した隕石のように賭博台が『浮いた』。
巨大質量の慣性と感城の迎撃砲の火力が拮抗し、力の釣り合いがとれて静止したのだ。

それはほんの少しの、寸毫にも満たない空白だったかもしれない。
――その間隙で、立ち上がれるのが向路深先という男だ。
数瞬の間床に臥せっていた向路は既に駆け出し始めている。
そして市香も同様に大鳳の稼ぎだした一瞬で思考を回すことができた。
テーマは感城の奥の手についてだ。

肉迫していた向路が攻撃を食らわす直前に爆破されたということは、迎撃砲は限りなく皮膚に近いところで炸裂している。
おそらく汗腺あたりから爆発体液を滲み出させているのだろうが、だとすれば一点不可解だ。
向路をふっ飛ばし賭博台を止めるほどの爆発。
そんなモノを至近距離で食らっていて、何故感城は平気なのだろうか。

もちろん、体表や衣服については予め対爆性能の高いものを用意しておけばいい。
肉体変化の素養があれば、事前に爆炎と爆轟に対する防御力を上げておくのは不可能ではない。
だが、それで得られるのは『爆発で傷付かない』という保証だけだ。
ベクトルのついた力にはもれなく反作用がある。
向路を爆発で吹っ飛ばすなら、感城もまた向路と同じ力でふっ飛ばされないとおかしいのだ。
そうならない理由として考えられるのは、感城があのナリでとんでもない重量級であるか、
無反動砲のように反対側へも同じ規模の爆発を起こして相殺しているか、あるいは。

(――何かで足元を固定してるか!)

240 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/11/27(金) 08:18:22.07 0
体液の性質を変える都合上、肉体にカウンターウエイトを仕込める体積は限られ、体重を増やそうにもたかが知れている。
それに爆発の方向をコントロールできるなら、奥の手になど頼らずとも十分近接戦闘に対応可能だ。
思えば戦闘開始時から、感城はその場を動いていない。
火の粉の散布という戦術も、とどのつまりは機動力のなさを補うための方策ではないのか?
感城はあの場を動けない……特性行使の為に足を動かさない必要があるのだ。

仮定は立った。
あとは検証するだけだ。
市香は物陰から動かず、足元から続く液状化した半身に命令を下す。
火の粉の除去に使った肉だまりは、迎撃砲が指向性を持っていたおかげでまだ残存している。
それらを感城の足元のタイル、長い酷使と戦闘によってできた微細な亀裂へと浸透させていく。

(空振りでも良い……意表をついて、一瞬でも特性発動を躊躇わせられれば!)

脊髄反射で発動する能力ならば、それを抑えこむことに体の構造上どうしても無理が出る。
あくびを噛み殺す為に顎と頬の筋肉が硬直するように。
向路と感城の対決が反応速度域での戦いなら、ほんの一瞬が大きな援護になるはずだ。

床材に浸透した肉体を一気に気化させる。
それは亀裂を押し広げ、アスファルトを割って生えるコスモスのように局地的な地割れを起こす。
感城からして見れば、急に足元が崩壊したように感じるだろう。

『向路さん――』

市香の策と同時。既に向路はかつて爆撃に晒された距離にまで踏み込んでいた。
そこから先は、市香の眼では負えなかった。
辛うじて感城の迎撃砲がみたび発動したところまでは見えた。
しかし爆炎の向かう先に向路の姿はなく、そしてどこにもいなかった。
ただ感城の起こす爆発の音と光だけが、彼らの交戦を証明する唯一の軌跡。

(向路さんが……見えない……!)

瞬間移動に近い機動力を持つ向路だが、その有り様は不可視ではない。
超瞬発には必ず終わり際、すなわち彼がブレーキをかける瞬間が存在し、
フレームレートの低い動画のように途切れ途切れに向路の姿を確認できるのだ。
だが、今に至ってはそれすら見えない。
ノーブレーキでの多重超瞬発――それが意味するところは、超速域でのあらゆる戦闘行動を可能とするということ。
たったいま、彼は音の領域へ両足で立ったのだ。
空気の弾けるソニックブーム音と飛行機雲を引く水蒸気爆発が連続し、向路の姿が再び現れるまで、三秒。
音速の世界での一騎打ちに、決着がついたのだ。


【観戦(見えてるとは言ってない)】

241 :名無しになりきれ:2015/11/27(金) 12:23:22.59 0
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ぃょぅ


さっそくご指導な 


流川

まずいくつか文章として見ておかしい部分あるで


あとな


【観戦(見えてるとは言ってない)】

これ何や

ネットスラングやろな


ええか


こんなんやめたほうがええんや 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)


242 : ◆PyxLODlk6. :2015/11/29(日) 01:34:32.51 0
火の粉が舞い上がる。
地雷原が完全に無力化され――直後、感城の視界から向路の姿が消えた。
彼が勝負を決めるべく、強固な感情を抱くのが感城には分かった。

不味いと、焦燥が走った。
だが同時に自分には絶対の奥の手があるという自信も確かに感じていた。

>「 !! ────ッバがァ !? 」

そして感じた瞬間には、既にそれは起爆されていた。

勝負が決まる瞬間に自他が抱く感情――それこそが感城の奥の手の起爆剤なのだ。
故に、彼の奥の手が出遅れる事は決してない――少なくとも彼自身はそう確信している。
その確信がまた、彼の奥の手を補強するのだ。

「その体勢……躱せるか?」

感城は向路の超瞬発の性質を、完全にではないが掌握していた。
即ち継ぎ目のない連続使用が叶わない。
故にほんの一瞬だが、彼は制動の瞬間にその姿を完全に露わにする。
その「露わになる瞬間」を更に自分の意志で制御した結果が、先程まで見せていた分身なのだろう。

「これで死ぬようなら……羽持ち様が相手では戯れにもなるまい」

ともあれ――向路は今、超瞬発を使った直後だ。
自動迎撃の強力無比な爆風による被害を最小限に留める為に。

感城の奥の手は「勝負が決する」と「思っただけ」で発動される。
「使わなければ」と意識する必要がない。
つまり思考が守りに入ってしまう前に、勝手に窮地を脱する事が出来る。
窮地を脱した直後に、淀みなく勝つ為の選択肢を取る事が出来る。

彼の抱いた「勝利への確信」が一層強力な火花と化して向路へと飛来する――

――その直前、感城は新たな感情を察知した。
引き絞られた弓矢のような、苛烈ではない、だが研ぎ澄まされた、無視出来ない害意を。
咄嗟にその方向へと振り返る。

そこには黒檀製のポーカーテーブルを易々と持ち上げ振り回す大鳳がいた。

>「行きますわよッッ!!!」

「……あぁ、来い!」

感城は――臆する事なく、毅然と、そう叫んだ。
口元には僅かな笑みが浮かんでいる。

彼女達は強い。
最早疑いようもなく、彼女達は「怪人」だった。
羽持ちの前に通しても、彼女を失望させる事はないだろう。
そして自分自身にとっても――感城はそこで思考を切り上げた。

投擲された黒壇の賭博台が、迫り来る。

言語をもって思考をするには、「命のやり取り」は短すぎる。
だがそれでも感情だけは確かに生まれる。

歓喜が、その裏側に死への抵抗心が、故に勝利への渇望が。
強敵への感謝が、自己と特性への絶対的な信頼が。
勝利という美酒を得るのは己だという確信が。

243 : ◆PyxLODlk6. :2015/11/29(日) 01:34:58.13 0
「私を、打ち負かしてみろ」

あらゆる感情が――爆裂する。

対戦車擲弾と見紛わんばかりの爆炎が、迫り来る巨大質量を迎撃。
爆砕し、炎上させた。

「まだ……なんだろう?」

大鳳の「弓矢」はまだ緩んではいない。引き絞られたままだ。
爆炎に紛れるように、艶消しのナイフが感城へと迫る。
彼はそれを――右腕で受け止めた。
前腕に深々と刃が突き刺さるが――痛みはその殆どを高揚が紛らわせた。

何故、撃ち落とさなかったのか――そんな時間はないと分かっていたからだ。
感城は弾かれたように向路へと向き直る。
より正確には、向路がいた筈の虚空へと。

「……素晴らしい」

感城は淡々と呟き――ただ屹立して、彼を待った。
西部劇のガンマンが、対手が銃を抜く瞬間をただ待ち構えるように。
口を噤み、ただただ静かに、「自信」を高める。
速度に特化した肉体強化型を相手に、一切の防衛網がない。
圧倒的不利な状況、いつ殺されてもおかしくない――心臓が早鐘のように暴れている。
そんな状況だからこそ、己の奥の手は絶対の力を発揮する。
感城の中で、不安と自信は完全に両立していた。

彼自身すら認識しない内に、自動迎撃の炎が吼えていた。
だが――手応えはない。向路の感情は依然自身の周囲に感じられる。
自動迎撃を「見てから躱した」のだろう。

出鱈目な反応速度と、それに追従する瞬発力――図らずも覚えた畏怖に、感城が身震いする。

彼は己の奥の手を、真っ向から破り得るとすら感じていた。
けれどもそれは、彼が自分だけに全力を注げればの話だ。
感城は知っている。彼らは不動との戦いに対して強い執着を抱いている。
故に向路は戦闘がこの段に至ってもなお「温存」を意識している。

となれば――必然、勝負は賭けになる。
最小限の消費で最大限の戦果を得るべく、飛び込んでくるしかない。
殆ど燃え滓になった賭博台の残骸を見て、感城が笑みを浮かべた。

(ギャンブルに挑む時……人は強い感情を抱く。ベットする物が己の命ならば尚更な)

勝負は己が有利――感城は確信する。

蒸気音とともに彼の足元が揺れ動いたのは、その直後だった。

「なっ……」

思わず感城は、踏み留まった。
そう、思わず――何も考えずに、感じずに。

それこそが、彼が戦闘中に足を止める理由だった。
無論、流川が考察した、爆風の反動も一つの理由ではある。
だがそれこそ彼は羽持ちの親衛隊――無反動砲のように姿勢を維持する特性構築を怠るようでは、その座には至れない。
意識せずとも、反動を打ち消す小規模な複数の爆風を発生させる事が彼には可能だ。

244 : ◆PyxLODlk6. :2015/11/29(日) 01:35:23.68 0
しかし、例えば「右手を動かそう」と思ったとして、それは感情と言えるだろうか。
答えは否――それは感情ではなく、ただの思考だ。
行動は思考を伴い、頭脳から感情を抱く猶予を圧迫する。

その極致が、まさに今の状況だ。
感城は無意識の内に足を踏ん張らせてしまった。
抱いていた、高めていた感情は――全て白紙に戻っていた。

失態への自己嫌悪と焦燥が自動迎撃を炸裂させる――だがあまりにも弱い。
向路を捉えられる筈がない事を、感城は既に悟っていた。

「やられた――」

最早、不安や恐怖すら抱く事は出来なかった。
彼の心に生じたのは、清々しいほどに完膚なき敗北感。
かつて羽持ちと出会い、叩きのめされた時と同じ感情を、彼は今再び抱いていた。

あらゆる感情を爆発させる彼の特性が、その感情だけは爆発させる事が出来なかった。

そして不可視の一撃が、彼の意識を刈り取った。



しかし、感城に眠っている時間はない。
彼は貴重な情報源なのだ。すぐに叩き起こされる事になるだろう。

「……私は」

目を覚まして、彼はすぐには自分の状況を理解出来ていなかった。

「……そうか、負けたのか」

だが自分が床に伏し、流川達に囲まれている事に気が付くと、全てを悟ったようだった。

「約束だ。不動の居場所、ゲスト用の隠し通路の位置、どちらも教えよう」

感城は視線をまずは床――つまり一階へ向ける。

「隠し通路は一階の南東にある。そこはゲストルームになっているが、奥に下水道へ通じる隠し通路がある。
 掘削の際は効率化の為、元々はエレベーターがあった場所を利用した。
 二階、三階の南東の壁を破れば裏を掻いてゲストルームを制圧出来るだろう」

次に天井を――三階を見上げる。

「不動は三階だ。北に食用人間の展示場と、調理場がある。
 奴はあの殺人鬼と共にそこにいる」

そして最後に、君達を見た。

「私には分かるぞ。お前たちは是が非でも奴と対決しようとしている。
 だが……羽持ち様はそれを好しと思っていない。だから聞け。
 奴の体質は『筋肉』……奴は全身が筋肉と同じ性質を持っている」

その情報は君達にとって既知かもしれないが、感城はその事をまだ知らない。

「つまり傷つければ傷つけるほど、より強く再生する。忘れない事だな」

245 : ◆PyxLODlk6. :2015/11/29(日) 01:36:15.91 0
三階では今もなお支援局、共生派と鳥籠構成員の戦闘が繰り広げられていた。
が、戦況は支援局側が優勢――味方の援護を受けつつ前進する事は十分に可能だった。
君達が調理場へと向かうと、それを出迎えるように待ち構える大きな人影が前方に見える。

「930……931……932……」

逆立ちした状態で指立て伏せを繰り返す岩盤の如き筋肉の塊――不動である。
彼の後方には僅かな汗の跡が残っている。
パーティの最中ずっとその場で指立て伏せをしていたという訳ではなさそうだ。

彼は、君達に道を開く為の僅かな戦況の変化を聞き取って調理場から出てきたのだ。
既に十二分に研ぎ澄まされている、という事だ。

「よう……今度は早かったな。まだレッグレイズとブリッジもやっときたかったんだが」

不動は指の力だけでその巨体を弾き上げ、空中で回転――上下を反転させ、着地を果たす。

「先に言っとくぜ。少しでも手を抜いたら殺す。おめーじゃねえぞ。
 そこのなよついた雑魚と小便臭えガキを殺す。
 おめーがどんだけソイツらを守ろうとしても一切合切無視してまずはソイツらを殺す」

不動はファイティングポーズを取り、

「さぁ、やろうぜ……と思ったが」

しかし一度拳を緩め、下ろした。

「おめーはなかなか歯応えのある奴だったからな。握手をしようぜ、握手。
 死んじまってからじゃ出来ねえだろ……いや、出来るにゃ出来るがイマイチピンと来ねえからな」

そしてそう言いながらジャージのポケットに手を突っ込み、大鳳に何かを投げ付けた。
投擲、といった動きではない。ただ、投げ渡しだだけ。
白く細い、女性の手首を。

直後、不動が吹き出した。

「ぷっ……くっ、ひひ……駄目だ、本当はこの隙に不意打ちかますつもりだったんだけどよう……
 傑作すぎんだろ!俺がマジで握手を求めたと思ったろ今!なっ!でもちげーんだわ!
 単に最後にあの殺人鬼と握手させてやろうって思っただけだぜ!やっさしーだろ俺って!」

腹を抱えて笑う不動の眼は――しかし笑ってはいない。
彼は単に徹底しているだけなのだ。
君達が全身全霊をもって、自分を倒しに来るように。



【感城に何か聞きたかった事がある場合は次のターンで「答えてた」って事にします
 あと投下順の変更はいつでも大丈夫なのでご要望の際は言って下さい】

246 :名無しになりきれ:2015/11/29(日) 08:49:06.95 0
人    
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ぃょぅ 



お前の文章だけどな


とびっきりに安っぽいわ


せいぜい参考にしてるの


ジャンプぐらいなんやろなあ


全体的に古くさいし間違った単語の使い方が



目立つで 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)


247 :名無しになりきれ:2015/11/29(日) 16:32:12.40 0
>>246
どう安っぽいのか
説明しろよカス

248 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/12/05(土) 04:39:43.00 0
背後で、隣で、頭上で、爆炎が向路の視界に現れては消える。
失敗したパノラマ写真のように尾を引きながら目の端を過ぎる景色と相まってある種の芸術のようだ。
ただし、今の向路がそれに対してどうこうと感じることはない。
不必要な感性は切り捨てられ、感城へ向けた純粋な害意が向路を動かしている。
眼前の敵を排除しなければならないと電気信号が脳を走る。容赦なく、慢心無く、愚直なほどに。
体勢を作らずとも足か手が床に触れさえすればその瞬間に超瞬発が発動。減速無く、軌道を変えながらに進み続ける。
だが、感城を攻撃圏内に捉えかける頃、爆炎の色が向路の視界を染めつつあった。
更に3秒加算するか、このまま突っ込んで無理矢理にでも決めるか……向路の思考が動きかけて、直ぐに止まる。
突っ込むに、決まっている。

>「……私は」
>「……そうか、負けたのか」

「まあ……そりゃあ、ね」

仲間への信頼があるから躊躇わずに勝ちを取りに行けたとは、少々気恥ずかしくて口に出せないのだった。
向路は感城へ返しながら、その横に座り込んでいた。唯一皮膚の露出した顔にはいくつもの裂傷があるものの概ね問題ないように見える。
顔と同じように傷や煤に塗れたジャケットからエネルギーバーを取り出し、封を破いて口へ運ぶ。
体の各部の軋みはともかく、血の流れ落ちていくような虚脱感と頭にカミソリをを刺し込まれたような頭痛がキツい。なので食べる。

249 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/12/05(土) 04:40:35.89 0
>「約束だ。不動の居場所、ゲスト用の隠し通路の位置、どちらも教えよう」
>「隠し通路は一階の南東にある。(略)二階、三階の南東の壁を破れば裏を掻いてゲストルームを制圧出来るだろう」
>「不動は三階だ。(略)奴はあの殺人鬼と共にそこにいる」

「……伏見さんを奪還して、そのまま下まで強襲か。
 中々、ハードな道程だね」

手を着いてゆっくりと立ち上がり、次のエネルギーバーを開封しながら無事な水差しを探す。
やや離れたところに目当てのソレを見つけると半分程を一気に飲み干した。

>「私には分かるぞ。(略)奴の体質は『筋肉』……奴は全身が筋肉と同じ性質を持っている」
>「つまり傷つければ傷つけるほど、より強く再生する。忘れない事だな」

「忠告まで丁寧にありがとう。……さて、僕らは進もうか」

進もうと言いながら感城のところへ戻り、彼を見据えて思案する。
《羽持ち》の親衛隊、持っている情報はいかほどか。けして安くはないだろう。
それを得る為にこのまま捕縛しなければならないが、感城はたとえ手足を落とされようと戦えるだけの強さがある。
校舎での一件を省みれば向路のとる行動は1つしかない。
流川も大鳳も止めなければ、向路は貫手の形に構えたその手を感城の心臓へ振り落とすだろう。

>「930……931……932……」
>「よう……今度は早かったな。まだレッグレイズとブリッジもやっときたかったんだが」

「っ……」

特に危険らしい危険もなく3階を進み続け、とうとうエンゲージを果たした。
容姿や行動が聞いた通りだったこともあるが、それ以上に纏う空気の質が違う。
これでまだまだギアが上がるなど、冗談も大概にして欲しいものだ。

「先に言っとくぜ。(略)おめーがどんだけソイツらを守ろうとしても一切合切無視してまずはソイツらを殺す」

「……ほー」

まるで自分を殺すのなど片手間に過ぎないと言われているようで、向路の思考が少し冷える。
不動から感じていたプレッシャーも、未だ残る頭痛も、少し遠くへ離れていった。

「さぁ、やろうぜ……と思ったが」
「おめーはなかなか歯応えのある奴だったからな。…(略)…いや、出来るにゃ出来るがイマイチピンと来ねえからな」

握手と言いながら不可解な不動を取る不動。聞いた話では突然の不意打ちをしそうなタイプではなかったがッ……!
向路の目は投げ出されたソレが何かすぐに見極め、そして察した。
コイツは、自分や大鳳とは違う。

「ぷっ……くっ、ひひ……駄目だ、本当はこの隙に不意打ちかますつもりだったんだけどよう…(略)…やっさしーだろ俺って!」

「…………」

今すぐにでも奴を殴りつけてやりたいが、それは越権行為になる。
この闘いは大鳳が火蓋を切り、そして終わらせるべきものだ。
大鳳が動くまで、向路は収斂を駆使し張り詰めた弓のように力を溜め、待ち続ける。
つまり、大鳳が一撃見舞えば……すぐさま向路も跳び出していくことだろう。

【力を溜めている。一撃離脱ボディブロー狙い】

250 :名無しになりきれ:2015/12/05(土) 10:15:35.78 0

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>:向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :

お前な


かき込むの遅すぎや


何がボディブロー狙いか知らんけどな




お前がボディブロー決める前に話終わっとるで 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)


251 :名無しになりきれ:2015/12/05(土) 13:18:10.79 0
>>250
お前頭悪い反論しかできないのかね
脳味噌小学生以下

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